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編集長の部屋 2017年12月11日

なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん②「相手に10分で理解させられないことは削る勇気を。」

第14回目の編集長の部屋は、『なかよし・ARIA・エッジ編集部』部長の中里郁子さん!講談社とpixivによる共同プロジェクトとして、新アプリを開発中であることが2017年9月に発表になりました。『BE・LOVE』、『なかよし』の編集長を歴任された中里さんに、新アプリにかける思いを伺いました。

企画を通さない限り、作家さんは無収入になってしまう

-「作家の一番を引っ張る」ですとか「読者は薄情だ」というような、編集者として大切にしている考えに至るまで、何か大きなきっかけがあったのでしょうか。

私は大学を卒業するまで平和な読み手でした。漫画が大好きで、漫画家さんはすごいな~って。一人の力でお話作って絵も描けて、すごい仕事だなと。子供のころから漫画家さんから豊かな時間をもらっていたので、漫画の部署に配属されるまで、漫画家さんはみんなお金持ちだと思っていたんです。漫画家という職業はみんなハッピーだと。実際編集者になってみると、漫画家と担当編集者は1on1の世界で、私が担当になったら、私が企画を通さない限り、作家さんは無収入になってしまう。それがまず一番初めにびっくりしたことです。他人の生活を自分が左右することになってしまった、と。いまでもそれは怖いです。

たとえば24歳の漫画家さんが、24歳の平均年収を超えるにはどうしたら良いかと考えると、原稿料は単純な掛け算で、年間何ページ描かないといけない。年間何ページ描くためには、会議でその作家さんの企画を何本通さないといけないのか、と。新入社員の時にその衝撃を受けたのが根っこにあります。

作家を支えるのは読者なので、読者に支持され続けないといけない。支持する読者がどんな人たちなのか知らなければいけない。それならば、アンケートが大事になります。どうやって作家さんの収入を増やすか、コミックスを売るにはどうしたら良いのか、どんな人が買ってくれるのか、こういう帯を作って売り出すなら、こういう帯を書けるような作品でなくてはいけない、とか。

-作家に食べていってもらわないといけない、と。

講談社全体に出版社として作家さんにきちんと収入を渡したいというメンタリティはあります。ただ自分にとって特に強かったのは、入社1年目に担当をほとんど割り振られなかったことですね。そもそも作家さんがいないことには漫画編集者は何もできない。作家を担当したいという飢餓感があったのかもしれないですね。

飢餓感があった上で担当を持つことになったから、逆に自分が担当になった作家さんは全員食べさせてあげないといけないという気持ちが強くて、30歳くらいまで自分の中で吹っ切れなかった部分がありました。シビアな言い方ですが、漫画家さんとして勝ち上がっていけない人も絶対にいます。音楽業界にもいますしクリエイティブな世界はそういうものかと。そういう人は早く見切りをつけて、別の形で成功することを目指すとか、他の道もあります。けれど自分で自分に見切りをつけるというのは難しい。好きなだけにあきらめきれない。35歳から人生やり直そうって、でもそれはなかなか難しいことです。その見切りをつける役割としても編集者がいるのに、私自身はなかなか見切りをつけさせることをしてあげられなかったから、ダメ編集だなと思います。

-シビアですが、大事なことでもありますね。モーニングの後、週刊少年マガジンに移られてからはどうですか。

週マガでは、新人から育てる、何年もかけて二人三脚でやっていくということにものすごく価値をおいている部署で、そういうところに関われたのは良かったと思います。少年誌にしか蓄積されていないノウハウもしっかりある。少年誌には、ものすごく強固な成功パターンがあって、スポーツマンガをはじめ名作を生み出してきました。

週マガは、新入社員から配属されている編集部員がいて、先輩から受け継がれる週マガDNAがあって、だからこそ守られる王道の漫画の作り方があります。わかりやすくて、キャラクターが誰よりも魅力的で、多彩なサブキャラに支えられて、それらの多彩な人格を取り回しができる漫画力の高い漫画家さんにしか到達できない、エンタメのある種の最高峰を作り上げているというのが週マガの素晴らしいところだなと。

