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編集長の部屋
2017年9月6日

LINEマンガ中野崇編集長③「自身が持つ美意識や感情を、恥ずかしがらずに漫画に投影してほしい」

「編集長の部屋」の第12回目は、LINEマンガの中野編集長と、村田マネージャーのお二人にインタビュー!今後LINEマンガオリジナルを強化されていくということで、その詳細を伺ってきました。中野編集長はLINEマンガに移られて間もないということで、LINEマンガのこれまでの取り組みは編集チームマネージャーの村田さんから、オリジナルの作品作りや新人獲得については中野編集長からお話しを伺いました。


「この作家さん才能はあるんだけど、うちの雑誌と合わないんだよね」がないのが強み

-LINEマンガでは、オリジナルとインディーズが分かれていますが、インディーズの位置づけについて、教えていただけますか。

村田:インディーズは、ユーザーに自由に投稿して使ってもらうプラットフォームです。pixivさんみたいな感じですね。なので、インディーズに載っていたものが、いつの間にか他社さんで出版されているというケースもあります。コミックスの帯に「LINEマンガで何万PV獲得!」とか書いてあったりして、あれ?と(笑)

不定期ですが、新人賞のようなイベントもあります。今は「LINEマンガ STAR WARS インディーズアワード2017」という企画で作品募集を行い、グランプリになったらLINEマンガオリジナルでの連載につながる、というのもやっています。理想としては漫画家を目指す人が、自分たちのオリジナルをインディーズにどんどん投稿して、編集チームとしても定期的に新人賞を行ったり、スカウトしたりできればいいな、とは思います。

-LINEマンガオリジナルには、新人賞はないのでしょうか。

中野:LINEマンガオリジナル独自の新人賞はありませんが、今後立ち上げたいと考えています。そういった取り組みと合わせて、インディーズという場をどのように活用するのか、これから考えていくことになると思います。新しい漫画家さんの発掘や育成については、ようやく力を入れられる環境が整ったので、繰り返しになりますがこれから本気でやっていく、ということですね

-これまでのLINEマンガオリジナルの漫画家さんは、どうやって発掘したのでしょうか。

村田:インディーズの中でグランプリを開催してそこから入ってきた方もいますし、コミティアなどの出張編集部で出会ったり、WEBで漫画やイラストを公開されている方に声をかけたり、様々です。他の出版社さんでやっていることと、全く変わりません。
いま編集チームにいるスタッフもほとんどが前職でマンガ編集をやっていた人たちです。前職のノウハウを活かしながら、「この作家さん面白そうだ」とか「このテーマだったらこういう作家さんに描いてもらったら面白いかも」という形で企画を詰めて、ネームコンペをやって、連載、という形でステップを踏んで進めています。

-本当に他の編集部さんと変わらないんですね。

村田:そうですね。ただ、LINEマンガの場合は既存の雑誌のような特定のカラーはないので、「この作家さん才能はあるんだけど、うちの雑誌と合わないんだよね」みたいなことはありません。LINEマンガのプラットフォームには、少年誌も少女誌も青年誌もあらゆるジャンルの作品が載っているので、オリジナルだけがあえてジャンルを絞る必要性がないんです。編集者が「これが面白いんだ!」と企画を出してきたのであれば、どんなジャンルであってもチャンスは与える、というのが基本方針です。

-漫画家志望者からも、「良いんだけど、うちの雑誌には合わない」と言われたという話はよく聞きます。

中野:LINEマンガの場合は本当にバラエティーに富んでいて、何でもできますね。ジャンルだけではなく、ページの制限も紙ほど厳密ではないので、本当に面白ければ載せることができます。なので、いま何かの理由で埋もれている作家さんはLINEマンガオリジナルに興味を持っていただければと思います。

-様々なジャンルを扱うとなると、編集者さんにもマルチな能力が求められそうですね。

中野:それぞれの編集者の得意ジャンルはありますね。ただ、女性でも少年向けや青年向けで描かれている作家さんが増えていたりして、ユニセックスと言うと少し言い過ぎかもしれませんが、作り手側の垣根がなくなって来ているように思います。あまりジャンルとか性別に囚われず、どういうターゲットに届けたいか、漫画家さんと編集者とで打合せをしながら自由に選択しています。マルチな能力というよりは、作家さんの特性や才能をいかに引き出せるかが漫画編集者にとって一番大切なことだと思っています。

