【ジャンプSQ.】スクエアベース#2 鏡貴也先生
2019年1月某日に開催された、ジャンプSQ.連載作家陣による漫画講演会。今回はその二時間目、『終わりのセラフ』の鏡貴也先生による貴重な講演会の様子を公開!!
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『スクエアベース』から転載しております。
作品制作にあたり新人が意識すべきこと
先ほどお話に出た”担当編集”の意見について、鏡先生はどのように捉えるべきだと思われますか?
ときどき新人漫画家さんから「描きたい物を描くべきと言われるが、描きたい物が見付からない」と言われることがあります。そのような漫画家さんにアドバイスをお願いできますか。
キャラクターが生きているように動かせなく、どうしても嘘っぽくなってしまう気がします。どのように改善すればいいですか?
鏡先生のアイデアの出し方を教えていただきたいです。
鏡先生がストーリーについて考えている時間はどれくらいでしょうか?
-作品制作にあたり新人が意識すべきこと
司会:2時間目の講師は鏡貴也先生です!
鏡:よろしくお願いいたします。
司会:まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
鏡:はい。『終わりのセラフ』の原作者、鏡貴也です。まず初めに、ぼくが小説家を志したときのお話しをすると、高校3年生の頃、家が地上げにあって高校を辞めることになり、家の中にいながらできる仕事は何だろうと考えたことがきっかけでした。元々小説や漫画は好きだったので、小説なら家でも書くことはできそうだなと(笑)。そこでとりあえず3000円くらいのボロボロのワープロを買って小説を書き始めたのですが、まずは必ず完成させることを第一の目標としました。その時、確か1月だったと思うのですが、3月の電撃、5月のスニーカー、8月の富士見ファンタジアの新人賞に全て応募しましたね。今考えると、正直とんでもなく下手なものが出来上がったのですが、書き上げる毎に見直し反省はしていて、自分なりにはより良いものになっている自信があったので、ちゃんと見てもらえれば行けるのではという気持ちも心の中にはありました(笑)。でも3月、5月の賞ともに1次で落選。その際、雑誌で結果発表があったのですが、本屋で落選を知って足が震えたのを覚えています。そこで、「ぼくには才能ないんだ。小説家は諦めよう」と思いました。その半年後くらいでしょうか、3本目の富士見ファンタジアは結果発表が遅かったのですが、まさかの受賞の連絡がありました。「え?小説はもう書き方忘れるくらい書いてないよ」って思いましたね(笑)。その時の受賞作『武官弁護士エル・ウィン』がぼくのデビュー作になりました。後々聞いた話ですが、当時富士見のヒット作品を数多く担当されていた編集さんが、ボツ原稿の山の中から作品を見つけて選考に引き上げてくれたらしいです。その方がぼくの初代担当さんになったのですが、今でもぼくの恩人です。
司会:ありがとうございます!まるでドラマみたいなお話ですね。それではまず私から、いくつか質問をさせて頂きます。
-先ほどお話に出た”担当編集”の意見について、鏡先生はどのように捉えるべきだと思われますか?
鏡:そうですね。それこそぼくの初めての担当さんとの話なのですが、ある時バトル小説を書いていて担当さんに見せたところ、「戦闘シーンが長いので短くして持って来て」と言われたことがありました。まあ普通の新人さんだったら「なるほど、短くしよう」って思うんでしょうけど、当時の鏡青年はひねくれていたので(笑)、まずなんで長いと言われたんだろうって考えましたね。結論は、きっとつまらないからだろうと。なので、自分が絶対面白いと思える内容で3倍の長さにして持っていきました。そしたらその担当から、「短くなっていいね!」って(笑)。ヒット作品を連発している敏腕編集でしたし、その人が適当だとかそういうことではないと思います。ただ、編集者っていうのはそういうのもなんだと。向こうは作品を読むプロであり、第一の読者でもある。でも決められた時間の中で、作品を読んでアドバイスしてくれる時、その言葉は文字通りの意味なのではなく、読者が受ける印象とほぼ同義なのだと思います。もちろんその意見自体は正しいので、真摯に受け止めるべきなんですが、大事なのは言われた通りにそのまま変えるのではなく、その裏にある意図を汲み取って、向こうの想像を超えるようなものを作っていくこと。また、ぼくら作家は編集者と違い自分の作品に向き合える時間がたくさんある。なので「短くして」と言われたなら、短くするパターンも書いたらいいし、長くするパターンやそうでないパターンも書いて、その中で一番自分が自信のあるものを選択すれば納得のいく作品になるのではないでしょうか。
司会:新人漫画家の皆さんにとっては、とてもためになるお話ではないでしょうか。では次の質問に移らせて頂きます。
-ときどき新人漫画家さんから「描きたい物を描くべきと言われるが、描きたい物が見付からない」と言われることがあります。そのような漫画家さんにアドバイスをお願いできますか。
鏡:少しずれるかもしれませんが、ぼくは「描きたいものを描くべき」という言葉には、「でもそれで売れてね」という意味も含まれると解釈しています(笑)。商業作家である以上、作品を作るのはより多くの人に読んで貰うため。つまり、「描きたいもの+売れる=読んでもらうもの」ということを意識してください。皆さんもいつか連載が始まったら、今回こちら側で講演しているぼくらと同じ土俵で戦わないといけません。そのぼくらが命懸けで書いているので、「ただ純粋に描きたい物を描ければいい」という考えだけでは、生き残るのは難しいかもしれませんよ。
司会:ありがとうございます。とても重みのあるお言葉ですね。では質疑応答に移らせていただきます。質問のある方はいらっしゃいますか。
-キャラクターが生きているように動かせなく、どうしても嘘っぽくなってしまう気がします。どのように改善すればいいですか?
