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コラム
2023年5月12日

高校生で漫画賞受賞!『童貞絶滅列島』担当編集者との信頼関係

童貞絶滅列島 川崎順平先生

高校生になると自分の進路や将来の夢に向かってどう行動していくか、いろいろ考える時期になると思います。早い人であれば、将来の夢に繋がる実績を積まれています。今回は学生時代から漫画文化に触れ、高校生時代に漫画賞を受賞した川崎順平先生にインタビューを実施!学生ならではの葛藤や『童貞絶滅列島』担当編集者との関係など伺いました。

童貞絶滅列島 川崎順平先生

■童貞絶滅列島

ある日突然、18歳以上の童貞が死に始め、日本中が大パニックに! 風俗のサービス料は高騰を極め、暴徒化する童貞が続出。政府も未曾有の事態に対策が遅れていく…。17歳童貞である主人公の英利は、誕生日までに初体験を済ませなければ死あるのみ! 焦って女子に告白するが当然玉砕。どうにか卒業する手段はないのか!? 死を目前にした童貞達の行動とは!?
引用元:講談社コミックプラス『童貞絶滅列島』書籍紹介
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インタビュアー:
本日はインタビューにご協力いただき、ありがとうございます!早速ではございますが、漫画との出会いや漫画家を目指されたキッカケを教えていただけますか。

川崎順平:
私の家族は漫画を読むことに対して寛容でした。両親はビッグコミック(小学館発行の青年誌)とビッグコミックオリジナル(小学館発行の青年誌)を愛読しており、トイレの本棚に置かれていました。なので、ちらちらと『黄昏流星群』(弘兼憲史先生)『赤兵衛』(黒鉄ヒロシ先生)など今振り返ると渋めな漫画作品に触れてきた幼少期でした。
小学生になってからは、4コマ漫画をノートに描いて友達に見せていました。その4コマ漫画をキッカケに読者=友達が増えていったので、より楽しく漫画を描いていました。その頃ぐらいに古谷実先生(代表作『行け!稲中卓球部』や『ヒミズ』など)の漫画作品と出会いました。古谷実先生が描かれた『行け!稲中卓球部』は男子学生に刺さるような少し下世話な内容だったので、私含め周りの漫画好きな同級生らの中で人気の作品でした。ある時、親友から同じ古谷実先生の『僕といっしょ』という漫画を貸してくれたことがありました。同じ古谷実先生ということで読んでみたのですが、それが凄く面白くて、世の中にこんな面白いものがあるんだなと衝撃を受けました。その影響を受け、自分もこんな面白い漫画を描いてみたいなと思うようになり、漫画家を目指すことになりました。古谷実先生は今でも尊敬する漫画家の一人です。

インタビュアー:
ありがとうございます。御両親の影響とはいえ、ビッグコミックやビッグコミックオリジナルから入られるのは渋い印象を受けました。そこから漫画家を目指すにあたってのアクションとして、何をされましたか。

川崎順平:
高校2年生の終わり頃、古谷実先生はヤングマガジン(講談社発行の青年誌)で連載されていたので、漠然と憧れの漫画家と同じ誌面に載りたいなと思いました。そういった事情などを親に相談したのですが、世の中甘くない現実を知ってもらいたいという考えが親にあったのか「一度真剣に漫画を描いて新人賞に応募してみたら?駄目だったら大学受験に注力しなさいよ」と良くも悪くもチャンスを与えてくれました。初めて本格的に取り組んだ漫画原稿は3ヶ月ぐらいの制作期間だったと思います。内容はストーリーものではなく、基本1ページでオチがつくショート漫画を12ページ分ぐらい描いてみました。

インタビュアー:
今ではパソコンやタブレットで漫画制作をするデジタルが主流となっていますが、当時は実際の紙やペンを使ったアナログでの漫画制作が主流だったと思います。ネット情報も今のように溢れている訳ではないので、必要な道具を買い揃えたり描き方を学ぶ機会も少なかったのかなと思いますが、そのあたりいかがでしょうか。

