人気Webtoon作品「ビジネス婚―好きになったら離婚しますー」制作の裏側
累計1300万DL突破の人気Webtoon作品「ビジネス婚―好きになったら離婚しますー」(原作:JAMTOON STUDIO 作画:キラト瑠香 出版社:ファンギルド)。 5/23からは連続TVドラマが放送、5/30にはタテ読みフルカラーのWebtoon作品にも関わらず紙単行本も発売しました。今回は、「ビジネス婚―好きになったら離婚しますー」にてネームと作画を担当しているキラト瑠香先生に、Webtoon執筆について伺っていきます。
◆Webtoonについて
スマートフォンでの閲覧に特化した、タテスクロールのフルカラーコミックのこと。
アジア圏を中心に国際的にも人気が高まり、これまでコミックに親しんでこなかったファン層も多く生み出している。
小学生の頃、“漫画って自分で描けるんだ!”と知り衝撃を受けた
―早速ではありますが、漫画家を目指したきっかけをお教えいただけますか。
キラト瑠香:
漫画家を目指したきっかけは、親族が漫画好きで、小さい頃から漫画に触れてきたのが大きいと思います。特に父が好きで、青年誌や少年誌が本棚にはたくさんありました。その影響で、小学生の頃は周りがあまり読まないような渋い作品もたくさん読んでました(笑)
あとは、私が小学校5年生の頃、従姉が漫画の専門学校に通い始めたのもきっかけのひとつですね。
当時は家に帰ると好きな漫画の模写とか落書きをよくしていたのですが、その従姉の姿を見て「漫画って自分でも描けるんだ!」と初めて知り、衝撃を受けました。
―漫画を読むだけに留まらず、模写をしていたところがさすが作家さんですね!
正直、わくわくよりは「大丈夫かな…」という気持ちの方が大きかった
―今までオリジナルの見開き漫画を執筆されてきたと思うのですが、ファンギルドさんからWebtoonの執筆依頼があった際はどんなところを魅力に感じ、受けることを決めたのでしょうか。
キラト瑠香:
Webtoonって、今世界中で話題じゃないですか。10年後とかだと、もっと広まってるんだろうな~って。
いつかどこかで私も執筆するかもと思っていたので、それなら今やっても勉強になるかなと思いました。自分の描いたモノクロの線画に塗師さんが色をのせてくれるところも、なんだかわくわくしました。
―原作付きの漫画は二回目だと思うのですが、どう感じましたか?
キラト瑠香:
もちろん「自分で全部描きたい」という思いはありますけど、前作の「シーツの波間でみる夢みたいな」や「夢から覚めてもそばにいて」で、自分が表現したかったものを絞りきっちゃった感じがして。それもあり、いろんなものを吸収しないと…!と思っていたので、原作付きの執筆依頼はタイミングが良かったです。結果として、めちゃめちゃ良い刺激をもらっています。元々、お話の構成や作品全体を含めた流れを作るのは苦手意識があって、苦戦してました。なので詳しい設定資料や、毎話ワクワクするシナリオをお送りいただけて、作品を通して学ばせてもらってます!この作品に携われて本当に良かったなと思っています。
―なるほど。運命的なタイミングでしたね!Webtoonへの挑戦にあたり、不安だったことはありますか。
キラト瑠香:
もう最初の1話が、本当に時間がかかって…。多分ページ漫画の2~3倍くらい(笑)3D背景ソフトを使うことも、ネームをタテで作ることも、なにもかも初めてだったのもあり、当初は不安でいっぱいでした。
ページ漫画だと、一枚や見開きで作る楽しさがあったんですが、タテ読みだとそうじゃなくなる。ページの時は1ページの中で、コマ割りを工夫したり、枠をデザインしてみたり、人物を自由にアップにしたり…たぶん、遊ぶようにイメージして描いてたんですよね。ページとタテ、同じ漫画でも、描くときの遊び方が変わるというか…、それは読者さんの楽しみ方もきっと変わるので、慣れない感覚のままで大丈夫だろうかと思ってました。
