漫画編集者山中chによる漫画講座 ~フリとオチの使い方~
ヤングマガジン編集部の漫画編集者の山中です。新卒で出版社に就職して以来、約10年間、漫画編集者を続けております。今回から、普段漫画家との打ち合わせで使っている漫画制作の小技や考え方などをお伝えしたいと思います。よろしくお願いいたします。
本記事では『フリとオチ』とはどういうものか解説していきます。次のスライドをご覧ください。
例えば、この酸っぱいと思っていたみかんが甘かったというのが『フリとオチ』ですね。みかん食べた甘かっただけだと結果しかないですが、酸っぱいと思っていたっていうフリから、みかんが甘かったというオチになります。 もしくは、弱虫の僕が今日はヒーローになれたという流れ。僕は今日ヒーローだったと言うのではなく、いつも弱虫の僕が今日はヒーローになったから、ドラマが生まれるということです。漫画制作において『フリとオチ』は力があり、どういう風に使うのが効果的なのかご説明させていただきたいと思います。
①「オチ」→「フリ」
『フリとオチ』は3つの使い方がありますが、まずは1つ目から解説します。これは連載漫画1話目や読み切りで使われるテクニックになります。作品というのはだいたい漫画家のアイデアから生まれていきます。漫画家がこういうシーン描きたい、こういう読者をびっくりさせる方法を思いついた、こういうキャラまだ誰もやってないみたいに、大事なアイデアが降りてきて、じゃあどうやったらお話になるかなって考えていきます。実際に例を出したいと思います。
まずは主人公がホームランを打つっていう野球漫画を描きたいなと思ったとしましょう。これがオチになります。では、どうやってフリを作っていくか一緒に考えてみましょう。
例えばこの主人公はチームで一番素振りしているとか、仲間やライバルから打ってくれと想いを託されるとか、ホームランに小さい頃から憧れを持っているとか、相手の投手が読者から見てすごく嫌な人物で負けるところを見たいとか、そういうのがフリになります。ただ単純に主人公がホームランを打つ話よりもこういうフリを仕込んでいた方がドラマチックに面白く映ると思います。これがオチというアイデアに対してフリをつけていくという方法が連載漫画1話目や読み切りによく使われるテクニックになります。
②「フリ」→「オチ」
続いては逆のパターンになります。フリがあってオチを考える使い方です。これは主に連載している作品の途中の話はほぼこの作り方になるのかなと思います。例えば、8回裏の展開の野球漫画で今回は6番→7番→8番に打順が回ってくるなと思った時に、8番の子って最近三振ばっかりですよね、じゃあこの登場人物が打ったら熱くないですかみたいに考えていきます。そういう風に考えた後、フリになる部分がないか探します。例えば、この子は6番打っている子と仲良い、間の回で部屋が隣というシーンがあった、怖くてインコースを思い切って振り込めないなど、今まで伏線として仕込んでいた訳ではないけど、気づいたらフリになるシーンがあると思います。そういうのをフリにして、8番の子がどういう風に活躍したら熱いかなと、このフリから考えていきます。
例えば、仲良かったチームメイトが思いっきりインコースを踏み込んでデッドボールで出塁して「お前ならできる」みたいなことを言って、ずっと踏み込めなかったけどヒットを打つという流れも良いと思います。これがホームランが気持ち良いなのかヒットが気持ち良いなのか色々考えられると思いますが、このようなフリを今までの物語の中から沢山みつけてオチに昇華するのが連載漫画の作り方・気持ちの良いところの一つかなと考えています。
いかがだったでしょうか?『フリとオチ』の使い方3つ目にあたるミクロの「フリ」→「オチ」について続きが気になる方は是非動画の方もご覧ください!
●漫画編集者:山中 様
ヤングマガジン編集部所属の漫画編集者。担当作品には『なんでここに先生が⁉︎』『テンカイチ』『ごくちゅう!』『純猥談』『ツワモノガタリ』『地球から来たエイリアン』『魔法創造』『転生重騎士』。
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※本記事は山中様にご許諾をいただき、動画を記事化させていただきました