最初に配属されたmimiでは優秀な先輩たちに圧倒されたという感覚があるのだとしたら、モーニングでは先輩たちももちろん凄かったけれど、同年代の編集者に刺激を受けました。同年代の編集者がヒットを出しているなら、自分も頑張らないといけないなというプレッシャーが強くて・・。週マガに配属されて思ったのは後輩の優秀さです。なんて仕事ができるの!って(笑) ヒット作もばりばり若い後輩たちが作っているし、漫画家さんも含めて20代30代が活躍できる部署でした。

-そのあとまたKissに戻られたんですよね。

Kissに戻ってからは、作品をつくることに専念させてもらいました。27歳でデスクになったので、自由に担当を増やすということもなかなかできなかったから、新人さんを育てることも含めて、純粋に作品をつくるという楽しみがありました。

この作家さんに是非描いてもらいたいとオファーに行って、Kissで描いてもらうことに漕ぎつけることも出来ました。新人さんの新連載をヒットさせるぞとか、エッセイコミックもやってみようとか、編集者としてやったことないことにもチャレンジできた時代です。

-そのあとBE・LOVEの編集長になられるわけですが、編集長という立場になっての気付きや考えたことはありますか?

編集長は別に優秀である必要は全然ないということですね。部下が優秀であれば良いという世界なので。部下がヒット作ってくれたら、編集長も得をするという世界です。

作品は、作家さんが80%描くもので、そこに編集者が加わることで100%になります。ですが20%手伝えば、100%になるよね・・という編集者は、ヒットのお手伝いは難しいなあと思います。作家さんを気持ち良くしたり、引き出してあげたり、勇気づけたりする意味で、20%だけじゃなくて、実は60%くらいの力が編集者にあって、さらにそれを80%に出来る編集者がいれば160%の作品が出来ます。でもマイナスにすることも可能で、作家さんが80%のものをマイナス40%で結果40%にしました、ということも出来てしまいます。その意味で言うと、80%+80%が160%になると良いねというところで、まさかの2000%ですか?!という足し算をしてもらわないとヒットは生まれません。2000%をずーっと続けて、10巻20巻の作品を作るお手伝いができることに、編集者の価値がある。

その編集者がヒットが生みやすくする場所をつくるというのが編集長の仕事ですね。BE・LOVEという雑誌は、購買層が30代~50代にまたがっているので、下の世代に向けても売らないとコミックスのヒットに繋がりません。そもそも30代~50代でも、雑誌のカラーとして一部の読者しか獲得はできない。絶対BE・LOVEでは獲得できない読者層にリーチするためにITANを作る。両極端を作れば、漫画家さんはたいていどちらかの傾向が強いので、部員はどんな作家さんにも、仕事を依頼に行けます。『ちはやふる』が面白ければ、『ちはやふる』に宣伝費を投下する。作品は作れないけどヒットを生まれる場所をつくるための、対会社との折衝や対販売との折衝をするのが編集長の仕事です。

 

読者がお金も時間も無駄にしない喜びを作るしかない

-よく編集部員の方々に伝えていることはありますか?

読者は薄情だ、というのは良く言いますね。薄情というと言い方は悪いですが、読者には我々に義理はない、と。読者がお金も時間も無駄にしない喜びを作るしかない。お金も時間も無駄にしなかった、と思ってもらえればファンになってくれますし、強固なファンを作ることができれば作家生命は長生きできます。

あとは作家さんの一番を引き出すこと。長生きする作家さんは一番があるはずだから、編集者側の「私はこういう漫画が好き」とか、「私はこういう漫画しか読みたくない」とかいう私主義ではなく、作家さんにある一番を引き出してほしいなと思います。

-これまでのお仕事で特に影響をうけた先輩編集者や漫画家さんはいらっしゃいますか?

