【アルファポリス】プロ漫画家インタビュー! 漫画家夫婦のデビュー時代/藤沢真行先生&鈴木イゾ先生
ある日、没落貴族の末弟エヴァン・ダグラスは不思議な夢を見る……それは、未知の技術で溢れた世界で「制御工学」という学問に励む自分の姿であった。──しかし、見た事もない文字と数式からなるそれを、何故か知識として理解できたエヴァンは、一念発起。魔力ベクトルを操る超絶技巧「制御魔法」として昇華! やがて獣人メイドのセラフィナとともに出奔した彼は、危険な剣と魔法の世界で、運命と対峙する道を選ぶ。
──運命すらも制御する、超絶技巧の異世界ファンタジー、待望のコミカライズ!!
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藤沢真行/漫画
神奈川県出身。代表作は「戦場のヴァルキュリア3 名もなき誓いの花」(アスキー・メディアワークス刊)他多数。精緻な描写と、躍動感のあるアクションで活躍中! また、ソーシャルゲームや、幼児誌の付録など、幅広いジャンルのイラストを手がけるマルチクリエイター。可愛いデフォルメキャラから、異形のクリーチャーまでドンと来い!
佐竹アキノリ/原作
試される大地出身。2013年頃からWeb上で小説を書き始め、大学で学んだ制御工学の知識を生かした「異世界を制御魔法で切り開け!」で出版デビュー。他の著書に「異世界に行ったら魔物使いになりました!」(アルファポリス)、「転生魔術師の英雄譚」「逆成長チートで世界最強」(ヒーロー文庫)、「魔物と始める村づくり!やる気なし魔導師の開拓記」(レッドライジングブックス)シリーズがある。
魔王討伐軍の平兵士ジョン・セリアスは、長きにわたる戦いの末、ついに勇者が魔王を倒すところを見届けた……と思いきや、敵の残党に討たれてしまう。あっけなく戦死したはずのジョンが目を覚ますと、彼は魔族に滅ぼされたはずの故郷で、赤ん坊になっていた――。自分が過去に戻ったのだと理解したジョンは、前世で得た戦いの技術と知識を駆使し、悲劇の運命を変えていくことを決意する! 一兵卒によるタイムトリップ逆襲ファンタジー、待望のコミカライズ!!
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鈴木イゾ/漫画
漫画家、イラストレーター。神奈川県在住、B型。漫画と並行して別名義でゲーム原画の仕事をしていたことも。代表作は『魔法精錬 ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ』全3巻(双葉社/アクションコミックス)など。
丘野優/原作
宮城在住。2012年からWeb上で小説を公開し始め、徐々に人気を得る。
2014年に「平兵士は過去を夢見る」で出版デビュー。他の著書に「蘇りの魔王」(オーバーラップノベルス)シリーズがある。
※2017年1月にアルファポリスサイトにて掲載した記事を再構成しております。なお、記事中の情報は初掲載時のままです。
――コミック「異世界を制御魔法で切り開け!」(以下、「制御魔法」)を手がける藤沢真行(なおゆき)先生と、コミック「平兵士は過去を夢見る」(以下、「平兵士」)を手がける鈴木イゾ先生に登場していただきました。実はおふたりはご夫婦なんですよね。藤沢先生がご主人で、鈴木先生が奥様です。
藤沢真行
はい、夫婦です。
鈴木イゾ
大学生の頃、共通の友人を通じて知り合いました。私の大学の友達が、藤沢先生の友達だったんです。それで一緒に遊んだり、同人誌を作るようになって。
藤沢真行
それぞれ別々に漫画家として仕事をしていた2004年に結婚しました。
――そうだったんですか(笑)。お仕事場には、玄関を上がったところに立派なロードバイクが2台置いてあって驚きました。おふたりとも自転車が好きなのですか?
藤沢真行
そうですね。気分が乗った時に走りに行くんです。
鈴木イゾ
一緒に走りに行く時もあれば、勝手にひとりで行く時もあります。
藤沢真行
おもに自分が勝手に走りに行っていますが、昨年は雨に降られることが多かったんです。装備もしっかり整えて出かけたのに、ひと駅分走って調子が出てきたら、雨に降られて撤収したりとか。今年はもっと走りたいですね。
――アクティブな趣味の話題からお話が始まりましたが、改めまして、おふたりの幼少時代からの経緯をおうかがいします。子供の頃、どのような漫画に触れられてきましたか?
