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コラム
2020年6月18日

【グランドジャンプ】デジタルでマンガを描く!「イノサンRouge」坂本眞一先生インタビュー


集英社『グランドジャンプ』で「イノサンRouge」を連載された坂本眞一先生に、デジタルでマンガを描くことについて、また普段のマンガ制作について先生のお仕事場でインタビューしました!
※インタビューは2018年11月某日に実施いたしました


坂本眞一先生プロフィール

漫画家。2015年から2020年まで、集英社『グランドジャンプ』で「イノサンRouge」を連載。
2010年、「孤高の人」で第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。
https://twitter.com/14mountain
https://youngjump.jp/innocent/
https://www.instagram.com/14mountain/


iPadでマンガが描くという環境が、今後、マンガ家にどのような意識の変化をもたらすのか楽しみです

—完全デジタル画集『イノサン画集“ G ”』 (※)の発売、おめでとうございます。こちらの画集について教えてください。
※Apple Books限定で2018年11月16日発売


坂本
今回の画集はデジタルなので、絵を拡大して深くダイブしてみられる機能「Deep Dive View(ディープ・ダイブ・ビュー)」がついています。ぜひ、単行本のサイズでは再現できなかった、細部のこだわりを見てもらいたいなと思います。

というのも、絵は細部を突き詰めて描くことによって凄みが出ると信じているので、かなり細かいところまで作画しているんです。
もちろん引きでみたときに全体のシルエットを見失わないようバランスを考えながら作画していますが、デジタル画集では寄りも引きもどちらも見ていただけるので、日々挑んでいることがようやく日の目を見たという感じです。

—画集に収録されている絵のなかで、特にお気に入りの作品や思い入れのある作品はありますか?

坂本
どれも思い出深い絵ですね。今の絵と初期の拙い感じが同時に見られるので、カラー原稿の変遷というか、そういう部分も見てもらえたら面白いかなと思います。

—今回のデジタル画集に収録されている作品は、すべてデジタルで描かれているのでしょうか。

坂本
今回の画集に収録されている作品は、アナログで描かれたものは1枚もなくて、カラー、モノクロ含めてすべてデジタルで描いています。

マンガはComicStudio(コミックスタジオ)とCLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント)(※)で作画していて、カラー(動画を除く)はCLIP STUDIO PAINTで着色しています。
※CLIP STUDIO PAINTはイラスト・マンガ制作ソフト。Win/macOS版、iPad版がある。

—画集にはiPadで描かれたメイキング動画が収録されていますが、マンガもiPadで制作されているのでしょうか。

坂本
連載している作品はまだiPadで描いたことがありません。まずはネームをiPad でやってみたいなと思っていて、今少しずつ歩み寄っている感じです。 ネーム作業は頭から降りてきたものを描き起こす作業なので、その間にあまり余計なものを入れたくなくて、なかなかアナログから移行できずにいます。 でも、例えば、1コマだけ直したい時に全部描き直しというのは体力的にも消耗するので、デジタルならそこが解消できますよね。

体力といえば、ネームの作業は不思議なんですが、終わった時に大泣きした後のような、感情をMAXまで持っていった後のような疲れた感じになるんです。もう若くないので(笑)、デジタルに力を借りながら、体力を温存しながらマンガ制作を続けていきたいです。

—今後のマンガ制作にiPadを活かしていきたいということですね。

坂本
昔19世紀に、油絵の具が粉からチューブに変わったことがきっかけで、画家たちが屋内から戸外に出て風景とか光の移り変わりを正確に絵に描写することができるようになった、閉じられた環境から世界が広がった経緯があるんですね。

それがまさにこの iPad で、外でマンガが描けるようになったことで、今後、何が起こるのか、マンガ家にどのような意識の変化をもたらすのかすごく楽しみです。


完全デジタルオリジナル画集『イノサン画集“ G ”』

広色域・高精細なiPad Proのディスプレイにあわせ、ほぼ全点のカラーイラストレーションを再調整~加筆されている。
細密な絵のディテールを拡大してみられるため、雑誌やコミックスサイズでは再現しきれなかった絵の細部まで見ることができる。
Apple Books限定販売。


