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コラム
2022年4月21日

【アルファポリス】プロ漫画家インタビュー!コミカライズならではの苦労/木野コトラ先生




主人公・深澄真はごく普通の高校生……だったはずが、両親の都合で異世界へと召喚されることに。しかもその世界の唯一神である女神に「顔が不細工」と罵られ、問答無用で最果ての荒野に飛ばされてしまう。人の温もりを求めて荒野を彷徨う真だが、出会うのはなぜか人外ばかり。ようやく仲間にした美女ふたりも、元竜に元巨大蜘蛛というクセ者ぞろい(でもめちゃめちゃ強いんです)。とことん不運、されどチートな真の異世界珍道中のゆくえは――!? 薄幸系男子の異世界ファンタジー、待望のコミカライズ!
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木野コトラ/漫画
毛の国出身。おもにゲーム系アンソロジー、コミカライズを執筆。代表作はファミ通クリアコミックス『セブンスドラゴン2020 -EGO-』(原作:セガ/構成:木村明広)など。ソーシャルゲーム『アイドルマスター SideM』(バンダイナムコエンターテインメント)では、アイドルユニット“Beit”(バイト)のゲーム内コミックを担当。(2014年「ハロウィン・カーニバル」から2019年「異世界アーサーの聖杯伝説」まで)
あずみ圭/原作
愛知県出身。2012年よりWeb上で「月が導く異世界道中」の連載を始める。一躍人気作となりアルファポリス「第5回ファンタジー小説大賞」読者賞を受賞。2013年5月、改稿を経て本作「月が導く異世界道中」で出版デビュー。


※2016年12月にアルファポリスサイトにて掲載した記事を再構成しております。なお、記事中の情報は初掲載時のままです。



キャラクターの行動パターンをインプット!木野流ネーム作成術


――今回は「月が導く」のコミック版が、どのようにしてでき上がっているのかに迫ります。まず連載開始にあたり、どのような作業を行っていたのでしょうか?

木野コトラ
最初はメインキャラクターの設定画を描いて、編集さんに送りました。巴の服のデザインで 少し試行錯誤がありましたが、おおむねすんなりOKをいただいたように思います。キャラクターデザインが固まったら、そのあとは細かい設定画を加えつつ、編集さんと大まかなストーリー構成を話し合いました。

――設定画やストーリー構成案などの資料を拝見しましたが、詳しいうえに量も多くて、紙の束幅が1cm以上ありました!

木野コトラ
私も見返したら、70ページ以上もあって驚きました(笑)。どこまでを設定に起こせばいいのかわからなくて、どんどん細かくなっていったんだと思います。実は編集さんに送ったもの以外にも、エマさんの髪型の構造図とか、自分で描くために必要な資料も作っています。仕組みがわからないと描けないし、自分でデザインしたものも実際に描く機会が少ないと 覚えていられないですからね(笑)


膨大な設定画や文字資料から、担当編集にも送っていなかった、エマさんの髪型の構造図。コスプレの資料としても使えそう!

――設定や構成が決まったところで、今度は各話のネームに入っていくわけですね。

木野コトラ
原作のここからここまでを描くと決めたら、頭の中にストーリーと人物をインプットして、 実際に動かしてみます。それをだいたい24ページ程度に振り分けていくのですが……内容をしっかりページ内に収める作業に、すごく時間がかかります! これまでずっと、アンソロジーなど短いページ数で漫画を描くことが多かったので、エピソードの区切りがだいたい8ページぐらいごとになっているように思いますね。

――ネームから液晶タブレットで作業しているんですよね?

木野コトラ
はい、最初からデジタル作業です。まずは薄く色のついた線で、人物の位置取りや大まかなポーズなどを決めていきます。この時はまだ、髪の毛も表情も何もない素体の状態ですね。一般的には、この素体に多少の表情や体の動きを補足したものを「ネーム」というんだと思います。

――そうですね。

木野コトラ
私の場合は、色のついた線で描かれたこの素体に、輪郭や髪の毛、手の位置などを描き加えて整えていきます。最後に、登場人物の感情を込めて表情を描き、編集さんに送る「ネーム」ができ上がります。前回も少し言いましたが、ある程度ちゃんとした絵を入れてみないと、ストーリーや構成自体が意図通りに進んでいるか判断できないんです。

――ネームが下絵を兼ねているということでしょうか。

木野コトラ
いえ、実はまだデッサンやパースが少し狂ったりしているものも残っています(笑)。そのあたりは、ペン入れの段階で調整していますね。


第17話、1ページ目のネームがコチラ。キャラクターのポーズや表情はもちろん、背景も下絵のレベルまで描き込まれている!

