縦読み漫画に携わる作家陣と編集者の双方の視点【Studio No.9】
株式会社ナンバーナインが運営するWebtoon(縦読みフルカラー漫画)制作スタジオのStudio No.9にて企画された作品『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』がLINEマンガとebookjapanにて毎週水曜更新で配信中です。本作品は日に日に注目度が上がり、LINEマンガにて600万views(2023年2月9日時点)を突破しております。今回は制作チームの作家陣と編集者が各工程で意識されていることをStudio No.9の編集アシスタント許さんから伺っています。
担当編集:遠藤さん(https://twitter.com/PAGSSIORIO)
ネーム原作担当:江藤さん(https://twitter.com/esfeb0203s)
線画担当:疾狼さん(https://twitter.com/Silou_B)
着色担当:Studio No.9所属クリエイターNさん(https://twitter.com/Studio_No_9)
早速下記シーンで意識されていることをネーム原作担当、線画担当、着色担当、担当編集視点で伺っていきます。こちらは『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』の第5話の胸熱シーンになりますので、是非ご覧ください!
①ネーム原作担当:江藤さんインタビュー
許:このシーンではどういった部分を意識してネームを描いたんですか?
江藤:実質無料の最終話である5話目(4話無料+チケットで1話無料)なので、読者が続きを読みたくなるようなヒキになるように意識しました。そのために主人公スバルにとって最大のピンチをここに持ってきてます。スバルの顔の表情をもっと強調するように線画の方(疾狼さん)に直接伝えた覚えもありますね。
許:ネームの工程の魅力はなんですか?
江藤:良いネームじゃないと良い線画も良い着色も生まれてこないので、良い意味で緊張感をもってやることができる工程だと思います。ネームがあれば最低限ネーム通りに仕上がるんですけど、線画・着色後に自分の想定を超えた仕上がりになることも多々あって、やっぱりそういった楽しさはネームの醍醐味です。『神血』のチームは、この先の展開を含めてネームの意図を汲んでくれるので、ネーム・線画・着色が良い化学反応を起こしていると感じます。
江藤さんありがとうございました。
コメント:
実質無料の最終話に意識して最大のヒキを持ってくるよう計算して制作するのは興味深いですね。
裏話として、当初は疾狼さんとネームの意図を何度も確認していた(スタジオで対面作業するメリットですね)江藤さんですが今では疾狼さんが意図をどんどん汲んでくれるので、最近は「このコマ、良い感じの表情にしてください」とだけ指定する場合もあるようです!
①担当編集:遠藤さんインタビュー
許:WEBTOON編集者がネーム作家に求める要素ってどういったところですか?
遠藤:ネームは作品全体の演出を決める上で非常に重要な工程です。大枠では、原作を元に1話を80コマ程度に納められているか、掴み、ヒキや見せゴマが意識して表現されているかを重視しています。80コマというのは週刊連載でクオリティとスピードをを保ちつつ読者の満足感を維持するための適正なボリュームだと考えているので、80コマより多すぎても少なすぎてもよくないと思っています。またWEBTOONは無料で手軽に読める分、読者が離脱しやすい媒体なので、掴みやヒキは大事です。特にヒキはこれから1週間読者に待ってもらえるようなヒキを意識してもらっています。見せゴマをどこに置くかは原作の方とも連携が必要になりますし、見せゴマに持っていくまでの演出も大事ですね。他にもI字の視線誘導、上から下の力学、適切なコマ間などWEBTOONの文法がきちんと活かされているかも重要です。初めからこういった要素を完璧にするのはむずかしいと思いますが、意識するだけでネームの質がグッと上がると思います。
コメント:
横読みだと見開きにすれば読者に見せゴマだと分かってもらえますが、WEBTOONだとそうはいかないですね。やはり、必殺技を見せゴマにするとしたらその前段階で余白を大きく空けたり、顔のカットインを入れるなど演出の工夫が重要です。あとネームによって線画や着色の作業量が変わるので、この先の工程の作業量を意識して減らす技術も必要な気がします。例えば、群衆など多くのモブキャラを登場させる時は、描き分けが必要な顔側ではなく背中側を見せるなどこういった一工夫で作業時間を数時間単位で節約することができますね!
