週刊少年ジャンプ中野博之編集長②「血が通ったセリフが、キャラクターを立たせる」
第13回目を迎えた今回の「編集長の部屋」は、『週刊少年ジャンプ』の中野博之編集長!今年の6月に就任されたばかりの中野編集長に、『週刊少年ジャンプ』のこれまでとこれからをじっくり伺いました。
『キン肉マン』に『ドラゴンボール』、ジャンプ作品は子どもたちに大きな影響を与えていた
-中野編集長ご自身について、もう少し詳しく伺えればと思います。
先ほどお話ししたように、最初の配属がジャンプ編集部で、12年くらいいました。そこから最強ジャンプで副編集長を3年務め、ジャンプに副編集長として戻って3年くらい経って、今に至ります。ずっと週刊少年ジャンプというわけではないですが、最強ジャンプで扱っていたのは『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』や『トリコ』がメインだったので、全然違うことをやっていたわけではないですね。
-もともと、マンガ編集者志望だったのでしょうか。
大学は文学部で、本を読むのが好きだったので自然に出版社を目指すようになりました。漫画も好きだったので、編集部の中でも漫画を、と思ったのですが、漫画なら『りぼん』などの少女漫画でも良いかな、くらいで。ジャンプ編集部はジャンプ一筋のスタッフも結構多いのですが、僕はそこまででもなかったと思います。ファッション誌は出来ないなと思っていましたけど(笑)
ただ、振り返ってみると他誌を読んでいたわけでもなく、ジャンプを読んできたなというのはありますね。持っているコミックスもジャンプコミックスが多かったです。
-子供のころに読んでいた漫画で、印象に残っている漫画はありますか?
世代としては、『キン肉マン』や『キャプテン翼』ですよね。まだ幼稚園くらいだったので、アニメから入ったのですが、そのあと漫画も読みました。あれだけ少年の心を持っていった作品もないのではないでしょうか。幼稚園の卒園文集に、一人ひとり何か書くスペースがあったのですが、男の子は全員『キン肉マン』の超人を描いていましたね。僕も含めて、何か絵を描くと言ったら『キン肉マン』でした。
小学校に入ると『ドラゴンボール』、そして『ドラゴンクエスト』でした。まさに鳥山明先生の世代。絵もみんな真似して描いていました。やっぱりジャンプの漫画、特に絵柄が子どもたちに大きな影響を与えていたなと思いますね。
©バードスタジオ/集英社
-ジャンプ編集部に配属されてからの編集者のお仕事は、いかがでしたか?
ジャンプ編集部に入って、最初に担当したのは『世紀末リーダー伝たけし!』の島袋光年先生でした。連載3年目で、先生が25歳くらいの頃です。
-最初はベテランの先生を担当するイメージがあったのですが、そうでもないのですね。
そういうことは多いですね。ただ厳密には、ベテランというよりも、先生のキャラクターというか特性で、自分をしっかり持っていて、編集の手助けをそこまで必要としない先生の担当になることが多いです。もちろん、何もしないと言うわけではないのですが、先生によっては作品の中身だけでなくてスケジュール管理や精神的なケアも必要とする方もいるので。島袋先生は人間としてしっかりしていて、こういう漫画を描きたいというのも明確でした。そのためにきみはこれをしてくれ、とはっきり言ってくれて、役割分担がされていたので、編集者として育てられたという感覚は強いです。
血が通ったセリフが、キャラクターを立たせる
-具体的には、どういった形で一緒にお仕事をされていたのでしょう。
一番は飲みに付き合え、ということですね(笑)一話一話のアイディアを出すというよりも、飲みに行って、この1週間あった面白い出来事を教えて欲しい、雑談を聞かせてほしいと言われていました。そういうネタがいつかのひらめきになるかもしれない、と。具体的にどんな話にするか、というのは自分が考えるから大丈夫、という先生でした。
-印象に残っているやり取りはありますか?
本当に、全部のやりとりが血肉になっていると思います。会社の先輩たちには、島袋先生にキャラクター的にも似てきたと言われます。兄貴肌というか、飲みに行くぞ、といって声をかけるようなところも含めて、人生の師匠みたいな感じだね、と。
島袋先生ってミスター少年漫画という方で、とにかくキャラクター作りがすごかったです。キャラクターさえ面白ければ、何をやってもいい。ただ、キャラクターが作れるまでは漫画が作れない、という人でもありました。
-島袋先生は、具体的にどのようにしてキャラクター作りをされていたのでしょうか?
