【アルファポリス】プロ漫画家インタビュー!商業デビューしたキッカケ/木野コトラ先生
主人公・深澄真はごく普通の高校生……だったはずが、両親の都合で異世界へと召喚されることに。しかもその世界の唯一神である女神に「顔が不細工」と罵られ、問答無用で最果ての荒野に飛ばされてしまう。人の温もりを求めて荒野を彷徨う真だが、出会うのはなぜか人外ばかり。ようやく仲間にした美女ふたりも、元竜に元巨大蜘蛛というクセ者ぞろい(でもめちゃめちゃ強いんです)。とことん不運、されどチートな真の異世界珍道中のゆくえは――!? 薄幸系男子の異世界ファンタジー、待望のコミカライズ!
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木野コトラ/漫画
毛の国出身。おもにゲーム系アンソロジー、コミカライズを執筆。代表作はファミ通クリアコミックス『セブンスドラゴン2020 -EGO-』(原作:セガ/構成:木村明広)など。ソーシャルゲーム『アイドルマスター SideM』(バンダイナムコエンターテインメント)では、アイドルユニット“Beit”(バイト)のゲーム内コミックを担当。(2014年「ハロウィン・カーニバル」から2019年「異世界アーサーの聖杯伝説」まで)
あずみ圭/原作
愛知県出身。2012年よりWeb上で「月が導く異世界道中」の連載を始める。一躍人気作となりアルファポリス「第5回ファンタジー小説大賞」読者賞を受賞。2013年5月、改稿を経て本作「月が導く異世界道中」で出版デビュー。
※2016年12月にアルファポリスサイトにて掲載した記事を再構成しております。なお、記事中の情報は初掲載時のままです。
――「月が導く異世界道中」(以下、「月が導く」)を手がける、木野コトラ先生に登場していただきました!まずは漫画との出会いを教えてください。
木野コトラ
母がかなり漫画を読む人だったんです。家には漫画雑誌や単行本がたくさんあったので、物心がついた時には漫画に囲まれていました。幼稚園時代には、すでに少女コミック誌の「花とゆめ」(白泉社)を読んでましたね。もう少し育つと、親の部屋にあった青年向けコミック誌もこっそり読み……(笑)。よく置いてあったのは「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)です。そのような感じで、家にあるものはジャンルを問わず、なんでも読んでいました。
――筋金入りの漫画好きですね。では絵を描くことはどうだったんでしょうか?
木野コトラ
お絵描きは、幼稚園に入るよりも前から好きでしたね。1歳くらいの時、絵を描いている最中に「自分は右利きだ」って自覚した記憶があるんです。たぶん、最初は両手で絵を描いていたんですが、右手の方が描きやすいって気づいて。それからは右手で描くようになりました。
――それはすごい記憶ですね。子供のころはどんなものを描いてたんでしょうか?
木野コトラ
とにかく女の子をたくさん描いていました。あとはお花とか身の回りのものも。毎日、チラシの裏から教科書まで、いろんなところにお絵描きしてましたね。小学4〜5年生以降は、好きなアニメや漫画の絵の模写も始めました。当時大好きだった「V-K☆カンパニー」(山口美由紀/白泉社)は、ヒロインやまわりの男の子はもちろん、脇役のキャラクターもみんな個性があって、漫画の表現力のすごさを感じたんです。それで真似してみようかなって。他にもアニメの「魔神英雄伝ワタル」(サンライズ)のヒミコとか、「聖伝-RG VEDA-」(CLAMP/新書館)も描いてました。
――好きなキャラクターを模写していたんですね?
木野コトラ
好きというよりは、練習としての意味合いが強かったと思います。高橋留美子先生の絵については、足先や指先を真似して描いていたり。今でもそうですが、上手だと思ったり、自分のツボにはまった絵は、自分の中に取り込みたいんですよね。だから目を描く練習をし始めると、紙一面が目ばかりになって怖いという(笑)
――完成した絵を、誰かに見せたりは?
木野コトラ
完全に自己満足だったので、見せてなかったです。中学生の時、初めて絵を描く友達ができて、完成した絵や落書きを見せ合い始めましたけど……彼女たち以外の人には見せられなかったです。
――絵を見せるのが恥ずかしかったとか?