――キャラクターのセリフ回しは、どのようにして考えていますか?

木野コトラ
原作小説に沿って進めていますし、頭にインプットしたキャラがあれこれ動くので、彼らが 自分からセリフを言ってくれます。幸い、大きく悩むことはなくセリフが出てきてくれますね。主人公の真は、原作に幼少時のエピソードが描かれているから、これまでどう育ってきたかもわかって動かしやすいです! 美形の姉と妹に挟まれているから、「不細工」と言われることにも慣れているんだろうな……とか。他のキャラクターもそういう細かい情報が、本編やWebで発表されている「月が導く異世界道中extra」に書かれているので、描きやすくてありがたいです。

――「キャラクターを頭にインプットする」ということについて、もう少し詳しく説明していただけますか?

木野コトラ
原作小説を読みながら、まずキャラクターの性格を把握するんです。その性格から、行動パターンを見つけて頭に登録します。たとえば、石と棒が目の前に落ちているとして、巴だったらふざけて叩き割るとか(笑)。そういう行動パターンがインプットされていれば、あとはキャラクターが自分から動いてくれます。もし、原作サイドで想定しているキャラクターの性格と、私が考えているキャラクターの性格に差があったら、ご指摘をいただいて私の頭の中の行動パターンを修正していく感じです。その積み重ねで、よりリアルにキャラクターが動いてくれるようになると思っています。

――なるほど。積み重ねは大事ですね。

木野コトラ
「月が導く」に関しては、原作者のあずみ圭先生がしっかりキャラクターを描いてくださっているのが、特に大きいと思います。いろんなキャラクターが登場する作品ですが、各々に一貫性があるというか、心の動きに矛盾がないので、私も描きやすいです。

正解は1つだけ!描いては修正を繰り返す線画作業


――ネームと下絵が完成したら、次はペン入れの作業になりますね。

木野コトラ
ペン入れは苦手です……! 下絵をなぞる作業なので、きれいに正解の線を選ばないといけないんですが、その正解を選ぶのに時間がかかってしまいます。特に顔のパーツは、ドット単位のズレでも印象が変わってしまうため、気が抜けませんね。線を入れて、違うと思ったらすぐに修正……というのを繰り返しています。


ペン入れ後の原稿を、下絵と重ねて画面に表示。ペン入れは毎月、約10日ほどかかる重要な工程だ。

――描いた瞬間に違うとわかるのですか?

木野コトラ
集中しすぎて、トランス状態のようになっていると気付けませんね。たいていは集中を切ったあと、描いた部分を見直している時に気づきます。1ページ分のペン入れが終わったら、必ず印刷して確認しますが、そのタイミングで見つかる時もあったり。何度も何度も修正しても正解の線を描ききれず、正直に言うと単行本になったあとでも描き直したいところもありますね……。一発で正解の線が引ければ、こんなに時間がかかることはないと思うんですけど(苦笑)

――なるほど、それでは正解の線がすんなり描けたページを教えていただけますか?

木野コトラ
あまりないんですが……コミックス第2巻の総扉は、スッと描けた気がします(笑)

――逆に時間がかかった場所は?

木野コトラ
それはやっぱり、亜空に種族が勢ぞろいする第9話です。正解・不正解以前に、人外の数が多くて多くて(笑)。澪が「災害の黒蜘蛛」で登場する第6話〜第7話も、ものすごく大変でした。蜘蛛にツヤベタみたいな線が入っていますが、ちゃんと1本1本描き込んでいるんです! 描いても描いても終わらなくて、まさに澪地獄でしたね(笑)


第9話より、エルダードワーフ、ミスティオリザード、アルケー、ハイランドオークが大集合! 真や巴&澪も入れると、実に50体以上が描かれている。

――そんな苦労の多いペン入れが終わったら、いよいよ仕上げですね。トーンはどんなものをよく使っていますか?