川崎順平:
確かにそういった情報はほとんど入手できなかったですね。なので漫画雑誌にある漫画賞ページの応募規定にあるサイズを参考にしました。裁ち切り線やノドなども書かれていたのですが当時学生だったこともあり理解出来なかったです(笑)とにかくこの四角の中に描いておけばいいやと半ば勢いだった部分もあります。Gペンなど道具も自腹で購入しましたが、インクは高くて手が出せなかったので墨汁で描いていました。

インタビュアー:
そんな手探りで制作された中で、高校生時代にめでたく受賞されました。編集部側としては連載目指して頑張っていきましょうという姿勢だったと思うのですが、大学進学・学業を優先された形でしょうか。

川崎順平:
そうです。当時はまだ高校生で大学進学・学業優先したほうが良いという親の考えも考慮しました。なので当時の担当編集には、これからは大学受験の勉強をしますというのはお伝えしました。幸い美術部で描いた風景画が県代表のようなものに選ばれ、美術系大学の推薦がとれましたので、一般的な学生さんらと比べると大分楽だった受験勉強だったのかなとは思います。

インタビュアー:
美術系大学だと一般的な学部よりは学費が高い傾向で、親御さん視点だと金銭的な懸念も多少なりともあったのかなと思うのですが、美術系大学に通われたのは川崎先生の御意志を優先してというものだったのでしょうか。

川崎順平:
元々父からは大学は遊んでこいみたいなスタンスかつ漫画賞を受賞した経験もあったので、出してやるよと言ってくれました。勿論、将来のために大学は出てくれという考えも両親は持っていたので、大学に行かないよりはというのもあったと思います。当時の私は連載を取ったら大学なんて行かなくてもという考えをもっていましたが(笑) 母とは将来のために教員免許の資格を取る約束をしてましたが、結局それも取りませんでした(笑)

インタビュアー:
実際に美術系大学に通われて、今の漫画制作に活きているなと感じることはありますか。

川崎順平:
技術的なところというよりは精神的な成長はあったのかなと思います。高校生時代に受賞してから大学に入学するまでは無敵感というのを持っていましたが、大学入学後は良くも悪くも無敵感がなくなりました。今連載中の『童貞絶滅列島』を描くキッカケにもなるのですが、大学入学して同級生らと飲む機会があったのですが皆さんイケイケな人だらけでした。私はゴリゴリのオタクテイストの風貌で、同級生らからは童貞いじりがしやすいポジションとして確立してしまい、漫画賞受賞した経験があるんだぞ一歩出ているんだぞという優位性も失われる大学生活でした。ただ、そこで挫かれ無敵感がなくなって良かったと思います。絵のスキル云々よりも、自分がどれだけ通用しない人間なのかわかる過程として大学生活を過ごせたのが重要だったかなと思います。高校の同級生らとはまた違った同世代を生きる姿を見れたのは貴重な思い出・経験でした。10代20代の頃は脳みそも柔らかいのでどんどんいろんな影響受けたほうが、漫画制作含めた後々の経験に繋がるのかなと思います。
勿論大学に行かず、漫画の世界に飛び込むのも1つの道ではあるのかなと思います。漫画制作の技術は現場で学べたほうが得られるものは大きいのですが、人間関係的な経験値として、大学に通ったほうが同世代の違うセンスを持つ友人らと過ごすことが出来るので個人的にはおすすめです。

インタビュアー:
大学合格してからは高校生時代についた担当編集と漫画制作していかれたと思います。大学生とはいえ、まだまだ社会人経験が少ない中、担当編集との打ち合わせは緊張されましたか。

川崎順平:
担当編集と激論を交わすような漫画家さんは見聞きしますが、私は結構担当編集に忠実に従うタイプでした。たまにこちらの方が面白いのではと提案することはありますが、担当編集の年齢が倍近くなので正直太刀打ちできない部分もあっと思います。ただ、担当編集はアイデアを提供してくれるなど学ぶことのほうが多く、納得しやすい修正内容ばかりなので、その点はかなり恵まれました。一般的な友達に見せても面白い面白くないぐらいの意見しかもらえないと思うのですが、担当編集という人がついてこうやったらもっと面白くなるという経験が出来たのは凄く新鮮でした。無駄なコマがあるので読みやすくこのコマは削ろうなど客観的に自分の漫画作品を見てくれる視点というのは大変有り難かったです。

