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コラム
2022年10月5日

【アルファポリス】プロ漫画家インタビュー!「ゲート」連載のキッカケ/竿尾悟先生

竿尾悟 ゲート



20××年、夏―――白昼の東京・銀座に突然「異世界への門」が現れた。 中から出てきたのは軍勢と怪異達。 陸上自衛隊はこれを撃退し、門の向こう側である「特地」へと踏み込んだ――――。 ついにコミック化、超スケールの異世界エンタメファンタジー!!
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竿尾悟/漫画
愛媛県出身。ミリタリーを基調としたユーモアのある作風が持ち味となっている。無類の模型好き。 主な作品に「迷彩君」「コンビニDMZ」(いずれも少年画報社)などがある。
柳内たくみ/原作
東京都在住。自衛官を経験した後、2006年に自営業を開業。本業に従事する傍ら、インターネット上で精力的に執筆活動を展開し、2010年4月、「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 1.接触編」で出版デビュー。シリーズ累計650万部のミリオンセラーとなる。他に「氷風のクルッカ 雪の妖精と白い死神」(アルファポリス文庫)、「Walhalla《ワルハラ》-e戦場の戦争芸術-」(ブレイブ文庫)などがある。


※2017年2月にアルファポリスサイトにて掲載した記事を再構成しております。なお、記事中の情報は初掲載時のままです。



ミリタリー趣味が芽生えたのは、生まれ育った環境のおかげ?


――個性的なキャラクターたちが活躍する壮大なスケールの自衛隊ファンタジー「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」(以下、「ゲート」)の竿尾悟先生です! まずは漫画家を目指すようになったきっかけからお伺いできればと思うのですが、竿尾先生も小さい頃から絵を描くのがお好きだったんでしょうか。

竿尾悟
そうですね、幼稚園の頃からよく絵を描いていました。

――その頃はどういう絵を描いていたんですか?

竿尾悟
それはやっぱり軍艦とか(笑)

――ブレないですね(笑)

竿尾悟
なぜ軍艦を描くようになったのかとかは覚えていないんですけどね……確かに子供の頃から護衛艦とかを目にしてはいましたが。

――護衛艦ですか!? ご出身は愛媛県でしたよね。

竿尾悟
愛媛は愛媛でも、四国の本土じゃなくて島なんですよ。自衛隊基地がある呉市が近い場所にあったんで、護衛艦がよく通っていたんです。

――なんと、そうだったんですね……! 機械の絵だけでなく、人物の絵も含めた漫画を描くようになったきっかけはなんでしょうか?

竿尾悟
「G.I.ジョー」のアニメを見たことがきっかけですね。「G.I.ジョー」のキャラクターでオリジナルの漫画を鉛筆でノートに描いたりしていました。それが小6の頃かな?

――早熟だったんですね。漫画も小さい頃からよく読んでいたんですか?

竿尾悟
それが遅くて、漫画の単行本を初めて買ったのは中学生になってからでした……というか、週末に家に帰った時に親に買ってもらったんです。

――週末に家に帰る? それはどういうことですか?

竿尾悟
自分が生まれ育った島には小学校しかなかったんで、同じ島内の子供達はほぼ、中学校に進学すると同時に寮生活をすることになっていたんです。

――竿尾先生からはかなりな割合で意外な話が飛び出てきますね!

竿尾悟
そうですか(笑)?

――自宅から通える範囲に中学校がないというのは、あまり頻繁に聞かない話かと思います(笑)。中学時代は平日は寮生活、週末はご実家に帰られる生活をされていたとのことですが、買ってもらった漫画は寮に持ち込めたんでしょうか。

竿尾悟
いや、持ち込み禁止でバレたら没収でした。なので買ってもらった漫画は自宅に置いたまま、帰宅時に読む感じで。

――結構厳しかったんですね。初めて買ってもらった単行本のタイトルは?

竿尾悟
「湘南爆走族」(吉田聡/少年画報社)です(笑)

――またまた意外ですね(笑)! では、影響された漫画というと何ですか?

