【ジャンプSQ.】スクエアベース#1 加藤和恵先生/佐々木ミノル先生/ヨシカゲ先生
2019年1月某日に開催された、ジャンプSQ.作家陣による漫画講演会。今回はその一時間目、『青の祓魔師』の加藤和恵先生・『サラリーマン祓魔師 奥村雪男の哀愁』の佐々木ミノル先生・『モナリザマニア』のヨシカゲ先生による貴重な講演会の様子を公開!!
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『スクエアベース』から転載しております。
新人作家がデビュー前にすべきこと
担当編集に、「画力が足りない」「絵柄が古い」と言われました。どうすれば良いでしょうか。
私は作品のテーマでよく悩むのですが、先生方は作品のテーマをどのように決められましたか?
担当編集から「自分にしか描けない作品」を描いて欲しいと言われたのですが、オリジナリティや作家性の確立はどのようにしていったらいいですか?
以前私が描いた漫画で、「画面が暗い」「華やかでない」と言われたことがありました。コマのメリハリや、画面構成のコツなどがあれば教えて欲しいです。
漫画を描いていて、将来に対する不安を感じます。先生方は新人時代どのようなことを考えていましたか?
-新人作家がデビュー前にすべきこと
司会:本日は、まだ漫画を描き始めて間もない方から、連載作品を準備されていらっしゃる方まで、総勢36名の新人漫画家の皆さんに、全国各地からご参加いただいております。この講演会が皆さんの漫画制作の一助になることを願っています。それでは早速一番目の講師陣を紹介しましょう。加藤和恵先生、佐々木ミノル先生、ヨシカゲ先生です。
一同:よろしくお願いいたします。
司会:それではまず、自己紹介を兼ねて、皆さんのデビュー前についてお聞かせいただけますでしょうか。
加藤:『青の祓魔師』を連載している加藤和恵です。私は15歳(中3)の時に初めて「週刊少年ジャンプ」の漫画賞に投稿したところ、運よく奨励賞を頂き、編集者の方から連絡を頂きました。しばらくしてその編集さんは他の部署に異動されてしまったのですが、18歳くらいで本格的に漫画を描き始め、もう一度少年ジャンプに持ち込み、第59回手塚賞で受賞しデビューしました。
佐々木:『青エク』スピンオフコメディ『サラリーマン祓魔師 奥村雪男の哀愁』を連載している佐々木ミノルです。加藤先生と私は同じ回の手塚賞を受賞した同期で、その頃から20年ほど付き合いのある盟友です。私は地方住みだったので、郵送で投稿していました。19歳の時に「週刊少年ジャンプ」に投稿した作品で担当編集が付き、その数年後に受賞、赤マルジャンプにも一度読切が載ったのですが、少年ジャンプを出てみようという思いがあり別の雑誌に移りました。
ヨシカゲ:2018年11月号から『モナリザマニア』という連載が始まりましたヨシカゲと申します。以前加藤先生のアシスタントをしていた縁で、今回参加させていただきました。 私は元々「少年ガンガン」の愛読者だったので、19歳の頃ガンガン編集部に持ち込みをしました。ただ、何度作品を仕上げても期待賞止まりで…。24歳の時くらいに、いくつか別の雑誌に持ち込みをしたところ、ジャンプSQ.の担当編集さんに声をかけて貰いました。それから3年間で4本の読切掲載と連載も始められたので、今の担当さんには感謝しています。
司会:今は同じ雑誌で連載されている先生方も、それぞれ違った経歴があるのですね。それでは、新人時代、ここが大変だったという部分はありますか?
ヨシカゲ:同級生たちが一般企業などで働き始めた頃は、とにかく焦りを感じました。それを払拭するため、読切のコンペにはほとんど出していましたね。
加藤:私は作品の量産が出来なかったので、ネームを描くのに半年かかっていました。
司会:その半年間は、話を考えている時間が長いのですか?
加藤:そうですね。やりたいことはあるけど、上手く描き終えられないという感じで…。本当は期間を決めて、作品を完成させる方が良いとは思うのですが。あと、「ジャンプSQ.Ⅱ」に掲載された読切『ホシオタ』は、急遽描くことが決まった作品で、私の家だと何人もアシスタントを呼べなかったので、集英社の会議室を借りて、そこで缶詰になり、何とか1か月で描き上げました(笑)。
佐々木:アシスタントを総動員しても手が足りなかったみたいで、私も手伝いに行きました。今ではあり得ないやり方ですよね(笑)。
司会:ここにいらっしゃる先生方は、精神的にも肉体的にも、いろいろな困難を乗り越えられてきたと思います。それでは、今日ここに参加されている新人漫画家の皆さんに、どんな悩みがあるのか聞いてみましょうか。質問がある方はいらっしゃいますか。
-担当編集に、「画力が足りない」「絵柄が古い」と言われました。どうすれば良いでしょうか。
加藤:私は、自分が描きたいと思う内容にマッチした絵が描けているなら、画力や絵柄に関しては、そこまで気にすることはないのかなと思っています。ただ、自分らしい絵が描けていて、その絵のままで勝負したいなら、その作品の雰囲気に合った媒体に行くのが一番近道だとは思います。逆に、掲載したい媒体を譲れないのなら、その雑誌(媒体)が求めている絵柄を勉強してみるのがいいのではないでしょうか。
司会:皆さん、絵はどのように上手くなったのですか? 昔から特別練習していましたか?
