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編集長の部屋
2017年12月4日

なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん①「作家さんの一番が引き出されれば強みになる」

第14回目の編集長の部屋は、『なかよし・ARIA・エッジ編集部』部長の中里郁子さん!講談社とpixivによる共同プロジェクトとして、新アプリを開発中であることが2017年9月に発表になりました。『BE・LOVE』、『なかよし』の編集長を歴任された中里さんに、新アプリにかける思いを伺いました。

漫画編集者を経ないと作品を発表できないということ自体が矛盾に満ちている

-講談社とpixivで新アプリを開発中ということですね。pixivとの連携はどのような経緯だったのでしょうか。

2008年頃になりますが、当時私がBE・LOVE編集長だった時に、BE・LOVEと真逆の雑誌を作りたいよねとITANを創刊することになりました。BE・LOVEは20~50代女性の一般的王道を追及する雑誌なので、その真逆のものを、となったときに、メジャーに対するマイナーではなくて、尖ったものがある作家さんに、その作家さんにとっての尖った王道を目指して描いてもらおうとなりました。今までの紙の雑誌では描けないジャンルを描いてもらったら、こんなマイナーメジャーというかメジャーマイナーが生まれるぞと。ITANではこれまでやったことないことをやりたいから、表紙についてもプロの漫画家じゃない人が描いたら面白いよね、となって表紙コンテストを出来ないか、pixivさんにお話にいったのが最初です。

当時pixivには6~7万人の投稿者がいて、UGC(=User Generated Contents、インターネット上に投稿したコンテンツ)というか、イラストを勝手にアップロードできるところがあるということに感動するものがあって、すごいな、と思っていました。実は、今はなくなってしまったサービスですが、任天堂DSにもお絵かきサービスがあって、そこでも自由にコマ割り漫画を発表したり、動画化できるようになっていました。マリオの漫画を描いたりしていて、素晴らしいなと。pixivや任天堂では、アクセス数を競うというような概念もすでにあって。それに加えて、もちろんそこにはアップすれば見てくれる人がいる。絵師と呼ばれる人がいたり、ブラック★ロックシューターが生まれたりしていました。

そういう風に、良いなと思っていたときに、BE・LOVEの編集長に異動になって、ITANが創刊することとなり、pixivに当時の部員に相談に行ってもらったのが始まりです。漫画の投稿機能をつける予定はないんですか?と聞いたら、実は先々作りたいとは思っていて、でも今はないからまずはイラストの表紙コンテストをやりましょうと。漫画の投稿機能を是非作ってくださいって。もう10年ほど前になりますね。

 
表紙コンテストの受賞作品が表紙となったITAN零号と1号/©講談社

-そんなに前から。pixivがすごいなと思ったポイントはどのあたりだったのでしょうか?

私の職業は編集者なんですけども、そもそも前身は普通の大学生です。普通の大学生が就職活動の結果、講談社に入ることになって、漫画編集部に配属されたから漫画編集者になったので、テストで優秀な漫画編集者だと判定されたわけではないんです。だから、自分がこの仕事をしながらも、漫画編集者を経ないと作品を発表できないということ自体が矛盾に満ちているなと感じていて・・。こんなに多種多様に人の好みがあって、たまたま編集者である自分に漫画を見る目があるかどうかなんて保証もされていないのに、この漫画作品を載せる載せないを決めたりとか、ネームの打ち合わせをしたりとか・・。いまでも怖いです。自分が持っている感想がはたして正解なのかどうか?自信が持てない。作家さんの作品が、売れて初めて自信が持てる。映像化されたので、あ、正解だったんだな、と。

だからコミケやコミティアは素晴らしいと思っていて、コミケやコミティアはある種の編集者に対する疑問というか、そもそも編集者を経ないといけないのかというアンチテーゼでもあって、こういうことをネット上で広く実現する時代がやって来たんだな、と。その驚きのひとつはpixivで、ひとつが任天堂DSでした。

シンプルに言うとそこで絵師の人達が遊んでいたんですよね。どんどん作品をアップしていて、見ている人もそれを見てこの絵良いねって、ファンが付いたりして。こういう絵師の人たちの遊び場が増えることはめちゃくちゃ良いことだなって。絵を描ける人が増えてくれますしね。

絵に限らず、ネット世界というのはUGCととても相性がいい。特にクラウドサービスが始まって、動画しかり、音楽しかり、ユーザーがアップロードしたものの中から、必ずいつかプロは生まれてくると。私がすごい発見をしたわけでもなんでもなく、まぁそういうことだったんだな、という感じです。

-編集者を経ないと漫画を発表できないことを矛盾に思っているということを、直接編集者の方から聞くことがあまりありません。

そうですね、矛盾に思ってます。自分に関して言えば、ただ就活で受かった人でしょ、って(笑)

-もともと漫画の編集者になりたかったのでしょうか?