デジタルは後戻りできるので何度も実験できるんです。だから、表現を突き詰めることができる楽しさや喜びがあります

—デジタルでのマンガ制作はいつ頃から始められたのでしょうか。

坂本
「孤高の人」の連載が終わって次の連載の「イノサン」がはじまるときなので、5年くらい前です。

デジタルに移行したのは本当に単純な理由で、アナログ原稿で思ったような線(表現したい線)が引けなくなったためです。そもそも、アナログのマンガはマンガ専門の線を引く道具というものが存在していなくて、製図用のペンや製図用のインクを使っているんです。
だから、線が引きにくいなと思っても、「このペンちょっと使い勝手悪いんじゃない?」ってクレームを出すのは筋違いですよね。

それで理想の線を引くための新しい道具を探しているなかで、デジタルに興味を持ちました。
ちょうどその頃、気に入っていたアナログの原稿用紙が廃盤になったりして、世の中的にも紙からデジタルに移行するか…という時期だったので、これはもうデジタルに移行するしかないかなと思いました。

—アナログからデジタルに移行されて、とまどいなどはありましたか。

坂本
あります、いまだにとまどっていて、もっと勉強しなきゃという感じです。これは変わらないですね。
ただ、アナログで描いていたときは1回きりの勝負、失敗が許されない状況での作画でしたが、デジタルは後戻りできるので、思いついた技法を惜しみなくチャレンジすることができるんです。

楽しくて、どんどんこだわって、逆に時間がかかってしまうんですが、表現を突き詰めることができる喜びがあります。

—日々、絵の進化を探求されているんですね。

坂本
自分が飽きっぽい性格なのもあって、常に何か新しいものを取り入れて刺激が欲しいと思っています。

デジタルの世界っていうのは進化というか技術の進歩が速くて、そのスピードに対応するためにスタッフの力を借りて、常に新しい技術を取り入れながら制作しています。

スタッフを含めたメンバーの中では自分が一番デジタルにうといというか、詳しくありません。みんなからデジタルについて教えてもらいながら、みんなのおかげでやっていけています。


▲先生のお仕事場には5人のスタッフさんが常駐。もちろんスタッフさんもデジタル環境で制作されている。「イノサン」の世界を坂本先生と作画していく精鋭ぞろいだ。

—デジタルでは、ComicStudioからCLIP STUDIO PAINTに移行されている途中(どちらも使用されている)とのことですが、このふたつのソフトで違いはありますか?。

坂本
CLIP STUDIO PAINTは、線の美しさとか軽いタッチが自然に近い感じで描写できるのがすごく良いですね。

ComicStudioの場合はどうしても線の粗さというか、それはそれで味として良かったんですが、CLIP STUDIO PAINTはさらに線の美しさが際立っています。 細かい影をつけるときに、線で描いているのに引きで見ると水彩画のように表現できているような感覚です。繊細に描けるようになりました。


▲液晶ペンタブレットCintiq24HDとTAB-MATE CONTROLLER、CLIP STUDIO TABMATE(どちらもCLIP STUDIO PAINT用の片手入力デバイス)を使用して作画されている。液晶ペンタブレットの下にはキーボードを配置。

—CLIP STUDIO PAINTの便利な機能、よく使う機能はありますか?

坂本
[素材]パレットはよく使っています。たとえば、キャラクターの髪型をなびき方の違いなどでいろいろなパターンを登録しています。

あと、素材としての使い方ではないんですが、「あのキャラクターの髪型はどんな風だったかな…?」というときに、ここで確認できるので、それもすごく助かっています。とにかくキャラクターが多いので、素材を名前で管理していますが、名前を[素材]パレットの検索窓に入力すればそのキャラクターの髪型がすぐに出てくるので大事な資料になっています。


▲髪の毛などの素材は[素材]パレットでこのように管理されている。キャラクターごとにフォルダ分けされていたり、髪だけのフォルダもある。

—登録されている素材をどのように作品に使用されているのでしょうか。

坂本
ほとんどの場合は、下描きのさらに下描きとして参考にしています。スタッフを含め、僕たちは読者に作品を提供してお金をもらっているので、安易に複製して大事な場面をおざなりにはしたくないと思っていて、常に新しい絵を提供したいと思っています。

キャラクターデザインについて、坂本先生にお伺いしました!