木野コトラ
恥ずかしいというか……。絵や漫画って、描き手の考えや気持ちが反映されるじゃないですか。自分の内面を見透かされそうな気がして、怖かったんです。他人に見せるために描いた絵なら、エロい絵でも全然平気なんですけどね(笑)。そんな状態だったから、漫画家を目指すなんて考えてもいませんでした。限られた仲間内で交換漫画みたいなものを描いたり、トーンとかツヤベタを試したりとかしていれば、それで満足だったんです。たとえ見せたとしても、目ばっかりとか手ばっかりとかの絵が多いから、見せてもしようがないですし(笑)
――本格的に漫画を描くようになるのはいつごろからでしょうか?
木野コトラ
高校時代ですね。中学3年生の時、近所の高校の漫画研究部が作ったコピー本を読む機会があったんです。そこに上手な漫画が載っていて、読んだ瞬間にビビっときました。「この高校に入って、この先輩たちといっしょに漫画を作りたい!」って。ずっと勉強をサボっていて、偏差値が足りてなかったんですけど、この時ばかりは絵を描くことは封印して受験勉強をがんばりました。なんとか志望校に入学してみたら、憧れの先輩は3年生……。結局1年間しかいっしょに部活ができませんでしたが、とても刺激になりました。文化祭では、部員の作品を集めた部誌を作って配布しました。
――そこで初めて、いろんな人に見せられる漫画を描いたんですね。
木野コトラ
そうですね。コミックマーケット(以下、コミケ)の存在を知ったのも高校時代でした。地元の同人イベントにも参加して、「ハイスクール・オーラバスター」(若木未生/集英社)の二次創作本を出したのが思い出です。他には「新世紀GPサイバーフォーミュラ」(サンライズ)や「ファイナルファンタジーⅥ」(スクウェア・エニックス)など、同人誌なので好きな作品を題材にしていました。漫画研究部のOGが地元の同人イベントを主催する方だったので、運営のお手伝いもしたんですよ。
――高校に入ってから、すごい勢いで活動していますね。
木野コトラ
突然活発になり、人間関係も一気に広がりました(笑)。でも、人付き合いが苦手だったので、友達の友達のような、少し縁遠い知り合いに対応するのがだんだんつらくなってきちゃって……。高校卒業後は普通に就職したんですが、それを機に漫画を描くことも同人活動も、1回やめてしまったんです。もちろんお絵描きはライフワークなので、続けていましたけど。
――漫画を描くのをやめたんですか!? ……では、ふたたび漫画を描き始めたのは?
木野コトラ
結婚してからですね。結婚2年目で今の家を建てて、3年目で長男を授かり、それを機に勤め先を退職しました。でも、長男の出産直前に、主人が運転していた車が後ろから追突されまして……。主人は広告デザインの仕事をしていたんですが、後遺症で長時間モニターを見続けるのが難しくなって、仕事を辞めることになったんです。だから、2人して無職になってしまい……。
――それは大変でしたね……。
木野コトラ
当時は若かったからかあまり深刻にならず、主人の療養中は私がアルバイトをしながら食いつないでいました(笑)。主人が再就職するまで、そんな生活が2年くらい続いたんですが、その間にオンラインゲームの「ファイナルファンタジーXI(以下、FF11)」(スクウェア・エニックス)が発売されまして。夫婦2人してどっぷりはまりこみ、とりあえず1冊、同人誌を作ってみたんです(笑)
「月が導く」第10話の最終ページ。ヒューマンが話す「共通語」の文字デザインは、実は元デザイナーのご主人が手がけているのだ。
――「FF11」をきっかけに同人活動に復帰されたんですね!
木野コトラ
コピー本30部くらいをコミケに持っていきました。そうしたら開始10分で完売したので、次は思いきってオフセット印刷で同人誌を作ってみよう、と。次のコミケでオフセット本を持っていったら、エンターブレインの編集さんの目に留まり、「アンソロジーコミックスが出るんですけど、描きませんか?」と声をかけていただいたんです。
――それが商業デビューのきっかけだったんですね?
