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コラム
2023年3月27日

漫画家という夢を諦め就職。挫折からの『女子無駄』連載へ!

漫画家 ビーノ

漫画家の活躍の場はWEBサイトや漫画アプリなど年々広がる一方、その分挫折してしまう方や夢を諦める漫画家志望者もおられます。今回は漫画賞受賞後、中々結果が結びつかず一般企業に就職されるも、再び漫画家の夢を叶えられたビーノ先生にインタビューを実施いたしました!漫画家デビューを目指し進学・上京されたお話やニコニコ静画に『女子高生の無駄づかい』を投稿されたキッカケ、出張編集部を活用するメリットなど伺いました。

女子高生の無駄づかい



― 遊びを通じて漫画制作に必要な能力を鍛えられた

インタビュアー:
この度はインタビューにご協力いただき、ありがとうございます。まず、ビーノ先生はどのような幼少期、学生時代を過ごされていたのでしょうか。漫画に触れる機会は多かったのでしょうか。

ビーノ:
絵を描くのが好きだったり、お話を考えるのが好きな小学生時代でした。よく友達とお互いオリジナルのキャラクターを描いてそこからお話を膨らませる交換ノートをしたり、大人顔負けのごっこ遊びが大好きでした。また、兄が週刊少年ジャンプを購読していたので私も読ませてもらったり、りぼんやなかよしなど少女漫画誌を自分で買って読んだりと漫画に触れる機会は多かったです。小学生時代からぼんやりとではありますが、漫画家になりたいと考えていました。

インタビュアー:
交換ノートやごっこ遊びは話の引き出しが増やせそう、漫画家に必要な能力が鍛えられそうですね。

ビーノ:
遊びを通じて漫画制作に必要な能力を鍛えられたというのは実感します。他にも家に世界の名作絵本が沢山あったので、そこで多様な物語・世界観に触れられたのも良い影響だったのかなと思います。

インタビュアー:
いろいろ学ぶ機会があったとのことですが、実際に漫画を制作したのはいつ頃からでしょうか。

ビーノ:
ちゃんと描き出したのは高校生時代でした。独学で挑戦したので内容は本当に酷いものでしたが、原稿用紙やペン・インクなど漫画制作に必要な道具を揃えることで漫画家になれたようで嬉しかったです。高校3年生あたりから作品を最後まで完成させて編集部に投稿してみよう、と本格的に漫画を作り始めました。



― 経験するのとしないのとでは解像度が違う

インタビュアー:
高校卒業後は東京に上京・進学されたとのことですが、進学先はどのようなところだったのでしょうか。

ビーノ:
私は富山県出身なのですが、東京の文学系短大に進学しました。親に対しては東京で新しい知識を学びたいとアピールしつつ、本心としては漫画家になる活動を頑張ろうと考えていました。漫画雑誌の編集部は東京にかたまっているので、漫画家になるには東京に行かないと何も始まらないと考えていました。両親には漫画賞を受賞してから伝えようと思っていたので、上京・進学時には漫画家になりたい夢は打ち明けていなかったですね。

インタビュアー:
富山から東京に上京・進学となると、ご両親の視点では地元の学校では駄目なのか心配や反対はなかったのでしょうか。

ビーノ:
私の両親は反対はせず、やりたいようにやりなと応援してもらえました。有り難いことです。

インタビュアー:
素敵なご両親ですね。上京・進学時から漫画家になるという考えがあったとのことですが、美術系の大学や専門学校の選択肢は考えていなかったのでしょうか。

ビーノ:
少し興味はありました。ただ、本格的に進路を決めたのが高校3年生の頃だったので、専門的な勉強をするには時間的に間に合わないと思い断念しました。両親には申し訳ないのですが、進学に対して真剣ではなく漫画家になりたい気持ちが強かったです。漫画家になれたら学校は辞めてもいいやと正直考えていました。当時目指していた雑誌では10代のうちに漫画賞を受賞している方が多く、早く私も漫画家デビューしたいという気持ちがありました。

インタビュアー:
そういう気持ちを抱きながらも、短大に通っていて良かったことはありますか?

