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コラム
2017年7月11日

迷える漫画家志望者へ。「意外に信じることは大事かもしれない」-京都国際漫画賞審査員長 武者正昭さんに聞く<後編>

今年から募集範囲を広げ、日本国内からの応募も可能になった「京都国際漫画賞」。京都国際マンガ・アニメフェア内にて行われるマンガ出張編集部と連動した国際漫画賞で、出版社の枠を超えた凄腕の編集者5名が審査を行います。今回は、審査員長を務める武者正昭さんに、新人漫画家と編集者の関係についてお話を伺いました。

<前編>迷える漫画家志望者へ。「暗い気持ちで明るいものは描けない」はこちら

 

武者正昭さん プロフィール

1981年小学館入社以来、少年サンデーを振り出しに社内のさまざまな漫画編集部を渡り歩く。『健太やります!』の満田拓也、『行け‼南国アイスホッケー部』の久米田康治、安西信行、菊田洋之、きらたかし、『うしおととら』の藤田和日郎、『海猿』の小森陽一/佐藤秀峰、『娚の一生』『姉の結婚』の西炯子など、多くのミリオンセラーを世に送り出す。flowersとCheese!では、編集長を務める。現在はマンガワンに所属。

 

水面から出て初めて、出た!って気づく

―話を聞く新人漫画家が気をつけたほうが良いことや持っておく視点はありますか?

素直になることじゃないですか。本当かな?と思ったり、単に誰にでも言ってるんじゃないかなと思ったりするものです。でも編集者だって、わざわざ頑張ろうとか、これはだめだって言わないですよ。意外に信じることは大事かもしれないという気がします。誰でもない自分に対して接してくれる瞬間というのは、絶対疑念がわいてくるものですが、そこで素直になることなんじゃないですかね。

もう少しですよ、といっても、本人はどのくらいもう少しなのかわからないわけですよ。

編集者はいっぱいみてるからわかるわけです。水面下なのね。かなり明るくなってもまだ水面下。本人はもう少しっていわれても「うー…まだ水面に出てないですよ」って。水面から出て初めて、出た!って気づくわけで。気が付いたら丘に出てて、あるいは陸地に出ていて、やったぁってなるものです。水面下にいるときはやっぱり苦しいですよ、無我夢中で出ようとしているわけですから。その暗闘がやっぱり大変で、実際、力があってもそこで崩れてしまう人も多いですね。

―もったいないですね。

それに、水面に出た瞬間にまたちょっと潜っちゃって、あぁ、もうだめだと思ってしまうこともあります。あとほんの少しなのに、戻れないと思って沈んでいってしまったりね。1回目全然人気なかったしもうダメだって、潜っていってしまうことは、ありがちなんです。

そこで編集者が、よくあることだといっても、そうなのかなって思ってしまったり。結局やるのは自分なので、最後は自分を信じないとだめで、それをたきつけるというか、勇気づける、そのための役割を編集者が担っているんです。

―水面近くにいると、あとは編集者に見つけてもらって引っ張り上げてもらうだけと思う人もいるのではないでしょうか。

編集は丘の上でおーい、こっちだよって言っているだけなんです。ほんとにあと少しなら手が伸ばせても、5mなんて手が届かないからかなり近くまで来てるよ、としかいえないんです。ほらこっち顔見えるだろ?って。それで丘に上がってみたら、大陸だったりしてね、向こうの遠くの方に塔が見えて、あそこに行くんですか、なんて驚いたりして。

あそこ見てると気が遠くなって嫌になるから、足元見て目の前の道を進もうって言って。あとで振り返れば、気が付いたら遠くへ来たもんだってなるから、そう思わないとやってられないよって。みんな毎日目の前の1ページを描いているから近づいていくわけです。未来を見ることは大事だけど、いつも遠くを見ていると足元がね、穴が開いているかもしれないでしょ。足元見ろよ、けっこう物がおちているし穴が開いているよって、そういうことに気が付かせるのも編集者の役割です。編集者は転んだやつを見てますからね。危ないぞ、そこ。これはやばいんだからって。それなのに遠くに気を取られている間にどかっと穴に落ちたりしてね。あー、だからあんなに言ったのにってね。

