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コラム
2023年4月18日

東京藝術大学出身の漫画家にインタビュー!美大受験の思い出

東京藝術大学出身の漫画家にインタビュー!美大受験の思い出

小学生・中学生・高校生らを対象に、将来の夢として挙げられる"漫画家"。夢を叶えるために、漫画家の知識を得られそうな美術系の大学や漫画の専門学校に通うかどうか悩まれている学生がおられると思います。今回は国内で唯一の国立の芸術大学である"東京藝術大学"を受験し合格されたあららぎ菜名先生に受験時の思い出や実際に通われて良かった点など実体験を伺いました。

東京藝大ものがたり

■東京藝大ものがたり

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「見よ!美大受験はこんなにも地味で、壮絶で、美しい。」
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引用元:飛鳥新社『東京藝大ものがたり』書籍紹介
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― 読者を意識した学生時代

インタビュアー:
早速ではございますが、美術の進路や漫画家の道を選ばれたキッカケを教えていただけますか。

あららぎ菜名:
元々父親が芸術家ということもあり、絵が飾られていたり、絵を描くというのが日常のような家庭環境でした。その影響もあってか、小学校から高校までの美術の成績が良く、自分自身も美術を学ぶことが楽しいと感じられた学生時代でした。漫画にも触れていたので、漫画家になりたいという気持ちもあったのですが、だから漫画の専門学校に行くのではなく、父親が触れてきた芸術を勉強したいという気持ちの方が強く、父親と同じ東京藝術大学を受験しました。

インタビュアー:
漫画にも触れられていたとのことですが、漫画を描くキッカケはどのようなものだったのでしょうか。

あららぎ菜名:
物心ついた頃から自宅にはいろいろな漫画が多くあり、また2番目の兄が漫画好きかつ自分で描いていたのを見て、私自身も面白そう描いてみたいと思ったのがキッカケですね。

インタビュアー:
実際に描かれた作品は誰かに見せられたのでしょうか。

あららぎ菜名:
小学生の頃、同級生に漫画を読んでもらいました。正直オリジナリティの欠片もない作品ばかりでしたが、読んでくれる人がいるということに喜びを感じました。今振り返れば読者という存在を意識するようになったのはその頃からだと思います。もっといろんな方に読んでもらいたいと、小学校6年生か中学校1年生ぐらいの頃に初めて漫画賞に応募しました。

インタビュアー:
なかなか早い時期から取り組まれていたのですね。

あららぎ菜名:
作品の評価はボロボロでしたが、そこから定期的に漫画賞に応募するようになりました。最初応募したのは少女誌でしたが、2回目以降はよく触れていた少年誌と青年誌を行ったり来たりしました。

インタビュアー:
学生のうちだと数回の応募で飽きてしまう、諦めてしまうこともあるのかなと思うのですが、モチベーション面など当時いかがだったでしょうか。

あららぎ菜名:
私の場合はそういう感情はほとんどなかったです。面白い面白くないは置いといて、必ず作品を完成させて出版社に出すようにしました。漫画家志望者の中には漫画を完成させられないと聞くので、なんだか惜しいと思います。描き終えられない一つの要因には完成させた経験値の少なさかもしれないので、何ページでもいい数ページでもいいから作品を完成させる経験を積んでほしいなと思います。

インタビュアー:
確かにちょっとした成功事例があるだけでも違いが出てくるかもしれないですね。持ち込みや出張編集部などは経験されたのでしょうか。

あららぎ菜名:
東京藝術大学に入学してから経験しました。COMITIAの出張編集部でいくつか編集部回ってみましたが、大体名刺いただくことが出来たので当時ホッとした記憶があります。