竿尾悟
やっぱり中学時代に出会った、真鍋譲治さんの「アウトランダーズ」(白泉社)です。その頃、視力が落ちてしまって眼科に通うことになったんですけど、通院にかこつけて買ってもらっていました(笑)。同時期に「コンバットコミック」(日本出版社)に出会って、そこから本格的に……。

――ミリタリー好きの道に(笑)。当時はどういった形で絵や漫画を描いていたんですか?

竿尾悟
授業中にノートに落書きしたり、寮の休み時間に漫画を描いたりしていましたね。





意外にもスローペースだった、漫画を「描くこと」への目覚め


――高校も寮生活だったんでしょうか。

竿尾悟
いえ、四国にある高校に進学して一人暮らしを始めました。

――そうなんですか! 初めての一人暮らしの感想は?

竿尾悟
生活習慣は寮生活で身についていたので、特に苦もなく……。まあ起きられなくて結構遅刻したり、食生活が外食か弁当頼みになったりはしましたけれど、ハメを外し過ぎることもなく(笑)

――親御さんも安心ですね(笑)。一人暮らしとなると、小遣いの範囲とはいえかなり自由に漫画を買うことができるようになったと思うんですが、当時好きだった漫画は何ですか?

竿尾悟
士郎正宗さんの「アップルシード」(青心社)ですかね。あとは小林源文さんとか……。

――やっぱり中学時代の「コンバットコミック」との出会いが大きかったんですね。

竿尾悟
そうですね。なので高校生になると「コンバットコミック」にハガキを投稿するようになりまして。

――その辺りから付けペンを使うようになった、と。

竿尾悟
あまり知識がなかったので、手始めに通販でペン先やペン軸がセットになっているスターターキットを買ったんです。でもペン先をインクに浸けるということを知らなくて、インクをペン軸の中に溜めて使うのかと思って注いでしまって、紙にダバアッとこぼしてしまったり。で、「あれ、違う!」と(笑)。それが高3のはじめくらいですね。

――漫画のテクニックを学び始めたのはゆっくりめだったんですね。本格的に漫画を描いたのはいつ頃ですか?

竿尾悟
高3の半ばには24ページの作品を描いて「コンバットコミック」に投稿しました。

――すごい勢いで進化しましたね(笑)! どういったお話だったんでしょうか。

竿尾悟
ベトナム戦争ものです(笑)。アメリカ兵が主人公で、ゲリラと戦うというような内容です。思いっきり小林源文さんの影響を受けていました。

――どういった点で小林さんの影響を受けましたか?

竿尾悟
タッチのリアルさとか、絵的なところですね。

――編集部から投稿作への反応は……。

竿尾悟
その時は特に。高校を卒業する直前にまた「コンバットコミック」に投稿したんですけど、その時の作品は佳作に入りました。でも同じ選考に以前送った作品が入っていて、投稿作リストに掲載されていたのにはびっくりしました(笑)

――おおらかというか、なんというか(笑)。それにしても執筆ペースが早いですね!

竿尾悟
と言っても、高校在学中はその2本くらいでした。トーンも使わずに薄墨で。これも小林源文さんの影響です(笑)





漫画家になる!そのきっかけは一冊の雑誌にあった


――高校卒業後、大学生になってから本格的に投稿を始められたんですか?

竿尾悟
いや、大学時代は漫研に所属していたので、そちらで出す部誌などには描いたりしていましたが、あまり投稿はしていませんでしたね。

――今度はペースが落ちましたね(笑)。その頃愛読していた雑誌や好きだった作家さんは?

竿尾悟
その頃から「ドラゴンマガジン」(富士見書房)を買い始めて、ファンタジーにかぶれてきていましたね(笑)。あらいずみるいさんや田中久仁彦さんが好きでした。それと伊藤明弘さんが「コミックドラゴン」で連載していた「ベル☆スタア強盗団」が好きだったんですが、彼が「ジオブリーダーズ」を描いていたのがきっかけで「ヤングキングアワーズ」(少年画報社/以下、「アワーズ」)と出会って……。平野耕太さんが「HELLSING」を始められた時に読者投稿ハガキを送っちゃいました(笑)

――それが「アワーズ」に投稿したきっかけになったんですね。実際に投稿したのはどういう作品だったんでしょうか。

竿尾悟
32ページくらいのロボットものですね。シリアス寄りで、人型兵器のロボ娘が主人公でした。第三次世界大戦を舞台にしたSFっぽい感じで、オスプレイが出たり。当時から志向が変わらないんですが(笑)

――ミリタリー知識を存分に盛り込んで(笑)。その作品の手応えはいかがでしたか?