藤沢真行
子供の頃は「週刊少年ジャンプ」(集英社)全盛期でしたね。「キン肉マン」(ゆでたまご/集英社)、「北斗の拳」(原作:武論尊/作画:原哲夫/集英社)、「聖闘士星矢」(車田正美/集英社)のあたりは、漫画もアニメも好きでした。中高生の頃には「コミックGENKi」(角川書店)や「ファイブスター物語」(永野護/角川書店)を読むようになり、劇場版「ファイブスター物語」をきっかけに海洋堂の存在を知ってからは、プラモデルなどの造形物にもハマっていき……。完成したガレージキットを眺めるために、ホビーショップのB-CLUBショップに入り浸るようになりました。
鈴木イゾ
私は小さい頃は絵本が大好きで、小学校に入ったら児童文学や小説を読むようになり、日々図書館に通っていました。ファンタジー小説が好きで、「宇宙皇子」(著:藤川桂介/角川書店)が印象に残っていますね。いのまたむつみさんが描いた小説の表紙イラストを見た瞬間に「わ、ステキ!」と思って衝動買いしたんです。
――いつごろから漫画やアニメに触れるようになったのでしょう?
鈴木イゾ
本格的には中学生の頃からですね。当時は厨二病を発症していて「みんなと違うものが好きな自分が好き」という時期でしたし(笑)、“オタクの師匠”みたいな友達ができたんです。劇場版「ファイブスター物語」は、「宇宙皇子」と同時上映だったので私も観ています。友達のオタク英才教育の影響で、作画監督やキャラクターデザインの話で盛り上がりました(笑)
――いっぽう、藤沢先生は昔から特撮がお好きだということですが、どういうきっかけで好きになったのでしょうか?
藤沢真行
もともと小さい頃から興味はありましたが、厳密にいうと仮想現実を実写映像化する、VFXが好きなんです。だからヒーローものなど、日本の特撮はもちろん、ホラー映画やSF映画も大好きです。特撮映画監督のレイ・ハリーハウゼンの作品や、「エイリアン」シリーズ(20世紀フォックス)は、自分の漫画作りにも大きな影響を受けたと思っています。
――特撮やVFXが好きだから、アクションを描くのが得意なのでしょうか?
藤沢真行
アクションが得意と思っていただいているなら、他にもいろんな要素が混ざり合っていると思います。アクション映画や格闘ゲームブームの洗礼も受けていますから。中高生の頃は「ストリートファイターⅡ」(カプコン)はもちろん、3D格闘ゲームの「鉄拳」(バンダイナムコエンターテイメント)もやり込みました。そう考えると、アクションを立体的に描けるようになったのは、3Dゲームの発達があったともいえるかもしれないですね。
――鈴木先生は高校生になってから、どんなことに熱中していたんですか?
鈴木イゾ
申し訳ないのですが急にオタクであることが恥ずかしくなり、アート路線に転向しました(笑)。振り返って考えてみると、「みんなと違うものが好きな自分はイヤ」という、いわば「逆厨二病」だったように思います。美術系大学を目指して予備校に通ったりして……。
――美術大学の受験を目指したということは、専門の予備校ですね。
鈴木イゾ
はい。なんとか現役で多摩美術大学に合格して上京したのですが……入学したら、周りは才能があって尖った人だらけ! 私も絵はそこそこ描けたし、地元では少し粋がっていましたが、大学に入ってからは「私って凡庸な人間だなぁ」って衝撃を受けました……。こんな人たちの中でどうしようって思っていたら、中学時代の“オタクの師匠”が、近くの美大に進学してきて(笑)。“師匠”のつてで、同人誌を描いている人と友達になり、原稿を手伝うようになり、さらにコミックマーケット(以下、コミケ)にも行くようになったんです。自分で作品を発表できる場があるならと、私も同人誌を作って参加するようになりました。
――当時はどんな同人誌を作ったのでしょうか?
鈴木イゾ
オリジナルのファンタジーものです。のちに双葉社さんで連載させていただいた作品と同じ、「魔法精錬」というタイトルでした。その時に講談社の編集さんに声をかけていただいたんです。「作品を持って一回編集部に来ない?」って誘われたから作品を持っていったら、「漫画家の先生のアシスタントに入って勉強をしながら、新人賞を目指そう」ってことになり……。気づいたら就職活動もせず、大学を卒業していました(笑)
これが鈴木先生の同人誌「魔法精錬」シリーズ。表紙のデザインがオシャレ!
――どのような先生のもとでアシスタントをなさっていたのですか?
