モーニング新人賞3賞紹介3:ちばてつや賞 田渕副編集長「スタンダードなテーマを描いてオリジナリティが出ている作家はどこが優れているのか?」
【話者プロフィール】 モーニング田渕浩司副編集長
担当作品:中村光『聖☆おにいさん』/堀尾省太『ゴールデンゴールド』『刻刻』/かわぐちかいじ『ジパング』『深蒼海流』/オノ・ナツメ『Danza』『つらつらわらじ』『ハヴ・ア・グレート・サンデー』(←12/22新連載) モーニング編集者歴:15年 ちばてつや賞チーフ「左のイラストはオノ・ナツメさん作」ここからは、モーニング編集部の新人賞「ちばてつや賞」(以下、ちば賞)担当の田渕浩司副編集長にお話をうかがってまいります。
ちば先生が一生懸命読んで選考する「ちばてつや賞」。
―まずは、ちば賞の特徴をお願いします。
なによりも、ちばてつや先生が読んでくれるってことですね。マンナビにもバナーをだしていますが(以下、ちば賞の際のバナー)。
ちば先生は、ご高齢にも関わらずものとても一生懸命に読んでくださるんです。選考段階で、どの賞を大賞にするか準大賞にするかということにも、とても悩まれるんですよね。
―どういった感じで悩まれるんでしょうか?
ちば先生から「この作品の評価ポイントは編集部ではどこだった?」と聞かれ、説明すると、また読み返して「なるほど!新しい読み方をするとそんな風にも読めるね」みたいな反応を返してくださいます。ちば先生ほどのレジェンドが、そこまで読んで選考してくれるというのは、なかなかないことだと思います。
ウィキペディアで「ちばてつや賞」を調べてもらうと、過去の受賞者がすごいんですよ。ちょっとびっくりするくらいの方々が、ちば賞を受賞されています。
せっかくこの賞を受賞したのに講談社でデビューせず、他社でデビューしている人もかなりいますね。逆にいうとうちが逃しているという(苦笑)。ただ、いずれにせよちば賞は、漫画家にとってある種の登竜門なのです。
―現在連載している作家さんとちば賞の関係は?
『コウノドリ』の鈴ノ木ユウ先生、『鬼灯の冷徹』江口夏実先生、『宇宙兄弟』小山宙哉先生、『ドラゴン桜』『インベスターZ』の三田紀房先生も、ちば賞から連載に向かっています。『GIANT KILLING』 の ツジトモ先生は、ちば賞とGATEの前身「MANGA OPEN」の両方を取っていたと思います。
―納得のラインナップですね。ちば賞は講談社の中でも最高ランクの漫画賞というイメージが強く、青年誌をすべて横断した賞という印象もあるのですが、必ずしもそうではないんですよね?
そうですね。まず、ちば賞は一般部門とヤング部門と別れていて、以下のようになっています。
一般部門: モーニング、モーニング・ツー
ヤング部門: 週刊ヤングマガジン、月刊ヤングマガジン、ヤングマガジンサード、WEB「モアイ」
―他社さんの総合賞では、雑誌の対象年齢別に審査などをしているケースも聞いたことがありますが、ちば賞では明確に雑誌別になっているのですね。
はい。授賞式はヤング部門と一般部門の合同でやりますが、選考は全く別です。
選考過程は、まず1次選考と2次選考を編集部でやります。そして最終選考に残った作品をちば先生に読んでいただいて、先生と編集部と合同で受賞作を決めています。
実は審査の過程こそ一番大事なんですよ。勿論大賞を取る作品ってのも素晴らしいんですけど、やっぱり新人賞は出会いの場所だと思っているので。編集者と、応募してくれた作家志望者との出会いの場所ですね。
―1次選考、つまり最初の下読みは何人くらいで行うのですか?