竿尾悟
タチキリとか、基本的な漫画の技術ができていなかった原稿なので載ってはいないんですが、奨励賞をいただいて。それが大学4年、卒業間際の頃でした。

――でもその状況だとまだ、卒業してすぐに漫画だけでは……。

竿尾悟
食べていけませんでしたね。なので警備員や地方新聞の厨房でバイトしてました。でもどちらもあまり長くはしていなくて、最長で半年くらいで辞めて、その後は地元の漫画家さんのアシスタントに入りました。

――アシスタント先は少年画報社さんの紹介だったんでしょうか。

竿尾悟
いえ、地元の画材屋に貼ってあったアシスタント募集の張り紙を見て。

――レコード屋のバンドメンバー募集みたいですね(笑)。具体的にはどなたのアシスタントを?

竿尾悟
「月刊少年チャンピオン」(秋田書店)で「鬼組」という作品を連載されていた藤井克己先生です。先生ご本人はかなり郊外に住んでおられて、メインのアシスタントさんが自分が住んでいる場所と同じ市内にいたので、そこに通ってお手伝いをしていました。

――じゃあ原稿はメインのアシスタントさんが受け取ってきて、同時に指示も受けて。

竿尾悟
そうですね、先生が描くキャラが入る前にバイクや背景を描く形で。しかもそこに通っていたのは自分1人だったんですよ。

――よく現場が回っていましたね!

竿尾悟
回っていたんですよ(笑)

――ではアシスタントをしながら自分の作品を投稿するようになって、どのくらいの期間で初連載に至ったんでしょうか?

竿尾悟
賞を取ってから1〜2年くらいでしたかね? 読み切りを2本ほど描いて、そのあと「アワーズ」で「迷彩君」の連載がスタートしたんです。





ついに初連載!しかしとんだトラブルも!?


――「迷彩君」を描いたきっかけはどのような感じだったんでしょうか。

竿尾悟
担当さんから「好きなものを描いたらいいよ!」と言われていたので、じゃあ……という感じで好きなように描いたらわりと評判が良くて。

――確かに自分が好きなものじゃないとモチベーションが保てませんしね。しかし初連載となると、苦労することもあったのでは?

竿尾悟
そうですねえ……でも早め早めにやってたんで、とりあえず締め切りを破ったことはなかったですね。前の月の内にネームをやっちゃったり、ネタも原稿をやってる途中から考え出したり。

――すごい、優秀な進行ですね!

竿尾悟
自分はそんなつもりはないんですけど、周りにはよく言われますね。早めのペースを作っておいた方が気が楽なんで。

――当時の月産ページ数は……。

竿尾悟
「迷彩君」は18ページでした。それからすぐ「ヤングキング別冊キングダム」(少年画報社/以下、「キングダム」)で「渚〜THE BEACH GUARDIAN〜」(以下、「渚」)も連載を始めたので計40ページになりました。

――「渚」が始まった経緯はどのような感じですか?

竿尾悟
「迷彩君」の時と担当さんは変わっていたんですけど、その方から「新しい雑誌が立ち上がるから連載してみない? ライフセーバーの漫画とかどう?」と打診されたという流れでした。

――確かに竿尾先生の描く女の子は生き生きとした魅力があるから、そこを活かした作品を、というお話だったんでしょうね。

竿尾悟
裸の女の子を描いても全然エロくないって言われたりするんですけどね(笑)。でもせっかくいただいた機会なので頑張ってみようという感じで。

――初めての連載について、周囲の反応はどうでしたか? 特に親御さんは喜んでくださったかと思いますが……。

竿尾悟
父親が、中学があった島のコミュニティセンターみたいなところに単行本を持って行ったりしてましたね。でも反応という意味では、連載終了後に自分のサークルでコミケに参加し出してからの方が実感できました。お客さんが「「迷彩君」読んでました!」と声をかけてくださるようになって。

――「「迷彩君」の先生だ!」という感じだったんですね。そうすると、連載中の苦労はあまりなかったのでしょうか?