 

 

セカンドオピニオンやサードオピニオンを見つけるような気持ちでいくつか回ってみるのも選択肢

―京都国際漫画賞について。この漫画賞は出張編集部と連携していますね。

自分はこの媒体が良いと1か所しか行かない人もいます。私はここじゃなきゃいやだって。野球選手になりたい人が巨人しか受けないようなもの。12球団あるのに、大リーグもあるし独立リーグもあるのに、そういう視点を持たないのかな、と。それでもいいけど、それ以外の選択肢はないのかなって。

上手くいっていればいいけれど、3年くらい頑張ってみてどうもおかしいなとなったら、セカンドオピニオンやサードオピニオンを見つけるような気持ちでいくつか回ってみるのも選択肢です。行ってみたら青年誌のほうが良かったということもあります。あるとき集中するのは大事だし、うまくいっていれば良いですが、集中しすぎてしまって視野が狭くなっていて、それで上手くいっていないと、そのままで良いのかなって。だから出張編集部は視野を広げるには、良いんですよ。上手くいっていないときや、まだ何者でもないときには、どういう風に見られるかは知ったほうが良いです。フォースオピニオンくらいまであっても良いくらいです。

―1誌だけに集中するのが良いタイミングとそうではないときがあるように思います。

自分では面白いと思っていても人がどう思うかわからないときに、出張編集部はとても有効です。東京にいたからってこんなに沢山回るのは大変ですよ。マンガ出張編集部はぱーっと回るだけで10人くらいに見てもらうことも出来ます。率直に感想を言ってくださいと言えば率直に言ってくれますし。4人くらい見せれば、大体同じ事言われているなというところもわかります。1か所だけだとその人のとある意見になってしまうけれども、例えば少女漫画4つまわってみて同じようなことを言われれば、フラットな意見がわかります。うまくいかないなと悩むのは、相対化ができないから悩んでいるんです。自分だけが面白いと思っている、担当編集だけがつまらないと思っているというのが一番良くないパターンで、ワーストマッチング。もっといろんな人に見てもらって同じことを言われたら、あれ、これはもしかしてってなるかもしれないですよ。

―視野が狭くなった時に、自分は視野が狭くなっているという自覚は生まれるものですか?

それは無理でしょうね。視野が狭くなっているから悩むんでしょうし、それに気づけた瞬間には視野が広がっているものですよね。自分はそういう状況にあるということがわからない、それが一番よくない状況で、よくありがちなことでもあります。医者なんかも僕なんかより他に行ったほうがいいよとは言いにくいですよね。設備がないから他の病院を紹介することはあっても、腕が良くないかとか相性が悪いから他の医者に行ったほうが良いとは言わないですよね。

そこまで言えれば編集者も一流かもしれないですが、そもそも浮上してないから手を差し伸べようとしていないときに、そこまでのことは言わないですよね。でも他に行ったらぱっと上がることがあります。そうすると編集部内では騒ぎになりますけどね。

本人が気づくために誰かが言うべきなんでしょうけど、やっぱり自分で気が付かないとだめなところですよね。3年も頑張っているのにと思うか、まだ3年と思うかは自分自身なので。でもふと浮上することは割とあるんですよね。編集者のある程度客観的な意見というのは聞いてみるべきだと思いますけどね。とりあえず行ってみることです。頑なにならずに、柔軟になることも大事です。

-狭くなりがちな思考が解きほぐされるお話をありがとうございました!

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原

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9月16日(土)、17日(日)に開催する「マンガ出張編集部@京まふ2017」では、武者さんの「お悩み相談室」を設置!漫画家志望者・新人漫画家必読の『読者ハ読ムナ(笑)』にも登場する武者さんに、漫画家全般の様々な悩みを聞いていただきましょう。

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