木野コトラ
特に凝ったりすることはなく、70線の10%、30%、50%の3種類で、ほぼ全部回しています。あとはグラデーションのトーンですね。

――自作のトーンやテクスチャは持っていますか?

木野コトラ
ちょこちょこ持っていますが、あまり使っていませんね。「月が導く」でいえば、「FF11」(スクウェア・エニックス)のアンソロジーの頃からお付き合いがある、菊野郎先生自作の「鱗ブラシ」を少し使わせていただいています。「鱗がうまく描けない」って泣きついたら、何種類かいただきました(笑)。コミックス第1巻の描き下ろし4コマの扉に描いた蜃の鱗 や、巴の袴の下の帯がそうですね。とはいえ、大きなコマで使うとブラシ感が出てしまうので、結局ペンで描いてしまうことも多いです。

――他に、仕上げの時に気をつけていることはありますか?

木野コトラ
そうですね……。仕上げだけでなくペン入れの段階からなのですが、セリフを常に作画中の原稿に表示するようにしています。忘れっぽい性格なので、セリフを表示しておかないと、キャラクターの細かい感情がわからなくなるんです(笑)

――アシスタントさんを雇って、作業を分担したりは?

木野コトラ
執筆は全部自分でやっています。個人的に一番大変な作業は、ネームとペン入れですけど……そこをアシスタントさんに頼むわけにはいかないですし(笑)。他の工程でも、作業をしながらこうしよう、ああしようって考えているので、自分でやっちゃった方が早いんです。

ご主人お手製!オリジナルフォント「TSUKIGA_HUMAN」誕生秘話


――「月が導く」といえば、第9話のペン入れに時間がかかったように、さまざまな種族が登場するのが特徴的ですね。作画以外にもご苦労があるのでは?

木野コトラ
言語に気を遣っていますね。コミック自体は日本語で作られていますし、真の母国語も日本語ですが、実際の物語の中にはさまざまな言語が飛び交っています。たとえば、真はヒューマンの共通語以外の言語はすべて話せます。だから、真がドワーフと話す時はドワーフ語を使っている場合が多いはず。日本語以外の会話であることを強調したい場合は、フキダシの線や形を変えたりしているんです。逆に、日本語が通じないシチュエーションなのに、あえて日本語を使っていることを強調したい場合も、同様にフキダシの処理を変えています。そのあたりは、どうすれば読みにくくならず言語の違いを表現できるのか、編集さんと相談しながら描いています。

――言語といえば、前回少し触れましたが、ヒューマンの共通語にはオリジナルのフォントまで作られていますね。

木野コトラ
最初は、毎回それっぽい文字を書いて誤魔化すことも考えたんですが……。たとえば第16話の肉屋の看板のように、共通語を絵で表現しなければならないシーンが多く出てきます。それならフォントを設定した方がいいなぁ、と。それで、「あいうえお」をアレンジした文字がいいと思う、なんていうことを主人に言ったんです。

――フォントは元デザイナーのご主人が作られたものだとか。

木野コトラ
はい。雑談みたいな感じで話したのに、そのまま主人が作ってくれることになりました。「ヒューマン語は女神様の言語なので、筆記体のようなシャレた感じがいい」とか、絵と言葉でイメージを伝えたんですが、最初は必要な文字だけを作るという話で進めていました。

――それが結局……?

木野コトラ
「せっかくだから全部作っちゃった」って、翌日には50音のフォントデータが完成していたんです(笑)。主人も「月が導く」のファンだからこそですね。


第17話の7ページ目、部屋でふたりきりになって何やら期待する澪を尻目に、さっさと就寝する真。仮にふたりがヒューマン語で会話していた場合は、左のような感じに!

――たしかにそうですね(笑)。そういう木野先生も「月が導く」のファンのひとりですが、コミックを描く際にどんなことを楽しんでいますか?

木野コトラ
やっぱり魔法のエフェクトやアクション、獣人など、いろいろな挑戦をしながら描けるのが楽しいですね。それに美形が大勢出てくる物語なので、美形ごとに個性をつけなきゃいけないんですけど……そのさじ加減を調整するのも楽しんでます!