木野コトラ
そうですね。後日、メールで正式に依頼されて「ファイナルファンタジーXI アンソロジーコミック タルタル編」(エンターブレイン)で商業デビューしました。同人誌もタルタル(※)のネタで描いてたし、当時タルタルを描く作家さんが少なかったこともあって、私に声がかかったと思うんですけどね。運がよかったんだと思います。ただこの時も「より多くの人に自分の漫画が見られちゃう、どうしよう」みたいな気持ちの方が強かったです……。アンソロジーだから、別の漫画家さんが描いた作品も載っているし、「私の漫画は注目されないだろう」みたいな感じでいました(笑)
※編集部注「タルタル」:「FF11」に登場する種族の1つ。小柄な外見で、成体でも子供のような愛らしい容姿をしている。
――当時のペンネームは「小虎(ことら)」でしたが?
木野コトラ
小虎という名前で「FF11」をプレイしていたので、ペンネームもそのままでいいかって(笑)
――その後も数年間、「FF11」のアンソロジーコミック本に参加されていますね。2009年には「FF11」のアンソロジー個人集という形で、初の単行本が刊行されています。
木野コトラ
楽しいことでお小遣い稼ぎができて、助かりました(笑)。初単行本は、それまで描いてきたアンソロジーコミックを1冊にまとめた本なんですが、「私の個人集なんかで大丈夫なのかな」って、不安の方が大きかったです。もちろん喜びはすごくあったんですが、「なんで出るんだろう?」って首をひねりながら喜んでいた感じです。仕事だからもちろん、1つ1つ全力で描いていましたけど、そもそもこの時期は、まだ「漫画家になった!」とは思えていなかったです。
これが木野先生の仕事部屋の自作パソコン。知り合いのつてで、リーズナブルに組んでもらった。趣味と仕事を兼ねて「FF14」(スクウェア・エニックス)が問題なく遊べるスペックを備えているとか。
――初めての単行本が出たあとも、ゲーム作品のアンソロジーには積極的に参加していたのですか?
木野コトラ
「FF11」のアンソロジーを描かせていただいている間に担当編集さんが変わったんですが、その方がフリーランスだったので、いろいろな作品のお仕事を紹介してくださるようになりました。アンソロジーに参加するゲームのジャンルも広がりましたね。
――印象に残っているお仕事は?
木野コトラ
「うたの☆プリンスさまっ♪」(ブロッコリー)など、女性向けのアンソロジーのお仕事ですね。それまではずっと、ときめく対象は男の子よりも女の子だったので(笑)、オファーをいただいた時には「ヤバいな」って思いました。男の子を魅力的に描きながら、その男の子にときめく気持ちも表現する……。私に不足していた、この2つのスキルが必要なので、今思うとこの時期はすごく大変だった気がします。でも仕事をきっかけにゲームをプレイしてみたら、すごくおもしろくて! 逆に知らなくて損したって思うくらいでした(笑)
――プレイしたことがないゲームのオファーもあったんですね。
木野コトラ
お仕事でなければプレイしないようなジャンルの作品とも出会えました。まずはしっかりプレイして、ちゃんと作品を好きになってから描くようにしていましたね。
――そして2013年に「セブンスドラゴン2020 -EGO-」の連載がファミ通コミッククリアで始まり、2014年には単行本が刊行されています。
木野コトラ
このころからやっと、自分が漫画家なんだっていう実感が湧いてきたような気がします。この漫画は、ベテランの木村明広先生がネームを担当されていたので、すごく勉強になりました。自分ならしっかり描けず逃げるような箇所も、ちゃんとネームに起こされていたり、ふだん描かないような構図があったり。自衛隊やドラゴンなど、これまで描いてこなかったものにも挑戦できたので、やりがいがありました。
――ペンネームが現在の木野コトラになったのも、この作品からですね。
木野コトラ
似たペンネームの漫画家さんがいて、よく間違えられていたんです。ずっと申し訳ないなと思っていたところに、子虎と誤植されることがあったりして、この作品を機に苗字をつけることにしました。小さいころからキノコ好きなので、キノコにかけて木野コトラです。もともと、図鑑などでモノの構造や仕組みを知るのが好きなんですが、キノコっていろんな造形や色があるじゃないですか。すごくときめきますね!
キノコ好きの木野先生の自画像は、やっぱりキノコ。「月が導く」第2巻に収録している描き下ろしカットにも、キノコの姿で登場!
――そしていよいよ、2015年6月から「月が導く」の連載が始まりました!
木野コトラ
「セブンスドラゴン2020 -EGO-」を読んでくださったアルファポリスの編集さんから、「描きませんか?」と依頼をいただきました。それまではずっと同じ、フリーの編集さんから仕事をいただいていたので、初めて別の編集さんから声がかかってビックリしました。
――オファーされた当時、「月が導く」の原作小説はご存じでしたか?