インタビュアー:
実際出張編集部などで打ち合わせをしていく中で、振り返るとこういう編集者は良かったなど漫画家志望者が意識したほうが良いポイントはありますか。

あららぎ菜名:
まずアドバイスをもらう時、編集者の食いつき方が全然違います。良い編集者は持ち込んでくれる人間や作品に対してすごい興味を持ってくれるような気がします。後、編集者自身も好きなジャンルはあると思うので、そこと自分自身が描きたいものが合っているか見ておくのが重要だと思います。編集者と作品を作り上げていく中で、好きなものが被っていないと共通認識がズレて話が通じなくなることもあるので、そういう見極めが必要に感じます。他にも、編集者の中には作品作りで悩んでいる時にメールや電話で漫画家の心配をしてくださる方もいるので、そういう気遣いがある方はやりとりしていて気持ち良いですね。

インタビュアー:
頭ではわかっていても、自分にとって相性の良い編集者を見つけるのは大変そうです。

あららぎ菜名:
そうですね。私もいろんな方と一緒に作品作りしようと取り組んでいますが、中々難しいです。ただ、そういう気合いがある編集者は絶対いるので、持ち込みや出張編集部など活用してうまく見つけてほしいです。



― 東京藝術大学への受験当時の思い出

インタビュアー:
東京藝大ものがたり』でも詳細に描かれていましたが、改めて東京藝術大学に受験された時のお話を伺えればと思います。高校2年生ぐらいから美大受験を意識されたということでしょうか。

あららぎ菜名:
その頃から意識しました。それまでは漫画は描いていたのですが、美大受験用の勉強をしてこなかったので勉強するのが大変でした。私もそうだったのですが、今の学生は美術が得意でも7割ぐらいは漫画やアニメの絵を得意としている方だと思います。そのジャンルと美大受験に必要なデッサンや絵画は全く違うジャンルになりますので注意が必要です。すべてが無駄にはならないですが、漫画が得意だから美大受験は楽勝などと考えず、ちゃんと勉強しないといけないというマインドで望まないといけないかなと思います。

インタビュアー:
受験されるにあたり、最初どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

あららぎ菜名:
最初は美術予備校の体験授業を受けました。そこで実際の雰囲気を経験し、受験頑張れそうと思い短期間ですが通うことにしました。今ではインターネットである程度美大受験に関する情報を調べられると思いますが、美術予備校には合格者作品の実物やインターネットでは得られにくい生の受験情報が集まります。当時一般的な高校に通っていた私にとっては大変貴重なもので、意識が変わりました。

インタビュアー:
受験の雰囲気や実際の作品に触れるのも重要ということですね。いろんな学校の情報を集められたと思うのですが、父親の影響の他に東京藝術大学を目指された理由はございますでしょうか。

あららぎ菜名:
どうせ目指すなら一番の学校が良いなと感じたのと、私立の美大と比べて学費が安かったというのも大きいです。家庭の事情的に重要なポイントでした。

インタビュアー:
現実問題、学費も重要なポイントですね。美大受験となると、実技の他にセンター試験(現在は大学入試共通テスト)もあるのでしょうか。

あららぎ菜名:
東京藝術大学は国公立大学なので、国語と外国語が必須で、それ以外は受験する科によって異なっていたと思います。不登校の時期があり、センター試験向けの勉強が遅れていたのも一因となり、現役時のセンター試験では5割程度の成績しか得られませんでした。また、今振り返れば変な先入観だったり、美術予備校の変な空気感に呑まれてしまったのも一因かなと思います。美大受験では現役で合格される方も勿論いるのですが、浪人してから合格されるケースが多く、浪人してやっと合格するという空気に引っ張られてしまいました。私が教えている子に対しては浪人しようとは基本考えないで、絶対現役で受かってやるという気持ちでやらないといけないというのは伝えています。

インタビュアー:
学科の勉強と実技の勉強を並行してやらないといけないので、美大受験は中々大変だと思います。浪人時代、勉強するモチベーションの維持はいかがだったでしょうか。美大を受験する方に限らず、浪人時代はそのあたりのコントロールが難しい印象があります。

あららぎ菜名:
学科の勉強は逆に集中できました。自宅で勉強すると孤独感があったので、図書館に行って勉強したのですが、他のみなさんも何かしら勉強されているので良い刺激でした。どちらかといえば実技の勉強のほうがモチベーション維持が難しかったです。学科は基本的に正解がありますが、実技は何が正解かどうしても手探りになりました。

