マンダンラジオ出張掲載版#2 週刊連載漫画家のスケジュールと原稿が早い人遅い人の違い
■マンダンラジオ 漫画家2人が漫画について語るラジオ
漫画家として活躍されている安藤正基先生が中心となって、漫画に関するアレコレをテーマに様々なゲストを招いて、ゆるく楽しく語り合うラジオ企画!毎月下旬頃にYouTubeにて配信中!
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※2020年5月20日にYouTubeにて配信された内容を許諾を得て一部記事化内容を再構成しております。是非、本編アーカイブもご覧ください!
安藤正基:
ガチの週刊連載作家の方にお話を聞いていきたいということでゲストをお呼びしております。週刊少年マガジンで『ランウェイで笑って』を絶賛連載中(※YouTube配信当時)の猪ノ谷言葉さんです。どうぞ!
猪ノ谷言葉:
はい、こんばんは!猪ノ谷言葉です!よろしくお願いいたします。
ちると:
今日は凄い貴重な日ですよ。現役週刊連載作家さん忙しいから。
-週刊連載作家っていつ休んでいるのか
安藤正基:
純粋に考えたら休みないはずなのよ、俺らの感覚からすると。
ちると:
私の月45ページの時ですら、休みがなかったので...。猪ノ谷さんって月どのくらい描かれるんでしたっけ?
猪ノ谷言葉:
80ページ?
安藤正基:
80ページって、俺の4倍描いているじゃん。俺は月20~25ページぐらい。『ランウェイで笑って』の密度なら、ちょっと半年ぐらいはいただきたい(笑)
猪ノ谷言葉:
いや~やれって言われたらやるんだよみんな!
安藤正基:
週刊連載の漫画家さん、皆さん言うんですよ!やってみれば案外出来るみたいな。俺なんかワイド4コマで月20ページって舐めているのかという生産力なんだけど。
猪ノ谷言葉:
それってさ、月20ページ切ることはないの?
安藤正基:
月18ページの時もあるよ。
猪ノ谷言葉:
あ~甘えだ(笑)
ちると:
気になっているんですけど、猪ノ谷さんって睡眠時間削ります?
猪ノ谷言葉:
削らないです。7,8時間ぐらい?
ちると:
それで、仕事始まりは?
猪ノ谷言葉:
最初は午前10時だったけど、最近午前11時だね。午前11時で終わるようになってしまった。描いていると早くなるよね多少は。
安藤正基:
でも、描いていると絵の密度が上がっていて落ちるみたいなのあるじゃないですか。
猪ノ谷言葉:
ペン入れは遅くなっているのよ。下書きが早くなった。下書きはアタリぐらいで描いておけば、ペン入れでなんとでもなるかなと。
安藤正基:
俺は下書きをペン入れぐらい描いているから遅いんだよな...。でも、アタリからは線取れないのよ...。
-連載作家の週刊スケジュール
安藤正基:
普通に考えてさ、週刊連載もエグいのに3ヶ月に1回単行本出しているのが本当に信じられなくて。
猪ノ谷言葉:
これはね、これはアホだと思うよ(笑)。休みはあるんだけど、単行本が入ってくると休みの日に作業しなくちゃだから、実際休みが週に定期的にあるのは2か月のうちのひと月。片方は休みない。
安藤正基:
俺は毎月2週間休んでいる...。
ちると:
猪ノ谷さんって、いつ休んでいるんですか?
猪ノ谷言葉:
休んでいるのは週に2日。
安藤正基&ちると:
週に2日!?
猪ノ谷言葉:
土曜日と日曜日に原稿で、月曜日に原稿アップ。割合としては土曜日に6ページ、日曜日に6ページ、月曜日に8ページかな。火曜日が休み。水曜日がネーム作業。木曜日が打ち合わせ。金曜日が休み。
安藤正基:
ネームの後に打ち合わせしているんですか?
猪ノ谷言葉:
ネーム描いて、それを木曜日に見てもらって、その時来週の分も考えちゃう。
安藤正基:
コメント欄の平野稜二くんが「嘘だっっっ!!!!」って言ってますね。かつて週刊少年ジャンプで3ヶ月連載していた平野稜二くんが信じられないという。(2018年に週刊少年ジャンプにて『BOZEBEATS』を連載)
猪ノ谷言葉:
週刊少年ジャンプは19ページだしね。
ちると:
安藤さん、これどう?