木野コトラ
正直に言うと、原作小説も出版社名も知らなかったです……。でも後から気付いたんですが、アルファポリスの本だと認識しないまま、コミックスはけっこう持っていました(笑)
――(改めて本棚をよく見て)たしかにコミックスの「ゲート」(原作:柳内たくみ/漫画:竿尾悟)が並んでいますね。「居酒屋ぼったくり」(原作:秋川滝美/漫画:しわすだ)第1巻もあります。
本の倉庫に使っている部屋の一角がコチラ。この大量のコミックは、木野先生とご主人が独身時代から溜め込んだものだとか。
仕事部屋や本の倉庫部屋にあったアルファポリスのコミックスを並べて撮影。探せばまだありそう。
木野コトラ
その本棚にあるのは、比較的最近のものが多いですね。別の部屋に行けば、まだありますよ。うちは本とゲームソフトだけで埋まっている部屋があるくらい本が好きなんです。支援っていうか、面白い作品はちゃんと買わないといけないって思っています。私は描き手である以前に、読み手側の人間だと思ってるんで(笑)
――なるほど。では「月が導く」のコミカライズ連載を引き受けた決め手はなんでしたか?
木野コトラ
当時、たまたま他に進めていた漫画企画が頓挫して、時間に余裕があったんですよね。アルファポリスの編集さんから、すごく丁寧なメールとお電話をいただいたので、初めての会社だけど引き受けてみようかな、と。でも私が、長編の構成やネームをしっかりできるのか未知数だったはずなので、かなりのチャレンジャーだなって思いました(笑)
――タイミングがよかったんですね。
木野コトラ
アルファポリスのサイトに原作小説の試し読みがあったので、さっそく読んでみました。ちょうどハイランドオークのエマさんが登場するあたりまでだったと思うんですが、「ヒロインが豚だよ!」って衝撃を受けて(笑)。異世界モノの作品は当時からたくさんありましたけど、少し読んだだけでも「これは異色だぞ」と気になったんです。その後、当時出版されていた小説を全部読んで、すごく好きな作品になりました。コミカライズを描かせていただけることが、一層うれしくなりましたね。
――「月が導く」は、どんなところが好きですか?
木野コトラ
やっぱりメインキャラクターの真や巴、澪はもちろん、他の登場人物たちもそれぞれ個性があるところ……群像劇的なところが好きです。本編はもちろん、「月が導く異世界道中extra」で個々のエピソードも補完されているので、完全に私のツボでした(笑)。実は家にある「月が導く」の小説も、けっこうダブっている巻があるんですよ。新刊が出るたびに編集さんから送っていただくんですが、届くのが待っていられなくて書店に買いに走ったり。特典が欲しいから、余計にもう1冊買ったり(笑)。主人もファンなので、いっしょに楽しんでます!
――そうだったんですね(笑)。続いては、そんな木野先生が描くコミック版「月が導く」の制作模様や作業工程などを、詳しくお聞きしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
木野コトラ
よろしくお願いいたします!
――漫画制作時の作業環境を見せていただきつつ、どのようなスケジュールでお仕事をしているかをうかがっていきたいと思います。まず、漫画はどこで描いているのでしょうか?
木野コトラ
自宅の2階の仕事部屋で描いています。液晶タブレットは、以前はCintiq 13HDを使っていたんですけど、この夏に買い替えて今はCintiq Companion 2を使っています。パソコンは「ファイナルファンタジーⅩⅣ(FF14)」(スクウェア・エニックス)が発売される頃に、弟の友達が組んでくれました。値段が良心的だったのに、明らかにスペックが高くて本当に大感謝です(笑)
――液晶タブレット(以下、液タブ)で描かれたイラストが、パソコンのモニターにも表示されていますね。
木野コトラ
パソコンモニターの左側に、作業中の原稿を表示して、全体を把握しながら描き込んでいきます。液タブが斜めに角度がついているので、手元だけ見て描いていると、どうしてもパースが狂うんですよね。モニターの右側には、画像資料を表示します。
木野先生の制作風景を再現。執筆中のページが、液タブとパソコンのモニターの両方に表示されている。資料画像を表示するために空けているモニターの右半分には、大好きなキノコの壁紙が!