――異世界ものならではの描く楽しみが、いろいろあると。

木野コトラ
バックグラウンドを考えるのが好きなので、あれこれ妄想しています。衣服は日本風なところもあるけど、ジッパーは仕組みがわかっていても異世界の技術で再現するのは難しそうとか。双頭の犬リズーは、ふだんどんな風に過ごしているのか、など考え始めると止まらないです(笑)。漫画の中でそこまで描く機会はほぼないんですが、真の服は日本のものならジッパーが使われる部分も、紐で留めたりしています。


第14話でミルス・エースが発動する「クレイイージス」のエフェクト設定画(右/ボツ案含む)。あずみ圭先生にビジュアルイメージを取材しつつデザインしている。左はジッパーを使わずにデザインされた真の服の設定画。

魅力的なキャラクターたちへの想い、そして今後のお楽しみとは!?


――「月が導く」を描いていて特に楽しいキャラクターを挙げてください。

木野コトラ
みんな楽しいので……描きやすいキャラクターを挙げるなら真です。あの少年体型が安定して描けます。見栄えがするキャラは巴ですね。髪の毛の量が多いから、いるだけで画面が埋まって華やかになります。……作業的には大変ですけど(笑)

――澪はいかがでしょうか?

木野コトラ
澪は難しいですね。まだ表情が安定していなくて、一番描きあぐねているキャラかもしれません。というのも、真に対する澪の感情が、まだ私の中でつかみきれていない気がするんです。真をどこまで食べ物として見ているのか、主従関係を超えた恋愛感情をどこまで持っているのか、まだ少し曖昧なので、探り探りな状態ではあります。


第10話から、真に着物をほめられてときめく澪。真への愛情があまりにディープなため、なかなか底が見えない?

――エマさんは? 見た目はまさに豚なのに、なぜか可愛らしいですよね?

木野コトラ
「しばいぬ子さん」(うず/竹書房)の作者であるうず先生から「豚レディー超可愛い」ってほめていただいたことがあって、その時は本当にうれしかったですね。実はエマさんが可愛いのは原作の力が大きく影響していて、性格の良さが外見に表れているだけだと思っています(笑)。それでも、魅力的に描けているならよかったです!

――エマさんに限らず、人外たちはみな生き生きと描かれているように思います。

木野コトラ
いえ、まだまだです。鱗を格好良く描くのは相変わらず難しいですし、なにより時間がかけられるならもっと描き込みたいです。第8話の最終ページに、ハイランドオークのみなさんが勢ぞろいしているコマを描きましたが、この時はそれぞれの個性を考えながらじっくり描けたので、すごく楽しかったです。このオークの兄妹は、兄が気弱で妹は気が強いとか(笑)。ちなみにこの兄妹は、第17話で雪遊びをしています。

――毎月の連載となると、描き込める時間は限られてきますね。

木野コトラ
そうですね。でも、描き込んだところで画面的に映えるかというと、必ずしもそうでなかったり。背景にもいえますが、メリハリをつけて描くというか、ちゃんと引き算することも心がけようと反省することもあります。今よりももっと、うまく漫画が描けるようになれば、作品をもっと面白くすることができるはずなので頑張ります!

――では最後に、この先「月が導く」で描くのを楽しみにしていることを教えてください。

木野コトラ
いっぱいありますよ!! 原作小説第3巻には、亜空のコミュニティに転機が訪れるエピソードがあるし、真の3人目の従者となる識も描くのが楽しみです。その後に描かれる学園都市での生活も早く描きたいですね。学園都市ではミスティオリザードが活躍する場面がありますが、装備をちゃんとしようと今から甲冑辞典を読んで準備しています(笑)。まだ書籍化されていない温泉回も絶対に描きたいし……挙げればキリがないですね!

――ありがとうございました。続いては、漫画をテーマに自由にトークしていただきます。どうぞよろしくお願いします。

木野コトラ
よろしくお願いいたします!

原作イメージを壊さないように切り崩す――コミカライズの描き方


――インタビューの最後は担当編集とのフリートークです。木野先生はアンソロジーコミックやコミカライズを多く手掛けていますが、オリジナルコミックも描いてみたいとは思いませんか?