鏡:キャラクターを1人の人間として扱うことでしょうか。人はそれぞれ生き方にバリエーションがあり、様々なコミュニティに所属しながら生きています。別々の生き方をしている人間と人間が対峙したら、どういった反応を起こすのか、そういった背景込みできちんと想像してあげることが大事だと思います。
司会:客観的に判断できるようになるためには、インプットの量や質も重要になりますよね。では次の質問をお願いできますでしょうか。
新人:もう一つ質問なのですが、以前担当編集から、複数登場人物がいる場合は、なるべくシンプルなキャラ配置の方が良いと言われました。個人的には多少バランスを崩しても、変わったキャラ配置に挑戦してみたいのですが…、どうすればいいか悩んでいます。
鏡:悩んで手が止まるくらいなら、まず10パターンくらい配置の組み合わせ出してみたらどうでしょう。それを担当編集に見せれば、「そっちの方がいいな」という意見になるかもしれません。キャラ配置に関してテクニック的なことを言うと、数多くのキャラを立たせるのは確かに大変なので、まずキーとなる2人を真剣に作り、そこの対話が面白いかを確認してください。それがないと読者は読んでくれません。その上で、その話をより面白くさせるのに足りないパーツは何なのか、考えていって下さい。
司会:キャラクターについての考え方は、漫画を描くうえで切っても切れない大事なものですよね。では他に質問がある方はいらっしゃいますか。
-鏡先生のアイデアの出し方を教えていただきたいです。
鏡:もちろんいろいろありますが、一例を挙げるとすると、映画の予告を見ているときでしょうか。特にB級・C級映画の予告は本編と全然違ったりしているので、「もしこうなったら面白そうだな」などと妄想しながら楽しみますね(笑)。そういう感じで日々楽しく過ごしていたら、アイデアは自然と出て来ると思います。ここにいる皆さんの中で、話のアイデアがあまり浮かばない人は絵が描きたい人かもしれません。その絵の技術を上げて、ぼくみたいな原作者を捕まえ、連載を勝ち取るという手もありますよ。その時は優しくして下さい(笑)。
司会:ありがとうございます。では次の質問をお願いいたします。
-鏡先生がストーリーについて考えている時間はどれくらいでしょうか?
鏡:そうですね…、たぶん頭が働いている間はずっとだと思います。ぼくは全ての物事をストーリーで認識するようにしていて、例えばふらっとコンビニに立ち寄った時は「このコンビニに何故この本が陳列されているんだろう」とか、「あの店員が頭を下げているけど、漫画だったらどんなセリフが合うかな」とかを常に考えています。ちょっと病的な部分があるかもしれないので、こんな生き方はあまりお勧めできませんが(笑)。また、その時その時で感銘を受けたものが作品に登場しがちなので、親しい人はすぐ気づくみたいです。
司会:時間になりましたので、質疑応答はここまでとさせていただきます。それでは鏡先生、最後に新人の皆さんへ一言お願いできますでしょうか。
鏡:はい。日本のエンタメを担っている人たちにとって、みんな心の中では「ジャンプ」がエンタメの頂点だという認識があると思います。ぼく自身もそうでしたし、ぼくの知り合いのラノベ作家さんたちの中にもジャンプで連載したいという気持ちがある人がたくさんいます。もしジャンプを表のエンタメだとすると、他は全て裏のエンタメというぐらい、ジャンプには力があると思っています。今日この講演を見に来ている人たちは、一人一人違ったステージで連載を目指している漫画家さんだと聞きましたが、ここにいる皆さん全員が、将来日本のエンタメを背負っていく人たちです。いつの日か皆さんと同じステージで競い合えるのを楽しみに、ぼくも毎日必死に戦い続けますので、皆さんも是非頑張ってください。
いかがだったでしょうか。連載経験者たちによる多角的な視点や経験を学ぶことができたのであれば幸いです。その他、起承転結のバランスや面白さを判断する基準決めなど盛り沢山な内容なので、もっと学びたい方は下記のリンク先へアクセスしてみてください!
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2012年10月号から『終わりのセラフ』を連載中。
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