インタビュアー:
担当編集からの貴重な指導もあり、大学生時代に初めての連載が決まりました。大学生で連載デビューが決まるのは早いと思うのですが、当時の心境はいかがだったでしょうか。

川崎順平:
結局5回分ぐらいの月刊連載でしたが、勿論嬉しかったですね。同級生からもからかい半分ですが「先生!」などと持ち上げ呼んでくれたりして嬉しかった記憶があります。

インタビュアー:
以前執筆された同人誌の中では連載決まったタイミングで上京しようか悩まれていたとのことですが、やはり親御さんからの反対や生活面の心配が引っかかったということでしょうか。

川崎順平:
大学生時代は両親の仕送りで生活していたので、大学辞めて上京しても生活は出来るのかという不安がありました。だったら今まで通り仕送りいただきながら大学にいたほうがいいと当時は考えました。振り返ると当時怯えてしまっていましたね。意を決して東京に出ていたら何か違っていたのかなと今も思うことはありますが、安定を選んでしまいました。その頃は中々ネームが通らず漫画家になるという意気込みが削がれてしまったのも一つの要因かなと思います。

インタビュアー:
確かに大学を辞めて上京するのは二の足を踏んでしまう気持ちはわかります。それでは大学生活と並行して、漫画家になる行動として何かされましたか。一般的には出版社・編集部に漫画作品の持ち込みをするなどあるのかなと思うのですが。

川崎順平:
一度持ち込みは経験しました。丸一日東京に行くスケジュールを立てて、5つの編集部に作品を持ち込みました。ゴミを見るような目で原稿を放り投げられて「何でウチにこれを持ってきたのか」と言ってくる編集部もあれば、「キミは何か光るものがある見込みがあるから良ければ」と名刺をいただけたり、同じ漫画原稿でも見る漫画編集者が違うだけでこんなに態度や評価が違うんだと実感しました。複数の編集部を巡って良かったと思います。

インタビュアー:
その5つの編集部を選ばれた基準などはありますでしょうか。ヤングマガジンは憧れの漫画家と一緒の誌面に載りたいという理由でしたが、いかがでしょうか。

川崎順平:
大学生時代、お世話になった担当編集にボツになったネームを他社に持ち込んで良いか聞いたら「好きにやったらいいよ、でも大手の出版社は無理だと思うよ」と言われたので律儀に大手の出版社は除外しました(笑)打算的な狙いでしたが、自分の絵柄と相性良いのかな受け止めてくれるのかなと思える編集部はどこかという基準で行きました。

インタビュアー:
いろいろな編集者と出会われたと思うのですが、こういう編集者振り返ってみると良かったなというエピソードなどありますか。

川崎順平:
いっぱいありますが、『童貞絶滅列島』を担当してくださっているとっかりさんは素晴らしいですね。アイデアの出し方が凄く上手いです。漫画家と編集者の違いの一つに挑戦の数、失敗の数があります。漫画家はどうしてもトライできる作品数に限りがあるのですが、編集者は良くも悪くもいろんな漫画家の挑戦や失敗を間近で見ているので、その知見を持っている経験値はかなり武器になります。とっかりさんはその武器を活用して、かつ漫画家の特性を見抜いて雑談の中でも面白くなるような考え・ネタを引き出させてくれます。とっかりさんと漫画制作始めようとした時、私としては以前連載していた『朱にまじわれば』のようなのんびりした世界観の作品を描きたいなと考えていたのですが、とっかりさんから提案されたのは童貞がいきなり死ぬ世界でした。当時はなんてぶっ飛んだ提案なんだとびっくりしましたが、恐らくこれまでの作品や雑談などの中で私の魅力を発揮できるものを考えて提案してくださったのかなと思います。本質を見抜くのが非常にうまい印象です。