特にキスシーンや、大きく見せたいシーンなどの見せゴマが、横読みだと横幅を広くとったりして、大ゴマにするんですよね。だけど、タテ読みだと横幅に制限があって自由に大きくできない。そうすると横の表現がワンパターンになりそうなところを、コマの割り方やカメラワークでどうにか工夫しようと、今でも毎話、頭をひねりながらネームを描いてます。
―毎週連載の作品が多かったりとスピード感を求められますよね。効率よく執筆するにあたり、実践されていることはありますか。
もともと効率が悪すぎて今も苦戦中なのですが(笑)執筆を早めるために、使える素材はできるだけ使うようにしています。あとは、早起きして仕事しています。最近は4時ごろ起きてます!元々夜型だったのですが、夜はその日あったいろんなことを考えて集中できないことがあると気付いて。朝だとまだなにも脳に入ってないので、目の前のことに集中して執筆できるようになりました。
100冊以上のWebtoonを読んで、素敵に思った表現を吸収していった
―まだまだWebtoonは見開きほど制作ノウハウが蓄積されている訳ではないと思いますが、どのように学ばれたか教えてください。
キラト瑠香:
もう、とにかく作品をたくさん読みました!ジャンル問わず、ランキング上位作品を片っ端から見てみました。すると最近の人気なWebtoonは、本当に画面がキラキラしてるなと衝撃でした…!もともと、月に100冊くらいは漫画を読むのですが、Webtoonはそれ以上読みました。恋愛に限らず、できるだけいろんなジャンルの作品を見た感じですかね。その中で、気持ちの盛り上がり方とか、間の使い方、タテならではの演出などを学んで、素敵に思った表現を吸収していった感じです。例えば間の使い方でいうと、描きこみが多いイラストばかり続くと読者さんが疲れてしまうと思うので、コミカルなコマやセリフのみのコマを意図的に入れることで抜け感が出るよう工夫しています。あとは、韓国の恋愛ドラマの光の使い方が好きで、塗師さん向けに線画へ光の向きのメモを入れるようにしてます。他にもドキドキするシーンや盛り上がっていくシーンは、コマごとに演出相談メモを入れるときもありますね。
―まずはインプットから。そして映像の演出も参考にされてるのですね。すごいです。
具体的な執筆スケジュールについて
―執筆する際の大まかなスケジュール・進め方を教えてください。
キラト瑠香:
大体、月3~4話くらい執筆している感じです。ページでいうと、36~48Pくらい?
作画に時間をかけたいので、1話につき10日以内を目標に作業してます。具体的には
・シナリオ読み込み~ネーム提出まで、1日。
・資料探しや素材決め、1日。
・下絵と背景を入れていく作業、3~5日。
下絵は家族回のように人数が多かったり、濡れ場だと最大5日かかっちゃいます
3D背景はご飯を並べたり、家具を移動したり、カスタム作業が多いと時間がかかりますね。
・ペン入れ~仕上げ作業、3~6日。
下絵と同じく、人数が多いと時間かかりますね。
あとはドレスのような素材を何枚も使うような服は、特に時間がかかります。
本当は1話一週間が目標なのですが、そこは作画コストによって1週間~最大10日での作業になります。
―ネームはページ漫画に比べて、早く制作できるのでしょうか?
キラト瑠香:
確かにネームはタテの方が早いですね。ページだと見開きだったり他のページと見せ方が同じになってないかなども考えなくてはいけないのですが、Webtoonだと上から見せたい順にコマを入れていって、周りのコマは関係なく構成できるので。もちろん単調になってないか、見せゴマがしっかり演出されてるかなど、ページと同じ苦労はあります…!