竿尾悟
「渚」は最後の方はネタがなくて困ったりしましたが……それよりも太ったことの方が(笑)

――ネタはともかく意外な方面の苦労が(笑)

竿尾悟
大学時代は危うく100kgまでいきかけたんですけど、今は85、6kgですかね。

――けっこうしぼりましたね! 痩せようと思ったきっかけは?

竿尾悟
その頃に読んでいた小説の影響でラムやジンを飲み始めたんですが、酒量が多かったのか腹が張ってきて痛くなって、病院へ行ってみたら膿がたまっていると言われて。それで入院して、点滴だけで1週間過ごしたら10kg以上痩せたんです。点滴だけで治ったんで結局膵炎の疑い、程度で終わったんですけど。

――痩せようと思ってではなかったんですね。その間のお仕事はどうされていたんですか。

竿尾悟
ちょうど連載の谷間だったんで問題ありませんでした。ミリタリー雑誌からイラスト仕事をいただいていたんですけど、季刊の雑誌だったんでこちらもなんとか間に合いました。

――それは良かった! 退院後はまた、少年画報社さんで連載を始められていますね。

竿尾悟
そうですね、「ヤングキング」で「地雷屋」、「キングダム」の方で「戦争の犬たち」を同時連載していました。

――その同時連載を終えられてから「コンビニDMZ」が始まるまでの間が少し空いてますけど、その間はどういった活動を?

竿尾悟
この2本の後、先ほど話した入院をしまして、その後、半年くらいプラモ作ってました(笑)それは冗談ですが、ネームはやってたんですがボツが続いて……ようやく良い反応がもらえたネームで始まったのが「コンビニDMZ」ですね。自分にとってはネームに悩みつつも読み切りやイラスト仕事、同人活動をしていたのであっという間な感じでした。

――イラスト仕事は主にどちらで?

竿尾悟
「ミリタリークラシックス」(イカロス出版)です。メカがメインでわりと硬派なイラストを描いていました。「MC☆あくしず」(イカロス出版)でもイラスト仕事をしていました。自分の描いたイラストは萌え絵ではなかったんですが(笑)





「ゲート」連載開始……そこに運命的な偶然が!?



原作の柳内先生との奇跡的な偶然の出会いを経て、ついに連載スタート。記念すべき第1回、迫力の扉絵!

――「ゲート」が始まったのはどういうきっかけだったんでしょうか?

竿尾悟
「アワーズ」で「ウォースパイト〜マルスの目〜」を描いている時に、依頼のメールをいただきました。原作自体は本屋の店頭で目にしていた、くらいの認識だったんですが。

――それまでずっとオリジナルの作品を描いていて、コミカライズのお仕事に関してはどう思いました?

竿尾悟
特には……逆に話を考えなくても良いのはいいな、元の絵があるのは楽だな、くらいの感覚で(笑)。続き物じゃなくて1話完結の読み切りばかり考えていたので、とにかくネタがなくて。なので、原作を読む前に受けるとお返事しました(笑)

――大胆ですね(笑)! まだアルファポリスのWeb媒体自体、それほど漫画コンテンツが充実していなかった時期の依頼だったと思うんですが。

竿尾悟
失礼かもしれませんが、会社の名前自体を知らなかったんで(笑)

――特にハードルは感じなかったということでしょうか。

竿尾悟
はい。

――初めて原作を読まれた時の感想は……。

竿尾悟
自分の好きな要素がたくさん入っていて面白かったです。しかも編集部が今の場所に移転する前の社屋に打ち合わせに行ったら、エレベーターで原作者の柳内さんと乗り合わせるという偶然があったり(笑)

――それはすごいですね! 柳内先生との引き合わせの打ち合わせでですか?