インタビュアー:
中々インパクトがある提案で自分なら戸惑ってしまうのかなと思いました(笑)ただ、編集者が間近で経験した挑戦や失敗の経験は漫画家視点だと頼りになりそうですね。

川崎順平:
そうですね。じゃあ若い編集者は駄目なのかというとそうではなく、若い編集者は経験則に縛られない熱量や勢いがあるので、連載させたら大ヒットしたというのも珍しくないです。とっかりさんは丁度その中間ぐらいで、これまで培ってきた漫画家を見る経験則と童貞をテーマにした漫画を描くという博打的な勢いと、バランス良く持たれていたのが良い方向に出ました。

インタビュアー:
出会われてから4ヶ月程度で『童貞絶滅列島』の連載に繋がった実績をみるに、川崎先生ととっかりさんはかなり相性は良かったのかなと思います。

川崎順平:
連載までめちゃくちゃ早かったですね。マガジンエッジ編集部もざわついたようです。連載出来る嬉しさもありましたが、驚きと心配のほうが強かったと思います。編集者の良いところでもあり悪いところで、アイデアは提供してくれるのですが、童貞が死ぬ理由など設定はこちらで基本考えるので、穴埋めしないといけないという不安がありました。元々、あまり人が死ぬような内容は好きじゃなかったのですが、いろんな悩みに挑戦していくにつれ面白く感じるようになりました。苦手だと思っていたジャンルが意外とハマったので、とっかりさんの先見の明は流石だなと思います。

インタビュアー:
連載中執筆していく中で、気をつけていることはありますか。

川崎順平:
出し惜しみしちゃ駄目と思い、自分はとにかくアクセルを踏もうと考えています。何かまずいことがあればとっかりさんが止めてくれるという信頼関係があると感じています。たまにとっかりさんのブレーキが壊れたり、アクセルを一緒に踏みすぎてマガジンエッジ編集長直々に怒られることもありましたが(笑)

インタビュアー:
川崎先生ととっかりさんの間には確かな信頼関係があるのかなと感じました。大変貴重なお話ありがとうございます。最後に、漫画家を目指される方に対してメッセージをいただければと思います。

川崎順平:
中々難しいですね。商業誌を目指されるのであれば、作品を描くというよりも商品を開発するような意識が大事なのかなと思いました。漫画家さんの中には自分の作品を我が子目線で見られる方がいるのですが、私の場合はそれが出来ずもっと経済動物のような考えに近い感じです。昔は好きな雑誌に載れるなら金を出したいという考えがありましたが、今連載中の『童貞絶滅列島』が今まで以上にいろんな人に読んでくれるようになった時、1個スイッチが切り替わりました。出版社と仕事をしたいと思う以上、作品ではあるけど経済を回していけるような商品を作っていけるようにならないといけないと思いました。
他には誰のために作品を描いているか意識を持つことでしょうか。自分はまず目の前にいる担当編集を笑わせたい喜ばしたいと思っています。自分の表現をするために描いているわけではなく、その人の顔を思い浮かべて描くという意識が大事だと思います。新人の時はどうしても自分が自分がと出したいと思いますが、そういうのは置いて、一歩引いて誰のために描くかという考えを持つと商業連載の一歩に繋がるのかなと思います。




■川崎順平先生 プロフィール

漫画家。講談社マガジンエッジで『童貞絶滅列島』を連載中。現在9巻まで発売中。高校生で漫画賞を受賞してからヤングマガジン・マンガボックス・ガンダムエース・コミックNewtypeなどで執筆。

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とっかり氏 Twitterアカウント(@hya_hoi)


童貞絶滅列島 川崎順平先生

■童貞絶滅列島

ある日突然、18歳以上の童貞が死に始め、日本中が大パニックに! 風俗のサービス料は高騰を極め、暴徒化する童貞が続出。政府も未曾有の事態に対策が遅れていく…。17歳童貞である主人公の英利は、誕生日までに初体験を済ませなければ死あるのみ! 焦って女子に告白するが当然玉砕。どうにか卒業する手段はないのか!? 死を目前にした童貞達の行動とは!?
引用元:講談社コミックプラス『童貞絶滅列島』書籍紹介
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