――液タブのペン先は、なにを使っているんですか?
木野コトラ
実は、液タブを買った時に付属していたものを、なんとなくそのまま使っています。ステンレス芯なども気になってはいるんですけど……筆圧が弱いからペン先も減らず、買い替えるチャンスがないんですよ。このままだと先に液タブの方が壊れるかもしれないです(笑)
――筆圧はもともと弱かったんですか?
木野コトラ
昔はすごく強くて、肩こりがひどかったんです。中学生時代、お絵描きしながら部活はソフトボールをやっていて、肘を壊したりしたので、このままでは長く描いていられないと思って……。フルデジタルで描くようになってから、体に優しく、なるべく力を入れずに描けるように矯正していきました。機材を変えるたびに、いろいろ調整しています。
これが木野先生の現在のペン設定。液タブを使う際の参考にしてみては?
――液タブの横には左手デバイスがありますね。
木野コトラ
ゲーミングパッド用のRazer Tartarus Chromaです。筆圧が弱くて、ペン先の操作に反応しない時があったので、つい最近導入しました。ショートカットはいろいろ設定していますが、結局よく使うのは「保存」と「アンドゥ(取り消し)」くらいかも(笑)
――使用しているソフトはなんでしょうか?
木野コトラ
漫画を描く時はComicStudioで、色を塗る時はCLIP STUDIO PAINTやPhotoshop CS5を使っています。
――ちなみに、いつからフルデジタルで描くようになりましたか?
木野コトラ
2011年にニコニコ静画で連載した「私を墓場へ連れてって」(原作:新間一彰/ニコニコ静画)のあたりですね。「FF11」(スクウェア・エニックス)のアンソロジーを描かせていただいているころは、ペン入れまでアナログ作業でした。スキャンしてゴミを取り、デジタルでトーンを貼っていました。
――デジタルに慣れるのは早かったですか?
木野コトラ
それが2年くらいかかったんですよね……。最初は線が思い通りに引けなくて困りました。覚えなきゃいけないことも多いし、毎回付け焼き刃な感じで、なんとか原稿を仕上げていました(笑)
――モニターの周囲には、筋肉の構造が描かれた紙などが貼られてますが……?
木野コトラ
これはデッサン本にあった構造図を模写したメモです。手や足の筋肉のつき方などは、一度描かないとまずわからないし、なかなか覚えられないのでカンニングしています(笑)。キャラクターの瞳の形や衣装のボタンの位置、着物の帯の仕組みなんかも全部メモって貼っておかないと、わからなくなるんです。
モニターの左右に、ところ狭しと貼られた作画資料の数々。左中央部には、『月が導く』のキャラクターの目の集合図が見える。
――本棚にはデッサン系の本や衣装の本、幻獣図鑑などファンタジー系の資料も多いですね。
木野コトラ
描けないものが出てくると、慌てて資料を買うみたいな感じです(笑)。漫画の構成力はすぐに身につくものじゃないけど、絵はがんばった結果が比較的早めに出てくれるものだと思っています。せめて絵だけでもがんばらないと、という気持ちでやっているうちに、だんだん増えていきました。
――仕事部屋にも、漫画がたくさんありますね。
木野コトラ
1冊15分くらいの時間で、息抜きに読んだりします。15分では内容を細かく覚えられないから、気ままにパラパラ読み返して何度も楽しんでいますね(笑)。アルファポリスのコミックスは、近所の本屋さんに新刊がいっぱい並ぶんです。最近はそのたびに、いろいろ買っているかも(笑)
――原稿を描いてる時は、音楽をかけたりしますか?
木野コトラ
ネームの制作中は、インストゥルメンタルの曲ですね。猫叉Masterという、ゲーム音楽などを作っている方のアルバムがお気に入りです。集中し始めると音が聴こえなくなるので、本格的に構成を考えている時は音楽をかけないことも多いですね。作画中は、ボーカル入りの曲をかけています。最近だと米津玄師さんのアルバムを聴いたりしています。こちらも結局、歌が耳に入ってくるのは、曲をかけ始めた時だけなんですけどね(笑)
――集中力が高いんですね!