竿尾悟
はい。ビルの1階と2階にそれぞれ入り口があったんですけど、柳内さんは1階から来て、自分が2階から来て、という……。

――柳内先生は竿尾先生のことをご存知だったんでしょうか。

竿尾悟
知り合いではなかったんですが、メカとキャラが描ける作家ということで、柳内さんからコミカライズ希望作家として自分の名前を挙げていただいたと担当さんから伺っていました。顔までは知らなかったと思いますが(笑)

――ご縁があったんですね!盛りだくさんのエピソード、ありがとうございます。続いて制作風景や作業工程等、具体的にお伺いできればと思いますので、引き続きよろしくお願いします!

竿尾悟
はい、よろしくお願いします(笑)





ペン先の細かい使い分け、その用途に迫る!


――続いては、制作ツールの詳細や作業環境と合わせて、日毎・月毎のスケジュールもお伺いできればと思います。竿尾先生はモノクロ漫画原稿を基本、アナログで制作しておられるとのことなので、まずは使用している道具の詳細を教えてください。

竿尾悟
付けペンは主に日光のペン先を使っています。メインがGペンで人物等の主線、細部はスクールペンで効果線は丸ペンです。背景はもっぱらタチカワの新ペン先スクールとピグマのミリペン、0.05mmですね。

――細かく使い分けされますね! 背景のスクールペンとミリペンの用途はどう違うんですか?

竿尾悟
ミリペンだと消しゴムをかけると線が薄くなったりするので、スクールペンと併用しています。8巻の野外、地面や風景はほとんど、9巻冒頭の風景は全部ピグマです。

――ミリペンはいつ頃使い始めましたか?

竿尾悟
「ゲート」のページが増えたくらいからですね。これでは間に合わない、と(笑)。60話はタチカワの新ペン先スクールを使ってみたりもしたんですけど……。いろいろ試してみた結果、現状ではこれが自分にとってベストな感じですね。

――使用インクや原稿用紙はいかがでしょうか?

竿尾悟
インクは描き味が良いので開明墨汁を使っています。乾きが早いので背景とかは製図用で描いてみた時もあったんですが、なんとなく線が野暮ったくなる時があるように感じたので……。原稿用紙も描き味が良い、ICの135kgを使っています。


開明墨汁の蓋に書いてある日付は開封日。粘度が上がるので3ヶ月ほどで買い替えるため、その目安にしているとのこと。

――アナログ作業は職人的なところもありますし、手に馴染むというのは大事ですよね。トーンはどうですか?

竿尾悟
主に使うのはデリータのトーンです。以前一番使っていた、赤ブーブー通信社のAB561という迷彩柄は廃盤になっちゃったんですよ。

――それはなくなったら困りますね……!

竿尾悟
手持ちの在庫もあと2、3枚しかなくて……。でも「ゲート」では使う時がこれからはほとんどないはずなので……今のところ大丈夫か、と(笑)

――もし必要になったらどうしますか?

竿尾悟
そうなったらデジタルで処理するかなあって感じですね。

――その手がありましたね!

竿尾悟
昔、「迷彩君」の頃は同じ柄を作るのにトーン3枚重ねとかでやっていました(笑)。今、「ゲート」の自衛隊の服で使ってるトーンは100枚単位で持ってるんで大丈夫かと思いますが。

――それを聞いて安心しました(笑)。他に欠かせない物はありますか?

竿尾悟
意外と重宝しているのが、マウスのように手に持てる形の卓上クリーナーです。本来は模型用の切り屑を取る用なんですけど、消しカスやトーンの削りカスを集めるのに便利なんです。模型屋で見つけて、これ仕事に使えるなって(笑)

――趣味が意外なところで役に立ちましたね(笑)


これが竿尾先生のペン入れ道具の数々。白くて丸いものが卓上クリーナー!





デジタルとアナログが混在する原稿の仕上げ、その意外な理由


――モノクロ原稿はアナログというお話でしたけど、カラーはいかがでしょうか。

竿尾悟
線画まではアナログで、塗りだけデジタルという感じです。例えば「ゲート」のカバーイラストはキャラ毎に線画を描いて、レイヤーを別々にして色を塗るようにしています。1枚絵で仕上げていたら、構図の関係で直しが入って後で大変なことになった時があったんで……3巻のカバー絵ですが(笑)

――そ、それはお疲れさまでした……! カラー絵のデジタル塗り導入のきっかけは?