下読みは、ちば賞の事務局員と有志(担当作家が欲しい編集者)でやります。だいたい全編集部の3分の1くらいの人数、10~15人くらいで荒読みをしています。そこで担当になりたいと目をつける人もいますけど、2次選考に残った人にもそこではまだ担当をつけません。2次選考でもっと評価する編集者がいるかもしれないし、画力や構成力は今ひとつでも企画力がある応募者もいるかもしれないので。一応、「んーどうかな」という作品も2次選考に極力残すようにしています。
―そうすると、2次選考前に下読みだけで担当がつく人は少ないのですか。
そんなに多くはないかな。この人2次に残す技量には至ってないけど、すごく面白いねって人には担当つくことはありますが。
―2次選考から最終選考にあがる作品は、どんな作品ですか。
2次から最終は、どの作品が受賞してもおかしくないというところまで絞り込みます。大賞、準大賞はモーニングに掲載されますし、入選はDモーニングにも載るので、商業誌に載っておかしくない作品が選ばれます。これ載っけられないよってものは残さないです。
落ちる作品もたくさんあるんですけども、2次選考まで来ると、だいたいの作品に担当者がつきます。
実は、最終選考よりも2次選考が編集部としては時間をとりますし、一番議論が白熱します。最も冷静に分析もしつつ、熱く愛情も示すという人が担当になるんです。なのでみんな俺にしゃべらせろっていう雰囲気で、2~3時間ほどのはずの選考会議が全然終わらない(笑)
―2次選考に残る新人で、元から担当編集者がいる割合はどれくらいでしょうか?
3分の1くらいが、もともと担当つきの作品でしょうか。それこそゼロの応募であったり、前回のちば賞、GATEから来たみたいなさまざまなルートで担当がついています。
―最終選考にはどれくらいの作品が残りますか?
最終選考に残るのは、奨励賞を入れると12~3本くらいですね。そのうち、佳作以上の7~8本ぐらいを選考段階でちば先生に読んでもらうようにお願いしています。ただ、最終的には授賞式で講評されるということで、ちば先生は結局奨励賞も含めて全て読んでくださっています。作品に点数をつけて、しっかり選考することに責任を感じていらっしゃるのでしょうね。
―ちば先生は、学校の先生もされていてお忙しいでしょうに、凄いですね。現在のちば賞の応募数はどれくらいですか。
多いときで200本ほど、少ないときは120~150本ほどです。8月末締め切りの際は増えて、2月末が減る傾向があるかと思います。
―マンガ系学校の夏休みの宿題なども、応募されているかと思います。これが1次選考でどれくらいに絞られますか?
1次選考で3分の1くらいに削られて、残りを2次選考にまわします。
―そうして最後には12~3本になって、10分の1以下くらいになるということですね。ちば賞で選考をあがっていく作品に傾向はありますか。
受賞作はちば先生が選びますので、スタンダードな作品が通りやすい傾向はあります。それがちば賞の強みだと思っています。
スタンダードなものを描いてオリジナリティが出ている作家に、一番オリジナリティがある。
―スタンダードということですと、例えばファンタジー系のものは通りにくいなどの傾向はありますか。
ジャンルはなんであっても、その中の人間の関係性が大人であるということなのかなと思います。だからファンタジーでも別にいいんですよね。
ただ「ドラゴンを倒すぞ!」ということだけではなくて、パーティの中の関係性であったり、人生に目標を掲げた人たちがどうやって生きていくのかという、人の描き方に、大人の視線がある人に来てほしいなと思います。
―「出てくるキャラに大人の視線がある」という表現はわかりやすいですね。ゴジラでも人間ドラマが重厚に描かれる『シン・ゴジラ』のような。
そうです。怪獣が出るファンタジーがダメってわけではないんですけど、大人を説得できる漫画というのは、言い得ていると思います。サラリーマンものである必要も全くないんですけど。それなりに長い間生きてきた人たちを、納得させられるものであればいいかなと。
―原石を発見するのが新人賞の使命という言葉は、ゼロのお話からも含めて、繰り返し強調されていました。
完成品を手に入れるのではなく、原石に磨きをかけるのは、原石を見つけてからだと思うのです。懐かしい言い方でいうと、村上春樹の『ダンスダンスダンス』に出ていた「文化的雪かき」という言葉があるじゃないですか、