②線画担当:疾狼さんインタビュー
許:このシーンではどういった部分を意識して線画を描きましたか?
疾狼:元々イラストレーターだったので、連載当初はイラストの絵から漫画の絵にするよう意識していたんですが、スタジオメンバーとのWEBTOON研究を通して「ベタ塗り」(影を黒く塗りつぶすこと)をこのあたりから意識して入れ始めましたね。「ベタ塗り」を入れるとぐっとWEBTOONぽさが増すんですよ!例えば、3話と5話はどっちもアクション回なんですが、この「ベタ塗り」の有無で結構違う読み味になっていると思います。是非読み比べてみて欲しいです!
許:線画の工程の魅力はなんですか?
疾狼:まず単純に江藤さんのネームがめちゃめちゃ面白いですね。それに自分の線画がNさんの着色によってどんな感じになるのかも毎回楽しみです。また、これは個人的なことになるんですが、線画を描く時は吹き出しを非表示にしているので、完成してから吹き出しを入れて改めて読むと「おおっこんな話だったのか!」ってなって面白いですね。後は単純に毎週絵を描いているのでどんどん自分の絵が上達していって楽しいです。
↑疾狼さんがどんどん絵が上手くなるので、俺TUEEE系みたいだねってメンバー内で評判です。
疾狼さんありがとうございました。
コメント:
イラストレーターの方もWEBTOONに挑戦する人は増えてきていますね。イラストレーターの方は元々線画が上手なので、こういった「ベタ塗り」など少し意識して変えるだけでWEBTOONでも活躍できると思います!WEBTOONは自分の線画に着色が加わるので、アニメ化に通じるやりがいを感じる人も多いらしいです!
②担当編集:遠藤さんインタビュー
許:WEBTOON編集者が線画作家に求める要素ってどういったところですか?
遠藤:線画は時間がかかる工程なので、週刊連載を考えると全部のコマに全力をかけるのはむずかしいと思います。そのため、特に演出したいところを見極めてそこには時間や手間をかけつつ、見せ場以外のコマではある程度力を抜くなど、クオリティ・スピードの両面でメリハリをつけるのが大事ですね。後はWEBTOONには流行りの絵柄があるので、流行りの作品を読んで自分の絵柄に取り入れていく姿勢があると、読者の方に喜んでもらえると思います。作家性が強く出た絵も個人的にはすごく魅力的だと思うのですが、WEBTOONではマーケットイン(顧客のニーズに合わせる)を意識した作り方が重要なので、柔軟にニーズに合わせられる能力も大切になってきます。
お声がけする際のポイントでいうと、ポートフォリオにあげて頂いた過去作品と実際の絵を見比べて、ポートフォリオで魅力に感じたクオリティの絵が週刊連載のペースでどの程度維持出来るか?などは見させてもらっています。
許:イラストレーターさんが線画作家になるために意識すべき部分はなんですか?
遠藤:イラストレーターさんは最終的にカラーで仕上げることを前提に描かれていたりするので、立体感や線の強弱などは塗りで表現することから、例えば線画の線を均一に描かれていたりします。イラストの場合はそれでも良いのですが、漫画の場合は白黒なのでパースや立体感の表現のために線に強弱をつけることがあります。自分で色まで塗るイラストと、着色を別の人が作業するWEBTOONでは、こういった線画単体でも強弱で立体感を感じるような線の描き方を意識してもらっています。
コメント:
先ほども言いましたがイラストレーターさんが初めてWEBTOONの線画に挑戦する場合、やはり勝手が違うので苦労する方が多いです。線画は着色に影響を及ぼす工程なので着色の方を意識した線を描くことが重要ですね。例えば、キャラの線が最後まできちんとくっついていないから、着色の方が下塗りする際に塗りつぶしツールが使えなくて困ってるケースがありました。複数人で制作するWEBTOONだからこそ常に他の工程を意識した制作が重要ですね。
③着色担当:Nさんインタビュー
許:このシーンではどういった部分を意識して着色しましたか?