インタビュアー:
他に美大受験を考えられている学生の疑問として、受験勉強時に美術予備校などの学費以外にどういった費用がかかるのか気になっている方もおられます。ケースバイケースで受験される大学や科にもよると思いますが、いかがでしょうか。

あららぎ菜名:
描く頻度などにもよりますが、月に2,3万円ぐらいかかっていたと思います。勿論これに生活費や食費や交通費などがかかりますし、最近は画材も高くなっているので今目指される学生さんは中々大変だと思います。

インタビュアー:
ありがとうございます。無事に東京藝術大学に合格された三浪の時には、それまで抑えていた娯楽(漫画や映画、美術館訪問など)を適度に楽しんだと『東京藝大ものがたり』で描かれていましたが、実際モチベーションなど精神的な面でプラスに働いたのでしょうか。

あららぎ菜名:
はい。改めて作るのが楽しいなと思えるようになりました。それまで受験用の絵を描いてきたのですが、そうじゃない例えば人の漫画なりアニメなり映画なり絵なりを見た時、自分の創作意欲に対してかなり良い刺激を受けました。これを作りたいという創作意欲が伸ばせたので、無事合格したらこういうの作ってみたいなど先々のことを考えられるようになったのはプラスに働きました。特に美術館に行ったのは個人的にすごく良かったです。受験では絵を見るとどうしてもテクニック的な視点で見てしまうのですが、純粋に絵は人々に感動や美しさを感じさせることができるすごいものと考えられるようになっていき、結果的に受験の絵にも影響してくるかなと思います。

インタビュアー:
受験生次第だと思いますが、極端に娯楽を封印せず、多少楽しむのも良い受験の過ごし方かもしれないですね。他に受験時代に気をつけたほうが良さそうと思うことはありますか。

あららぎ菜名:
受験する時はTwitterなどSNSとの付き合い方は考えたほうが良いのかなと思います。孤独感が紛らわせるなど良い面も勿論あるのですが、他の同級生や美大受験の仲間のツイートによってメンタルが浮き沈みしてしまい、それが絵に出てくることがあります。受験するにあたってのメンタルケアは凄い大事で、少しでも自分の負担になるようなものがあるなら、なるべくなくしたほうが良いです。



― 東京藝術大学合格後の学び

インタビュアー:
三浪を経て、無事に東京藝術大学に合格されました。漫画では合格発表に見に行く最中に家族からフライングで知らされたエピソードもありましたが、改めて合格した時の気持ちを伺えればと思います。

あららぎ菜名:
作品内では表現していなかったのですが、自分の実力を出し切っていたので正直ちょっと受かるだろうとは思いました。ただ、受かるだろうとは思いつつ、合格発表で掲示板に自分の受験番号を見つけた時は、あぁやっと大学生になれるという感動はちゃんとありました。東京藝術大学では合格者に対して入学案内などが入っている紙袋をもらうのですが、それをもらった瞬間が感動のピークでした。

インタビュアー:
今までの勉強の成果が繋がったと感じる感動的な瞬間だったと思います。その後、東京藝術大学に通われていろんな分野を学ばれたと思います。漫画家を目指そうと思い美大受験を考えている方にとっては、漫画制作に役立つことが学べるのか学校案内などでは中々把握できないところだと思うのですが、いかがだったでしょうか。