鈴木イゾ
その時は、「金田一少年の事件簿」(原案・原作:天樹征丸/原作:金成陽三郎/講談社)の作画をされていた、さとうふみや先生です。さとう先生には、結局2年くらいお世話になりました。その後、長くご挨拶もできず不義理を働いていたのですが……「魔法精錬」のコミックス第1巻が出る時に、帯に応援コメントを寄稿してくださったんです。さとう先生には心から感謝しています。
――藤沢先生とも、その頃知り合われたわけですね。
鈴木イゾ
はい、ちょうどその頃です。藤沢先生に「漫画のアシスタントって、どんなことをやってるの?」みたいなことを聞かれたから、現場で聞きかじったことをドヤ顔で教えたりしていましたね(笑)
――藤沢先生は鈴木先生と知り合った頃、すでに絵や漫画を描かれていたのですか?
藤沢真行
絵を描いてはいましたが、まだ趣味の段階を出てはいなかったですね。物心がついた時から、何か絵を描く仕事がしたいとは思っていたし、ずっと描いてはいたのですが、プロになる方法がさっぱりわからなくて……。鈴木先生と知り合ってから、一緒に同人誌を作ってコミケに出ようって話になり、サークル活動を始めたんです。鈴木先生はそれよりも前に、講談社の編集さんから声がかかっていたから、新人賞の原稿を手伝ったりもしましたよ(笑)
――サークルはおふたりで始めたのですか?
藤沢真行
いえ、鈴木先生を紹介してくれた友人と3人です。コミケに向けて3人で1冊の合同誌を作ったんですが、漫画形式の作品を描いたのはこの時が初めてでした。ジャンルはオリジナルでしたね。そうしたら、鈴木先生のほうに執筆の依頼が来たんです。
鈴木イゾ
ゲームのアンソロジーコミックを制作していた編集プロダクションの方に、スカウトしていただきました。それがデビューのきっかけです。さらに当時はアンソロジーコミックのブームで、私の他にも描き手を探しているということだったので、藤沢先生を紹介したんです。
藤沢真行
サークルで初めて漫画を描いたのに、その後すぐに仕事がいただけるようになったので、驚きましたがありがたかったです。
――そしておふたりとも、いよいよ商業デビューです。
鈴木イゾ
私は「アトリエ」シリーズ(ガスト)のアンソロジーコミックでした。たしか、1997年だったと思います。さとう先生のアシスタントを離れてからは、フリーでプロのアシスタントをしていて、その空き時間に同人誌を作ったり、アンソロジーを描かせていただく生活が続いて……。少しずつ商業漫画家の世界に食い込んでいった感じです(笑)
藤沢真行
自分は鈴木先生より少しあとのデビューで、「テイルズ オブ ファンタジア」(バンダイナムコエンターテイメント)のアンソロジーコミックでした。その後もアンソロジーつながりで人脈が増え、継続的にオファーをいただけるようになったので、とにかくアンソロジーをたくさん描きましたね。
――印象に残っているアンソロジーのお仕事は?
藤沢真行
「スーパーロボット大戦」シリーズ(バンダイナムコエンターテイメント)です。率先して請けていたので、多くの作品に関わらせていただきました。ロボットを描くのが楽しかったし、資料にゲームソフトをいただけるので、じっくりクリアしてから描いていましたね(笑)
鈴木イゾ
私のほうはBLゲーム系のアンソロジーです。結婚した2004年以降、月刊連載みたいなペースで描かせていただいた時期がありました。月産のページ数を合計すると38ページとか! でもおかげさまで「学園ヘヴン」(Spray)や「咎狗の血」(Nitro+CHiRAL)のアンソロジーは、後々になって個人集という形で単行本にしていただけました。
藤沢真行
今でも基本的なスタンスは大きく変わりませんが、当時――10年くらい前までは、ふたりとも何かしらのアンソロジーのお仕事があれば編集さんから呼ばれ、少しでも時間があればなんでも請けていた感じです。
鈴木イゾ
一度、藤沢先生だけでなく私のほうにも「スーパーロボット大戦」のアンソロジーの依頼があったんです。編集さんに「すみません、ロボットは描けません」と言ったら、「ロボットだったら、藤沢先生が描いてくれるから!」って説得されたこともありました(笑)
藤沢真行
あー! たしかに俺、鈴木先生のロボットを描いた記憶が……。あの時は驚きました(笑)
――おふたりでお仕事を協力し合うこともあるのですか?