安藤正基:
これは、理論値。俺はこのスケジュールで週刊連載やっていくんだぞという。夏休みの宿題のような。これは理想でしかない。これは不可能。ちるとさん、『とっても優しいあまえちゃん!』の時のスケジュールを書いてくださいよ。
ちると:
いやだよ...。えっと...。
安藤正基&猪ノ谷言葉:
(爆笑)
ちると:
土曜日にネーム。日曜日から木曜日まで原稿...。こうですね!あのね、俺原稿凄く遅いんですよ。でもネームはすぐOK出るから、本当に誰か作画してくれって感じ。
安藤正基:
俺からしたら、ちるとさんの週刊連載のスケジュールわかる気がする。
ちると:
2ページ何しているのという感じかもしれませんが、本当に2ページなんですよ。
安藤正基:
俺も、2ページしか進まない日あるもん、全然わかる。
猪ノ谷言葉:
でも、俺のスケジュールは週刊連載漫画家だと多分中の上ぐらいのスピード。俺より早い人山ほどいるもん。
ちると:
一番早い人はどんな感じなの?
猪ノ谷言葉:
えっとね、20ページを2日とか調子がいいと1日で終わらせちゃう人もいる。
安藤正基:
え...1時間1ページ描いているということ...?
猪ノ谷言葉:
それこそ、1人で週刊連載している方もいるし、背景とか含めて。
安藤正基:
いますよね。週刊ヤングジャンプで『COPPELION』描かれていた井上智徳先生だったり、週刊少年チャンピオンで『弱虫ペダル』連載中の渡辺航先生だったり。
猪ノ谷言葉:
週刊少年マガジンで連載していた『七つの大罪』の鈴木央先生もね。いや~、ありえんよ。
-原稿が早い人、遅い人の違い
ちると:
猪ノ谷さん、ズバリ原稿あげるスピードが早い人遅い人の違いってなんだと思います?
猪ノ谷言葉:
やっぱ、迷わない人だよね。描くときに。要は一本線を引いて消しちゃう人は遅いよね。デジタルで絵を描いている人は準備運動みたいに線を引くじゃないですか。はい、はい、はいー!って引くじゃないですか。
ちると:
でもさ、迷わないって言ってもさ、一発目で原稿のクオリティとか考えていくとやっちゃうじゃないですか。
安藤正基:
アナログの頃思い出すと原稿の描きなおしできないからね。そういう気持ちで線を引けってことなんだろうね。
猪ノ谷言葉:
なんかね、線ずれたと思って、線を消して下書き通り引きなおしたりすることもあると思うけど、意外とずれた線から繋げて、さらに輪郭だから太くしようとしたとき、ずれた線が目立たなくなることがあるのよ。だから意外と狙った通り引くことが重要じゃない。はみ出したところ消しゴムで消す人が多いかも。Ctrl+Zでまるまる消しちゃうんじゃなくて、引いて不格好なところは直すみたいな。そういう方は早い人が多いんじゃないかなと。多分、大変なのはみんな早く描く練習はしていないんじゃないかなと。絵を描く練習はしているけど、早く描くをしたことがないんじゃないかなと。
ちると:
早く描く練習はどうすれば?
猪ノ谷言葉:
一発描きの練習をしたり、一発描きである程度描けるようになれば、下書きが雑でもペン入れで描けるようになるんだよね。だから、僕は連載前に早く描く練習をしていて、連載初期は1ページペン入れするときにタイマーで1時間セットして、その1時間内でペン入れが終わるようにしている。
ちると:
俺も本当はいっぱいページ描きたいんですよ、でも現実問題絵を描くの遅いから、ネームもあえてぎゅっとしたりとかして...これ克服できたらいっぱい描けるのにという。
猪ノ谷言葉:
あとは、アタリとらない人が多いね、下書きするとき。アタリとらないというか簡略的な?
ちると:
もうそれは意識的な問題?
猪ノ谷言葉:
それは凄いある。出来るという成功体験していないから、下書きを細かく描いちゃうんだよね。だから、細かく描かないという練習をするんだよ、あれ意外と描けるんじゃないかという成功体験があったら絶対出来るんだよ原稿で。
#182 pic.twitter.com/kBiQhQKzPB
— 猪ノ谷言葉 (@inoya5108) April 7, 2021
-少年漫画で気をつけていること
ちると:
少年漫画描いているときに気をつけていることはありますか?