村田:私も、その作品としてのターゲットがしっかりしていればOK、と思っています。LINEマンガオリジナルとしてはジャンルを絞っていませんが、個々の作品においてはターゲットを明確にしないと売れる作品にはなりません。逆にそこさえしっかりしていれば、作品ジャンル・カテゴリに捉われず、また紙の雑誌のように誌面の空きの都合に影響されずに載せることができます。

 

WEBならではの仕掛けで新しい仕組みを生み出す

-LINEマンガオリジナルでの連載を目指すメリットというのは、どういうところでしょうか。

中野:たくさんのユーザーに読んでもらえるのはもちろんなんですが、今はまだ媒体の看板となるような作品を仕込んでいる最中なので、そのチャンスが誰にでもあるという状態です。よーいどん!の中で誰がヒットを飛ばすか、漫画家さんにとってはやりがいのある環境だと思います。

-作品作りで重視されていることはありますか?

中野:LINEマンガオリジナルは今、毎週もしくは隔週で連載し、収録話数がたまればコミックスとして販売します。コミックス化したときには、次の巻への強い引きが購買意欲につながるので、毎話のことだけでなく一冊にまとまる巻単位での構成を作家さんに考えてもらっています。無料で読んでもらうことが入り口なので、コミックスを買ってもらうためには、当たり前のことですが、毎話のクオリティーを担保しつつ、コミックス一冊分の読み応えをどのように上げるかを意識しています。

-コメント機能がありますが、読んだ漫画家さんが凹んでしまうということはないのでしょうか。

村田:確かにコメント機能の良し悪しというのはありますね。昔はよく2ちゃんねるは見るな、なんて言われていましたし(笑)。ただ私自身は、コメント機能はあった方がいいな、と思っています。ここが一番の盛り上がりポイントだと思って作ったものに対して、狙い通りの反応が得られたのか、作品へのフィードバックが公開した瞬間に得られます。思いがけない別の部分の方に反応があって、じゃあここを膨らませようとか、このキャラクターをもっと伸ばしていこうとか、作品作りのヒントが盛りだくさんです。

-コメントも使い方次第、ということですね。

村田:コメント欄は、読者さんのファンコミュニティーにもなっています。その作品が好きなファンは、作家さん自身が自分の書いたコメントを読んでくれているというのが分かると、作品だけでなく作家自身のファンになっていきます。そうなってくると、作品が終わっても読者さんは作家さんについていくので、次の作品も読んでくれます。それが良い循環につながっていますね。紙のファンレターだと、それを公開したり、それに反応したりということが即座にはできませんでしたが、WEBならではの双方向性が生み出せるのは大きいと思います。

いまLINEマンガオリジナルでは連載の最後に漫画家さんがコメントを載せられるのですが、前の話へのコメントに対して、漫画家さん側も次の話のコメント欄で何か返すとか、そういうことができています。そういう機能を上手く活用すれば、今まで以上に作品のファンや漫画家さんのファンを増やすチャンスになりますし、編集者としてそれを仕掛けることもできます。

-編集者の方が仕掛けるための仕組みにもなっているんですね。

村田:編集者は作品のプロデューサーであるべき、と言われますが、紙の媒体だとできることに限りがあると思います。プロデュースと言われるとすぐにメディアミックス?という発想に行きがちですが、もっと手前の部分でその作品を世の中に広めたり、バズらせたり、育てたり、という工夫はいくらでもできます。その選択肢が多いのがLINEマンガの特徴であり、だからこそ仕掛けがい、やりがいがあるのでは、と思います。
仕掛け方に選択肢があるということは、コミックス発売時だけでなく、連載時から工夫ができます。作品力の勝負だけでなく、仕掛け方でも勝負できるのは面白いですね。

-伺っていると、漫画家さんと読者さんの距離が近いのかな、という印象を受けました。

村田:距離の近さも良し悪しですが、実際に距離は近いと思います。例えば、その漫画家さんにとって初めての連載の初めての単行本でサイン会を開催することがあります。その段階でサイン会を行うのは一般の編集部さんでは暴挙と言われるくらいです(笑)。LINEマンガでそれができるのは、コメント機能を通じてすでにファンのコミュニティーが形成されているからです。そのため、50名、100名レベルの定員であればすぐに埋まってしまいます。書店さんからも、実績のない漫画家さんのデビュー単行本でここまで集まるのはすごい、とよく言われます。

-その他に、LINEマンガならではの作品作りの工夫というのはありますか?

