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編集長の部屋
2017年5月24日

BE・LOVE/ITAN 岩間秀和編集長④「編集者は漫画家さんに“躍って”もらえるかが重要」

トキワ荘プロジェクトのWEBサイトで展開していた人気企画「編集長の部屋」がマンナビへお引越しをしてきました!お引っ越し後の第一弾を飾るのは、『ちはやふる』や『昭和元禄落語心中』などのヒット作で話題の『BE・LOVE』と『ITAN』の岩間編集長です。「何か面白いことをお話しできればいいんですけど」と控えめな岩間編集長でしたが、興味深いお話をたくさん聞かせてくださいました!

 

編集者は漫画家さんに“躍って”もらえるかが重要

 

-編集者として影響を受けたお仕事について教えていただけますか?

入社3年目のときに担当した『伝説の少女』という作品が、強く印象に残っていて、その後の自分のベースになりました。亡き双子の姉の夢を背負って芸能界でスターを目指す女の子のサクセスラブストーリーなのですが、先にお話ししたように、僕は学生時代アイドルにハマっていたこともあり、芸能界を舞台にした漫画をいつか担当したい、と思い続けていて。わがままを言って3巻から担当を引き継がせてもらいました。僕で3代目の担当です。この『伝説の少女』の作者・美村あきの先生にいただいた「編集者というのは、漫画家を躍らせてなんぼだ」という言葉は、今でも心に焼き付いていて、常に目標にしています。

美村先生は、それまで『別冊フレンド』や『Me』などで描いていた漫画家さんでした。編集者ととことん腹を割って話し合うタイプで、お酒を飲みながら打ち合わせ…という機会も多かったですね。当時、僕は連載を2~3作品担当をしていたのですが、『伝説の少女』で初めて、漫画家さんとがっぷり四つに組んで漫画を作るという経験をしました。原作者の明石典子さんから上がってきたシナリオを見ながら、ああでもないこうでもない、と、とても具体的に打ち合わせしました。ただ、当時の僕は、ドラマの脚本を手掛けるなど、芸能界に詳しい明石さんの書く、リアリティにあふれ、かつドラマチックな原作が大好きで、そこに寄りかかっていました。なおかつ打ち合わせの席で、自分の好きなアイドル話を漫画づくりの参考になるだろうと披露しまくっていたことで、美村先生から「あなたの話では筆が進まない」と何度も言われました。途中で席を立たれたこともあります。アイドル話などの「雑談」よりも、先生が聞きたかったのは「どうしたら漫画がより面白くなるか」だったことに、気づけなかったんですね。

そんな時に言われた言葉が、先ほどの「あなたは、漫画家を躍らせてなんぼ」でした。連載当時、お酒を飲みながらこういう打ち合わせをいつも繰り返していた記憶が鮮明にあります。『伝説の少女』は編集長権限で(笑)、最近電子配信を始めたので、これを機に久々に読み返しました。今読んでも面白いのですが、僕が担当する前の出だし1~2巻は特に面白い。担当していた先輩方は、美村先生を上手く躍らせることができていたんだろうと思います。僕はなかなかうまくいかず、先生とよくぶつかっていましたね。お酒が入るのでお互いエキサイトしたり…。夜7時くらいからお酒を飲みながら話をして、終わったのは朝9時、なんてこともよくありました。

-それはすごいですね。

今だから話せますが、「今、新宿にいるから打ち合わせをしましょう」と呼び出しをいただいたこともありました。行くとそこはスナックで、僕のカラオケ駆けつけ一曲から始まり、濃密なマンガ論へ。いつの間にか僕の名前でボトルも入ってたりして(笑)。夜が本当に長く感じた時期で、この頃はもはや夕方定時に退社することなんて、かないませんでした(笑)。その成果なのか、『伝説の少女』は読者アンケートは好調で、上位陣の一角に食い込み続けたのですが、最終的には単行本11巻で終了。単行本は、僕の力が足らず、大ヒットとまではいきませんでした。

とはいえ、美村先生は連載終了後に「ここまで続いたのは、あなたの熱があったから」と言ってくださいました。今振り返ると全く余裕がなく、原作者・漫画家のお二人には迷惑のかけ通しでした。とはいえ、漫画編集者として大切なことを、この作品から学んだことは間違いありません。実際、今でもうちの部員を見ていて、いい仕事をしている編集者は、当時の美村先生が僕に要求していたことがしっかりとできています。時代は変わっても、編集者の存在意義は今でも同じだと感じています。

-「漫画家さんが躍る」というのは、どういう状態なのでしょうか?