藤沢真行
そうですね。まず前提として各々がそれぞれの責任でお仕事を請けますし、請けた者が責任をもって完成させます。あくまでサポートの範囲内であれば、協力し合うことはふつうにありますよ。
鈴木イゾ
相手のほうが得意だったり苦手だったりするものは、お互いにわかっていますからね。構成やネームで迷ったら見せ合って意見を交換しますし、作画で苦手な部分はお互いが手伝ったりしています。
藤沢真行
とはいえコンビの漫画家ではないので、決まった作業分担はありません。意見を言うだけだったり、デザインは手伝っても実際の作画にはノータッチだったり、部分的に作画を請け負ったり、どこまで協力し合うかはその時どきですね。
――それでも、プロの漫画家同士がサポートし合っているとは豪華ですね! ちなみに相手の方が得意だと思っているのはどのあたりですか?
鈴木イゾ
ファンタジー作品でいうなら……モンスターやクリーチャー系の作画は、藤沢先生のほうが得意ですね。お城や都市、廃墟のような建造物も藤沢先生です。
藤沢真行
逆に柔らかいもの――たとえば貴族や女の子の衣装は鈴木先生ですね。それに「金田一少年の事件簿」の基礎があるから、洋館の内装みたいなものも強い。ゴージャスな部屋とかで、よく事件が起きるから(笑)
――2006年になると、藤沢先生は「魔弾戦記リュウケンドー」(原作:「魔弾戦記リュウケンドー」製作委員会)のコミカライズ連載が始まりました。
藤沢真行
いつもお世話になっている編集プロダクションさんからの依頼で、「月刊マガジンZ」(講談社)という雑誌に3話構成の連載漫画を描きました。その時の担当編集さんが、自分に「特撮漫画家」というキャッチフレーズをつけてくれたんです。それがひとり歩きしたのか、以降は劇場版「仮面ライダー」シリーズ(原作:石ノ森章太郎/東映)のコミカライズや、特撮系の漫画やイラストの仕事を多くいただくようになりましたね。ふたりとも、編集さんや知り合いのご縁に助けられることが多いんです。
鈴木イゾ
私は2006年ごろから、シナリオライターをやっている友達の推薦で、ゲーム原画の仕事もいただくようになりました。2008年の初連載作品「M.F.C.女泥棒会社峰不二子カンパニー」(原案:モンキー・パンチ/双葉社)も、峰不二子のスピンオフコミックのコンペがあるということで、知り合いの編集さんから双葉社の編集さんを紹介されたんです。
「特撮漫画家」藤沢先生の本棚を公開。ご自身が執筆した作品や趣味のコミックとともに、特撮系やロボットのフィギュアもズラリ。
――そうだったんですね! いっぽう藤沢先生は、オリジナル作品「ブラッドソウル」(エモーション)や「戦場のヴァルキュリア3 名もなき誓いの花」(原作:セガゲームス/アスキー・メディアワークス)などの連載が続きます。
藤沢真行
この2作もまた、これまでのお仕事でお世話になった方のつながりで、やらせていただいた連載です。
――まさに人脈が宝ですね。
鈴木イゾ
そうですね。実は、私が2012年から「電撃Girl's Style」(アスキー・メディアワークス)で連載した「タイニー×マシンガン」(原案:二宮愛/ディレクション・プロデュース:岩崎大介/キャラクターデザイン:ギンカ)のコミカライズも、知り合いの編集さんから紹介していただきました。ゲームのお仕事が続いていたので、「久しぶりに漫画も描きたいよー」って話したら、「え? 暇なの?」って(笑)。ありがたいことに暇ではなかったのですが、また漫画の連載ができてうれしかったです。
――すると、鈴木先生がその後、「月刊アクション」(双葉社)で連載されていた「魔法精錬 ガルナルージュと雛菊亭のエルッカ」は?
鈴木イゾ
「M.F.C.」の担当編集さんが、オリジナルで何か描いてみないかと声をかけてくださったんです。それで、かつて同人誌で描いていた「魔法精錬」を、全然違う内容に作り直して連載しました。2013年から3年ほど続いたので、私にとっては今のところ一番長い作品ですね。
そしてこちらが鈴木先生の本棚。左上にご自身のコミックスが並んでいる。
――2016年からは、おふたりともアルファポリスでの連載が始まりますが、どのような経緯でお仕事をすることになったのでしょうか?
藤沢真行
アルファポリスの担当編集さんから、熱意のこもった依頼メールが届いたのがきっかけです。一緒に仕事をしたことがない方でしたけど、自分のコミックスを読んだり、色々調べてから依頼してくれたことが伝わってきたので、まずはお話を聞いてみようかと。
鈴木イゾ
私の方は、「魔法精錬」の連載が終わりかけのタイミングでした。「制御魔法」のお話がまとまった頃、藤沢先生に「もしよければ編集さんを紹介してもらえない?」って頼んだんです。
――鈴木先生は、アルファポリスの作品に興味がおありだったのですか?
