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コラム
2022年1月21日

【アルファポリス】プロ漫画家インタビュー!お絵描きソフトとの出会いと漫画制作スケジュール/村上ゆいち先生




ある日突然、異世界トリップしてしまった、神崎美鈴、22歳。ステイタス画面は見えるし、魔法も使えるしで、なんだかRPGっぽい!? オタクとして培ったゲームの知識を駆使して、魔法世界にちゃっかり順応したら、いつの間にか「黒の癒し手」って呼ばれるようになっちゃって…? ゲームの知識で魔法世界を生き抜く異色のファンタジー、待望のコミカライズ!!
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村上ゆいち/漫画
東京都在住。イラストレーターとして活躍中。スタイリッシュで透明感のある絵柄が持ち味。
ふじま美耶/原作
兵庫県在住。2012年よりwebにて小説を発表。2013年「異世界で『黒の癒し手』って呼ばれています」で出版デビューに至る。


※2016年11月にアルファポリスサイトにて掲載した記事を再構成しております。なお、記事中の情報は初掲載時のままです。



“ギャルゲー塗り”がイラストレーター・村上ゆいちを生み出した!?


――透明感のある絵柄と魅力的なキャラクターたちで大人気の「異世界で『黒の癒し手』って呼ばれています」(以下『癒し手』)の村上ゆいち先生にご登場いただきました。さっそくですが、村上先生は『癒し手』が初めての漫画連載なんですよね。

村上ゆいち
そうなんです。同人でも商業媒体でも、漫画を描いたことがほとんどなかったので、最初にお話をいただいた時はかなり驚きました。

――では「漫画家・村上ゆいち」としてのお話は後ほどお伺いするとして……やはり子供の頃から絵を描くことが好きだったんですか?

村上ゆいち
小さい頃は好きな絵を模写して喜ぶ、よくいるお絵描き好きの子供という感じでしたね。キャラクターとしての絵を初めて意識したのは、小学生の頃読んだ種村有菜先生の「神風怪盗ジャンヌ」(集英社)です。それこそ今の萌え系に近いような、目力のあるキャラには本当に衝撃を受けました。今考えると、キャラクターだけで画面を成立させるということをあの時に学んだような気がします。

――そこからご自身でも、落書きじゃない“絵”を描くことを意識しだしたんですね。

村上ゆいち
意識はそうでも、テクニックがなかなか追いつかなくて……。中学生になって、漫画専門の文具メーカーが出していた、インクがカートリッジ式になっているお絵描き用の万年筆みたいなペンを買って「漫画家風〜」と満足していたくらいでした。着色に関しても、お小遣いが足りないからコピックを一本、肌色だけしか買えなくて。頑張って重ね塗りすると、色が濃くなった部分が影っぽく見えるので「プロっぽい!」と自画自賛していました(笑)。だから着色を含めてきちんとイラストを完成させたのは、ペイントソフトのSAIを使ったデジタル絵が初めてなんです。

――デジタルツールとの出会いはどういったきっかけだったんですか?

村上ゆいち
話は少し遡るんですけど、小学生の頃、アニメの絵が付いた物をたくさん売っているアニメイトというお店があると話題になったんです。その時、友達と行って「ONE PIECE」(尾田栄一郎/集英社)のクリアファイルを買ったんですが、おまけに「君が望む永遠」(âge/「君が望む永遠」製作委員会)というギャルゲーのクリアファイルが付いてきて。

――すごい組み合わせですね!

村上ゆいち
その絵が、自分が今まで見ていたアニメのようなパキッとした塗りじゃなくて、いわゆるギャルゲー塗りだったんですよ。もらった時はきれいだな、くらいの印象だったんですが、中学生になって自分が実際に絵を描くようになるとコピックとも違う塗りなので、もしかしてパソコンで描いてる? と気付いたんです。父が自営業をしていて仕事部屋にパソコンを置いていたので、調べ物をしたいからと言って借りて、こっそり当時開発中で無料配布されていたSAIを入れました。それからは夜な夜な、父の仕事部屋に行ってはお絵描きをして。

――よくバレませんでしたね……。お父さんからしたら、いつの間にか見知らぬソフトが入っているわけじゃないですか。

村上ゆいち
父はパソコンに詳しくなくて、年賀状を印刷する時にしか使わないような状態だったんです。なので何のソフトを入れようが、デスクトップにさえ表示させなければ全然バレなかったんですよね(笑)

趣味バレ厳禁? 内緒でハマった「ガンダムSEED」


――ソフトの使い方はどうやって学んだんですか?