猪ノ谷言葉:
連載している漫画家さんたちは多分編集さんから痛いほど言われていると思うけど...。読者の方は怒らないでほしいんですけど、作者が頭の中で描いているほど、簡単に理解してもらえないから、わかりやすく描きなさいと。
ちると:
自分の愛着とかが独り歩きして自分は理解できるけど、他の人には簡単に理解してくれないというような。
猪ノ谷言葉:
ちゃんと中身を理解して言うと、漫画を読む人がそんなに一文字一句読み逃さないぞっていうほど真剣に読まない。流し読みというかさらっと読んでても入ってくるような情報にしないととよく言われていますね。例えば、「駄菓子屋さんに買い物行くよ」というセリフを言う時に、「行くよ」というセリフで終わらせちゃうことがよくあるんですよ。駄菓子屋っていうのはその前の下りで言っているから駄菓子屋に行くってわかるでしょと作者は書いちゃうけど、ちゃんとそのセリフに「駄菓子屋に行こっか」というセリフにしてみましょうというのが少年漫画にある。「行くよ」というセリフに「あれどこに行くんだっけ」という疑問を読者に抱かせない、より読みやすさに配慮しているのが少年漫画かなと思っている。
安藤正基:
僕もあらすじをちょっとでもいいからつけてくださいと言われますね。ちゃんとしたあらすじじゃなくてもいいけど、読者が思い出せるキッカケとなるワードぐらいは入れてほしいとか。こっちは1ヶ月開いちゃうので。でも、週刊とかでも引きがあって次の週になったら同じような引きがもう一回頭が入っているのがあるし、この続きかとわかりやすい。
ちると:
ここ、気配りしているぜというポイントはありますか?
安藤正基:
どうしても情報量が多い漫画、専門用語出たり、名古屋の人にしかわからない情報だったり、あくまでメインのキャラたちは高校生たちだから、高校生なりの言葉にかみ砕くようにしていますね。
猪ノ谷言葉:
僕も専門用語系ありますね。僕もファッション扱うので専門用語扱うのですが、気をつけているのは、専門用語の部分は読み飛ばしても話の流れがわかるようにしている。専門用語でばぁーって読みたい人は読んでねぐらいの感じで置いて。で、大きいセリフでこれをクリアしないとダメだみたいなとか、説明のページは1ページになるべく短く収めて、頭使わないといけないところを20ページのうちの少ない部分に収めるとか配慮はしている。
安藤正基:
ヒカルの碁(1998年~2003年に週刊少年ジャンプで連載)で見たやつだ。
猪ノ谷言葉:
そうそう!ヒカルの碁よく読んだら凄いそうなっている。
安藤正基:
ヒカルの碁ってめちゃくちゃ面白いけど、碁のルールはよくわからず読み終わる。でもちゃんと書いてあるんだよね。これはこのこととか。でもそこを読まなくても話の軸はわかるよう出来ている。ちるとさんはどうです?
ちると:
俺は青年誌のアドバイスでよく言われる、キオスクで買って電車の中で読み終えるように描けって言われたなぁ。家でじっくり読むように出来ていなくて、駅で買って電車の中で読んで電車から降りたら捨てるみたいな。そういう片手間で読める漫画というのを意識して作っているなぁ。
-コンディションが優れない時の対処法
ちると:
猪ノ谷さん今日ダメだなという日はないんですか?もう筆握れないとか。
猪ノ谷言葉:
あるある。あぁでも筆握れないはないかな。例えば絵の調子が悪くて描きたい線が見えないなというときは理屈、目はこうついてて、目はくぼんだ所についてて眉毛はそのくぼみから出たところで...と理屈でなんとか描いている。
ちると:
基礎あってこそみたいな。
猪ノ谷言葉:
早く描くには感覚で描けるまで、落とし込まないといけないんだけど、調子が悪いと感覚が鈍るんだよね。そういう時、ちゃんと描き方を言語化できているとある程度形になる絵を描けるんじゃないかなと思っている。
安藤正基:
休むとかじゃないんですね、描けなくても描くんですね。
猪ノ谷言葉:
え、いや、あぁなるほど、描けなかったら休むという選択肢が(笑)。僕は逆に土日月じゃないと原稿描かないぞって思ってる。この日過ぎたら自分は原稿描けないやる気が起きない。だから意地でも土日月の三日間で終わらせるようにしている。自分はここが崩れたら戻せないって分かっているから。
他にも、猪ノ谷さんとの出会いや漫画家を目指す方に向けたアドバイスなどもありますので、是非アーカイブをご覧ください!
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■出演者
一迅社の月刊ComicREXにて「八十亀ちゃんかんさつにっき」(既刊10巻)という名古屋を舞台にした漫画を連載中。2019年~2021年にわたりTVアニメ3期放映。過去にはメーカー公認文房具コメディ漫画「ぶんぐりころころ」(全2巻)をマンガボックスにて連載。
KADOKAWAにて成人男性が女子小学生に甘える漫画「とっても優しいあまえちゃん!」(全4巻)やニコニコ静画にて「白魔導師シロップさん」(全2巻)、少年ジャンプ+にて「先輩!俺の声で癒されないでください!」(全2巻)を連載。7月16日より『マジメサキュバス柊さん』を連載開始。
講談社週刊少年マガジンにて『ランウェイで笑って』を連載。2020年にアニメ化もされ累計発行部数300万部突破する人気作の中惜しまれつつも2021年7月14日連載完結。