影響受けた方は多すぎて、基本、自分より優秀な人にしか会っていないです。歴代の上司に恵まれて、それぞれの時代にそれぞれのチャンスをいただいたなと思います。いま冷静に考えると27歳でデスクを任されるなんて、そうそうないですよね。モーニングに異動したときも、そもそも女子なのに、かわぐちかいじ先生を担当出来るなんてラッキーだったと思います。『ジパング』のスタートに立ち会えましたし。


©講談社

先輩上司にはすごく恵まれてきたなと思うし、何しろヒットをつくる編集者はすごいなーと思って、どうやってあれはやったの?というのはいつも知りたいなと思っていました。社内にいるヒットを作った人は、ことごとくすごいなと。後輩であれば、BE・LOVE編集長になったときに『ちはやふる』の担当編集者から、すごく沢山質問されて、ヒットを作りたいという意欲が伝わってきました。いつも誰にでも質問してくる人は優秀だと思うし、そういったことがあって、質問になるべく沢山答えることが上司や先輩の役割なのかもと思っています。

漫画家さんはもう本当に全ての漫画家さん。挙げていくとキリがないですね。でも、作家さんとしてもっと担当していたかったという意味で、東村アキコさんは本当に天才だと。初めて会った時から、作品感の素晴らしさとか、ものの分析力とか、漫画を読んでいない人が何を求めているのかを掴む力も含めて、時代を掴む力の半端なさは、もう天才だな、と。今でも1年しか担当できなかったのは、残念です。もっと学びたいことがいっぱいあったなあと。担当させていただいた作家さんは、すべて感謝しかないです。

それから「なかよし」という雑誌からは学ぶことが多いですね。現存する漫画誌で一番古いだけあって、漫画の原点的な面白さってこういうことなのか、と。つまり、わかりやすいキャラクターがいて、わかりやすいお話があって、わかりやすい不幸があって、わかりやすい幸福があって、カタルシスの出し方とか。要素がちゃんと入っていたら、「わかりやすい」ってこんなに面白いんだと。

『キャンディ・キャンディ』から学ぶことも多いし、『美少女戦士セーラームーン』から学ぶこともあります。『カードキャプターさくら』はCLAMP先生方があれだけ多彩な作品をつくるなかで、小学生向けにこうした名作を作るという姿勢も含めて、やはり天才集団だなと思います。時代時代のヒットを生む「なかよし」という雑誌から、学ぶことが多いです。私は一編集者としてなかよしにいたことはありませんが、漫画を読んだことが無い人に漫画を読ませる仕事って素晴らしいなとなかよしにきて強く感じました。「なかよし」が講談社というのを知らない人はいても、女子で「なかよし」を知らない人はいない。これってすごいことですよね。


©講談社

-「なかよし」ならではの作品の作り方はありますか?

「なかよし」を読んだ人は、みんな女の子でよかったって思ってもらえたら良いですね。Girls, be ambitious! というか、女の子は可愛いも追及できるし、仕事頑張るも追及できるし、選べるものが多い。「なかよし」の主人公は天真爛漫に女の子であることと地球を救うことを両方享受していますよね。やっぱり女の子って素敵だよね、男より100倍素敵じゃない?って。(笑)

「なかよし」に異動になるまでは、どの編集部にいても、漫画を作ることはそんなに変わりはないと思っていたけれど、小学生に向けて作るというのはまた全然違うことだと思いました。

 

相手に10分で理解させられないことは削る勇気を

-多くの編集部での経験があるからこそ、どこで描くのか悩ましいという新人の漫画家が、意識したほうがいいポイントは何かありますか?

雑誌に投稿するというのは就活と同じだと思うので、その雑誌が好きだということだけでなく、その雑誌はどんな人を求めているんだろうという視点があるほうがデビューしやすいですね。

恋愛と一緒で、好きだけでなく、付き合う彼女や彼氏のことはちゃんと研究したほうが良いと思います。自分が求めているのは「特定の彼の恋人になる」ことじゃなくて、「そもそも誰かと付き合ってみたい」ということなら、まず自分を好きになりそうな人をターゲッティングして恋愛してみるのもいい。好きな人と好きになってくれる人が一致していれば最高ですが、デビューというのは、まず好きになってもらえるというのに近いように思います。自分という才能を必要としているところはどこなのか、というアプローチの仕方もあるかも?