鈴木イゾ
正直に言うと、最初は会社も作品も知りませんでした……。でも、アルファポリスさんのホームページを見てみたら、ファンタジー系のコミックが多くて……。小説もいくつか読んでみて、コミカライズをやれたらいいなって思ったんです。3年ほどオリジナル作品を描いていたし、今度は原作つきの漫画が描きたくなったというのもあります(笑)
――それぞれ原作を読んだ時は、どんなことを思いましたか?
藤沢真行
「制御魔法」は魔法バトルものではありますが、意外に物理的なアクション要素が強い作品なんです。魔法の作用がかかった剣やボウガンを使って、敵を倒したりします。これまでの自分の経歴から考えても、自分に合っている作品だなと思いました。魔法の光や炎を飛ばして戦うようなシーンを描くよりも、剣術や体術を使ったアクションを組み立てて描く方が自分としては好みですからね。実際、立体的なアクションが描けるだろうということで、オファーをいただいていました。
鈴木イゾ
「平兵士」は冒頭のシーンから、映画のように映像が思い浮かぶ文章で、これを絵にできたら面白いだろうなって思いました。実はコミカライズの候補に挙がっている作品は別にもあったのですが、私の方から「『平兵士』を描かせてください」とお願いしたんです。
――そして「制御魔法」は2016年3月に連載が始まり、12月に単行本第1巻が発売。「平兵士」は2016年5月に連載が始まり、2017年2月に単行本第1巻が発売されます。連載も順調に進んでいますが、具体的にどのようにしてこの2作品が作られているのか。おふたりの作業環境や、お仕事のスタイルについておうかがいします。
――おふたりの仕事場を拝見しながら、制作環境やお仕事の進め方をうかがっていきます。仕事場は同じ部屋を使っているのですね。
藤沢真行
背中合わせになるようにパソコンデスクを配置して使っています。部屋に入って右側が鈴木先生の作業スペース、左が自分の作業スペースですね。
――では、まずは鈴木先生の方から見せていただきます。機材で目を引くのは大きな液晶タブレット(以下、液タブ)ですが、これは何インチでしょうか?
鈴木イゾ
cintiq 22HDで、液晶サイズは21.5インチあります。以前はふつうのペンタブレット(以下、板タブ)を使っていたんですが、2013年に「魔法精錬」の連載を始めるタイミングで、この液タブに買い替えました。アナログ歴が長かったせいもあって、板タブはずっと違和感があったんです。液タブだと、アナログ原稿の作業のように、手元を見て直接描けますから、板タブではうまく描けなかったカケアミなども、この液タブに変えてからは描けるようになりました。
鈴木先生のデスク周り。PCのディスプレイよりも大きな、液晶タブレットに目を引かれる。
藤沢真行
アナログ歴が長い人は、液タブの方が向いているように思いますね。さらにその上で「紙に描いているような感覚」を得るための工夫をする人が多いんですよ。例えば、液晶の上にシートを貼ったり、ペン先をフェルトペンに替えたりして摩擦抵抗を増し、ペンと紙の感覚を、擬似的に再現してみたりとか。
鈴木イゾ
私はペン先はそのままですが、キズ防止も兼ねて液晶にシートを貼っています。ちなみにこのシートは、ホームセンターで買ってきたものですが、値段的にも厚さ的にもちょうどいいんですよ。それと、汗で滑らないように、ふだんは手袋をしながら描いていますね。
――液タブの上にあるキーボードはなんですか?
鈴木イゾ
私は左利きなので、キーボードのテンキーに、ショートカットを登録しているんです。右利きならショートカットに便利な、ゲーム用のパッドなども使えるんですけどね。
液晶シート&手袋の合せ技。適度な摩擦抵抗がアナログ感を生む!?
藤沢真行
自分は右利きなので、鈴木先生の機材が使えないんですよ。すべて左利き用にカスタマイズされているので。
鈴木イゾ
パソコンは機材関係に詳しい友達に、絵を描くのに向いている機種を教えてもらって選んだDiginnos Monarch XTを使ってます。スペック的にはIntel CORE i7搭載で、GeForce GTSを……あ、私自身はあまりPCのことはわからないんですけど (笑)
――使用しているソフトは何でしょうか?