木野コトラ
オリジナルコミックは、ストーリーもキャラクターも最初から全部自分で考えないといけないので……。漫画を描くところまでたどり着かないんです(笑)。原作がある方がありがたいですね。

――たどり着かない?

木野コトラ
設定から何から、細かいところまで考え続けてしまって、いっこうにお話作りが進まないんです。前編で少し触れたように、私はどちらかというと描き手として発信するタイプというより、読者として受信するタイプだと思っているので、創作をしている方は尊敬します。

――たしかにオリジナルコミックを作るのは大変だと思いますが、コミカライズならではの苦労もおありなのでは?

木野コトラ
そうですね。やっぱり原作者さんが考えていることや、原作自体とズレが生じないよう、常に気をつけています。「月が導く」の原作小説が好きだから、なるべく壊したくないのですが……表現上の手法やら、ページ数の兼ね合いやらで、漫画にするにあたって切り崩していかないといけない部分もあるので……。すべてのシーンをカットせず、なんなら原作の書籍に収録されていないエピソードまで描きたいと思っているんですけどね(笑)

――小説のコミカライズの場合、カバーイラストや挿絵に描かれていないビジュアルを漫画家の先生が補完して描く苦労もあると思います。

木野コトラ
たしかに、そこは苦労するところですね。最近の話だと、第16話以降に出てくるツィーゲの街を、どんな雰囲気にするかで迷いました。原作のあずみ圭先生からは「ファンタジーの中で違和感がなければいい」と任せていただいていましたが、私のファンタジー感と先生のファンタジー感には差があるはずなので、さてどうするかと……。いまだに悩みながら、海外の街並みを参考にしつつ描いています。なるべく原作を読んだ時のイメージと差がないようにしたいので、こういう時は原作ファンの主人にも意見を聞いてみたりしています。

――木野先生はゲーム原作のコミカライズにも多く関わっていますが、小説が原作のものとゲームが原作のもので、描き方に違いはありますか?

木野コトラ
小説原作のコミカライズは、だいたい原作に沿ったお話の流れで漫画にしていきます。ゲーム原作の方は、アンソロジーのお仕事が多いからともいえるのですが、本筋のネタバレ要素は描けないんです。ゲームの物語をそのまま描くというよりは、その中から派生したエピソードや小ネタを描いていく感じですね。小説のコミカライズは、逆に小ネタ的なものはあまり描けないので、「月が導く」ではコミックスの巻末に収録している描き下ろし4コマで描かせていただいています!

――コミックスの描き下ろし4コマは、ネタからすべて木野先生が考えていますね。

木野コトラ
はい、すごく楽しく描かせていただいています! 「月が導く」のファンである私としては、私以外の人が描いた「月が導く」の漫画も読みたいんです。さらに言うと自分でも「月が導く」のアンソロジーを描きたいくらいで、描き下ろしの四コマはいわばアンソロジーに参加している感じですね。何を言ってるんだという感じですが。もうどうしようもないですね(笑)


コミックス購入者しか読めない巻末描き下ろし4コマをチラ見せ。いつか、巴にも花が咲く日が来るのだろうか?

描けば描くほど、描けないものが見えてくる!? 果てのない漫画家道


――これまでのお話を聞いていて思ったのですが、木野先生は本当に絵を描くことが好きなんですね。

木野コトラ
もちろん大変だったり、うまく描けなくて苦しかったりはします。でもやめていないということは、やっぱり絵を描くことが楽しいんだと思います。むしろ、描けなくなる方がつらいかもしれませんね。とはいえ、本当に描いている人は、私が足元にも及ばないくらいたくさん描いていますよ! 仕事で漫画を描いて、休憩時間に落書きをして、同人誌も作って……。漫画家の世界に入って、私よりもたくさん描いている人がいることに、なぜかすごくホッとしたんです(笑)

――前回、子供時代は女の子を描くのが好きだったとおっしゃっていました。それは今でも変わりませんか?

木野コトラ
昔からそうだといえばそうなのですが、今はいろんなものを描くのが楽しいです。もう少し補足すると、これまで技術的に描けなかったものが、描けるようになるのが楽しい……という感じでしょうか。でももちろん、今でも女の子を描くのは好きですよ(笑)

――男の子を描くのはいまだに難しいですか?