ビーノ:
短大の生活を実体験できたというのは大きかったです。やはり、経験するのとしないのとでは解像度が違いますし、漫画で描く時に役立ちます。私は短大でしたが、4年制大学もこういう感じなのかなとイメージしやすいですし、キャンパスの雰囲気やサークル活動など知れた点は本当に良かったです。私の持論にはなりますが、漫画家を目指すにしても、進学したり就職したり海外に行ってみたり、様々な経験を積んだほうが良いのかなと考えています。早くデビューしないといけない感情は当時私も持っていましたが、長い目で見たときにいろいろな人生経験を積んだほうが漫画に活かせると思います。

インタビュアー:
実際に上京・進学されてからの漫画制作はどうだったのでしょうか。

ビーノ:
漫画制作と学業とアルバイトの生活を送っていました。生活自体は苦ではなかったのですが、今ほど漫画制作に関する情報を得られる時代ではなかったので、漫画の描き方を学ぶにはどうすれば良いのか悩んでいました。当時はハウツー本くらいしか参考になるものがなかったので、独学で学ぶには限界を感じ、アシスタント募集をしていた漫画家さんにタダでいいから現場に入らせてほしいと頼みこみました。漫画制作の技術が足りない中、面倒を見ていただけたことには感謝ですし、トーンの貼り方や先生がどういう指示を出すのか漫画を作る過程を間近で学ぶことが出来たのは貴重な経験でした。

インタビュアー:
そういった経験を踏まえて、持ち込みという流れでしょうか。

ビーノ:
そうですね。とある少女漫画誌に持ち込みをしたのですが、肝心の作品はというと、週刊少年ジャンプで連載していた『NARUTO -ナルト-』をそのまま真似たような内容で、編集者からも「どっかで見たことあるよね」とダメ出しを受けました。当然名刺はもらえず、担当してもらうこともできませんでした。これでは駄目なんだと思い、改めていろんな漫画を読んだり研究しながら漫画賞に投稿しました。私自身、恋愛系を描くのは苦手だったので日常系で挑戦し、3回目ぐらいの投稿で大きめの賞をいただきました。その後、本誌に掲載され担当編集も付くことになりました。

インタビュアー:
描かれたジャンルというのは、ビーノ先生的には楽しく描けたのでしょうか。漫画賞受賞を狙うにあたり、所謂売れ筋のジャンルを狙って制作されたのか、元々自分の好きな描きやすいジャンルを描かれたのか気になります。

ビーノ:
楽しく描いた記憶はありますね。ただ、本誌掲載後の数年は大分苦しみました。当時、漫画を発表できるのは漫画雑誌ぐらいしかなく、その掲載枠を取り合っている時代でした。その少女漫画誌は比較的いろんなジャンルが載っていましたが、やはり恋愛系の作品が通りやすく、私にとっては大変でした。今なら挑戦しようと思えるのですが、若さもあり求められるままに漫画を描きたくない反骨心のようなものが正直ありました。



― 漫画家という夢を諦め就職

インタビュアー:
中々漫画家として結果に繋がらない状況の中、就職をされたと。

ビーノ:
そうですね。漫画家という夢を諦めて、一般企業に就職しました。自社製品の広告を出稿する部門で、漫画制作からは遠ざかり仕事に没頭しました。就職をきっかけに、漫画家を目指している時には出来なかったことをしようと、いろいろなことに挑戦するようになりました。

インタビュアー:
その挑戦の一環として、ボカロ曲の制作にも取り組まれたということでしょうか。

ビーノ:
元々ギターを買うぐらい音楽に対して興味があったので、その流れでボカロ曲の制作に触れてみました。主人ともその時に出会い、一緒に作曲する関係になりました。ただ、たくさんの投稿曲の中から、知ってもらう、聴いてもらうためには何かしなければと思い、ニコニコ静画に『女子高生の無駄づかい』を投稿しました。いわゆるメディアミックスの真似事のようなことを思いついたんです。お陰で多くの方にボカロ曲と漫画を盛り上げていただき、その反響から自分の漫画に少し自信がつき、改めて漫画家という道を目指してみようと考えるようになりました。同人誌即売会で出張編集部が開催されていたので、ニコニコ静画に投稿していた『女子高生の無駄づかい』を印刷して編集部に持ち込みをしました。