竿尾悟
世の中の流れに沿った形で(笑)。「コンビニDMZ」の頃かな? パソコンにペイントソフトを入れたので使ってみました。

――カラーはデジタルにしたのに、モノクロはアナログのままというのは理由があるんですか?

竿尾悟
液タブの1拍遅れて線が出てくる感じがどうも慣れなくて。一度、普通のタブレットを使って同人誌をフルデジタルで描いてみたこともあるんですが、自分比でどうも雑になっちゃうなあ、と……。あとは目が疲れて肩が凝るというのもあります。それでもたまに、モノクロ原稿の仕上げをデジタルですることもあるんですけどね。

――例えば「ゲート」だとどのあたりでしょう?

竿尾悟
4巻のレレイが魔法を試すあたりや、ハーディの登場シーンとかですね。逆に見開きはトーンを削ったりしているんですが(笑)

――楽なのか大変なのかわかりませんね(笑)。デジタル仕上げをしたモノクロ原稿は、該当ページだけデータ化した原稿を編集部に送る形ですか?

竿尾悟
いえ、コマ単位でデジタル仕上げを導入していて、1枚の原稿の中にアナログとデジタルの処理が混在しているんですよ。なので、アナログ処理部分は仕上げた原稿は宅配便で、デジタル処理部分のデータはメールで送って、編集部で合成してもらう形で進めてますね。あと、普通にパソコンで処理した部分をプリントアウトして原稿に貼ったりとかもしています。

――不思議な混在具合ですね(笑)。また、単行本の時にかなり手を入れられると担当さんから伺っていますが……。

竿尾悟
まあ……なるべくしないようにはしてるんですけど。ただ7巻か8巻で、言われないとわからないような細かいところも手を入れてたら他の部分も気になって、結局100枚くらい直したことはありますね(笑)

――すごいですね! 連載時と全然違う感じになるページも多いんじゃないですか?

竿尾悟
描いている時は気がつかないんですけど、後から見直すと気になることが多くて……9巻で出た迷宮の迷路のシーンはほぼ直しましたね。

――でもそのこだわり、読者の方は嬉しいと思います。

竿尾悟
だと良いんですが(笑)


単行本9巻に収録されている、迷路のシーンの修正前と修正後。修正後は迷路の立体感が明らかにアップ!





マイペースではいられない、アシスタントは奪い合い!?


――では次はスケジュールについてお伺いできればと。(1ヶ月スケジュールを見ながら)やっぱり毎月あれだけのページ数となると、ひと月ほぼフル稼動な感じですね。このスケジュールの中で、一番苦労するところはどこですか?


竿尾悟
やっぱりネームですかねえ……。コマ割りや演出にはやっぱり悩みますね。

――ネームに取り掛かるのは家ですか? それとも喫茶店等の外出先ですか?

竿尾悟
家ですね。最初の方は録画したCSの海外ドラマや「ヒストリーチャンネル」とか「ナショナル ジオグラフィック」とかを流しながらやってたらいつの間にか朝になってた、とかもあります。まあこれだとあまり進みませんけど(笑)

――ですよね(笑)


自宅居間でのネーム風景。原稿と同じ大きさの紙でネームをすることで、下描きを効率的に進める!

竿尾悟
ネームはノートとかじゃなくて、原稿用紙を原寸大にコピーした紙に描くので、物理的に外ではやりにくいんです(笑)。でもこの大きさだとトレス台の上にネームを置いて、その上から原稿用紙を置くと下描きが楽なので。

――なるほど、合理的ですね!

竿尾悟
ネームも実は、返事をもらった時点ですでに下描きが半分終わってるということもあります(笑)。ちょっと要検討なところがあった場合、進めないでいて欲しいと事前に担当さんからメールをもらったりしてるんで、問題ない……というか、待ってって言われたことあったかな(笑)

――というくらい良ネームがあがってくるということで(笑)。作業中のBGMやBGVでお気に入りは?