そうですね・・・色々なケースがありますが、編集側からアプローチするケースでは、漫画家さんが編集者の提案に、多少ギャンブルだと思っても、面白くなりそうなイメージが湧くから乗ってみよう、と思える状態がその一つではないかと。編集者がしっかりと勝算を持ってプレゼンができるかで、漫画家さん、そして作品の最初の一歩が変わることはよくあります。例えば、そのプレゼンで、1か月待っても漫画家さんがノーリアクション、いうこともあれば、いきなり最初に2話分、3話分のネームがぽんと出てきたりすることも。美村先生との『伝説の少女』のケースでは、僕に「こうしたい」という気持ちはあったものの、その提案が美村先生の気持ちを動かすまではできていませんでした。おそらくアイディアがすべて、自分本位だったんでしょうね。熱さだけはあったつもりでしたが、それだけではダメだということです。

-それは、漫画家に気持ちよく描いてもらう、ということとは少し違うのでしょうか?

気持ちよく描いていただくことは、とても大事です。問題はその「気持ちよく」の内容ですね。漫画家さんの気分を損ねないように進めた結果の、その場しのぎの「気持ちよさ」なのか、作品を少しでも面白くするために代案の応酬をして、その結果両者納得のクオリティーの作品にたどりついたときの「気持ちよさ」なのか。理想は一回の打ち合わせですんなり面白い作品に到達することではありますが、そうでないケースのほうが多いわけで、その場合作品をより面白くしたいという共通の目標のもと、たとえぶつかったとしてもその先にある「気持ちよさ」を得るために、編集者にはできることがあると思います。『伝説の少女』担当時代には、自分が未熟だったがゆえに、なかなかお役にたてませんでしたが、ここで得た反省や経験というのは、その後の自分の仕事に反映されたと思います。

漫画家さんとの関係性に悩む編集者も多いと思います。うまくいかない時は、きっとやる気が空回りしてピントのずれた打ち合わせをしてしまい、漫画家さんが躍りたくても躍れない状況なのではないでしょうか。僕の場合には、まさにそういった状況下で、美村先生がいつも「私はあなたの一言で躍りたい」とおっしゃってくださいました。今思えば、チャンスを沢山くださっていたというわけです。

 

編集者はできるだけ具体的な提案をし、その先にある目標を漫画家さんと共有する

 

-逆に、うまくいった経験はありますか?

「うまくいった例」と言えばおこがましいのですが、愛本みずほ先生と一緒にお仕事したときのことですね。2005年から始まった連載で、『だいすき!!ゆずの子育て日記』という作品を担当させていただきました。知的障害のある女性が出産して子育てするという話で、テレビドラマにもなりました。

当時、『BE・LOVE』には子育て漫画がなかったので、ちょうど日々子育てに向き合っていた自分が作りたい!という思いがありました。そして形にするなら、驚きや発見、そして感動のある漫画にしたいと思っていたときに、知的障害のある女性が恋をするドラマ『ピュア』を思い出しまして。ドラマでは描かれていない、知的障害のある方の恋愛の先、つまり結婚や妊娠、出産って、どうなるんだろうと素朴な疑問が湧いてきたんです。