村上ゆいち
その頃はいわゆるお絵描きソフトの黎明期で、ネットでパソコンを使ったイラストのメイキングを公開するサイトが出始めた頃だったんです。Pixiaというソフトが一番メジャーだったんですけど、SAIはソフトがまだ出たてでメイキングサイトがなくて。なのでPixiaのメイキングを見ながら、独学でSAIを習得していきました。その時初めて、好きに色を使って絵が描けたことに感動したんです。それでデジタルで絵を描く楽しさに目覚めました。

――ツールは何を使っていましたか?

村上ゆいち
最初は年賀状ソフトに付いていた、本当にタバコの箱くらいの大きさしかないペンタブレットで描いてました。高校生になってバイトを始めて、自分が自由に使えるお金ができたのでFAVOという初心者向けのペンタブを買って。しかもその時FAVOの付属ソフトとしてPhotoshop Elementsが付いてきたので、さらにいろいろいじれるようになって、デジタルすごい! と。ますますその魅力にハマっていきましたね。


村上先生が初めて買ったペンタブレット、FAVO。プロデビュー後もしばらく使っていたほど愛用していたとか。
©Wacom

――デジタルで最初に描いたイラストはオリジナルでしょうか。

村上ゆいち
「ガンダムSEED」(創通・サンライズ)のカガリです。当時から女の子を描くのが好きだったので……あれ? いや、もしかしたらイージスガンダムかもしれないです! 「ガンダムSEED」にハマっていた時、シードの絵がたくさん載ってる雑誌があると聞いて本屋に行ったら、イージスが表紙の「Newtype」(2003年1月号/KADOKAWA)を見付けて。かっこいい! と即行で買って帰って、表紙を模写した覚えがあります。

――キャラよりもモビルスーツの方に(笑)。ということは、デジタル絵を描き始めた頃はアニメにハマっていたんですね。アニメを見るようになったきっかけとなった作品は?

村上ゆいち
中学生の時に深夜の再放送で見た「ラーゼフォン」(2001 BONES・出渕裕/Rahxephon project)です。後から知ったんですけど、その時見たのが有名な「ブルーフレンド」という回で、アニメでこんな重い話をやるんだ! と感動して。それで他の深夜帯のアニメも見始めたら、坂を転がるようにアニメにハマっていってしまいました。うちは親が厳しいというか、アニメはちょっと、というタイプだったので、テレビも見られる携帯電話にイヤホンを差して、夜中に布団を頭からかぶって見てましたね。アニメを録画したい時は、親が寝静まったのを確認してから、テレビの前で携帯を構えて動画モードで記録したり……。

――(笑)。涙ぐましい努力ですね。ご両親はアニメを見ることに対してかなり厳しかったんですか?

村上ゆいち
絶対ダメというわけではなかったんですけれど、私の地元は不良が一番かっこいいとされる風潮があったんですよ。その中でアニメが好き、というとかなり肩身の狭い感じがあって。私の親が同級生の親に比べて年齢が高かったせいもあって、そういう雰囲気があまりわからないから、私がアニメ好きと知ったら周囲に普通に「うちの子はアニメや漫画が好きで」って言ってしまうという確信があったので、とにかく親には隠してましたね。私も楽しい青春が送りたかったんで……!

秘めた萌えを絵にぶつけることで得た、日々の成長。


――ではご両親だけでなく、お友達も村上さんの趣味を知らなかったんですか?

