エッセイ・ノンフィクション作品を漫画編集者が分析 Part.1
今、エッセイやノンフィクションジャンルの漫画がアツい。現在、新潮社WEB漫画サイト「くらげバンチ」には多くの実録漫画が掲載されており、累計実売数は500万部を超えるといいます。 そんなくらげバンチが初めて『エッセイ・ノンフィクション漫画賞』を実施します。それを記念して、これまで数多くのエッセイ・ノンフィクション作品を担当し、実売が300万部を超える編集者・岩坂朋昭さんに、『なぜ今、エッセイ・ノンフィクションジャンルがアツいのか』というお話を伺いました。
――本日はよろしくお願いいたします。岩坂さんがこれまで担当された作品を教えてください。
漫画編集者 岩坂朋昭:
漫画編集者としてこのジャンルで最初に担当したのは三陸鉄道のドキュメンタリー『さんてつ:日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録』でした。その後、『「子供を殺してください」という親たち』『ケーキの切れない非行少年たち』『それでも、親を愛する子供たち』『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』のような社会的なテーマを扱うノンフィクション作品や、日本初の皇室エッセイ漫画『赤と青のガウン』などを担当しています。
――エッセイ・ノンフィクションジャンルの読者層について教えてください。
漫画編集者 岩坂朋昭:
社会問題に関心のある人たちや、当事者意識を持っている人たちに刺さっています。ここ数年で社会的な問題意識を持つ層は中高年を中心に、読者は確実に増えています。特に時間がない中で、ドキュメンタリー番組を見る代わりに「漫画で知った」という需要が高まっている印象です。リアルなテーマを描く作品は、ランキングでも上位に食い込むことが増えており、SNSでも広がりやすい傾向があります。
――確かに通販サイトやコミックサイトでもそういった作品をよく見かけるようになりました。エッセイ・ノンフィクションといってもいろんな作品内容があると思いますが、注目を集めやすい求められている内容などあるのでしょうか。
漫画編集者 岩坂朋昭:
最近は「社会的意義があるもの」「読むと“なるほど”と思えるもの」が求められています。単に話題性があるだけの作品ではなく、問題提起のあるドキュメンタリー的な目線が重要です。
また、キャラクターの力も重要です。ノンフィクションでも魅力的な「主人公」が必要です。主人公は、その世界のスペシャリストなのか、もしくは読者と同じ目線の初心者なのか。どちらでも構いませんが、読者を物語に引き込む推進力となるキャラクター性が求められています。
――ランキング上位作品の主人公はどちらかの目線、また引き込まれるキャラクター性があるように感じます。読者が増えている影響もあると思いますが、ノンフィクションジャンルを数多く開拓されているきっかけはあったのでしょうか。
漫画編集者 岩坂朋昭:
もともとは新潮社から発行されていた写真週刊誌「FOCUS」の記者をしており、取材やドキュメンタリー的なものなら経験が活かせるかもしれないと思ったのがきっかけでした。ノンフィクションの中にも強い物語性や社会的意義を見出すことができ、経験を積んできたことでノウハウやご縁も貯まってきました。
――そういった経歴もあり担当されている漫画はいずれも読み応えあるものと感じます。なぜ岩坂さんが担当する実録漫画は読まれているのでしょうか?