鈴木イゾ
漫画を描く時は、ComicStudio 4EX。カラーはCLIP STUDIO PAINTで描いています。またペン設定は、なるべくアナログ風にみえるよう、試行錯誤しながら設定を変えてきました。現状、ペンの形状を円にして厚みを70%にしているのですが、線がいい感じにブレて、アナログで描いたような雰囲気が出るのが特徴です。
藤沢真行
アナログ歴が長い人ほど、「デジタルの線はきれいすぎる」って感じるようですね。自分はアナログ歴が短いこともあり、デジタルの一般的な設定に自分を合わせていったので、気にはならないのですが……。デジタルって、移行してからも、経歴の差によって作業環境に特徴が出るんですよね。先ほど話題に上がった、タブレットのアナログ感にしても、鈴木先生の液タブは、自分にとっては摩擦抵抗がありすぎて、ペンを重く感じてしまうんですよ。
鈴木イゾ
逆に藤沢先生の板タブは、ツルツルしたものを貼っているから、私が描くとペンがすべりすぎて、うまく描けないんです。
――なるほど。アナログとデジタル、それぞれの経歴と好みに合わせて、機材を自分用に最適化しているんですね。
――では続いて、藤沢先生の機材をみせていただきます。噂のツルツルした板タブとはどういったものですか?
藤沢真行
Intuos Proです。その上から透明の下敷きを貼って抵抗力を打ち消し、ツルツル感を増しました(笑)。ペンの勢いが止まらないように!
鈴木イゾ
藤沢先生の作業を見ていると、本当に速いんですよ。すごい勢いで、ビャー、ビャーーと、なんの抵抗感もなくペンを走らせていて。……板タブを作るメーカーさんは紙の描き心地に近づけるため、あえてザラザラにしてくれているのに(笑)
スピード重視の板タブ。下敷き表面には、ペンとの接触で生まれた、擦れ跡が刻まれている!!
――ビャー……とは、確かに速そうですね(笑)。それではペンの設定はいかがですか?
藤沢真行
基本設定にある、Gペンツールです。これまでのアナログの描き味どおりに細かく設定していくよりは、なるべく新しいソフトに自分の身体を慣らしていくようにしています。パソコンは鈴木先生と同じものですね。作画に関するソフトも同じです。
メイン&サブモニターで構成された、藤沢先生のパソコンデスク周り。
――他にお仕事で使っている道具はありますか?
藤沢真行
アクションシーンを描く際の確認用に、関節可動フィギュアを使っています。棚の上にあるモデル用フィギュア「S.H.Figuarts ボディくん」「S.H.Figuarts ボディちゃん」(ともにバンダイ)は、現在「制御魔法」のエヴァンとセラフィナ仕様になっています。
――なるほど、ボディくんは剣を装備していますね。…ボディちゃんが持っているのは?
鈴木イゾ
竹串です(笑)。女性ボディはセラフィナちゃんで、槍代わりに竹串を持たせているんです。セロテープを巻いて落ちないようにするという、ひと工夫もしています。
竹串(槍)を装備したセラ役のボディちゃん&剣を装備したエヴァン役のボディくん。
――アクションを描く時は、こういうものがあった方が便利ですか?
藤沢真行
ほとんどのポーズは想像で描けるんですけど、角度によっては確認したい部分が出てくるんですよ。例えば相手に槍を突いた時、柄の部分がどう見えるか? 刀や槍の角度はこれで適切なのか? そういう時はフィギュアにポーズをとらせてシミュレーションをします。初めてアクションを描くような人は、これがあると便利だと思いますよ。
鈴木イゾ
この関節可動フィギュアが出るまでは、仮面ライダーの玩具でなんとかしていたんですよ。
藤沢真行
棚に置いてある仮面ライダーたちは、そうやって使いこんできたやつです。この中のひとつは、外見がシンプルなので素体として優秀でした。ガチャガチャ動かしていたので、よく関節が壊れたりしましたね (笑)
――アナログからデジタルへ移行したのは、いつくらいでしょうか?
藤沢真行
自分も鈴木先生も2006年の「リュウケンドー」をやっていたあたりが、デジタルへの切り替えポイントでしょうか。ペン入れまではアナログで、トーンとベタをデジタルに移行しました。
鈴木イゾ
ペン入れもデジタルになったのは、2008年以降ですね。
――どのようなきっかけでデジタル化したんでしょうか?