坂本
キャラクターは読者にそのキャラクターを知ってもらわないといけない、友達になってもらわないといけないと思っています。
作品では作家からどんなキャラクターなのかを提示する時間を長くは取れないので、なるべく最短で読者に伝える方法としては、外見、デザインが大事な要素かなと思います。

読者がどこまでその情報を拾ってくれるかというのは分かりませんが、例えばアントワネットの場合、眉毛をかなり太くしています。
これは、ごく普通の女の子だというのを表現したいなというところから考えました。

アントワネットは、浪費家だとか遊ぶことが大好きで色々言われてしまうんですが、それでも自分の中では普通の女の子だととらえていて、普通の女の子でも環境次第で酔いしれてしまう…というのをアントワネットで表現したかったんです。
太い眉毛というのは少女のままの、ありのままのやぼったさの象徴です。

キャラクターデザインは何かキャラクターの持っている立ち位置を活かしながらデザインしていくのが基本ですね。


『イノサン画集“ G ”』カラー原画パートより抜粋(「イノサン」7巻表紙)


線の存在に疑いを持っていて、実際にはない線をマンガでどうやって乗り越えるか考えています

—普段のマンガ制作について教えてください。ネームはアナログで描かれているということでしたね。

坂本
ネームは、基本的には仕事場のデスクで考えています。あとは外を歩きながらだったり、お茶を飲んだりしながら気持ちをフラットにして構想を練るという感じです。
ただ、ネームは月曜・火曜で考えるんですが、だいたいは火曜の夕方の追い込まれたときに出てきます、不思議と(笑)。

—ネームが終わったら、次は下描きでしょうか?

坂本
次にやるのは写真撮影です。うちの製作工程はちょっと特殊で、ネームを元にスタッフさんに衣装を着てポーズや演技をしてもらって、写真撮影をするんです。 ネームを見ながら、こういう時にキャラクターはどんな仕草をするのか、こういう時ってどんな手つきかなと、スタッフと一緒に考えてポーズを作っていきます。

馬に乗るシーンなんかは、キューブ型の椅子を重ねて乗って、他の人がマントをなびかせます。追われてる状況のスピードだとそういうなびき方じゃないとかあれこれやりながら、空想しながらポーズを取っています。


▲お仕事場(先生の机の横)には、写真撮影で使用する衣装が置いてある。スタッフさんがこの衣装を着て、場面を再現して写真を撮る。

坂本
衣装は、原宿にあるビジュアル系のお店に買いに行ったり。作ってもらった衣装もあるんですが、クリーニングに出せないため歴代のスタッフのいい感じの汗が染みついています(笑)。
ドレスの後ろ側はあまり資料もないので参考になりますし、ドレスを捲し上げたときのシワも実際にやってみると本当に素敵なので、実物があるのは大切ですね。

—写真を撮影する手法は以前から行われていたのでしょうか?

坂本
「孤高の人」を描いているときから始めました。
それまでは写真使わずに描いていましたが、このマンガは実際の人物をモデルにしていて、たくさんの登山愛好家がいるジャンルで、登場する山の道具に嘘つきたくなかった。
さらに、危険や命がかかっている道具ですから間違えてはいけない。間違えないためにはどうすればいいか…というのを考えて、ギアの結び方や組み立て方を全部再現して写真を撮れば間違いがない、というところから始まりました。
当時は、未踏のK2を登る本当のフル装備をして毎回頭がこんがらかりながらロープを結んでいました。

その手法をイノサンでも使えるんじゃないか、この時代の細かいレースの表現などを描くときにも写真を撮る技法は通用するんじゃないか、と思って続けています。

—撮影した写真はどのように使われているのでしょうか。キャンバスに読み込んで、それを参考にして下描きをしているのでしょうか。

坂本
こんな感じで写真をはめ込んでいます(※下の写真参照)。原稿に読み込んで写真を切ったり貼ったり伸ばしたりしながら変形させています。 写真も素材と同じで、そのまま使ってはいません。マンガというのはいい意味で夢を見せなければいけないので、華やかにするためにだいたい11~12頭身にしています。

そこから下描き、線画を描いてから、スタッフさんに指定して原稿を作ってもらう感じです。


▲実際に写真をキャンバスに読み込んでいる状態を見せていただいた。下描きが終わると写真のレイヤーは非表示にされている。

坂本
顔の位置や大きさなども描くときには写真とはかなり変えていますが、写真で一番重要なところがあって、それは目線です。
目は何を見てどこを向いてるかは表情の基本になるため、瞳の位置は参考にしています。写真を撮影するときも、目線は特に大事にしてますね。