村上ゆいち
実は今でもそうなんですけど、地元のリアルな友達で私の趣味を知っているのは、幼馴染の女の子1人だけなんです。私が「ガンダムSEED」にハマったきっかけが、作中でのモビルスーツバトルだったんですけど、とにかくその迫力が圧倒的で、誰かにすごい! と言いたくて。幼馴染で気心が知れていた分、その子自身がオタク趣味の傾向があることもなんとなくわかっていたので言いやすかったんです。

――当時はその方が唯一、リアルでアニメの話ができるお友達だったんですね。

村上ゆいち
そうなんですけど、趣味は全然違うんですよ。女子で「ガンダムSEED」が好きなら、キャラクター同士の関係性にハマると思うんですけど、私はメカかっこいい〜! とガンプラを作り出す方向に行ってしまい(笑)。その子は先ほど言った王道のアプローチでシードが好きだったので、同じ作品の話をしているはずなのに、会話がドッジボールみたいになってしまうという……。そんな感じでお互いに程よく萌えを発散していたんですが、もの足りなくなると私は絵にぶつけていて。

――萌えのパワーでどんどん絵を描き上げていったんですね。シードから次はもちろん?

村上ゆいち
はい、ガンダム好きとして順調に成長しまして(笑)。その流れで「ガンダム00(ダブルオー)」(創通・サンライズ・毎日放送)の携帯用イラストサイトを立ち上げました。最初は本当にいろいろと手探りで、SAIで描いた絵をパソコンの画面に出して、携帯で撮影した画像をサイトにアップするような原始的な形でやっていましたね。女子が作るイラストサイトというとボーイズラブ系が多かった印象がありますが、私は特にそういうカテゴリーは作らず、キャラクターをまんべんなく描くような形で、へたしたらアニメ上では何も接点がない男女2人のキャラがカップルになっているような絵を描いてアップしたりしていました。

――携帯サイトを通じて、趣味を共有できるお友達が増えていった形でしょうか。

村上ゆいち
そうですね、同じ作品が好きでお互いのサイトを見ている方がイベント出展をする際、ブースにご挨拶に伺ったりして仲良くなっていきました。私がサイトでガチガチにカテゴリーを作らなかったのが良かったのか、純粋に話の合う友達ができていったので、いまだに仲の良い子も結構います。だけど今でもイベントで「携帯サイトの頃から見てました!」とお客さんに言われることがあってびっくりしますよ。噂には聞いたことがあったけど、やっぱりネットにアップしたら最後、絶対消されることはないんだなあ……って。

――驚くポイントはそこなんですね(笑)。当時からペンネームは変わらないんですか?

村上ゆいち
当時は苗字だけで「村上」というペンネームでした。

――本名ではないですよね? その由来を教えてください。

村上ゆいち
確か……遠い御先祖様が村上という苗字だったと親に聞いて、本名より読みやすいし書きやすいからこっちの方がいいかな、と。でも商業デビューする時に「待てよ、世の中に村上はたくさんいるから、このままではどの村上かわかってもらえない!」と気付いたんです。イラストレーターとしてデビューするからには、ちゃんと仕事として継続できるようにしたかったので、ネット検索でひっかかるような名前にしないとダメだと思って。

――確かに歴史上の人物にも芸能人にも、村上さんはたくさんいますしね。

村上ゆいち
あと、性別についてフラットな名前にしたかったということもありましたね。それで誰も付けてなさそうで、かつ性別がわからない「ゆいち」という名前を足しました。今はまったく性別を隠していないんですけど、なぜか巨漢で妙齢の男性と思われていることが多いです。

――(笑)。どうしてでしょうね?

村上ゆいち
Twitterのつぶやきが淡々としているのと、腰回りや胸、絶対領域をすごく丁寧に描いているかららしいです。でも私、女性ならではの肉感が好きなので、そのあたりの線を描くのがすごく楽しいんですよ! 『癒し手』2巻の表紙も、リィーンの絶対領域が描けてすごく嬉しかったんですけど、完成したコミックスを見たらなんと帯で隠れてしまっているという……。


『癒し手』2巻の表紙。絶対領域がまぶしいカバーイラストは、ある意味、購入者のみの特典かも?

――それは逆に、コミックスを買った方だけのお楽しみになるのでは?

村上ゆいち
なるほど!(笑)

ついに商業デビュー!親へのカミングアウトは意外なきっかけ?


――商業デビューのタイミングはいつ頃だったんでしょうか?