当時、知的障害のある方々について、全く知識がなかったので、全日本手をつなぐ育成会という、障害児の親御さんで組織されている福祉法人に取材をし、実際に知的障害のある方が恋をして結婚し、子育てをするというエピソードを知りました。自分自身、大きな発見を得たと同時に、子育ては状況が違ってもその思いは同じだとわかり、このテーマを漫画にしたらきっと反響があるだろうと。その後、愛本先生にこのテーマで描いていただきたいとお願いをしました。重たそうに聞こえるテーマなので、絵はかわいらしくコミカルな方がいいと考えていまして、愛本先生の絵がぴったりだと思ったんです。絶対この先生にお願いしたい、と。

-それで、愛本先生にプレゼンされたわけですね。

でも、最初は全然ダメで。難しくて描けない、と言われて断られました。この時点では全く「躍って」はいただけませんでしたね。しかし、あきらめきれずに3話分くらいのプロットを自分で作ったんです。こんな感じで話が進めば面白くなると思うので、とラブレターのように愛本先生にFAXしました。すると、愛本先生から反応をいただけたんです。が、その反応とは…返ってきたのは、ほぼ全ての設定が変わったプロットで。残っていたのは知的障害という設定だけ(笑)。読んでみると、すごく面白かった。それと比べたら、僕のプロットなんて園児の書いた作文のようなもので。プロの凄みを感じたとともに、ご提案したテーマに興味を持っていただけたことが嬉しかったですね。愛本先生の描く子育て漫画の伴走ができることに胸が高鳴りました。

その後、先生と一緒に1年くらい取材をしました。取材すればするほど主人公のキャラクター、つまり「知的障害のある人」がわからなくなり、連載実現危うし!というピンチもありましたが、紆余曲折あってなんとか連載実現にこぎつけました。苦労の甲斐あって、1話目の読者アンケートは1位。新連載が1位というのは珍しい『BE・LOVE』で、上々のスタートを切りました。その後は愛本先生のワールドで物語が展開され、私は伴走するのみ。6巻が出たころには連続テレビドラマにもなりました。あれから12年、愛本先生は今、新たな連載を始めています。「ディスレクシア」(読字障害)の青年を描いた作品『ぼくの素晴らしい人生』です。10数年同じジャンルのテーマで描いてくださっていることを考えると、十数年前の提案はあきらめないでよかったのではと、思っています。愛本先生がどう思っていらっしゃるかはわかりませんが(笑)。

美村先生とのお仕事では、ただガムシャラに飲んで、話をして、という形でした。そこからいくつも学び、提案をするならできるだけ具体的に、その先にある目標を漫画家さんと共有すべき、と考えられるようになりました。

-編集者さんに漫画家さんとの関係性を聞くと、何度も飲みに行ったり、趣味を同じにしたり、好みの差し入れを冷蔵庫に入れておいたり、という話が多いので、新鮮です。

よそはそうなんですか!(笑)。僕も飲みにはいきますが、冷蔵庫の付き合いはないですね…。漫画家さんがデビューしたての方だったら、そういう話になるかもしれませんが、『BE・LOVE』は元々キャリアのある漫画家さんがメインだったので、漫画家さんと友だち感覚で付き合うという経験をあまりしてきませんでした。そのせいか、新人の漫画家さんにもついつい丁寧語になりますね。多少の距離をとってしまいます。

とはいえ、『BE・LOVE』で描いてくださる漫画家さんは、たとえば新たな代表作を描くべく移籍してくる方や、キャリアの集大成を目指す方、恋愛以外のテーマに初めて挑む方などなど、人生を懸けて作品に向き合う方が多いので、友達感覚ではない今のような距離感がベターではないかと、自分では思い込んでいます。

 

漫画家さんの置かれた状況に応じて伴走し、一緒に作品を作り上げていく

 

-編集部全体の編集方針みたいなものはありますか?

