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編集長の部屋
2014年6月9日

【編集長の部屋1】アフタヌーン宍倉立哉編集長①「編集者とは、その作家の一番身近にいる良い読者だが、その作品を一番突き放して見ている存在」

「編集長の部屋」コーナー記念すべきお一人目は、アフタヌーン編集長、宍倉立哉さんです。第一回目では、ご自身の経験やアフタヌーンが目指すものについて伺いました!

 

編集者とは、その作家の一番身近にいる良い読者だが、その作品を一番突き放して見ている存在

―宍倉さんご自身のことを聞かせてください。

1995年に講談社に入社してモーニング編集部に配属されました。
その頃は、ヤングマガジンが200万部を突破、その2~3年後に、週刊少年マガジンが週刊少年ジャンプを抜いた時期でもあり、業界も講談社も好調な時期でしたが、モーニングでは『ナニワ金融道』『沈黙の艦隊』『ああ播磨灘』が連載終盤を迎えていて、部数が落ちた厳しい時期でした。

4年目に『カバチタレ』の立ち上げをしましたが、すぐ後輩に譲るなどして、モーニングには8年ほどいました。その後、モーニングに所属しながら、イブニングの立上班として、2年ほど兼業しました。
当初は雑誌の形を考える企画会議をし、いつ読み始めても読めるように「読切連載だけを掲載する」というコンセプトを立てるなどしました。後に方針も変わりましたが、立上当時は6人程のチームでした。

次にマガジン編集部に2年ほど在席し、2005年にモーニングに戻りました。『GIANT KILLING』(ジャイアントキリング)を立上げたのは2006年5月です。アフタヌーン編集長(以降アフタ)になったのは、2012年の2月です。月刊誌専業になったのは、これが初めての経験です。

―これまでのお付き合いで、印象に残った作家さんはいますか?

ベテランでは、惣領冬実さん、吉田聡さんなどが印象に残っています。お2方とも、ネームを描かないで下書きから入る作家で、作品を頭の中で作ります。木葉功一さんの『キリコ』という作品が、最初に立ち上げた作品でした。お互い新人同士、どうやってモーニングに作品を載せるか、どう読者に届けて、モーニングの中でどう目立つかなど、毎日電話で2~3時間は話していました。これが後の糧になりました。

当時、モーニング編集部は作家も編集者も先輩ばかりでした。今流行の、映画、テレビ、アニメなど、読み手が何に心を奪われているか、自分たちの作品に落とし込めるか?そこを沢山話していました。当時、C.タランティーノの『レザボア・ドッグス』が目新しく、裏切りをテーマにどんな作品を作るかなど話し合いました。

―宍倉さんにとって編集者とは?

その作家の一番身近にいる良い読者だが、その作品を一番突き放して見ている存在。」だと思います。
作家、編集者共に、一番難しい事は、自分の作品を客観的に見る事です。作家も編集者も読み手も勘違いしがちなのが、マンガは「作品」としてだけではなく「商品」の側面を持つということ。買い手がいないと買ってくれません。
多くの新人は自作への思い入れが強すぎて、買い手がいることがなかなか冷静に見られていません。商業作品では買い手目線、つまり読者の視線が大事。そういうシビアな目線は、毎日話していると段々共有できてくると思います。

この感覚は、以前に作家としてお付き合いをした長崎 尚志さんから学んだところが多かったです。長崎さんは、浦沢直樹さんとの関係の中で、良い意味で一番突き放して浦沢さんの作品を見ていると思います。

―編集者にとって、一番良い仕事とは?

作品を作るということにおいては、なにもしないで済む状態だと思います。
勿論、自分が内容にも関わって、沢山読まれると嬉しいですが、作家の将来のことを考えると、一人でやっていけたほうがベターだと思います。そこまで行くためのことを考えて、新人作家とは接していました。あとは、売れる法則とかがあれば、苦労はしないですけどもね(笑)

―マーケティングみたいなことは、作家さんはあまり好まないですよね。

でも、やっぱり、マーケティングってことだと思いますよね。

―何もしないというのは、作品を作るということに限られますか?