N:この頃は下塗りから着彩まで全部1人でやっていたので、作業量が多くて大変でした!(現在下塗りは別の方が担当中)特に5話はショッピングモールなど細かい背景が多く、5話最後のこのシーンを塗ってる時は達成感がすごく、ウイニングランのような気持ちでしたね。
Nさんを苦しめたショッピングモール。塗り分けが大変!!
許:着色の工程の魅力はなんですか?
N:まず何よりも、着色は最後の工程なので自分がチームで作った作品を完成させる楽しさが魅力ですね。後はネームの指示を守りつつも、自分で工夫ができるので創作意欲が刺激されるところも魅力です。例えば今回のシーンの虹のオーラが実は1個前のコマまで伸びているんですが(5話を読んで確認してみてください!)、これはネームの指示ではなく自分で工夫したところを江藤さんにいいね!って採用してもらったやつです。自分が工夫したところを他の人に褒められるのはやっぱり嬉しかったです。
Nさんありがとうございました。
コメント:
着色はWEBTOONの横読み漫画と違う最大の魅力ですね。色の選び方やエフェクトの付け方によって作品の読み味が180度変わってくるので、やりがいのある工程だと思います。ちなみに「神血の救世主」は当初「虹の救世主(仮)」と呼ばれていたので、最初らへんの話は特に虹色が多く使われていたようです。最近は「赤色」の画面を占める割合が高くなりつつあるとか…?
Nさん含めメンバー全員お気に入りのスバルが初めてキャラメルマキアートを飲むシーン。この頃は吹き出しまで虹色が使われていたんですね!
③担当編集:遠藤さんインタビュー
許:WEBTOON編集者が着色作家に求める要素ってどういったところですか?
遠藤:線画の回答と被ってしまうんですが、塗り方にも流行りがあるのでそこを積極的に取り入れていただけるとありがたいです。また、作品を作る時にベンチマーク(参考にする作品)となる作品をいくつか設定していて、それらの方向性とうまくマッチしているかも大事ですね。例えば、絵としては1影だけで成立している作風でも、ベンチマークとなる作品が2影やエフェクトまでつけていれば、そこまで仕上げて頂くのをお願いしたりします。
また、複数の作品を担当する場合は作品によって塗り方を使い分けたりもお願いしています。例えば男性向け作品と女性向け作品は塗り方やエフェクトのかけ方が全然違ったりするので!
遠藤さんありがとうございました
コメント:
横読み漫画でも着色がなされる場合はありますが、剣閃や稲妻など、"発光エフェクト"の多用はスマホのディスプレイに最適化されたWEBTOONならではなんじゃないかなーと思います。エフェクトには無限に使い方があると思うので、独自の使い方も模索してみてください!もし、流行る使い方を発明したら自分の名前が付く可能性も!?
以上、作家陣と編集者による双方の視点でした。注目度が高まっているWebtoonは知っていても、作家陣はどんなことを意識しているのか、編集者視点だとどういうところを作家陣に求めているのか、あくまでも一例にはなりますが参考になったかと思います。是非『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』という作品に対しての応援は勿論、Webtoon制作に興味を持たれましたらチャレンジしてみましょう!
あらすじ:
異界からの驚異に対抗する超人的存在・プレイヤー。イジメられっ子の主人公・有明透晴は、既存の金・銀・銅のどれでもない、“虹”ランクのプレイヤーに選ばれる。血液を自在に操るスキルを手に入れ、生活も立場も一変。戦い続ける日々の中、徐々に世界を救う存在・“救世主”としての頭角をあらわしていく。気鋭の制作チーム『Studio No.9』が放つ、現代バトルファンタジー!
※本記事はStudio No.9様に許諾をいただきnote記事(【500万views突破記念】『神血の救世主』作家陣&編集がネーム・線画・着色各工程の魅力を語る!!)を再構成し掲載しております。