誰かがやらなきゃいけないけど、その作家がやらなくていいことはあると思います。我々は新しい作家を求めていますので、その人にしか描けないものを持っている人を求めています。オリジナリティがあればその他のところは後から学習すればついてくるんですよね。
オリジナリティをどうやって出すかと考えたときに、変わったものを描いているより、スタンダードなものを描いてオリジナリティが出ている作家に一番オリジナリティがあると思っています。落語の名人と一緒ですよね。おなじ噺をしているのに面白いやという。そういう人を見つけたいかな。
―スタンダードからオリジナルが生まれるのですね。重い言葉だと思いました。
ただ、スタンダードとあまり言いすぎると、新人賞が出会いの場として機能しなくなるなというのがありまして。スタンダードかどうかは、我々 のなかでのものさしであるとも考えています。
ネット公開で作品へのお客さんの存在があきらかに
―第68回ちば賞のAKB48ファンの「おっかけ」の話はネットでも話題になりましたね。
『ODD FUTURE』ですね。
ODD FUTURE (第68回ちばてつや賞大賞)/中島佑 - モーニング
ネット上の閲覧数がとんでもなく跳ねましたね。それに引っ張られて同時に奨励賞をとった『ご恩は一生忘れません』っていう犬がスーツを着ているお話も、驚くほどの閲覧数がありまして。奨励賞ですが、もしかしたら連載につながるかもしれません。
ご恩は一生忘れません (第68回ちばてつや賞奨励賞)/北郷海 - モーニング
―新人賞の受賞作品を多くの読者が読むということは、なかなか無いと思います。それが、こうしてネットで多くの人に読まれて話題になるというのは新しいですよね。それが連載獲得などに良い影響があったりするのでしょうか。
PVがあれば連載が決まるということではないですけど、我々にとってこういった特徴のある作品がそんなにネットで支持を受けるということは新鮮でした。両作品には、そんなにたくさんのお客さんがいるんだという目安にはなります。実は我々が全然マークしてなかったところに、熱心なお客さんがいたということですね。
あと『ODD FUTURE』を読んだことをきっかけに、モーニングの新人賞に応募してくれた人も結構いたんですよ。ちば賞はイメージほど固い賞ではないんです。ちば賞の過去の受賞作は公開されているので、新人漫画家にも読んでもらいたいなと思います。
―ちば先生は『ODD FUTURE』をどう読まれたのですか。
『ODD FUTURE』は人間の描き方、表情、たたずまいがとてもうまいと仰っていましたね。キャラクターが創れるかどうかみたいなところをちば先生は見ているんですよ。そこでかなり評価されていたと思います。
【モーニングの新人賞】 第68回ちばてつや賞一般部門、最終選考結果発表
(リンク先に、ちば賞2次選考、最終選考の議事録もアップされています。)
最終選考って本当におもしろくて、毎回「なるほど、ちば先生はそういうとこを読むんだ!?」と勉強になることが多いです。2次選考は編集者にとって担当をぶんどる戦場ですけど、最終選考は、ちば先生の漫画家としての歴史と「徳」を味わいに行くという気持ちです。
―あるベテラン編集者さんから、ちば先生のプロットからネームが思い浮かぶようになるまでは、一人前として扱ってもらえないというエピソードをうかがって、改めて凄い方だという印象を持ったことがあります。
ベテランの漫画家さんも「ちばてつや先生って怖いよね。」っていうことがあります。お会いするととても温厚で、大変な人格者の方です。そういった方なのですが、マンガを語る際の言葉の端々や描くものに、どこか凄みが宿ってるところがあると思います。
モーニングで一線を張っている編集者にとって、ちば先生の言葉は大変勉強になります。
独特の凄みを感じるというか、、、、そう、校長先生と侠客が同居してるような凄みを感じます。そんなこと言って大丈夫だろうか(笑)
――校長先生と侠客ですか(笑)そんな場だからこそ見出される才能がある、ということかもしれませんね。ありがとうございました。
→ つづき
参考ページ:
モーニング公式サイト新人賞ニュース:http://morning.moae.jp/news/list/category/5
※ 出稿元 株式会社講談社モーニング編集部 文:マンナビ編集部