あくまで作品を作るということについてですね。作品がたくさん売れるために盛り上げることは最大限します
講談社だと、販売部(書店などに営業する部署)があります。作品点数が多い講談社では、この販売部の方々を、自分の作品のファンにするように心がけます。同じく、書店さんにも営業をします。
『GIANT KILLING』の時、2~3巻目は苦戦していたので、担当2名と販売部1名の連名の名刺を作って、全部100枚配るということを目標にして、営業に回ったりしました。大手書店から片っ端に。

 

マンガエンターテイメントの、最良で最新のものを出したい

―編集長としてのお話に移ります。アフタ編集部として、今は何を目指していますか。

今、言葉にすると「マンガエンターテイメントの、最良で最新のものを出したい」と思っています。

―今ですか?(笑)

えぇ、一応アフタヌーンには「マンガアグレッション」という先代編集長がつけたスローガンがあります。
攻撃的に、攻めていくと言う意味です。過去には「マンガ無限大」など、色々ありました。今は、そういうものと思っています。

―2012年に新編集長になって、変えた事はありますか。

2月に編集長になってすぐ以来、ページ数について気を付けています。
週刊誌の時は、だいたい20ページを基準に限られた枚数に内容を入れる技術が重視されています。一方、アフタは平綴じ(背表紙が平面で、厚みを変えられる)の為、何ページにでも増やせます。その為、アフタでは各作品のページ数に制約がないと言っても過言ではありません。人によっては、前月40ページだった作家さんが、20ページしか描いてこなかったりするのです。それでまずはある程度基本ページ数を決める方針にしました。

新人が応募してくる時に、四季賞はページ数無制限なので色んなページ数で持ってきます。まずは、自分が描く作品は何ページがふさわしいのか意識していないと、内容が薄くなると個人的には考えています。
面白いのは、ベテラン作家さんは同じページ数で描き続けるのです。例えば、藤島康介先生は、ずっと24ページで楽しめるものを描いてきます。その方が作家として長く続いていくように思えます。

ページ数と作家性とは本来関係ないものですけども、いきなり100ページのものを出されても多くの読者はなかなか読まないですよね。

―確かに、それはトキワ荘PJの入居者にも、昔は多かったです。私たちで考えるのは、自分のレベルを上げることを考慮せずに、現状で最高のものを描こうとするということがあり、それはまぁ、長期間作品が作れなかったり、一つの作品の失敗でダメージを受け過ぎたり、あまり良い事はないですね。 モーニングとアフタで編集のお仕事で一番違う事は何ですか?

週刊誌は毎週〆切があるから、慣れると仕事のサイクルが出来るが、月刊誌は月1なので、繁忙期と時間があるときとが別れて大変。モーニング編集部は40人、アフタヌーン編集部は19人。ページ数に換算するとアフタヌーンのほうが少しだけ余裕がある。

―モーニングの長い宍倉さんが、アフタ編集長になった経緯や課されたミッションは、あったのですか。

特にはないんですよね(笑)
それまでのアフタヌーンは、長期連載が多かったです。僕がアフタヌーンの編集長になった頃、『あぁ、女神さま』『無限の住人』をはじめ、良い作品が、作家さん側の話で、そろそろ終わるという話がありました。他にも『ヴィンランド・サガ』『おおきく振りかぶって』『げんしけん』『ヒストリエ』と、今でも支えてくれている作品がありますが、その次の時代を支えていく話題作が、自分の就任する数年前くらいからなかったんですね。その辺りをどうにかしてほしいと会社は思っているのであろうと僕なりに解釈しました。

読者は、常に新しいものを求めているが、長期連載が多いと、読者に新しいものを提供出来ない。モーニングの編集者は自我が強くて、担当作品を売るためにどんどん前に出てくる。つまりプロモーションに一生懸命になります。一方で、アフタは、良いものさえ作れば良いという傾向を感じました。『蟲師』、『寄生獣』など、特にプロモーションをせずにどんどん話題になって売れていきました。アフタヌーンに行った当初思ったのは、良いものを作ったうえで自分たちから話題にするということをしないといけないのではないかと。売れるかどうかはともかく、口の端にのぼる話題になる漫画を作っていかないといけないと考えました。

現在は、アフタでは、『宝石の国』、『シドニアの騎士』、good! アフタヌーン(以降good!)では『亜人』『ウィッチクラフトワークス』『甘々と稲妻』、など話題になっている作品があります。

-アフタで目指しているエンタメとは?

え、そんな変なマンガ?みたいなのが意外に読んでもらえるのがアフタヌーンらしさだと思っています。(数々のタイトルをあげ)今、試しているものでも、若い女性が反応してくれていることもあります。

【編集長の部屋1】アフタヌーン宍倉立哉編集長②「今の新人に感じることは、応募者が雑誌を読まなさすぎることです」へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野




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