インタビュアー:
編集者からの反応はいかがだったでしょうか。

ビーノ:
とある出版社の編集部からは厳しいご意見をいただいてしまったのですが、KADOKAWAの編集部に持ち込みをしたところ、見てくれた編集者が『女子高生の無駄づかい』を少し知ってくれていて、連載会議に出してみようかなど前向きな反応をいただきました。

インタビュアー:
その2つの編集部に持ち込みをした理由は何かあったのでしょうか。

ビーノ:
最初に持ち込んだ編集部は完全にミーハーな気持ちでした。王道な編集部だったので、思い出作りや好奇心など軽い気持ちで行きました。案の定、厳しいご意見だったので、そりゃそうだろうなと納得しましたけれど。KADOKAWAの編集部はタイミング良く空いていたので勢いで持ち込みました。そういう軽い気持ちで持ち込みした編集部に今も大変お世話になっているので、勢いで編集部に持ち込むというのも一つの手なのかなと思います。

インタビュアー:
持ち込みを見てくれた編集者が『女子高生の無駄づかい』を知ってくれていたというのも運命的な出会いですね。

ビーノ:
今振り返るとそうですね。編集者からの反応が前向きだったことに背中を押されました。反応がイマイチだったら、他にも持ち込んでいたか、また諦めていたと思います。私は早い段階で自分に合う編集者と出会えましたが、出張編集部ならいろんな編集者と出会う機会がありますし、自分の感性を気に入ってくれる編集者を探してみるのが大事かなと思います。描く雑誌を変えた途端にヒット作を出す作家がいる一方、編集者との相性が悪いことも要因となり志半ばで夢を諦めた作家もいますので、これから漫画家を目指す方は特に遠慮なくいろんな編集者に作品を見せていってほしいと思います。

インタビュアー:
今は雑誌に限らずWEBサイトなどいろんな媒体で描ける機会があるので、自分が一緒に挑戦したいと思える編集者を探すのが良いですね。

ビーノ:
仰る通りです。相性の悪い編集者とずっとやっていても時間の無駄なので、出張編集部などいろいろな編集者と出会える機会を活用してみてほしいです。編集者にもいろんなタイプがいて、漫画家の作りたいものを尊重し任せてくれる編集者もいれば、漫画家と一から一緒に物語を作っていきたい熱い編集者など様々です。私は前者の編集者と相性が良いのですが、勿論後者のような編集者を必要とする漫画家もいると思うので、重ねてにはなりますが相性は大事だと思います。

インタビュアー:
他に編集者のここを見たほうがいいというポイントはありますか?

ビーノ:
返信が早いというのは重視していますね。連載中の漫画家とデビュー前の漫画家志望者とで連絡の優先順位は変わるとは思うのですが、漫画家志望者の立場として考えた場合、一週間以内には返信がないとモヤモヤしてしまうと思います。特に漫画家志望者時代だと不安が大きいですし、描いた作品への評価を道しるべとして進みたいのに、返信が遅いと身動きがとれなくなって辛いですよね。見返してやるぞと奮起するのもアリだと思いますが、私としては返信が早くあれこれ話せる編集者のほうがストレス少なく理想的です。後はネームのチェック時にポジティブな感想が添えられていると嬉しいです。担当編集が最初の読者になるので、ポジティブな感想があるとモチベーションに繋がります。



― 頼れるものは全部頼ろう

インタビュアー:
ビーノ先生は育児もされながら漫画連載されています。子どもがいるのといないのとで漫画制作の仕方は変わりましたか。

ビーノ:
変わりましたね。自分のペースではない、子どもの生活に合わせた生活スタイルになります。私は基本的に夜型の人間なので深夜帯の作業が捗るのですが、子どもが起きたら相手をしないわけにはいきません。いなかった時と比べると無茶できる時間は限られてます。これは漫画家に限らず、会社員の方などもそうだと思いますが、子どもが急な体調不良になったら看病したり病院に連れていかないといけない場面もあります。子どもが風邪を引くと、自分も風邪を引いてしまうことが多々あるので、そのあたりも気にしないといけないですね。

インタビュアー:
ビーノ先生の考えとして、育児しながら漫画を執筆するにあたり、意識していることはありますか?