木野コトラ
集中しているというよりは、トランス状態に近いのかもしれません。家族が部屋に入ってきても気づかないし、漫画も自動書記みたいな感じで、8時間くらい意識なく描いてる時がありました……。あとで原稿を見返すと、手癖で描いているから出来がよくなくて、結局全部描き直すんです。だから最近はアラームをかけて、1時間で集中を切るようにしていますね。
――それではお仕事に欠かせない、こだわりのアイテムを教えてください。
木野コトラ
イスの上にあるクッションですね。MTGのBody Make Seat Styleを使っていて、腰痛はだいぶ軽減されていると思います。イスはふつうのもので、しかも5歳の娘に落書きされてます(笑)
――デスクに「月が導く」の原作小説が並んでいますが、これは資料ですよね。
木野コトラ
資料としても使いますが、原作イラストレーターのマツモトミツアキ先生の描く真がすごく好きなんです! 背表紙をこちらに向けて並べると、いろんな真の顔が見えるので、いつもニヤニヤとながめながら漫画を描いてます(笑)
――デスクのまわりには、他にもいろんなものがありますね。馬やミジンコ、骸骨のフィギュア、壁にはお子さんの絵も!
木野コトラ
自分のテンションが上がるものを置いていますが、並べ方はあまり気にしていませんね。馬のリボルテックフィギュアは、「タケヤ式自在置物 馬 着彩」(海洋堂)ですね。馬が上手に描けないと思っている時に、ちょうど発売されたので買いました。モニターの壁紙は、大好きなキノコです!
――デスクの反対側にはベッドもありますね。
木野コトラ
以前は1階に下りて家族と寝ていました。修羅場で睡眠がとれない時も、20分くらい仮眠すると描き続けられるので、この部屋にベッドを置くようになって。今は5歳の娘と、このベッドで寝ています。忙しくなると娘を家族に預けて、代わりにカエルのぬいぐるみと寝るんです。寂しくないように(笑)
デスクの周囲の全景がコチラ。左側にいくつか見えるクレヨン画は、木野先生……ではなくお子さんたちの作品。
――続いて1ヶ月の仕事の流れをうかがっていきます。
木野コトラ
「月が導く」の仕事の合間に、他社の仕事や娘が通っている幼稚園のPTA本部の仕事が入ってくるので、毎月同じ調子ではないのですが……私はネームに時間がかかるタイプだと思います。
ご家庭や他社の仕事の兼ね合いで、1話分をだいたい20日間程度かけて執筆。ネームと下絵は、話によってまちまちながら、それぞれ2〜3日ずつかかっている。
――木野先生のネームは、人物も背景もしっかり描き込みがされていて、一見して完成度が高そうですが……?
木野コトラ
編集さんに「ネームできました」といって渡してはいますが、実は下絵まで入れた段階で渡しています。1回絵を入れてみないと、そのネームがちゃんとできているのか、自分ではよくわからないんです。編集さんに「ここはどうなっているの?」とか指摘された時に、「私もよくわからないんです」みたいなことになりかねないので……。下絵は2〜3日で入れられるので、たとえ少し遅くなったとしても、自分で納得しているものを提出した方が最終的には早いように思っています。
――それでここまで描き込まれているんですね。でも、大きな修正が入ることになったら、かなり大変だと思いますが?
木野コトラ
下絵を描き直すのは全然問題ないです! それに忘れっぽいから、ラフな状態のネームだと、後々何を描きたかったのかわからなくなるんです!
――なるほど。それがご自身に合ったやり方なんですね。
木野コトラ
ネームにOKをいただいたら、すでに入れてある下絵をさらに整えつつ、ペン入れをします。そして最後は仕上げですね。時間があればあっただけ、描き込みたくなってしまうので、いつも締切ギリギリまで作業していますね。仕上げはだいたい2日くらいかかるので、逆算しながら作業をしています。
――それでは、最も作業が難航した時の1ヶ月を振り返ってください。
木野コトラ
「月が導く」の第11話を描いていた時が大変だったです。この時は、編集さんにネームを提出する前に、3回くらい最初から作り直したので、本当に時間がかかってしまいました。4月から5月にかけての時期で、PTAの引き継ぎやら家庭訪問やら、子供の学校関連の用事もいろいろ入っていて、空いた時間を見つけながら描くみたいな感じでした……。
「月が導く」の第11話を執筆した時の1ヶ月を再現。下絵を入れる前の段階で、9日間かかっている。いやはや、お疲れ様でした!