—背景も写真を貼り込んでから描いていくかたちでしょうか。

坂本
背景は過去に3回イベントや取材でパリに足を運んでいますので、その時に撮りためた写真で作品の中の背景を再現しています。
看板を消したりして当時の街並みに変化させていますが、当時のフランスと今のフランスも違うので、写真の資料だけではなく、昔の絵画の風景を参考にして描き足したりして描いています。

—坂本先生のマンガは繊細で美しい線が特徴的ですが、線について気を付けていることはありますか?

坂本
今は線の存在にすごく疑いを持っています。実際の鼻や手には線があるわけではなくて、光と色と影で境界ができていますよね。
その線をマンガでどうやって表現するか、乗り越えるかを考えています。

実際にモノクロ原稿を見てもらえば理解していただけると思いますが、あまりハッキリした線を描きたくないので、線を一度引いたあとに、その線を消す作業をしています。
いずれは、黒い線が一切ないという、そこまで突き詰めたマンガを描いてみたいと思っています。


『イノサン画集“ G ”』モノクロームパートより抜粋(「イノサン」5巻掲載)

–線画以外の、ベタやトーンなどの仕上げ作業はどのように描かれているのでしょうか。

坂本
トーンに関してはスタッフさんに一切お任せしています。
既成のマンガ表現に頼らないで作画していこうと思っているので、基本的にあまりトーンは使っていないのですが、トーンを使うというよりは、グレーで塗ってそれをトーン化(※)しています。
※CLIP STUDIO PAINTには、グレーで塗った濃淡のある原稿をワンクリックで網点のトーンに変換する機能がある。

ベタも塗りつぶしではなく、カケアミでタッチで線を重ねていくという感じです。デジタルなんですけど、デジタルに負けない、手描きのあたたかさを大事にして絵を追及してしきたいですね。
デジタルに環境が移っても、線を描いていく作業はアナログと変わっていません。

その他の仕上げに関しては、背景、服の刺繍とかレース・リボンなどの装飾、フランスを彩る調度品などの小道具は、それを描くのが得意なスタッフにそれぞれ描いてもらっています。
スタッフが得意分野を活かして仕上げていく感じですね。

カラーでもモノクロでも、とにかくスタッフには力をセーブするんじゃなくて解放して原稿を楽しんで欲しいというのをいつもお願いしています。そこはもう自由です。

—最後に、このインタビューを読んでいるマンガ・イラストを描いている若いクリエイターやクリエイターの卵に何かメッセージをお願いします。

坂本
自分たちの世代のマンガ家は、若いころにデジタルの環境がここまで整うとは微塵も思っていなかった。
みかん箱と紙とインクがあれば描けるんじゃないか、それで生きていけるんじゃないか、と思っていた世代なんです。
それが今では紙じゃなくてパソコンに向かってデジタルで描いている状況になり、時代が変わったなと思っていたら、イヤイヤまだまだ…さらに iPad が出てきたぞ…となった。

ちょっと語弊があるかもしれませんが、僕たちの世代は、人とのコミュニケーションが苦手な、引っ込み思案の子が机に向かって「もし自分がスーパーヒーローだったら」とか空想しながら漫画を描いていたんです。
もちろん自分もそうでした。それがiPad を持って、外でマンガが描けるという環境ができてたので、部屋に閉じこもるんじゃなくて、ぜひ外で描いてみてもらいたいです。

新しい世代の方たちが外でマンガを描くことによって何をしてくれるのか、何を見せてくれるのかとても楽しみです。同時に、自分もそれをやることによって何が変わるのか楽しみですね。


「イノサン」「イノサンRougeルージュ」

18世紀のパリの死刑執行人、サンソン家四代目当主として生まれた、シャルル=アンリ・サンソンが主人公。フランス革命のさなか、過酷な運命に立ち向かうシャルルや妹マリーの姿が描かれている。

「イノサン」1~9巻発売中/「イノサンRougeルージュ」1~12巻発売中

集英社グランドジャンプ公式サイト


(C)坂本眞一/集英社


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