木野コトラ
ありがたいことに、だいぶ描き慣れてきたと思います。食わず嫌いだった乙女系ゲームも好きになって、男性キャラクターの魅力もわかるようになったので。少女漫画を多く読んでいたせいか、以前はどんなに格好いい男の人でも、女の子を可愛らしく演出するための添え物のように考えていましたが、今はもうそんなことはありません。男の子についても、「描けなかったものが描けるようになった」楽しさを感じています。

――「描けなかったものが描けるようになるのが楽しい」。これは木野先生が漫画家を続けられている秘訣のようなものなのですね。

木野コトラ
たしかにそうですね。子供の頃は、女の子がアイドルになりたいと思うのといっしょで、漫画家になりたいという気持ちはどこかにあったとは思います。でも、それだけではただの憧れでしかないですよね。だからいまだに、自分が漫画を描く側にいることが信じられない時もありますが、描けないことを描けるようになりたいという気持ちを持ち続けていたからこそ、漫画家にもなれて、それを続けられているんだと思います。

――なるほど、そうですね。

木野コトラ
しかも、描けば描くほど描けないものが出てきます。これはもう、一生やっていられる職業だな、と(笑)。裏を返すと、「これが描きたい」という明確な完成形がないまま描き続けていることになるので、最近はもう少し目標を定めてもいいのかなと思っています。

――目標を定めるとしたら、どんなことになりますか?

木野コトラ
みんなが読みやすい漫画、読んでいてその世界に没頭できる漫画を描けるようになりたいです。視線の誘導とか、漫画のイロハもきちんと勉強しないまま、実はけっこう無意識で描いている部分が多いので、少しずつ勉強しながら描いていこうと思っています。

――「基本に立ち返る」ともいえますが、もう少し具体的に言うと?

木野コトラ
そうですね。ひとつ挙げるならば、変に描き込みすぎないこと……いわゆる「引き算」です。見せたいものを目立たせるためにあえて描き込みを減らす、場合によっては何も描かないことも重要だとわかってはいるのですが、バランスの取り方がまだまだですね。ホントに勉強だらけですが、それが楽しい! 楽しい一方で、毛が抜けるくらい辛い(笑)

――髪の毛はもちろん、体も大切にしないといけませんね。

木野コトラ
やっぱり体が資本なので! 描く時は全力を出し切りますから、体力も大事ですよね。休憩中には腹筋をしたりしていますが、あまり効果がないのか、ちょっと動くと足がつるんですよ(笑)

漫画家・木野コトラを支える、家族への想いとエピソード


――木野先生は漫画家であると同時に、お母さんでもありますが、仕事と家庭をどう両立させていますか?

木野コトラ
うーん……ちゃんと両立はできてないですね(苦笑)。周囲にすごく支えてもらっています。主人はもちろん、実家の方もそうだし。娘のPTA本部もそうですけど。いろいろと迷惑をかけながら、描かせていただいています。

――夕食はご主人や、高校1年生のご長男が作ってくれることがあるそうですね。

木野コトラ
繁忙期は基本、主人が作ってくれていて、本当にありがたいです……。長男は料理が趣味みたいで、手羽先餃子とか、私が作れないようなメニューまでレパートリーに入っています。「どこで覚えてきたの?」って聞いたら、「クックパッド」って(笑)。ネットのすごさを思い知りました。

――お子さんがいて大変なこともあると思いますが、逆にがんばれたり、よかったと思うこともあるのでは?

木野コトラ
いっしょにいると楽しいから、何より気分転換になりますね。仕事部屋の壁に飾っていますが、長男が小学生の時に書いてくれた手紙や次男の折り紙、長女が描いた絵などを見ると、やっぱり元気が出ます!

――この環境なら、お子さんたちも漫画好きになりそうですよね。

木野コトラ
どうかなぁ(笑)。でも、小学4年生の次男は私の漫画を読んでいて、最初の読者になってくれるんですよ! 「月が導く」も、ネームが出来上がるのをすごく楽しみにしてくれています。「月が導く」は小学生が読んで、多少文字やセリフの内容を理解できなかったとしても、絵や流れで内容が分かるように描くことをひとつの目安にしています。意外に子供の方がよく見ているし、正直でシビアです。真たちが漫画肉を食べる第16 話を次男が読んだ時には「面白かった」を言い間違えて「これ、おいしかった」という感想を言われまして (笑)。おいしそうに描けてよかったです!