鈴木イゾ
デジタルでしか漫画を描いたことがないという大学生の子が、アシスタントとしてうちに来ていたんです。「アナログ原稿を描いてみたいから教えてほしい」と言っていたので、アナログのやり方を教える代わりに、デジタルを教えてもらいました。
藤沢真行
アシスタントの子が、デジタルの師匠です(笑)
――(笑)。フルデジタルになったタイミングは、おふたりとも同じだったんですか?
鈴木イゾ
同じ時期ですね。デジタル化に移行している仲間たちで集まって、研究会を開いたりしました。ちょっと先にデジタル化している人に来てもらって、教わったり。
――みなさんでデジタル作業を学んでいったんですね。話は逸れますが、アシスタントを入れていた時もあったんですね。
鈴木イゾ
少し手伝ってもらうくらいでしたけどね。アシスタントは「魔法精錬」の連載時など、フルデジタルになってからも頼んだことがあります。デジタルは家に来てもらわなくても手伝ってもらえるのが楽ですね。
――今はアシスタントを入れないんですか?
藤沢真行
今のところは大丈夫です。アルファポリスでの、ふたりの連載の更新日が半月ほどズレていますから、手が空いたタイミングでお互いの原稿を手伝えるので。
鈴木イゾ
ファンタジーものは人物や背景を問わず架空のものがほとんどなので、絵のイメージを人に説明するよりも、自分で描いた方が早かったりする……なんて理由もありますね。
――続いて、漫画の制作スケジュールについてうかがっていきます。まずは1ヶ月のお仕事の流れはどうなっていますか?
藤沢真行
1話につき、ネームがだいたい3日〜4日はかかりますね。下絵は3日くらいで、ペン入れは4日。トーンや効果を入れるのが2日くらい。合計でだいたい2週間ほどになるのかな? 合間に別の仕事が入るので、実際はもう少しかかっていますが、「制御魔法」の仕事だけで日数をカウントするとそんな感じですね。ふだんは別の仕事が入ることも考えて、プラス1週間くらいの猶予を持って、スケジュールを組んでいます。
単純計算なら約2週間で原稿が完成。しかし、休日自体は5日程度。
――残りの10日は何をしていますか?
藤沢真行
他社の企画の打ち合わせで出かけたり、同人誌の作業をやったりでしょうか。あと鈴木先生の手伝いをしてます。休みは……1ヶ月で5日くらいかな?
――では、鈴木先生の1ヶ月はどうですか?
鈴木イゾ
作画スケジュールのペースはだいたい同じですね。私も漫画を描く作業の合間に、ゲーム原画や他社のイラストの仕事が入ってくるので、一概には言えませんが。もし「平兵士」の仕事を一気にやるとしたら、ネームは2〜3日。下絵は3〜4日くらい。ペン入れと仕上げが1週間くらいです。ペン入れと仕上げは、一緒にやることの方が多いですね。
藤沢先生同様、単純計算なら約2週間で原稿が完成。時には互いのアシスタントも。
――1ページごとに作業している感じですか?
鈴木イゾ
というよりも、1日何コマ分描こうみたいな感じで、目標を決めて描いています。だいたいは最初のページから描いていますが、描き込みに時間がかかるような部分は、早めのタイミングで描くようにしています。また気分が乗ったシーンから描いたりすることもありますね。あとは突発的に、今日はお父さんばかりを描く「髭祭り」に決めたりとかします!
――それは……楽しげな祭りですね(笑)。それにしても、おふたりとも2週間くらいで1話分を描き上げてしまうとは、早いですね。
藤沢真行
作業スピードが早くなったのは、デジタルに移行した影響だと思います。
鈴木イゾ
アナログの時に比べると、より効率化が図れるようになりましたね。消しゴムをかけたり、インクが乾くのを待ったり、そういう時間のロスもないですし。
藤沢真行
自分にとっては、インクが乾くのを待つ時間がなくなったのが、なによりも大きいですね。過去の原稿をみると、インク汚れを消すためのホワイト修正跡がすごいんですよ。……つい、インクが乾ききる前に、次に手をつけてしまうので。
鈴木イゾ
よく「待ちきれんのじゃー!」って言いながら描いていたよね。
藤沢真行
イメージが脳内にあるうちに描きたいんですよ。今は、ツルツルした板タブのおかげで、ストレスなく描けています(笑)
――お休みの日はどんなことをしていますか?
藤沢真行
友達と飲みに行ったり、ライブに行ったりとか。あとはまぁ、月1日くらいで、レンタルDVDを5枚くらい借りてきて、1日中観まくる日なんかもあります。それと、休みの日には意識的に、1日フルでオフにすることにしています。パソコンを立ち上げて作業を始めると、なかなか切り上げるのが大変なので。
鈴木イゾ
作業を切り上げにくいのは、デジタルならではかもしれませんね。パソコンの前にいれば、漫画もイラストの仕事も、ひとつの画面でシームレスに作業が続けられますし、資料を検索することもできるので。
――では、おふたりで休みを合わせることもありますか?