加藤:画力を高めるためには、よく言われる通りひたすら描くしかありません。私自身、人気のある作品の絵を参考にしたりして絵の練習をしていました。ただ『青エク』も連載開始から10年が経ち、今の時代の中では絵柄が古くなりつつあるとも感じているので、自分の絵が時代に取り残されないよう、常に意識しながら絵を描いています。
佐々木:加藤先生は、私と雑談をしている最中などでも絵を描きながら説明してくれることが度々あります。「こんなゴキブリが出たよ」と足の生えている位置まで具体的に描いて教えてくれたこともありました。そういった日常の中でも、絵的な意識を持って向き合える人が、より絵の上手くなっていく人ではないかと感じます。
ヨシカゲ:私も連載開始前に絵に不安があると編集部から言われた記憶があります(笑)。ただ漫画の売りは作品ごとに違うので、あるラインを超えさえすれば、絵を理由に掲載されないことはないのかなと思っています。
司会:絵について悩んでいる新人漫画家はたくさんいると思いますが、実際に先生方のお話を聞けると参考になりますね。それでは次の方に質問を聞いてみましょう。
-私は作品のテーマでよく悩むのですが、先生方は作品のテーマをどのように決められましたか?
加藤:『青エク』に関していうと、元々は妖魔退治漫画を描きたいという思いがあり、一度オリジナルの設定を考えて物語を作ろうとしたのですが、読者にとっては分かりにくいだろうなとも感じていて…。そこで、妖魔を悪魔に限定し、現実にあるエクソシストという職業と組み合わせて漫画にしました。ファンタジーは好きでしたが、ホラーはそれまでほとんど接していなかったので、『青エク』をやると決めてから研究のためにホラー映画を見まくりましたね。
佐々木:『中卒労働者から始める高校生活』を描くことになったきっかけは、担当さんから「過去の作品を読んでもあなたの人柄が分からない。何でも良いからあなたの人となりが分かる漫画を描いてほしい」と言われたことです。無理にひねり出している感覚はなく、ただ自分の中にあるものを描いているので楽しいですね。
ヨシカゲ:私は2本目の読切が載った後、しばらく読切ネーム会議を通らない時期がありました。その間「トランプの大富豪漫画」や「魚を倒しに行く漫画」など色々考えたのですが、1年期間が空いて3本目に載ったのが美術を扱った漫画でした。自分が美術系大学出身ということもあり、担当さんから「ヨシカゲ先生にしか描けない作品」と言われ手応えを感じたのを覚えています。その後連載用のネーム作成にあたり、美術系大学に行っていたその知識や経験を活かしやすい漫画を狙って、「贋作」を描いて絵を入れ替えるネームを描いたのですが、そのネームを見た担当さんから、2話目のテーマだった「モナリザ」の話が面白いという反応があったので、それを主軸に変更して今の『モナリザマニア』が生まれました。
司会:今連載されている作品にたどり着くまで、三者三様のエピソードがあって面白いですね。では次の質問をお願いします。
-担当編集から「自分にしか描けない作品」を描いて欲しいと言われたのですが、オリジナリティや作家性の確立はどのようにしていったらいいですか?
加藤:まずは自分を曝け出すことじゃないでしょうか。オリジナリティは本来誰もが持っているものです。自分を出せたうえで、もし「よくある話」だと言われたら、それは「王道が描けるという個性」なんだと思います。だったら、そこをもっと伸ばしてやろうという気概でやるのも良し。あと、例えば同じ「エクソシスト漫画」というテーマだったとしても、作者の切り口が違っていれば、それは別の作品になるのだと個人的には思います。
佐々木:直接そう言われたらいろいろ悩んでしまうと思うけど、あまり気にしなくていいことかもしれません。個人的な経験でも、ちょっとしたアイデアを加えるだけで、クルッと印象が変わったことが多々あるので。
ヨシカゲ:私も藝大生というバックボーンがありながら、美術読切についても4~5回ボツを経験しています。やはり漫画というフォーマットに落とし込んで考えることが大事なんだと思います。基本的に読者は美術に関して興味がないという前提でどう話を作るのか、自分なりに考えました。
加藤:そういった点では、『ヒカルの碁』は良い例じゃないでしょうか。囲碁に興味を持っていない人にも凄く受け入れられたし、知識がなくてもとても面白いので。
ヒカルの碁
小学6年生の進藤ヒカルは、蔵で古い碁盤を見つける。その瞬間、平安時代の天才棋士、藤原佐為が現れた。囲碁を愛する佐為に動かされてヒカルは囲碁教室に通い始める。しかし初心者の少年が佐為の実力で打つ手は、行く先々で混乱を呼ぶ。勝負を通して成長する少年達の物語。TVアニメも大ヒットし囲碁ブームを巻き起こした名作!!
