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コラム
2022年9月9日

本屋大賞2位受賞『赤と青とエスキース』青山美智子先生の創作への意欲

赤と青とエスキース 青山美智子先生 インタビュー

2021年には『お探し物は図書室まで』が、2022年には『赤と青とエスキース』が、それぞれ本屋大賞2位に選ばれ、躍進を続けられる作家の青山美智子さん。『赤と青とエスキース』の作中作「ブラック・マンホール」のコミカライズ・プロジェクト始動を記念して、青山さんに漫画の思い出と創作にかける思いをお聞きしました。

INDEX
●最初は漫画家になりたかった
●取材するときは自分自身が心から楽しむ
●辛い時に支えてくれる息子の言葉
●『赤と青とエスキース』作中コミック コミカライズ漫画家募集!



●最初は漫画家になりたかった

――コミカライズ・プロジェクトが始動されましたが、青山さんご自身は普段どんな漫画作品を読まれますか?お気に入りの漫画作品がありましたら教えてください。

青山美智子
いっぱいあります。ありすぎて選びきれないのですが、「これは絶対に外せない」というものをしいて挙げるとすれば、山岸凉子さんの『日出処の天子』です。この作品に出会ったのは高校生の時でしたが、実はそれまで歴史ものにはそこまで興味がなかったんです。けれど、ページを開いた瞬間に、美しくて、怖くて、魅力的で、不思議で……なんだこれは!? と一瞬で引き込まれました。漫画を通してどこか遠い世界に連れて行ってくれる、とっておきの作品です。 あとは、谷川史子さんの『きみのことすきなんだ』も大好きです。好きな相手と実家の魚屋を継ぐことを夢見る高校生の男の子と、魚嫌いの女の子のすれ違う恋模様を描いた漫画なんですが、当時自分自身が高校生だったこともあり、等身大の物語として夢中で読みました。

日出処の天子 きみのことすきなんだ 20世紀少年

――『きみのことすきなんだ』の谷川史子さんといえば、複数の登場人物の視点から物語を紡ぐ、連作短編の手法が魅力的です。青山さんの小説も連作短編のスタイルを取られることが多いですが、谷川史子さんの漫画の影響も受けていらっしゃるんでしょうか。

青山美智子
受けていると思います。拙著の『ただいま神様当番』の中に高校生の男女二人の物語が出てきますが、これは『きみのことすきなんだ』の二人にかなりインスパイアされました。『きみのことすきなんだ』に収録されている「乙女のテーマ」も、三人の女の子の視点で紡がれていて、今の私の作風の礎を築いてくれているものの一つです。

――なるほど。そういった漫画作品に触れていく中でご自身が漫画家になりたいと思われたことはありましたか。

青山美智子
小学校の時は本気で漫画家になろうと思っていました。でも、「人」しか書けなくて諦めたんです。背景が描けなくて、どのコマも人の顔で埋まってしまって……(笑)。ただ、物語を書きたいという気持ちは、漫画家を目指していた頃も、小説家を目指していた頃も、同じように持っていました。私は小説のプロットを立てる時に、芸能人の方を思い浮かべたりしながら、登場人物のビジュアルを具体的に作っていくのですが、それは創造の世界に入りたいと思ったきっかけが、漫画だったからだと思います。そういった「ビジュアル」を重視して創作をしていく点では、浦沢直樹さんの『20世紀少年』にも影響を受けています。

ブルーピリオド 漫画
赤と青とエスキース』を執筆される前にハマった『ブルーピリオド』。
息子さんからお借りして読まれている。

――『20世紀少年』からは具体的にどういった影響を?

青山美智子
20世紀少年』は、お話自体も大好きなんですが、特に浦沢直樹さんの描かれるキャラクターの「表情」に魅力を感じるんです。眉や皮膚の動きによる、心の表現が本当に素晴らしいと思っていて……。実は私も小説を書くときは、頭の中でキャラクターの表情まで想像しながら執筆しているので、『20世紀少年』には感銘を受けますし、浦沢直樹さんをとても尊敬しています。