ビーノ:
頼れるものは全部頼ろうと考えています。両親ともに遠方在住かつ現役で働いていたりするので頼るのは難しいのですが、一時保育や病児保育などのサービスを活用しています。子どもが大事というのは大前提としてありますが、同じぐらい自分がやりたいことを頑張るというのも大事かなと思います。ただ、他の家庭では休日に子どもと一緒に遊んでいるのに、私は土日祝日も漫画執筆があるとあまり一緒に遊べません。主人が代わりに面倒を見てくれているのですが、子どもには申し訳無さがあります。

インタビュアー:
学生時代、仕事が忙しい親御さんに代わって小さい子どもの面倒を見ていたのですが、子どもなりに親が頑張っている姿や楽しく打ち込んでいる姿は伝わっていたので、短い時間でもその分愛情注いで楽しい時間を過ごせれば十分かなと個人的には思います。

ビーノ:
罪悪感が常にあるので、そういっていただけると少し救われます。

インタビュアー:
それでは最後に漫画家志望者に対して、メッセージをいただければと思います。

ビーノ:
私は特別何か凄い勉強をしてきたとか、長年アシスタントとして経験を積んできたとかではなく、むしろ一度漫画家の夢を諦めたことがあります。ただ、最終的に今こうして漫画を描く機会をいただけているのは、漫画が好きという気持ちを持っていられたからだと思います。
最近は便利な時代になり、SNSに作品を投稿するとポジティブな反応が貰いやすいです。勿論、そこで自信をつけるというのも大事ですが、独りよがりにならないためにも信頼できる編集者から専門的なアドバイスを受け、一緒に取り組むことでよりよい漫画作品を作れると思います。

駆け出しの漫画家志望者にとって、最初から数十ページの作品を描くのは大変なことなので、まずは4コマ漫画に挑戦する、次は2ページ・・・・・・など徐々にステップアップする形で作品作りをしてみるのが効果的だと思います。躓いている方がいたら、まずは完成させることを意識して挑戦してみてほしいです。
頑張ってください!!




■ビーノ先生 プロフィール

富山県出身の漫画家。コミックNewtypeにて『女子高生の無駄づかい』を連載中、現在10巻まで発売中。2019年にTVアニメ化、2020年にはTVドラマ化された人気漫画作品。過去には『宇宙とかと比べたらちっぽけな問題ですが』をコミックNewtypeにて連載。
19歳で少女漫画誌の漫画賞でデビューするも中々結果に結びつかず一般企業への就職を経験。その後、趣味でボカロ制作に取り組み、曲のPR施策の一環としてニコニコ静画に『女子高生の無駄づかい』を投稿。ボカロ曲と漫画ともに人気を得る。

Twitterアカウント(@bambi_no_3)
Booth(低所得スタジオ)
ニコニコ動画/生放送(ビーノ)
YouTube(低所得スタジオ)
女子高生の無駄づかい 漫画公式サイト
女子高生の無駄づかい TVアニメ公式サイト
女子高生の無駄づかい TVドラマ公式サイト
宇宙とかと比べたらちっぽけな問題ですが 漫画公式サイト



■コミックNewtype 連載作品『女子高生の無駄づかい』

だいぶ偏差値が足りない田中(通称バカ)、BLに傾倒する菊池(通称:ヲタ)、無表情な才女・鷺宮(通称:ロボ)。個性派ぞろいのJKたちが“女子高生”を無駄に浪費する日常学園コメディ──。
(引用:コミックNewtype 作品紹介ページ

女子高生の無駄づかい

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