少なくとも言えることは、作家さんにとって、自分のプロデューサーは自分しかいません。編集者にとっては担当作家は10人くらいいても、作家にとって担当は一人しかいないので。

そもそも担当になる人やその雑誌が自分に合っているかどうか研究はして欲しいなと思います。就活ですから、自分にわがままに、シビアに、ずるくなっても良いんじゃないでしょうか。

それから、好きで思考停止してしまうのは結構危険だと思います。自分がファンを作るのは未来の話なので、未来の読者はどこにいるのか? 今の読者はどんな生活をしているのか?どんな作品を求めているのか?を考えて、なにか「今」をいれる。新しさがあると、編集者は「おっ!」となるのではないでしょうか?

-なるほど。ほかにも最近の漫画家志望者に対して課題に思っていることや、もっとこうしたらいいのに、と思っていることはありますか?

デビューが容易だけど、続けるのが容易じゃない時代になってしまっているので、デビューをゴールだと思わないで欲しいですね。デビューは富士山登山で言えばまだ三合目くらいです。その後のほうが、心が折れることが多いので、その時の自分の慰め方と、自分なりの仕切りは設けたほうが良いと思います。

これから二年間頑張るぞ、と思ったら、一年目に何作掲載を目指そうとか、二年目は自分なりの連載の準備をするとか。たとえ読切コンペであっても、なんなら連載でも通用するようなキャラクターで読切を描くくらいのつもりで、一歩先の目標を作って欲しいですね。読み切りが受けたら、そのキャラで前後編にしてもらおう、前後編が受けたらシリーズ連載にしてもらおう、シリーズ連載が受けたら連載になるんだから、そもそもこのキャラクターは強いだろうか、と。読切の為に「起承転結のお話をつくらなくちゃ」、「ハッピーエンドだからいい読切だよね」と、テーマがはっきりしない起承転結があるだけの話を作ろうとする人は永遠に読切作家から抜けられません。読者の喜怒哀楽を引き出せるテーマがあるかなど、自分へのハードルを少し高めに設定したほうが良いです。

編集者との打ち合わせは、どうしても直すところの話になるから、心が凹むことが多いですよね。こちらも褒めているだけというわけにはいきませんから。投稿者同士で、今日は褒めあう日を作るとか、凹むことがあったら、ネタGETと思うとか、自分にやさしくする方法があるといいかも?(笑)

-漫画家として仕事を続けていくというのは、技術的な問題よりも、メンタリティの問題ということでしょうか。

そうですね。モチベーションをどう保つかもそうですし、自分の売りを客観的にみられるかどうかも、含めて、漫画家さんは総じて頭がいいと思います。健全な自信は、自分のなかの勇気になると思うので、いっぱい自分をほめてあげてほしいです。技術が優れていたり、良い絵がかけるなら、圧倒的な作画家になるというのも手です。自分が長く続けるために、作画の方が得意なら、作画家としてのニーズがどこかにあるのではないかと、求めに行ってもいいんじゃないかと思います。逆に話がうまいけど、絵が苦手なら、誰かに描いてもらってもいい。そのためにも、自分の一番良いところをまず自分が発見することですね。良いところを発見していないと、自分を信じる要素がなくなってしまいますよね。

それから新人さんに一番言いたいのは、削るのが下手だな、ということです。描きたいことを何でも入れるから、わけがわからなくなってしまう。最大限思い付いたら、割り切って上位3つのアイデアしか入れません、とか。描き手の1ヶ月は読み手の10分なので、10分で理解できるかどうか。相手に10分で理解させられないことは削る勇気を。そう、伝えたい事は削る勇気かな。

 

なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん③へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原

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