あとは原作シナリオをキャラの気持ちはもちろん、場面設定や季節感(服装イメージ)含め、かなり細かく作りこんでもらっていて、読んですぐイメージが湧くので、時間がかからないのかもしれません。
―原作シナリオの話が出ましたが、キラト先生はネームと作画を制作するにあたり、どのようなところを意識して読まれているのでしょうか。
キラト瑠香:
基本的に2回原作シナリオを読むのですが、1回目はまず読者として普通に読んで楽しみます。小説を読むときに頭の中で映像が流れていくような状態のイメージです。その時は結構、「きゃー♡!」とか独り言も多いです(笑)
そしてその後、イメージの解像度が高い状態のまま、2回目を読んでその勢いでネームにしています。
私の場合は読み込みすぎると、読者さんが想像しないようなキャラの細かい背景まで考えてしまって、複雑で伝わりにくい内容になってしまう。特にWebtoonは、隙間時間でさらっと読まれることが多いと思うんですよね。だから私の役割って、“読者さんに、原作の面白さを最大限伝える“という点だと思うので、読み易さは強く意識しています。
―なるほど、とても勉強になります。
Webtoonの強み、“海外配信”をキャラクターづくりでは意識した
―今回の「ビジネス婚―好きになったら離婚しますー」、キャラクターもとても魅力的ですよね。佐山雅さんと堂ノ瀬司さんのビジュアルを考えるにあたり意識したことはございますか。
キラト瑠香:
“韓国でも人気になるビジュアルにしたい”ということは、強く意識しました。Webtoonって世界に展開しやすいというのが強みだと思っていて、今回の作品も海外配信が前提でした。だからこそ、Webtoon本家である韓国でも人気が出るように、と韓国の人気作品の傾向を意識しました。
例えば司に関して、私自身「かっこいい+可愛い」男性キャラを描くことが多かったのですが、韓国の人気作品の傾向を見て、いつもより肉感を意識し、骨格から調整して、より“圧倒的強いヒーロー感“がある男性像を意識しました。
雅についても、“可愛い”より“綺麗”がイメージとして出るよう体型や髪型を調整したり、とかですかね。
キャラクターについては、担当編集さんからも貴重な意見をたくさんもらい、相談しながらつくりました。
△司キャララフ ©Ruka Kirato/JAMTOON/FUNGUILD
タテ読みのWebtoonでも見開きの紙単行本を出せた訳
―今回、5/30にフルカラー紙単行本も発売されましたね。Webtoonなのに!?と驚いたのですが、どういった経緯があったのでしょうか。
キラト瑠香:
今回の作品はWebtoonではあるのですが、ページに再構成し、見開き漫画としても配信していました。そういった背景があったので、紙単行本発売もスムーズにできたのかなと思います。
担当編集さんからページで読みたい読者さんに向けて「タテ読みを見開きの形でも配信したい」とご相談いただき、何話か制作してくれたサンプルを見て、構成も良い感じでページになっても違和感がなかったので、その後の工程は、すべてファンギルドさんに制作をお任せしています。紙の単行本も全編フルカラーで色も綺麗に出て素敵なので、ぜひ!
コミックはこちらより
―ドラマも絶賛放送中ですよね!原作サイドとして、楽しみにしているところを教えてもらえますか?
キラト瑠香:
まずは、読んでくれた読者さんがここまで連れてきてくれたことなので、とても感謝しています。
漫画では雅が白のワンピースを着て司とデートする回があるのですが、雅が自分の好きな気持ちを取り戻す重要なシーンです。そのためキーアイテムとしてのワンピースもチュールを何層にもして作画に力を入れました。カラーも素敵なシーンなので、そんなシーンがドラマだとどんな風になっているか楽しみです。
△作画に力を入れた白のワンピースシーン ©Ruka Kirato/JAMTOON/FUNGUILD
ドラマ情報はこちらより
「漫画家になる」ということを自分に約束できたら、ちゃんとその日は来る
―最後に、Webtoonが気になっている漫画家志望の方に対してメッセージをお願いします。
キラト瑠香:
Webtoonは、原作者さん、シナリオライターさん、塗師さんなど、いろんなプロの方が関わって作るので初めての連載の場としては、とても勉強になると思います。
表現の幅も広がりますし、原作から学ぶことも多いです。分業だからこそ、ひとつの工程を極められる感じもあります。私も今回の執筆で、カラーだからこそモノクロ漫画では気付かなかった作画のくせを再認識しました。モノクロではトーンを使った"雰囲気"みたいなシーンも、カラーだと"くっきりはっきり!"になるので、よりシンプルで綺麗な線画が必要というか。デッサンや顔、体の書き方も、カラーになることをイメージして調整する部分が細かくありました。
なので私自身もまだまだ勉強中なのですが、描くこと自体は楽しくて、やっぱりこれしかない!を実感しています。
伝えたいことと言われたら…「自分は漫画家になる」ということをまずは自分に約束すること。自分で決めたら行動も具体的になると思うので、ちゃんとその日は来ます。同じ漫画家として、一緒に頑張っていけたら嬉しいです。
―本日は貴重なお話、ありがとうございました。
■漫画家募集
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