――それは大忙しでしたね……。
木野コトラ
PTAの役員は、私の時はくじ引きで当たった人がやることになっていたのですが、連載のお仕事をしているこのタイミングで、まさか当たりを引くなんて……! 変なところで引きが強いのは、「月が導く」の主人公・真と通じるものがあるかもしれないですね(笑)。いろいろな方にご迷惑をかけてしまいますが、PTA本部の方たちはみなさんユニークで、いいご縁ができたと喜んでもいます。
――休日はどのようにとっているのですか?
木野コトラ
休みという休みはとれてないです。漫画を描かない日はあっても、家事をみっちりやって1日が終わったりとか。でも、絵を描けていれば幸せなので大丈夫です(笑)。たまにPTAの行事の打ち上げ会に呼んでいただいて、リフレッシュしたりするくらいですね。
――今度は1日のスケジュールをうかがっていきます。まずはふだんのスケジュールを教えてください。
こちらが、締め切りまでまだ間がある時の1日。執筆作業の合間に、適度に食事や休憩の時間が設けられていて理想的。
木野コトラ
起床は7時30分ですね。以前は息子の登校時間に合わせて6時30分に起きていたんですが、今は主人に任せています。娘の幼稚園のバスが、9時に家の前まで来てくれるので、それを見送ってから仕事を始めます。お昼ですが……この街は正午にお昼を知らせる鐘が鳴って便利なんです。鐘が鳴ったら私も昼食をとり、その後は小一時間ほど仮眠をとります。ごはんを食べると眠くなるんですよね(笑)
――その後、娘さんが帰宅するまで仕事ですか?
木野コトラ
そうですね。娘が帰るのがだいたい15時くらい。帰ってくるなり「かあちゃん、話聞いて!」って騒ぎ始めて(笑)、その相手をします。16時くらいに次男が小学校から帰ってくると、娘と2人で遊んだりテレビを観てくれるので、様子を見つつ仕事をしたり……。その後、17時30分くらいに主人と高校一年生の長男が帰ってきます。そうしたら、娘をまるっきり任せちゃいます。
――そして夕食ですね。
木野コトラ
18時以降になりますね。締め切り間際などは、主人や長男が作ってくれます。夕飯とお風呂をすませて、21時くらいにまた仕事を再開。それで夜中の1時ごろまで描いているかな? その後は1時間くらいお絵描きをして、2時くらいに就寝って感じですね。
――仕事を終えて、お絵描きですか?
木野コトラ
子供のころからの習慣です(笑)。ゲームもやりたいんですが、ハマるとそのことしか考えられなくなっちゃうので……。だから最近は、遊ぶとしてもスマホのアプリゲームを少し触るくらいですね。
――では、忙しい時の1日のスケジュールはいかがですか?
そしてこちらが、締め切り間際の1日。執筆に割かれている時間は、ざっと16時間!
木野コトラ
9時までは変わらないです。仕事を始めたら、あとは娘が帰ってくるまでずっと描いてます。眠くなるのでごはんは食べません。どうしても眠い時だけ、20分仮眠をとります。15時に娘が帰ってきたら相手をしますが、16時に次男が帰ってきたらそれ以降は、夜中までずっと仕事をしています。その合間、ちょっと気が抜けたタイミングでお風呂に入ります。就寝は深夜3時ごろですが、その30分くらい前に軽く食事をとります。そのタイミングなら、食べて眠くなっても構わないですからね。ベッドに入ってからは、眠くなるまでお絵描きをしてます。
――どんなに忙しくても、お絵描きはしているんですね。
木野コトラ
最近気づいたんですが、ペン入れは下絵をなぞっているだけで、仕上げも絵を描いているわけじゃありません。絵の描き方を忘れてしまうので、どんなに修羅場になっても、なるべくお絵描きをするようにしています。もちろん、息抜きでもありますけどね。
――仕事が終わらず、徹夜してしまうことは?
木野コトラ
ありますね……。2015年の年末は「月が導く」とは別の単行本の仕事で、2カ月のうちに約100ページを描き下ろしました。あの時は、さすがに死ぬかと思いました(笑)
――うわぁ、本当にお疲れ様でした。さて次回のインタビューでは、「月が導く」の原稿を拝見しながら、実際の原稿作業について詳しくおうかがいします。ありがとうございました。
木野コトラ
次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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