かなり初歩的なことでお恥ずかしいですが、とにかく新しい連載漫画を起こすために、漫画家さんとしっかり、全力で向き合って形にしてほしいと、部員には伝えています。雑誌の推進力は、いつでも新連載。新たな柱が生まれるかどうかが雑誌の生命線ですから、とにかくそこに注力してほしいと。

その「注力」はいろいろです。漫画家さんの描きたい世界をきちんと理解し、伴走する。こちらから魅力的な提案をし、それを実現していただくために材料を集める。他誌で実績を積んでこられた漫画家さんの次なる一手を考える、などなど。大人漫画の特徴は、読者さんの好みが多様であることはもちろん、漫画家さんの個性も多様なところ。『BE・LOVE』は、漫画家さんの置かれた状況に応じて伴走し、一緒に作品を作り上げていく雑誌だと思っています。

編集部には、打ち合わせの席で漫画家さんの良いところも悪いところも全て言って、だからここを伸ばそう、と言うのが上手な部員がいます。つまり、打ち合わせに嘘がない。『BE・LOVE』にはキャリアのある漫画家さんも多く、若い編集者が手こずることもありますが、目標は同じなので、お互いの化学反応で、面白い連載を実現してほしいです。『連載を起こす』ことが、何よりも大変で、何よりも面白く、何よりも評価される仕事だと思いますので。

-そういう意味では、時代の変化に対応していくことも重要だと思いますが、電子コミックが伸びていくことについてはどう思っていますか?

とりあえず、そして手軽に漫画を読みたいという気持ちが、電子コミックの伸長に表れていますよね。僕たちはまず、漫画を読んでもらえることに喜びを感じていますので、紙版でも電子版でも全く気にしません。実際うちの編集部の場合、去年までは紙版のほうが売り上げは上でしたが、今年は逆転現象が起きるかもしれません。電子で読まれる作品と、紙で読まれる作品の違いにも理解を深めているつもりですので、その違いによって作品ごとのプロデュースを変えるのは新鮮で面白いです。

その一例ですが、今年の元日から約1週間、新しい試みとして『BE・LOVE』と『ITAN』から選んだ6作品の第1話を、ビジネスパーソン向けのサイト、現代ビジネスに置かせてもらいました。いずれも、若干の社会派要素がある作品です。そのトップバッター、つまり元日が、80歳の女流作家の冒険を描いた『傘寿まり子』だったのですが、これが大きな反響を呼びました。少し重たいと感じられるテーマの漫画が、時代に敏感なビジネスマンにハマった、ということです。そのほかの作品も大変よく読まれまして、適材適所の大切さを、改めて知ったところです。

『ITAN』では以前から「ねとらぼ」さんに出張連載をさせてもらったりしていましたが、『BE・LOVE』でも出張掲載の好例を作ることができました。こうした別の媒体での出張掲載の反響が大きいのなら、翻って本拠地(本誌)をより魅力的にしなければ!という気持ちになります。この相乗効果は、これからも貪欲に求めていきたいと思っています。

-最後に、岩間編集長の一押しの作品を教えてください。

僕は、トークイベントや飲み会などで、頼まれもしないのによく「心の漫画ベスト5(もしくは10)」を発表するんです。先に述べた工富編集長が飲み会のたびに必ず部員に訊いたので、順位がすっかり整理されまして(笑)。これは自分を知ってもらうのに、手っ取り早く、重宝しています。ランキングは、時を経るごとに若干のアップデートがなされるのですが、最近「これは間違いなくベスト3に入れる!」という作品が浮上してきました。ご存じ「弱虫ペダル」です。

読者としてやや出遅れましたが、電車の中で読んで人目をはばからず泣くなんて、久々の経験です。漫画は、共感でも憧れでもなんでもいいので、心を揺さぶってほしいもので、「弱ペダ」は私にとってのそれでした。杉元君や手嶋キャプテンのような“普通の人”に感情移入しまくりで。一人の漫画家さんがあれほど多様なキャラクター(性格もルックスも)を描き分けられるのは、ただただ素晴らしいの一言です。演出面でも隅々まで気配りが行き届いていて、読者を楽しませたいという思いがあふれた作品です。編集者として刺激になりますが、結論としては「漫画って、やっぱり面白い」、ですね。

 

 -ありがとうございました!

 

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、川原

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