竿尾悟
仕事部屋にはテレビを置いていないんで、主にラジオを聴いてます。最近は昼はNHKが多いんですが、深夜になると「オールナイトニッポン」を聴いたりもします。中でもオードリーが結構好きですね。

――アシスタントさんに入っていただいていると伺っていますが、どういったつながりで来てくださっているんでしょうか。

竿尾悟
漫研の先輩後輩や、地元の漫画専門学校の卒業生たちですね。専門学校からのアシさんたちは、講師の紹介で来てもらっています。


本とプラモの箱で埋まりつつあるアシスタント部屋。指定に時間を取られてしまい、ペン入れが滞ってしまう場合もあるとか?

――ではアシスタントさんは固定ではなく、その時都合がつく方に入ってもらっている感じですか?

竿尾悟
そうですね、先方の都合に合わせて入ってもらっています。「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で「アオアシ」を連載している小林有吾先生が同じ地元なので、先にそちらにアシスタントが行ってしまうと大変です(笑)

――アシスタントさんの奪い合いが(笑)。それでも最後の仕上げはご自身でされるとか。

竿尾悟
トーンの削りと髪のツヤ入れは全部自分でやっています。普通はカッターの刃で削るんですけど、自分は普通のカッターの折った面で削ります。広い面積が削れるし、モヤっと感が出せるんで。

――そして脱稿したら、ようやく4〜5日くらいお休みが取れる感じなんですね。原稿明けは何をされているんですか?

竿尾悟
それはもう、目覚ましをかけずに爆睡です(笑)





疲れを癒してくれるのは、やっぱり休みの日にいじるアレ?


――では次は、1日のスケジュールをお伺いできればと思います。今までのお話からして、お仕事中はスケジュールを守って進行されている印象がありますが、改めてお聞かせください。

竿尾悟
そうですね、そういうやり方が身に付いちゃってるんで。基本的には午前、午後、夜と集中して仕事をする時間の合間に息抜きをしつつ家事や雑務をこなす感じですが、切羽詰まっている時は徹夜することもあります。お昼に買い出しから帰ってきてパソコンやテレビを付けたらいつの間にか夜になっている、とかもありますけど。



――だいぶ長い休憩ですね!

竿尾悟
そうですね(笑)

――テレビは何を見ていますか?

竿尾悟
基本的にCSで、時代劇チャンネルか海外ドラマを見ることが多いです。「CSI:科学捜査班」や「BONES」、「NCIS〜ネイビー犯罪捜査班」をやっているとついつい見ちゃいますね。

――息抜きが様々な情報のインプット等にもつながりますしね。模型屋さんで見かけた卓上クリーナーがお仕事にも活躍したように(笑)

竿尾悟
あれは偶然です(笑)。でもプラモに関しては休みの日に作りかけのものをいじったり、ちまちまやってますね。結構積み上げるばっかりになっちゃっている物も多くて、天井まで達しそうな山もあったりするんですが。

――収集趣味の傾向があるんでしょうかね?

竿尾悟
あると思いますね。他には海外の古いコインや無可動実銃という、弾が撃てないようになっている元本物も集めています。基本的にコレクション関係は仕事部屋に収めているんですが、最近は居間やアシ部屋にまで進出してきています(笑)

――お休みの日は他には何をされているんですか?

竿尾悟
近所の温泉に行ってのんびりします。プラモもやりますけど、パソコンの前に座っている時間の方が長いですね。ミリタリー系のサイトを覗いたり、昔やっていたミリタリー系のシューティングゲームをまたやってみたり。

――最近はミリタリーの要素を取り込んだアニメも流行っていますが、そういったタイトルをご覧になったりは?

竿尾悟
あまり見ないですねえ……流行るとちょっと一歩引いてしまうというか(笑)。アニメは最近のものでは「だがしかし」((C)2016 コトヤマ・小学館/シカダ駄菓子)や「くまみこ」((C)2016 吉元ますめ・KADOKAWA刊/「くまみこ」製作委員会)とか。最近は「信長の忍び」((C)重野なおき/白泉社・信長の忍び製作委員会)が好きですね。今日はインタビュー前に、原作の単行本を買って読んでました。

――趣味でリフレッシュしつつ、またお仕事にシフトしていく、ということですね。では次回はネーム、線画、完成原稿を拝見させていただきながら、作業工程等について詳しくお話を伺えればと思います。よろしくお願いします!

竿尾悟
はい、よろしくお願いします。




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