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コラム
2017年7月3日

迷える漫画家志望者へ。「暗い気持ちで明るいものは描けない」-京都国際漫画賞審査員長 武者正昭さんに聞く<前編>

今年から募集範囲を広げ、日本国内からの応募も可能になった「京都国際漫画賞」。京都国際マンガ・アニメフェア内にて行われるマンガ出張編集部と連動した国際漫画賞で、出版社の枠を超えた凄腕の編集者5名が審査を行います。今回は、審査員長を務める武者正昭さんに、新人漫画家と編集者の関係についてお話を伺いました。

 

武者正昭さん プロフィール

1981年小学館入社以来、少年サンデーを振り出しに社内のさまざまな漫画編集部を渡り歩く。『健太やります!』の満田拓也、『行け‼南国アイスホッケー部』の久米田康治、安西信行、菊田洋之、きらたかし、『うしおととら』の藤田和日郎、『海猿』の小森陽一/佐藤秀峰、『娚の一生』『姉の結婚』の西炯子など、多くのミリオンセラーを世に送り出す。flowersとCheese!では、編集長を務める。現在はマンガワンに所属。

 

新人漫画家が行き詰まるときはだいたい思考が閉じている

―今日は編集者と新人漫画家の関係についてお話を伺えればと思います。

新人漫画家が行き詰まるときはだいたい思考が閉じているんですよね。見えていたものが見えなくなって、もう道が無いとか、ある1点だけ見て何もないとか、それでもうダメだってなってしまう。そういう思考が閉じていくところを外してあげるんですよ。一息置いてくださいなって、ぐるっとまわってみて、何かあるでしょ?って。あれ、窓がありました、という話になれば、そうでしょ、後ろ側だったから気づかなかっただけなんじゃないの?って。見えていないのかあるいは見ようとしていないのか、締切のプレッシャーがあったり、なんで行き詰っているのかを見て、それをほぐしてあげたり、余裕を与えたり、サジェスチョンしたり。

―それが編集者の役割ということでしょうか。

役割というほどでもないけれど、そういう風にしないと思考が閉じてしまった人が元の状態に戻れないんですよ。どういう心理状態がこれを招いているのか、もちろん寝ていなかったりという場合もありますし、様子を見ていると裏付けられるものがありますね。

例えば定量化すると冷静になったりしますよ。作家が「沢山の人に言われました」と言えば、「沢山って何人?5人、10人、100人?」と聞く。「5人って多くないんだけど思い込みすぎじゃない?君がたまたま会った人5人じゃない?それって意見としてどうなのかな」って。そういうことを数値化して気づかせることで冷静になれます。確かに沢山いるっていうのが100人くらいだったら考えたほうがいいけど。

新人漫画家さんに限った話ではないけれど、特に新人漫画家は思考が閉じてしまいがちですよね。こもって描いているから余計にそういうことが起きてしまいます。集中できるけれど、悪いほうにも深いところにどんどん潜っていってしまうことがあります。

―そうなってしまったとき新人漫画家はどうしたらいいですか?

編集者と話すことじゃないでしょうか。編集者から考えすぎだよって言われたり、散歩でも行こうとか、あの映画みた?とか話をして、凝り固まっているところをほぐすことが大事ですね。漫画家は、集中していろんなものを集めてひとつの画面にするわけじゃないですか。拡散よりも集中、そういう仕事だから、どうしても色々なことを見つめざるえないですよね。悪いほうを見つめだすとそれをずっと見てしまうから、そのままにしてしまうと自ら悪いほうに向かっていくようなものです。

集中することは正しいですが、集中して他を遮断するとやっぱり良いほうも悪いほうも両方見えてきます。厳しい仕事ですよね。集中しないと描けないですし。ネームやるときに一切音のないところでやる人もいれば、ざわざわしてる所じゃないとネームが描けない、という人もいます。人と喋りながら、みたいな真ん中はあまりいないですね。やっぱり集中して考える作業だからでしょうね。

 

 

愚痴をこぼす相手がいるというのは大事なこと

―編集者といい関係を築いていくためのコツはありますか?相性もありますか?

相性もあるでしょうね。やっぱり編集者が人を見る目がないとだめなんじゃないでしょうか?新人漫画家はみんな同じなわけがないですし。編集者はペースメーカーだったり、鞭をくれる人だったり、カウンセラーだったり、もちろん企画を立ててこれをやらないかって提案をしたり、アイデアを出したり、出てきたものに対してジャッジしたり、相談役のような感じです。ものすごく濃い関係のところもありますね。

―編集者さんは新人漫画家の何をみているのでしょうか?

相手がどういう人なのかをちゃんと判断する、としか言いようがないですね。人となりとか、マンガに対する思いとか、彼らがどんな人生を歩んできたとか、何に怒ったり喜んだりしているのか。知らないと迂闊なことを言えないですよ。話している間にヒントがたくさんあったりして、無理に探して企画を出さなくても、いいものを沢山もっていたりします。

学生時代バスケット頑張ったんだ、でもレギュラーにはなれなかったんだ、なるほど、それは大変だったね、と。そうするとバスケのマンガが出来るかな、とか、こういう主人公の漫画が描けるかな、と思ったりします。

―外を見なくても中にあると。

大抵は自分の中に何か表現したいものや承認欲求や、何かがありますよね。何が彼らのスタートラインにあるんだろうかと。いくら楽しくても、出発点によほど強い想いが無いと出来ないだろうなと思います。漫画は一作描くのにとてつもなく時間がかかるものです。地道な作業が必要で、それに耐えられるメンタリティってどういうものなんだろうと。

自分の才能を疑ったり、ある日嫌になったりして。自分自身のメンタルの影響が大きいですね。自分はやっぱり厳しいんじゃないかと疑いだすとかなり苦しくなっていってしまう。だから自分で30歳までにしようと決めたりする人が出てきます。

自分自身のメンタルをいかに降伏させるか、あるいは気をそらせたり、暗い面に向いているところを別の方向を見させたりというのは編集者がさせないといけないんじゃないでしょうか。セルフコントロールできる人も中にはいますが、特に新人の時は自信もないし実績もないなかでセルフコントロールするのは難しいものです。

―メンタルのコントロールですか。

メンタルが崩れると体調も崩れますし。暗い気持ちで明るいものは描けないでしょ、そもそもね。元気じゃないと無理。だからそういうコントロールをすることは大事で、そこを気にかけるのが編集者でもあります。編集者が励ますとか、気をそらすとか、一時忘れさせるとか「まぁまぁまぁ、酒でも飲もう」と言ったりして。そういうことは新人の時は自分ではなかなか出来ないと思いますよ。愚痴をこぼす相手がいるというのは大事なことです。

それに自分では無理とか、そんなこと出来るわけないじゃんと思っていても、誰かから、「出来る!」とか、「やろう!」と言われると、じゃぁやってみようかなとなることはあります。そういう言葉につられて、本当に出来てしまうことってありますよね。

<後編>迷える漫画家志望者へ。「意外に信じることは大事かもしれない」へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原

武者さんに直接相談ができる!出張編集部@京まふ2017にて、「お悩み相談室」開設!!

9月16日(土)、17日(日)に開催する「マンガ出張編集部@京まふ2017」では、武者さんの「お悩み相談室」を設置!漫画家志望者・新人漫画家必読の『読者ハ読ムナ(笑)』にも登場する武者さんに、漫画家全般の様々な悩みを聞いていただきましょう。

 

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