村上ゆいち
高校を卒業してから1年半〜2年ほど経った頃です。当時は販売・接客業で働きつつ、携帯サイトからイラストSNSのpixivに移行して好きな絵を投稿していたんですけど、投稿者をピックアップしてイラストを掲載する「pixiv年鑑」という年1回の刊行物に私の絵を収録していただく機会があって。そちらに掲載してもらった絵が、ボーカロイドで有名なクリプトン社の方の目に止まって、2011年のレーシングミク(Crypton Future Media, INC. www.piapro.net)の衣装原案のお仕事をいただきました。噂のボーカロイドを作った会社からお声がけが! と驚きましたね。それと同時期にいただいたのが、電撃文庫『クロノ×セクス×コンプレックス』(KADOKAWA)のイラストのお仕事です。私がデビューした当時はイラストレーターバブルということもあって、わりと順調に絵のご依頼をいただくようになりました。


GT300のレーシングチーム「グッドスマイルレーシング」が擁する、初音ミクGTプロジェクト専用キャラクターがレーシングミク。やっぱりレースクイーン風?
© Yuichi Murakami / Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

――ソーシャルゲームが台頭してきた頃ですね。

村上ゆいち
そうですね、「神撃のバハムート」(Cygames)のリリースあたりからでしょうか。兼業時代、手が回らなくなるくらいお仕事がもらえるようになったら専業になろうと考えていたんですが、デビューして早々にお仕事を良いペースでいただけるようになったので、会社を辞めて独立しました。その時、唯一地元で趣味を共有していた幼馴染が、20代前半のうちに好きなことをしたいから上京すると言い出したんですよ。確かにもっと大人になると住む土地を変えることはできないような気がしたし、私もイラストレーターとしてご飯が食べられるようになったので、じゃあ一緒に東京に行こうと。なので上京した当初は、幼馴染とルームシェアをしていました。

――今までのお仕事を辞めて上京というと、人生においてかなり大きなターニングポイントだったと思いますが、さすがにもうご両親にお仕事のお話はされていたんですよね?

村上ゆいち
実は……それまではパソコンを使って、DTPの仕事をしていると話していたんです。自分の仕事が印刷されるし、嘘ではないだろう、と。でも上京後、実家にレーシングミクのフィギュアが届いてしまってバレました! ちょうど私が実家を出た頃で、住所変更のタイミングがずれてしまって、フィギュアを作っている会社が見本を東京の自宅でなく、実家に発送してしまったんですよね(笑)

――良い機会だったのかもしれませんね(笑)。では、ご両親は今は村上先生のお仕事をご存知で。

村上ゆいち
はい。両親は私がどんな仕事をしているのか、本等を見たがっているんですが、まだ気恥ずかしくてお披露目できていません……。でも私が楽しそうに仕事をしているので、なら良いか! と見守ってくれている感じです。ちなみに幼馴染以外の地元の友人たちには今でも公表していなくて、デザイン関係の仕事だと言っています(笑)

――他に周囲の反応はどうでしたか?

村上ゆいち
活動を応援してくださっている方たちからはpixivや自分のサイトにコメントをいただいたり、温かい反応があってありがたかったです。ただ、絵を描くのは本名の自分ではなくて「村上ゆいち」だという感覚があるので、どこか冷静に見ていた部分はありますね。なので幸い、調子に乗ることは少なかったと思います。直接言葉をかけられると乗せられてしまうけれど、文字になるとワンクッションあるおかげか、少し冷静になれるのでそれが良かったですね。

タイミングと志向がぴったりマッチ! 初の漫画連載スタートへ


――最初に『癒し手』が初の漫画連載作品とお伺いしましたが、それまでに漫画を描いたことはありますか?

村上ゆいち
同人では合同誌で1、2回、10ページ前後の二次創作を描いたくらいですね。商業では「まんがタイムきららキャラット」(芳文社)さんからお声がけいただいて8ページ前後の4コマ漫画を読みきりで数回、「ソードアートオンライン」(川原礫/アスキー・メディアワークス/SAO Project)のアンソロジーで短編を数ページといった程度です。だから自分が20ページ超えの漫画を毎月描く依頼をよく受けたなって。

――そんな無茶かもしれない依頼を受けた理由は?