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佐々木:読みやすく描けているかっていうのが重要ですよね。
ヨシカゲ:キャラ同士の関係性や、会話の面白さなどを大切にしていくと良いと思います。
司会:もっと話を掘り下げたいですが、まだまだ質問のある方がいらっしゃるので、次の質問に行きましょう。
-以前私が描いた漫画で、「画面が暗い」「華やかでない」と言われたことがありました。コマのメリハリや、画面構成のコツなどがあれば教えて欲しいです。
佐々木:作風に合っているかが大事なので、ただ華やかだから良いというものではないと思いますが、加藤先生はどうですか。
加藤:そうですね。もし本来の自分の持ち味が暗い雰囲気なら、そういうものが映えるジャンルに挑戦するのもいいのかもしれないと思います。あと画面を構成する上で大事なのは、実は絵よりもセリフの方だったりします。ときどき新人漫画家さんの作品の審査をしていると、せっかく絵が上手いのに、吹き出しの位置やセリフの大きさですごくもったいないことをしているなと思うことがよくあります。
ヨシカゲ:私も加藤先生のアシスタントを経験して、フキダシは丸く・セリフは読みやすくをより意識するようになりました。全てのフキダシを楕円にするとセリフが長くなって読みづらいんですよね。
加藤:もちろん絵で魅せることも大切だし、一概にセリフだけを重視しろとは言わないけど、 フキダシを置く位置にもしっかりこだわりをもって欲しいですね。
佐々木:普段漫画を読んでいるとき、しっかり見せ場で良いセリフがはまっていて気持ちが良いなと思うことがあると思います。いろんな作品を研究しながら、スキルを身に着けていって下さい。
ヨシカゲ:個人的に、画面内の情報密度が高すぎる漫画は読者にとって読みづらいだろうと思っているので、「線一本で区切らないで枠はちゃんと描く」とか、「横のラインは1cm・縦のラインは0.5cmとる」というような基本的なことは守っています。
加藤:描き込むタイプの人ほど、基本に忠実でいた方が読みやすいですし、逆に絵があっさりしているタイプの人はコマ割り等で変化をつけると良いかもしれないです。バランスを見て色々試して下さい。
司会:画面構成は、新人漫画家の方々にとってなかなか上手くなる方法を見つけにくい部分だと思いますが、具体的なアドバイスでとても参考になります。他に質問のある方いらっしゃいますか。
-漫画を描いていて、将来に対する不安を感じます。先生方は新人時代どのようなことを考えていましたか?
加藤:例えどんな人生であっても不安はあるのではないでしょうか。それなら私は好きなことをして生きていきたいと思っていました。いつかプロになれるだろうという根拠のない無い自信を持ちながら。
佐々木:一般的な生き方では無いし、保証も何もない世界ですからね。私の周りにいるプロになった人を見ると、漫画を描く以外選択肢が無いような人が多いのかなと思います。将来に対して深刻に考えるより、自然に漫画を描き続けられる人が残っていくような気がします。不安を上回る楽しい瞬間が沢山あると思うので、漫画を描き続けて欲しいですね。
ヨシカゲ:大学を卒業した後、親に漫画家を目指すということを話したとき、父から「好きなことをしていれば食いっぱぐれることはない」という言葉を貰い、それが私にとっての支えになっています。不安を払しょくするために大事なのは、当たり前のことを積み重ねることじゃないでしょうか。ネームを描く・修正する・絵の練習をするなど、漫画家として当たり前なことをずっと続けられるなら、何事も実現できるのではないかと信じています。
司会:加藤先生・佐々木先生・ヨシカゲ先生、大変お忙しい中、貴重な講演ありがとうございました!
一同:ありがとうございました。
いかがだったでしょうか。連載経験者たちによる多角的な視点や経験を学ぶことができたのであれば幸いです。その他、客観的な判断の身に付け方や少年漫画を描くにあたっての主人公の性別についての質問など盛り沢山な内容なので、もっと学びたい方は下記のリンク先へアクセスしてみてください!
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住所:東京都千代田区神田神保町3-13 集英社 ジャンプSQ.編集部
都営新宿線・三田線、東京メトロ半蔵門線「神保町」駅A1出口徒歩1分(Google Map)
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■プロフィール
●加藤和恵 Twitter
2009年5月号から『青の祓魔師』を連載中。
●佐々木ミノル Twitter
SQ.19:Vol.10からジャンプSQ.4月号まで『サラリーマン祓魔師 奥村雪男の哀愁』を連載。
●ヨシカゲ先生 Twitter
2018年11月号から2019年9月号まで『モナリザマニア』を連載。
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