鈴木イゾ
ありますよ。うちで定期的に仲間たちの寄り合いのような飲み会を開いているんですけど、その時は休みを調整します。友達が遊びにくる時はスケジュールを空ける努力をしますね。
藤沢真行
あとは、ももいろクロ―バーZ(以下、ももクロ)のライブは、なにがあろうとがんばって調整します!
鈴木イゾ
私が緑推しで、藤沢先生が紫推しです!
※編集部注
ももクロのメンバーには、それぞれパーソナルカラーがあり、緑は有安杏果さん、紫は高城れにさんを指す。
――では1日のスケジュールはどうなっていますか?
藤沢真行
基本は12時起床ですね。起きて食事して、14時くらいから仕事を開始。2回目の食事は19時くらい。ご飯を食べたら仕事を再開して、深夜3時、4時ごろまでやって。朝6時までには布団に入る感じかな? あ、夜食を食べる時もありますね。
鈴木イゾ
3時のおやつね。深夜3時だけど(笑)。夜中の12時を過ぎてからお腹空いたと言われて、軽いものを作ったりもします。あと、睡眠時間は最低でも6時間はとるようにしています。
藤沢真行
睡眠時間を削って仕事量を増やすことは、滅多にやらないですね。遅れている締切の直前とかじゃない限りは……。
鈴木イゾ
それでも徹夜はしないようにしています。寝ないと動けなくなるので。逆に、今日は早めに切り上げて、翌日は朝10時に起きよう、みたいな時はありますけれど。
藤沢真行
それと、起床時間がずれても、食事の時間がずれるくらいで、1日のスケジュールは基本変わりませんね。6時間の睡眠時間を保つために、就寝時間を調整する以外は変えないようにしている、とも言えますが。
起床時間によって食事の時間がズレるため、起きて最初の食事を1回目。以降、2回目、3回目と呼称しているとか。
――食事は鈴木先生が作られているんでしょうか?
鈴木イゾ
はい。藤沢先生は料理ができないので(笑)。もちろん私が忙しくて、作れない時もありますけどね。そういう時は出前をとったりします。
藤沢真行
鈴木先生は食事を作るのが好きなので、食事に関してはいっさい困ってません。いつもおいしく食べてます! …自分は皿洗いとか水回りの片付け専門です。
――ごちそうさまです(笑)。ちなみに作業中の息抜きはなんですか?
鈴木イゾ
DVDや映画を観ることかな。
藤沢真行
ライブ映像も含めて、映像作品を観るのが一番息抜きになります。
鈴木イゾ
藤沢先生は、辛い時に“ももクロ浴”をするんです。……浴びるように、ももクロのライブ映像を観まくることなんですけど。それが終わったらニコニコ元気になって戻ってきます。
藤沢真行
過去の仕事で大変だった時に、ももクロを観て癒やされ、ファンになったんです。おかげでその時期の記憶は、全部ももクロの楽しい記憶にすり替わっているんですよ(笑)。実際は辛い時期だったはずなのに、多幸感に溢れた映像しか覚えていないという。
――多幸感によるリフレッシュ…理想的な息抜きは、次の仕事の活力につながりそうですね。それでは次回は、ネームや線画などをみせていただきながら、実際の原稿作業についてお聞きしていこうと思います。引き続き、よろしくお願いします。
ふたり
――こちらこそ、よろしくお願いします。
アルファポリスとは
アルファポリスはエンターテインメントコンテンツのポータルサイトです。オリジナルの小説・漫画を投稿したり他の人の作品を読んだりすることができます。『ダィテス領攻防記』『Eランクの薬師』『月が導く異世界道中』などの作品が漫画化されています。
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アルファポリスでは、3つの制度で漫画家志望のみなさまを支援しております。
・投稿インセンティブ
作品の人気度に応じて投稿インセンティブスコアを作者に還元!
貯まったスコアは現金やギフト券などに交換できます。
・1500pt出版申請
作品の人気度に応じてカウントされる24hポイントが1500pt以上の作品は「出版申請」が可能です。
「出版申請」されたコンテンツに対しては、アルファポリス編集部が書籍化や公式連載化を検討します。
・評価申請
16ページ以上の内部投稿作品は評価申請をすることができます。
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