村上ゆいち
イラストレーターバブルは弾けると思っていたので(笑)。実家が裕福ではないので、食いっぱぐれるわけにはいかないと思っていましたし。なのでイラストも描ける、漫画も描けるということを自分の強みにしたかったんです。それとラノベのイラスト仕事で、モノクロに関しては刷り上がった時、もっと描き込んだと思ったのに絵の密度が低い、とがっかりすることが多かったんですよ。だからもっとモノクロの練習をしなくちゃ、と思っていた時で、仕上がりがどうなるのかは実際の印刷物で確認していかないと覚えられないんじゃないかと考えていたんです。

――なるほど、技術面を向上させたいという理由もあったんですね。原作付きということについてはどう思いました?

村上ゆいち
原作があって良かったです! むしろ原作があるからこそ、このお話が受けられたというくらいです。私はイラストレーターには、すごく深く世界観を考えてから絵を描く人と、与えられた情報の絵を描く人の2パターンがあると思うんですが、自分は後者なんですよ。オリジナルの仕事をいただいた時、キャラクターの名前や性格等の設定を聞かれてポカーンとしてしまったくらい(笑)。キャラの設定やストーリーありきで絵に起こしてるわけではないので、オリジナルの漫画は逆に向いてないと思います……。

――キャラクターの造形がすでにある作品をコミカライズするということに関してはどうでしたか?

村上ゆいち
まったく抵抗はありませんでした。趣味で好きなアニメの絵を描いていたということもありますし、元がありつつ自分なりに解釈して描くのが好きなんです。もともと二次創作のお仕事も多いので、結構似せるのは得意なんじゃないかと思っていたりします。


どちらのリィーンにも、それぞれ異なる魅力があふれています!

――では『癒し手』の依頼は、村上先生の志向にあったお話だったんですね。

村上ゆいち
そうですね! 普通は原作を読んでからお返事を差し上げると思うんですが、今お話ししたような理由もありましたし、あまり待っていただいても悪いな〜と思って、読む前にお受けするとご連絡しました。原作本はいただけるというお話だったんですが、一応私もネットで注文しておいたんですよ。そうしたら、お返事をした日に原作本が手元に届いたという……(笑)

――まるで見計らっていたようなタイミングですね(笑)。それでは漫画連載開始以降、今現在のお仕事の進め方を、具体的な執筆環境やスケジュール含めてお伺いできればと思います。よろしくお願いします!

村上ゆいち
はい、引き続きよろしくお願いします!

美麗な画面の秘密、それはタブレットのダブル使いにあった?


――仕事場を拝見しながら、パソコンや周辺機器等の制作環境、お仕事の進め方等について具体的にお伺いできればと思います。まずは制作環境についてですが……。

村上ゆいち
実は最近、パソコンを買い換えたんです。今まで使っていたパソコンがここ2〜3ヶ月、作業中に動きがガクガクして、Photoshopを起動するとすぐ「容量が足りません」というエラー表示が出てくるような状態になってしまっていて、これじゃダメだと。今はモニタがiiyamaのゲーミング4Kディスプレイ28型、パソコンがインテル Core i7でメモリが64GB、HDDが3TBという形になりました。そういえばタブレットも変えたんですよ。前はこれを使っていたんですけど……。(と、立てかけてあった大きな液晶タブレットを引っ張り出す)


後ろが以前使っていた液晶タブレット、手前が現在使用中の板タブレット。全く違う大きさに驚かされます!

――お、大きいですね!

村上ゆいち
大きくて重い液タブ、cintiq27QHDです(笑)。絵を表示させるメインウィンドウ以外の諸々をタブレット画面に表示できるので、モニタを広く使えて良かったんですが、タブレットが重くて簡単に動かせない上に、大きいせいでモニタが隠れて肝心の絵が見えなくなってしまうデメリットもあって。今はお試しでペンタブレットのintuos proとcintiq13HDを並行して使っています。

――試行錯誤中ということでしょうか。

村上ゆいち
たまに昔のものも使いたくなるんですよね。なので全部揃えておいて、その時の気分で組み合わせを変えたりします。

――なぜ板タブと液タブを併用しているんですか?