漫画編集者 岩坂朋昭:
「ドキュメンタリーベースであること」と「漫画として面白いこと」の二つを両立させるようにしています。起こった出来事をただ描いてもグッとこないので、読者の感情を動かすためにセリフ・表情・コマ送り・インパクトの与え方などは漫画的に考えています。
また、全てではありませんが、自分が担当している作品は読み味として「実録漫画」と「ホラー漫画」の境目を目指しています。ただし、「ほら怖いでしょ」と煽るような見せ方はしません。あくまで現実の中にある怖さや不気味さを丁寧に描くことで、読者の心に残るものを作りたいと思っています。
――ただ事実を漫画にするだけでなく漫画という媒体を活かした作品作りが大事ということですね。もう一歩、具体的にお伺いできればと思いますが、原作ネームや作画に関して特に意識して見ているポイントを教えていただけますか。
漫画編集者 岩坂朋昭:
原作・ネーム:
企画を考える時は、その人でなければ描けない事柄やファクトを提出してもらうのが第一。ただ世間を騒がせているものを出すのではなく、社会的意義があり、人々に考えてもらいたいというジャーナリスト的な目線があるかどうかは意識しています。また、ネームが過剰にドラマチックにならないように気をつけています。構成も、無理に起承転結にしないことを心がけています。だって事実はそれ通りにはいかないから。起承転で終わったり、起承結で終わったりする場合もありますが、それもそのまま描いてもらいます。
作画:
「画面から狂気を見せてほしい」とお伝えしています。例えば『「子供を殺してください」という親たち』などの作画を担当する鈴木マサカズ先生は、もともと静かな画面の中に狂気を含んでいる方でした。そのタッチは原作の内容ととてもマッチしています。背景の絵も、ただの装飾としてではなく、実際にあるものをそのまま描いていただくことでリアルな物語性を視覚的に持たせられるよう心がけています。とはいえ、過剰にドラマチックにしすぎない。現実の怖さというのは、大げさな演出よりもむしろ「間」にあると感じています。
――大変参考になります。漫画家と作品作りしていくにあたり取材も多かったと思いますが、取材現場で印象的だったことはありますか?
漫画編集者 岩坂朋昭:
『「子供を殺してください」という親たち』の押川剛先生と初めてお会いする時、作画の鈴木先生と一緒にお伺いしたのですが、午前2時に引きこもりの男性を説得しに行く現場に同行しました。説得する過程を拝見し、遠方の病院に朝までかけて移送するところまでご一緒させていただきその後も数カ所を休まず取材しました。タフな取材になりましたが、現場を見ることができて実際の空気を感じ取れましたし、これからチームとしてやっていくんだという一体感が生まれました。
――貴重なお話ありがとうございました。最後に現在開催中の「くらげバンチエッセイ・ドキュメンタリー漫画賞」の応募者に一言お願いします。
漫画編集者 岩坂朋昭:
普通の漫画編集者がやらないことをやって、自分たちにしかできない漫画を世に出したい。そのために、今後もリアルと向き合いながら、丁寧に作品を作っていきたいと思っています。
バンチ編集部には、深い取材をすることを厭わない、行動力のある編集者が複数人います。ぜひ、一緒に漫画を作りましょう。
■エッセイ・ノンフィクション漫画賞
くらげバンチにはノンフィクションを題材にしたヒット作がたくさん!漫画を描ける人も、描けない人も!あなたの「特別な」経験を募集します!大賞獲得作品は連載・書籍化のチャンス!
1.テキスト部門
フォーマット自由!漫画を描く必要なし!あなたが漫画にしたら面白いと思う経験を文章(箇条書きでもOK!)にして応募してください。
2.ネーム部門
あなたの経験を漫画ネームにして応募してください!過去に書いた作品・同人誌での応募も可能!
※エッセイ形式であれば、フィクションでもOK
※商業誌で公開されている作品は除く
3.作画部門
『それでも、親を愛する子供たち』のネーム(数ページ分)をダウンロードし、それを元に作画してください。キャラ・コマ割り・構図など、自由にアレンジしてください。
詳細は下記をご覧ください
https://kuragebunch.com/info/entry/nonfiction
■くらげバンチ 持ち込み
くらげバンチで漫画を描いてみたい!そんなあなたを、いつでも編集部がお待ちしております。まずはお気軽にあなたの原稿を持ち込んでください!編集部員が丁寧に拝見し、アドバイスいたします!いっしょにシビれる漫画を作っていきましょう。
●オンライン持ち込みの場合
ご自宅に居ながら、編集部に持ち込みができ、編集者からアドバイス(僭越ですが)を受けられます!
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持ち込みは完全予約制です。希望される方は、必ず前日までに電話で予約をしてからお越しください。
(受付時間:月〜金曜日(※祝日を除く)11:00〜19:00)
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