実際の人を参考にしていたと思います。人に会わないとキャラクターが作れない、と言っていました。もちろん、会った人そのままのキャラクターではないと思いますが、その人のここが面白い!と思ったら、そこをどんどん広げていくような感じです。
細かく見ていたわけではないのですが、島袋先生のノートはセリフがいっぱい書いてありました。キャラクターを考えるのも、絵ではなく、文章で書かれていました。このキャラクターにはこのセリフを言わせたい、こんなセンテンスの言葉を、こんな言い回しを、という感じで。決め台詞でも何でもなく、単にゴロのいい言葉だったり、ささいなセリフだったりがたくさん書かれていましたね。
-そのセリフの一つひとつが、キャラクターを形作っているのでしょうね。
優秀な作家さんは誰しもそうですが、セリフのリズム感がすごく上手でした。セリフって、ある程度文章が書ければそれらしいものは書けちゃうんですけど、血の通ったセリフにするのが難しいんです。そこは感覚的なところなので、編集者としてもなかなか教えられません。ただ、「キャラが立ってるね」と言うときは絵や設定よりも言っているセリフがしっくりきている、というときです。そのキャラクターから心底、素で出ているようなセリフ、作家が発しているのではなくキャラクターから発されているようなセリフになると、キャラが立っているようになる気がします。なかなか新人に指導できないのですが、「このセリフは君が書いたようにしか聞こえない」ということはよく指導しましたね。
©島袋光年/集英社 ©久保帯人/集英社 ©松井優征/集英社
ヒット作を求められるのが、ジャンプ編集部
-絵や構成や演出は伸びるけど、セリフだけはなかなかレベルが上がらない、という話をきいたことがあります。
それはあるかもしれません。僕が担当していた『暗殺教室』の松井優征先生(『魔人探偵脳噛ネウロ』を描いていたときに担当)のネームは、セリフだけで絵が描かれていませんでした。松井先生も、セリフにすごくこだわっていて、セリフだけチェックしてもらえれば、あとは僕は大丈夫です、という感じで。ただ、時々思っていたのと違う絵が入って来て、やばい!ってなるときはありました(笑)「ちょっとこのパロディはダメだよ」とか、「この画は怖すぎる」とかで描きなおしてもらったり。ただほとんどセリフで分かりましたね。
-それだけ、セリフの力は大きいということですね。
島袋先生は絵の力も圧倒的ですし、そこは自信があったんだと思います。なので、チェックしてほしいのはネーム、セリフっていうことなんでしょうね。
週刊連載はどの先生でも原稿が遅れ気味になりますが、遅れる理由には2パターンあります。絵にこだわってしまって絵に時間がかかる先生と、ネームに時間がかかってネームができない先生です。どちらかというと、ネームができない先生の方が大変で、島袋先生もそうでした。どの先生もサボらずに仕事はしているんですよ。ただできないだけで。自分のハードルが高くなっちゃうと、納得のいくものにするのが大変なんですよね。
-なるほど。ネームで詰まってしまうと、先に進めないですもんね。
島袋先生のときもネームがなかなかできなくて、すぐ電話がつながらなくなるので、よく探しに行っていました。まず家の前まで行って、ピンポン鳴らして。「出ないけどいるんじゃないかな?」って様子を伺ったり、電気メーターを見たり、定番ですね。近くのファミレスを探し回ったり、絶対ここを通るだろうと駅で張ったり。あと、僕はまずはアシスタントに電話しますね。聞くと「一回解散しました」とか教えてくれます。なので自分の担当している新人作家をアシスタントに入れるのは大事なんですよね。内通者というか、編集に嘘はつけないので(笑)
編集もすごいもので、出ない電話でやばさが察知できるようになってきます。純粋に出られないだけなのか、ネームが遅れていて出ないのか、何となく分かるんです。そういう第六感は大体外れないですね。
-そうやって作品作りをしていると、編集者さんも忙しいですよね。
ジャンプの場合、忙しいのもありますが、それよりもプレッシャーが大きいのが大変です。集英社の利益を支えているわけですから、ヒット作を求められます。例えば、「5年間在籍していてお前は何の実績を作ったのか?」というのを問われるんですね。自分は連載を引き継いで伸ばすというのは得意だったのですが、新しく連載をドカンと起こすのは得意ではなくて。『ONE PIECE』を立ち上げた浅田さんや『NARUTO -ナルト-』を立ち上げた矢作さんが周りにいたので、そういう時代をつくる漫画が生まれたことと比較してしまうと…。2本目の担当作が『BLEACH(ブリーチ)』で、人気は出ていましたが、立ち上げではなかったこともあって「お前の手柄だと思うんじゃねーぞ」と言われたりもしました。それでも『BLEACH(ブリーチ)』は、自分の担当時代にメディア化がどんどん広がって、色々経験させてもらいましたね。
インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、川原
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