村上ゆいち
板タブだとモニタを見ながら手を動かすので、絵全体を俯瞰で見られるんですよ。液タブはタブレットを見ながら作業するので、手元に近い分、絵に集中できるんですが、モニタを見た時に自分が考えていたバランスと違ってしまっていることもあって。なのでそれぞれの良いとこ取りができる場面で使い分けています。

――なるほど、合理的ですね。では続けて、使用ソフトを教えてください。

村上ゆいち
下書きはCLIP STUDIO PAINT EX(以下クリスタ)、線画はPhotoshop CC、トーン作業はまたクリスタに戻る感じです。カラーイラストの塗りはSAIで、最後の色調整時にPhotoshopを使っています。

――線画でPhotoshopを使うのはあまり聞かないですね。

村上ゆいち
たぶんマイナー派だと思います。「なんで?」とよく聞かれるので(笑)。線がアナログっぽい感じになるのが好きなんですよね。

執筆作業を支えてくれる、愛猫との奇跡的な出会い。


――執筆作業中のお供はなんですか?

村上ゆいち
iTunesや配信サイトの動画をBGVにしていることが多いですね。

――お気に入りの作品は?

村上ゆいち
「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」です。なにか悲しいことがあったらこの映画を見て、世界には救いがある……と癒されています(笑)。あと最近では「レゴ・ムービー」ですね。実写とCGが融合していて、すごく映像の完成度が高いんですよ。色合いもきれいなので、画面の勉強にもなります。その他というと、今はもっぱら海外ドラマですね。

――ジャンルはなんですか?

村上ゆいち
「CSI」や「ホワイトカラー」、「クリミナル・マインド」といったクライムサスペンス系ですね。殺人事件を見ながらだと、作業が進む感じです(笑)。海外ドラマは長いのが良いんですよ。1シーズン18時間なので、作業中に次に何を見ようか考えなくて良いし、作業しながらだとだいたい2日で見終えることができるし……。そういえばクリスマス前に2ヶ月くらいかけて、片っ端からクリスマス映画を見るのも好きですね。

――それは楽しそうですね! どういった作品をご覧になるんですか?

村上ゆいち
「ホーム・アローン」は絶対です。あとは「ポーラー・エクスプレス」や「サンタクローズ」等の名作を見て「クリスマス! 今年もクリスマス!」と気分を高めつつ、クリスマス当日も仕事をするという(笑)

――年末進行ですしね(笑)。その他に欠かせないものというと……。

村上ゆいち
飲み物と猫ですね。作業机の脇にウォーターサーバーを置いているので、いつでも飲み放題です。猫は作業中、いつも膝の上にいます。


天之助くん。村上先生の愛情をたくさん受けて、今はちょっぴり幸せ太り気味?

――お名前は?

村上ゆいち
天之助(てんのすけ)です。中学生の頃、家族旅行で行った京都の天橋立で拾ったんですよ。それが名前の由来です。最初は現地でこの子を見かけて可愛い、と思ったんですが、その時は拾わず家に帰ったんです。でもなぜか忘れられなくて、もう1回会えたら飼おうと思って、初めて1人で新幹線に乗って、また天橋立に行ったんです。そうしたら偶然にも再会することができて。

――奇跡ですね! では上京した時も天之助くんと一緒に……。

村上ゆいち
いえ、最初は実家に置いていったんですよ。でも約10年、ずっと一緒にいた子がいなくなったのが寂しくて寂しくて。幸いなことに当時住んでいた家が、敷金を足せばペット可の物件だったんで連れてきてしまいました。それからは引っ越しを検討するたびに、まずはペット可専用の賃貸物件サイトにアクセス! という感じですね。天之助は発声練習かというくらい大きな声で鳴くし、野性を忘れているのか足音をドタドタさせるから、隠して飼うことはまず考えられません(笑)

趣味は1日10時間続けられる、アレ?


――オフの日はどう過ごしていますか? 

村上ゆいち
趣味の絵を思う存分描いています!

――言い切りましたね!(笑)

村上ゆいち
1日10時間以上やれるものなんて、もう趣味としか言えないというか(笑)。仕事の絵を描いている休憩時間にも趣味の絵を描いていますから、描くことが当たり前で普通なんですよ。でも趣味で絵を描くのは、萌えの発散以外にもちゃんと意味があって、仕事でいきなり提出するのは難しそうな塗りや、いつもとちょっと違うタッチ等を好きに試せるという利点があるんですよね。


趣味も絵、そう言ってサクサクとリィーンを描いていく村上先生。その作画所要時間、なんと10分足らず!