村田:最近でいうと、モーション(動画)をつける試みも進めています。最後のクライマックスの1,2ページを動かしてみる、というものです。既存の雑誌で言えば巻頭カラーで盛り上げるようなもので、LINEマンガだからできることは何だろう、という発想で生まれました。連載の中でモーションコミックを実現しているところは他にないのでは、と思います。
ただ、あくまで漫画の文脈の延長で臨場感を出す、という点には気を付けています。例えばこれでフルカラーになって、全てが動いていたらアニメになってしまいます。それは、漫画を読みに来ている人が期待しているものではありません。もちろん、これも表現のチャレンジの一つなので、賛否はあります。しかし、ドキッとしたとか、驚いたとか、反響は大きく、新しい感動を生んでいることは間違いないので、そういうチャレンジは続けていきたいと思っています。

 

自身が持つ美意識だったり感情を恥ずかしがらずに漫画に投影してほしい

-編集者として、作品を見るポイントはありますか?

中野:すごく抽象的になってしまうのですが、作家性ですね。その作家さんならではのセリフ回し、構図の取り方、表情や見せ方といったものがあると思うのですが、そこからすごいと思えるものがあるか、ということを大事にしています。作家性がある漫画家さんは、「このマンガがすごい!」にランクインされたり、「マンガ大賞」を受賞されたりしていますよね。作品に個性を出すことは簡単に出来ることではないですが、新人の漫画家さんにもそういった独自性を期待しています。

-LINEマンガに持ち込みに来る新人さんの傾向はあるのでしょうか?

中野:利用者数の多い漫画アプリなので注目はされていますが、新人の漫画家さんは複数の編集部を回っているので、一つの選択肢として考えている方が多いと感じます。ただ、これからはLINEマンガオリジナルだから描きたい、と思って来る人を増やしたいですね。そのためには、媒体の看板となるようなメジャータイトルが必要です。誰もが知る憧れとなるような作品が一つあると、そこで描きたいという人が続いてくれますから。

-新人の漫画家さんにどんなことを期待しますか?

中野:先程、作家性や独自性の話をしましたが、具体的に言えば、その人自身が持つ美意識だったり感情を恥ずかしがらずに漫画に投影できることです。興味を持っていることや描きたいことだけでなく、他人には知られたくない思考や感情、コンプレックスなどもはけ口として漫画で表現してほしいです。
そのためには自分自身の内面を掘り下げる作業が必要だと思います。その作業の結果から読者が共感してくれる要素も生まれると思いますし、その人ならではの個性というか味わいが作品に出てくると思います。画力や技術がつたなくても、個性や味わいを感じられる描写が一つでもあると作品作りをサポートしたいと思えます。

-画力や技術力が評価にどれほど影響するのか、議論は分かれるところですね。

中野:よく、画力よりも漫画力が大事、という話をしています。子供の頃から漫画に親しみ、すごく絵も上手なのに、ネームを描くことができない方もいます。漫画力というのは、コマ割り含めた漫画の文法を理解していることです。それがあると読み手を作品に引き込ませることができます。もちろん画力や技術力がないと漫画家にはなれないのですが。

-漫画力はどうすれば向上できるのでしょうか。

中野:例えば、好きな漫画の物語を思い出しながら自分なりにネームにして、後から本物と比較してみると、上手く表現できていないところが分かります。既存の作品を、自分なりに消化させることで、漫画の文法を理解することはできると思います。

-最後に、新人の漫画家さんに伝えたいことをお願いします。

中野:手前みそですが、持ち込み含め、今狙うならLINEマンガが一番オススメです(笑)。

村田:中にいる私が言うのも何ですが、LINEマンガって各雑誌の編集者が結構見てるんですよね。自分の担当作品を無料連載として提供している編集者さんも多いので、どんな作品が載っているのか、気になるんだと思います。なので、実はLINEマンガオリジナルとして連載が始まってすぐ、他誌の編集者さんから声がかかるケースもあって。

-それ、書いて良い話ですか?(笑)

中野:実際、そういうステップアップの仕方もあると思います。利用してやろう、くらいの野心家も歓迎です。今の時代は漫画家さん自身がセルフプロデュースすることも必要かと思います。最初の環境は大事ですが、そこからどうキャリアアップしていくのかでその後が変わるので、貪欲になることは悪いことではありません。

村田:私たちとしては、もちろんLINEマンガオリジナルでずっと連載をして頂きたいですし、全力で作品作りをサポートすることを怠ることはありません。

-出版業界の変化に伴い、漫画家さんのキャリアの描き方も変わっているんですね。

中野:そうですね。LINEマンガオリジナルで、毎週もしくは隔週で連載を続けることができれば、確実に力がつきますし、環境的にも整ってきたので是非チャレンジしてほしいです。

-ありがとうございました!

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原、岡嶋

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