――家族は他にも、猫が2匹いますね。

木野コトラ
猫は好きですが、両方とも私の意志で飼い始めたわけじゃないんです。最初に飼ったのは毛の白いオスの「にゃんこ先生」です。たまたま家の中に入ってきたので、そのまま飼うことに……。2匹目は「みつ」という名前で、メスの三毛猫です。この子は5〜6年前の夏に、車のボンネットの中にいたところを保護したんです。当時は小さくて、おはぎのような子猫でした。

――すごいところに隠れていましたね!

木野コトラ
そうですね(笑)。妹の友達に引き取ってもらう予定だったんですが、長男が「この子は僕が面倒を見るから、引き取らせてください」って言い出して……。自分で妹の友達の家にも電話して謝るというので、そこまでされたらしょうがないなと。だからみつは、長男の猫なんですね。

――猫たちも運命に導かれて、いっしょに暮らすようになったんですね。仕事部屋にも入ってくるようですが?

木野コトラ
資料がボロボロになっちゃうので、あまり入れないようにしています。自分で開けられないように、ドアノブの向きを細工しました。ふつうの向きだと、自分でドアノブを回して入ってきちゃうんですよね。賢いから油断できません(笑)

木野先生にとって漫画とは? 漫画家志望者へのメッセージも!


――ご自宅には漫画の単行本がたくさんありますが、電子書籍でも読まれていますか?

木野コトラ
読みますが、紙の漫画の方が好きですね。読み慣れているからかもしれないですが、パラパラとめくって読める感覚がいいです。それから、紙と電子書籍では、見え方が違うように思います。紙の漫画は人物、背景、文字が順を追って頭に入ってきますが、電子書籍はページが1枚の絵として目に入るような気がします。

――執筆する際には、電子書籍やWebコミックと、紙媒体での違いを意識していますか?

木野コトラ
Webコミックでも、アルファポリスさんの漫画のように見開きごとに表示される媒体ならば、特に意識はしていません。「月が導く」も、最終的には紙の単行本になりますし、紙媒体と同じように描いています。「私を墓場へ連れてって」(原作:新間一彰/ニコニコ静画)は、1コマずつ順番に画面に表示していく形態だったので、その1コマの中でどう視線誘導していくかを考える必要がありましたね。いずれにせよ、完成原稿を編集さんにお渡したあとは、どんな形態であろうとすべてお任せしますという感じです。

――木野先生にとって、編集者はどんな存在ですか?

木野コトラ
作品を世に送り出すプロだと思っています。描き溜めたものをきれいに包装して、みんなの前に出してくれる。そのためのスケジュール管理もしてくださるし、本当にありがたいです。

――では木野先生にとって、漫画とはなんでしょうか?

木野コトラ
描き手としてはライフワークです。ごはんを食べたり、眠ったりするのと同じような感覚ですね。今は早く「月が導く」の先の部分を描きたいです。原作の単行本に収録されていない部分も描きたいです!! 読み手としては究極の趣味ですね。老後までずっと楽しんでいられます(笑)

――最後に、これから漫画家を目指す人にメッセージをお願いします。

木野コトラ
そうですね……。実は漫画家になってからが大変だということも、心に留めながら頑張っていただきたいです。やっぱり体力勝負だし、自分が設定したハードルとの戦いもあるし。編集さんとのコミュニケーションも重要なので、向き不向きはあると思います。

――そうかもしれませんね。

木野コトラ
でも、まずは漫画を描いてみないと何も始まりません。ふだん漫画を描かないような人が描く作品にも、色々おもしろいものが眠っていると思うんです。もし画力がどうしても伸びなくても、漫画が好きならばネタ出しで活躍することはできますし、絵の上手下手にこだわらず、とにかく描いていただきたいですね。……要はこれからも、私もいろんな漫画が読みたいということです(笑)

――ご自身の願望がこもったメッセージですね(笑)。木野コトラ先生、インタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。

木野コトラ
こちらこそ、ありがとうございました!




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