――なるほど。その他、公式プロフィールでは「趣味:映画鑑賞、散歩」とありますが。

村上ゆいち
先ほども言いましたが、映画は好きですね。散歩は……趣味というより、起きた時に目を覚ますための日課兼息抜きです。イラストレーターとして駆け出しの頃、仕事を詰めすぎて座りっぱなしになったせいで、階段を転げ落ちそうになるくらい脚力が弱った時があったんですよ。これは人として危険だと思って、今はたとえ50メートルでも、毎日家を出て歩くようにしていますね。

――やっぱり少しでも体を動かすことが大事ですよね。漫画家の職業病と言われる、肩こりや腰痛はありますか?

村上ゆいち
肩はこりすぎて、辛さに気付けないようになってしまいました……。人に揉まれて「固!」と言われてはじめて、あ、こってるんだ〜と思うような感じです。でも幸いなことに、痔や腰痛はありません。だから体の作りが今の仕事に合ってるのかもしれないですね。

――天性のものがあるのかもしれませんね(笑)。趣味といえば、ゲームはいかがですか? 『癒し手』はゲームの知識がないと、描き手としてピンと来ない部分もあると思うんですが。

村上ゆいち
アクションゲームが好きで、PS Vitaでずっと「ゴッドイーター」(BANDAI NAMCO Entertainment Inc.)をやっていたりはしたんですけど、ゲーマーと名乗れるほどやりこめていないというか……好きだからこそ名乗りたくないという感じなんですよ。『癒し手』に関してはリィーン自身がライトゲーマー寄りなんで、逆に誰でも知ってるようなレベルの知識で抑えておいた方が、リィーン目線に立てるのでいいかな、と思っています。とはいえ「ペルソナ5」(ATLUS)のためだけにPS4を買ったりはしているんですが(笑)

バラバラな活動周期!? それでもスケジュール管理が万全な秘訣とは。


――村上先生は作業スピードがとても早いと伺っているんですが、各工程どのくらいの日数で進めていますか?

村上ゆいち
24ページの場合、ネーム1〜2日、下書き1〜2日、線画2日、トーンを含めた仕上げ2日という感じですね。


テンションが高いまま仕事を進めていくスタイルのためか、ひとつひとつの工程がかなりのスピード!

――早いですね!アシスタントさんをお願いしてその早さなんですか?

村上ゆいち
アシスタントさんには人物のレイヤー分けだけしてもらって、背景や影やベタは自分で入れています。アシスタントさんに背景の指定をする間に自分でできる、と思ってしまうので……。でも先日、初めて32ページ描いた時は、背景を専門のアシスタントさんにお願いすればよかったと後悔しました。とにかく描いても描いても終わらないんですよ!(泣)

――32ページは未知の領域だったんですね(笑)。お仕事の日はどういったタイムスケジュールですか? 例えば朝型、夜型等あると思いますが。

村上ゆいち
それが見事にバラバラで決まってないんですよね。1日が24時間で収まる時もあれば、35時間くらいで回っている時もあります(笑)


24時間で収まる場合のタイムスケジュールはこういう感じ、とのこと。

――担当さんから、村上先生はスケジュール管理がしっかりしている方と伺っていたので、そんな不思議な活動周期でお仕事をされている方との人物像が合致しないんですが(笑)

村上ゆいち
ですよね(笑)。この時間までにこの仕事を終わらせたら寝る、というような感じで動いているので、必然的に毎日起きる時間もバラバラになってしまうんですよ。だから他の人から見たらおかしな生活になってしまっているとは思いますが、私の中では辻褄があっているんです……一応。 

――(笑)。その辻褄を合わせるためのルールはありますか?

村上ゆいち
そうですね、あまりにも無茶なスケジュールにならないよう、仕事量を調整するように心がけています。仕事を詰め込みすぎて引きこもってしまうと心も鬱々としてきますし、心を病んでしまった人の絵がどう変わっていってしまうのかをネットニュースで見たこともあって……。心を病むのは怖いので、できる無茶とできない無茶の線は引くようにしています。だから座右の銘は「人に優しく、自分にも優しく」なんです。

――それは賢明な判断だと思います! それでは次回は、ネームから線画、完成原稿を拝見しながら、実際の作業について詳しくお話を伺いたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

村上ゆいち
私のネーム、絵が本当にひどいんですが……(笑)。よろしくお願いします。




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