あららぎ菜名:
芸術の勉強はすごく面白かったです。漫画制作という点においては捉え方次第としか言いようがないのですが、少なくとも漫画以外の知識というのを持てるようになったのは世界の広がりを感じるようになったので良かったと思います。例えば、日本美術や西洋美術の歴史を紐解いた時に、こういう歴史があったから現在はこういう美術が確立されているという知識を持って改めて美術館に行くと見方が変わります。普段当たり前に目にしていることが、見方を変えると違って見えるという視点は漫画制作に活かされています。東洋建築学を学んだこともあるのですが、それもどういう風に成り立っているのか知ることで、漫画の建物を考える時に役立ったと実感します。
私の通っていたデザイン分野の視点で見ると、漫画制作に結構役立っているのかなと思います。漫画を作るのとデザインを作るのと共通する点もありまして、例えばデザインが全く分からない人に対して分かりやすく印象に残るように作らないといけないのですが、漫画も一緒です。原稿を見せた時に編集者・読者の印象に残らせるにはどうすればというのを逆算して考えることが出来たのはデザイン分野の勉強のお陰です。表紙を描く時もデザイナーさんがうまく配置してくれるので自由に描いても良いと思いますが、ここらへんに置きたくなるように表紙はこういう雰囲気に描こうみたいな逆算した決め方が出来るようになりました。
漫画には必ず読者が存在するので、読者に伝わらなかったら意味がない、読者のことを考えずに好きに描くこともできますが、商業作家を目指すのであればある程度読者への配慮、サービス精神が必要です。伝わるためにどうすれば良いのか思考力がかなり鍛えられました。

インタビュアー:
編集者や学校の先生にお話を伺うと、読者不在で自分の好きなものをそのままぶつけられる学生がおられると仰っていました。

あららぎ菜名:
確かにそのパッションは大事なのですが、それなら趣味としてSNSなどで投稿するので十分ではと思ってしまいますね。商業連載では読者の存在は不可欠です。

インタビュアー:
大学で専門的に学ばれたのは振り返ってみて良かったでしょうか。

あららぎ菜名:
よかったですね。なにより漫画以外のことをいろいろ学ぶことができて良かったです。ただこれは芸術系だけでなく、一般的な大学で好きなことを勉強しても強みになると思います。学業だけでなくアルバイトをして、いろんな人と繋がり話を聞いたり知識を貯めていくのが必要かな思います。漫画だけに特化していると刺激が足りず、いつかネタが枯渇してしまうと思います。漫画家として成功したい、一生懸命学びたいから一点集中したいという気持ちもわかりますが、一回寄り道してもいいのではと思います。どこかで働いてみてから描くのでも遅くないと思います。

インタビュアー:
経験するかしないかで違ったものが見えてくることもありますよね。

あららぎ菜名:
勿論経験しなくても描けるものもあるのですが、描くキッカケにはなると思います。自分自身が経験しなくても、例えば他の人がそれを経験したのを聞いたら漫画のキャラに落とし込んだりできるので、いろんな人の話を聞くのは大事です。漫画を参考にされる方もおられますが、漫画から参考にすると今まで出てきた漫画の中からしか描けなくなっちゃうので視野が狭くなります。

インタビュアー:
ありがとうございます。最後に漫画家志望者に対してメッセージをいただければと思います。

あららぎ菜名:
まず漫画はすごく面白いです。漫画は自分の言いたいことや世界観を人に見せられる魅力的な媒体です。今の時代は恵まれて、一口に漫画家になるといってもいろんななり方があります。学生さんがまずやってほしいのは、漫画家になると考えた時にどういうルートが存在するのかいっぱい調べてほしいです。調べているうちに、こういうルートは自分に合いそうとか出てくると思います。進路を考える中で親御さんや先生方からの話を聞いているうちに目標がブレることもあると思いますが、一番大事なのは自分自身の気持ちなので、他人から言われたことは頭の片隅に入れるぐらいで、どう漫画家になっていきたいか、是非たくさん調べて悩んでほしいです。知ることから始めましょうと伝えたいです。




■あららぎ菜名先生 プロフィール

漫画家。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業、同大学の大学院美術研究科修了。『東京藝大受験ものがたり』がSNS上で話題となり『東京藝大ものがたり』が書籍化。現在自身のnoteにて『東京藝大ものがたり続編』を執筆中。

Twitterアカウント(@Araragi_Nana_23)
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引用元:飛鳥新社『東京藝大ものがたり』書籍紹介
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