●取材するときは自分自身が心から楽しむ

――青山さんが物語を考えられるときは、ビジュアル的なイメージが先行するのでしょうか。それとも言葉が先に出てくるのでしょうか。

青山美智子
難しい質問ですね。どちらもあります。『木曜日にはココアを』や『赤と青とエスキース』は、ある「言葉」がふっと降りてきて、その「言葉」に辿り着くために物語を作っていきました。一方で『鎌倉うずまき案内所』は、キーパーソンである二人のおじいさんの姿がパッと頭に浮かびましたし、『ただいま神様当番』は「神様」のビジュアルを真っ先に思いつきました。『猫のお告げは樹の下で』も、猫の「ミクジ」というキャラクターが動いているのが見えましたね。

――ということは、現実路線の話は言葉が先、ファンタジックな物語はビジュアルが先というような傾向があるのでしょうか。

青山美智子
言われてみるとそうかもしれません。言葉が降りてきてくれるときは、それをそのまま書けばいいのですが、ビジュアルが浮かんだときは、一度文章に置き換えなければならないので大変ではありますね。けれど同時に、それが面白さでもあります。

ゲラ読み 書見台
ゲラ読みは書見台を使うことも

――今回コミカライズの対象となった『赤と青とエスキース』の中に収録されている「トマトジュースとバタフライピー」は、売れっ子漫画家・砂川とその師匠にあたる中年漫画家・タカシマとの関わりを描いた物語です。漫画家の師弟を書こうと思ったきっかけを教えてください。

青山美智子
赤と青とエスキース』は、各章に主な登場人物が二人ずつ出てきます。「二人」といっても色々な関係性があると思うのですが、三章に当たる「トマトジュースとバタフライピー」では「師弟愛」を描こうと思っていました。作品全体が「絵」を題材にした小説だったので、その世界観に合う職業を探していたところ、自分もかつてなりたかった漫画家を描いてみたいと思ったんです。実際に書いてみると、クリエイターとしてタカシマに共感する部分は大きかったですね。ただ、小説家と違って漫画家さんにはアシスタントという存在がいるので、そこに師弟愛が生まれるのではないかと想像しながら書きました。

――タカシマが出版社に原稿の持ち込みをしたり、エゴサーチをしたり、「漫画家あるある」がたくさん織り込まれているのが印象的でした。こうしたリアリティのある描写は、ご自身の体験も反映されているのでしょうか。

青山美智子
大いにされています。物語の中でタカシマが「エゴサーチする時に‶~さん″と敬称をつけて調べると傷つかない」という旨のセリフを言うんですが、それは私が編み出した方法です(笑)。持ち込みに関しては、デビュー前に、ある文芸編集者に原稿を見てもらったことがあるんです。その時の経験や気持ちを参考に書いていきました。

――青山さんの作品には、漫画家をはじめ、額職人、喫茶店の店主など、様々な職業の人物が登場しますが、毎回取材をされて書かれているのでしょうか。

青山美智子
基本的にするようにしてます。インターネットの情報にはやっぱり限界がありますし、その道のプロにお会いして、直接お話を聞く「ライブ感」を、執筆する上で大切にしています。ただ、プロットを作った段階で「ここに取材に行きたい」と思っても、できない場合もあるんですよね。そういうときは、設定自体を変更したり、自分の体験を入れたりして、できるだけ想像だけに頼って書かないようにしています。

――ご自分でアポをとられて取材にいかれるんでしょうか。取材の際に意識されているテクニックなどがあったら教えてください。

青山美智子
お店などを取材させていただくときは、最初は単なる客としてお伺いして、「お客さん」の目線で体験することが多いですね。お店の方と仲良くなった頃に、実は……と自分が作家であると打ち明けてあらためて取材をお願いすることもあります。テクニックとは違いますが、私はもともと人の話を聞くのが大好きなので、毎回ワクワクしながらお話を伺っています。どんなジャンルでもプロの話を聞くのはとても楽しくて、聞いてみたいことが次から次にあふれ出てきますね。その気持ちが取材先の方に届いて、色々教えていただけているのだとしたら嬉しいです。



●辛い時に支えてくれる息子の言葉

――初めて新人賞に応募されたのが23歳、作家デビューされたのが47歳と、これまで紆余曲折あったと思うのですが、心が折れそうになったり、小説家になるのを諦めてしまおうと思われたことはありますか。

青山美智子
心が折れそうになったことは何度もあります。でも作家になるのを諦めようと思ったことは一度もありません。作家には年齢制限がないので、諦めるきっかけがなかったんですね。

――心が折れそうな時はどうやって立ち直ってこられたんでしょうか。

青山美智子
辛いことがあった時は、いつか息子に言われた言葉を思い出します。昔新人賞をとれなくて落ち込んでいた時に、当時小学生の息子が「(『ドラゴンボール』の)悟空は強いけど、天下一武道会で勝ったことは一回しかない。悟空は勝つことじゃなくて、戦うことが好きだから、続けてるんだよ」と言ったんです。それを聞いて、ハッとして。「私は小説を書くことが好きだから続けてるんだ」と思いました。息子本人はそんなこと言ったのをもう忘れているんですけど(笑)。


小説家デビュー記念に家族から贈られた万年筆

――素敵なエピソードですね。長く執筆活動されていく中で、青山さんは書きたいものが出てこない、思い浮かばないと悩むことはありますか。そういう時の対処法やアイディアの出し方があれば教えてください。

青山美智子
書きたいことがないという状態になったことは、ないんです。むしろ書きたいことがいっぱいで、自分の人生の中で書き切れるのか心配なくらい。でも、どうしてもこの一文が気に入らないと悩む時はあります。そういう時は、息抜きをしたりせず、ひたすら小説に向き合うようにしています。出てこない時は苦しいのですが、同時に「絶対にその一文が見つかる」という根拠のない確信だけはなぜかあるんです。その予感を信じて、「その一文」を頭の中でずっと探し続けるようにしています。

――改めて、小説・創作に対して意欲的に取り組まれている姿勢を伺うことが出来ました。インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。最後に、開催中のコミカライズ・プロジェクトに参加してみようと思う方にメッセージをお願いします。

青山美智子
物語が好き、創造することが好きという気持ちがある方と、いいものを作りたいです。誰よりも楽しみに、ご応募をお待ちしています。



■ 『赤と青とエスキース』作中コミック コミカライズ漫画家募集!

2022年本屋大賞・第2位を獲得し、10万部突破のベストセラーになっている青山美智子著『赤と青とエスキース』。本書の大ヒットを記念して、第3章「トマトジュースとバタフライピー」中に登場する『ブラック・マンホール』(通称「ブラマン」)のコミカライズ・プロジェクトを始動いたします。
正賞を受賞された方には「ブラック・マンホール」のコミカライズに、作画担当として参画していただきます。コミカライズ作品は、デジタル配信、電子書籍、あるいは紙書籍など、各種媒体での販売を予定しており、弊社所定の原稿料・印税をお支払いいたします。
応募締め切りは2022年10月15日(日)24:00までとなります。是非、ご応募ください。
コミカライズ・プロジェクトの詳細はコチラ



■ 『赤と青とエスキース』


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2022年本屋大賞 第2位!!
2021年本屋大賞2位『お探し物は図書室まで』の著者、新境地にして勝負作!
メルボルンの若手画家が描いた一枚の「絵画(エスキース)」。
日本へ渡って三十数年、その絵画は「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく――。
二度読み必至! 仕掛けに満ちた傑作連作短篇。

●プロローグ
●一章 金魚とカワセミ
メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちる。しかしレイは、留学期間が過ぎれば帰国しなければならない。彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始めるが……。
●二章 東京タワーとアーツ・センター
日本の額縁工房に努める30歳の額職人・空知は、既製品の制作を淡々とこなす毎日に迷いを感じていた。そんなとき、十数年前にメルボルンで出会った画家、ジャック・ジャクソンが描いた「エスキース」というタイトルの絵画に出会い……。
●三章 トマトジュースとバタフライピー
中年の漫画家タカシマの、かつてのアシスタント・砂川が、「ウルトラ・マンガ大賞」を受賞した。雑誌の対談企画の相手として、砂川がタカシマを指名したことにより、二人は久しぶりに顔を合わせるが……。
●四章 赤鬼と青鬼
パニック障害が発症し休暇をとることになった51歳の茜。そんなとき、元恋人の蒼から連絡がくる。茜は昔蒼と同棲していたアパートを訪れることになり……。
●エピローグ
水彩画の大家となったジャック・ジャクソンの元に、20代の頃に描き、手放したある絵画が戻ってきて……。