配属先がマンガ編集部でした。もちろん漫画は読んでいたし、漫画は好きでした。むしろ大好きで、趣味嗜好が明確にありました。このジャンルが好きとかこのジャンルは苦手とか。漫画の好みが自分の中に明確にあるから、漫画を仕事にはしたくないと思っていたし、仕事になったら好きじゃなくなるかもしれないと思っていて・・。でも本が大好きで、一番時間を使っていたから、出版社を志望して、女性誌とか男性誌とか一般誌で知見を積みたい、そしていつか学芸書とかを作りたいと思っていたという感じですね。

 

作家さんの一番が引き出されれば強みになる

-講談社に入ってからの経歴を教えてください。

最初に配属されたのは、Kissの前身のmimi編集部でした。いわゆる20代向け少女漫画誌です。9年くらい在籍して、そのあとモーニングに異動になりました。その後は週刊少年マガジン。またKissに戻って、BE・LOVE編集長、なかよし編集長。現在は、なかよし・ARIA・エッジ編集部の部長です。

-mimiからモーニング、週刊少年マガジンにいらっしゃったとは意外です。

珍しいかもしれないですね。男性漫画誌系は男性系、女性漫画誌系は女性系で異動になることが多いので、こういった異動は編集者の中でも多いパターンではないですね。

-最初のmimi時代で一番印象に残っている仕事は何ですか?

mimi時代に一番記憶に残っているのは、入社4年目にKissのデスクをさせてもらったことですね。当時はmimiが本誌で、Kissが増刊。mimi班とKiss班に分かれていて、各班が5人ずつくらいでそれぞれ雑誌を作っていました。Kissのデスクに入社4年目の私がなって、ひとつの雑誌のラインナップを決めたりしていたのが思い出深いです。

-入社4年目でデスクを任されるとは早いですよね。難しかったこともあったんじゃないでしょうか。先輩編集者がいたりとか。

Kiss班はたまたま同い年か年下で、全員20代でした。当時の編集部は、どこの雑誌の編集部も、全体的に若かったですね。当時のmimi編集部の編集長が変なことが好き、会社をびっくりさせることが好き、という人で。若い編集に雑誌を任せている俺、みたいな(笑)。なので、本誌であるmimiの当時のデスクも私より3歳上の20代です。Kiss自体もそのとき創刊2、3年目で、新しい雑誌でした。本誌のmimiに対して、Kissは毛色の違うこともやってみようと思って、講談社以外の他の会社で描いている人も参加してもらいました。おしゃれな雑誌、センスのいい漫画、わたしたちの世代がいちばん魅力的な世代だと感じられる作品が集まっているほうが20代は読みたくなるんじゃないかと。

「これを読んでいる私が好き」「この漫画を好きと言える私ってセンスがいい」「この漫画作品は私の応援歌だな」と読者に思ってもらえるような雑誌にしたかったです。

たとえば歌でもいろんな「好き」があって、音楽の世界が豊かになっている。西野カナが好きな読者がいるなら西野カナみたいな作品が載っていて欲しいし、でも全部西野カナだったら出会いがない。RADWINPSが好きという人がいるならRADWINPSっぽい作品もあるほうがいいよね・・と。描いていることは結局A boy meets a girlなんだけれど、表現のしかたも解釈も様々なカラーパレットみたいにならないかな?なんて。この漫画誌はおしゃれだなって思ってもらえると良いなという感じでした。あとは、自分の担当作品については映像化を意識して担当していました。

-いつも映像化を見据えていたということでしょうか

というよりは、作家さんに合った形で勝負できるポイントを作ってあげられると良いなと思っていて。作家さんによって、作家性が強かったり、説得力のある作品を描く人もいたり、引きが強かったり、人間を描く力があったりそれぞれです。漫画好きが支持するタイプの作品以外で勝負しないといけないときもあります。その作家さんの一番の強みを引っ張ったら、映像化が近い人には、映像化しやすいジャンルを描いてもらっていました。医療だったり、教育だったり、サスペンスだったりとか。

-モーニングに移られてから、女性誌と男性誌のギャップはありましたか?

モーニングに移っても、私自身はギャップを感じたことは無くて、ただ読み手が男性に変わったなと。Kissと同じく、作家さんの一番が引き出されれば強みになることに変わりはなくて、作家さんが男性になっても、その作家さんの一番を引っ張れれば、読者がついてきてくれるだろうと楽観的でした。

モーニングは漫画として面白いというのが大前提で、そのジャンルについて奥が深いかどうかかが問われる雑誌です。つまりその漫画を読んだことによって、人間性の奥の方でゆらぐテーマがあったり、その作品を通じてそのジャンルを好きになれるとか。読者の自問自答を引き出せる奥深さが求められます。

-作家の一番を引き出すには、作家のことも知らないといけないですが読者についても知らないといけないですよね。

基本的にはどの部署に異動しても、読者はがきを読むことにしています。読者はがきは読者からのラブレターです。悪口も含めて。モーニングに異動しても、どこの部署にいても、基本的には読者はがきを読んで、読者がどんな方々なのかを知ろうとしました。

そこで気が付いたのは、読者は面白いものは求めているけれども、きわめて薄情だなと。薄情というのが適当かはわからないですが、読者は右肩上がりに面白くなることだけしか期待していないんです。編集者が前回と同じくらいの面白さだと思っていても、つまらなくなったと簡単に言うし、離れるのも早い。よく読めばわかるなんて、絶対わかろうとはしない。作り手側の行間を読み取って欲しいなんていう希望はワガママで、読み取れるように描けよ、ということなんです。描き手側の「私の言いたいことはよく読めばわかるはずです」なんてまったく通用しません。

-そういう厳しいことは作家さんにも話すのですか?

めちゃくちゃ言います! 作家さんにとっては担当になって欲しくない編集かも(笑)作家さんこそ、どれほど読者が薄情なものかを知っておくべきだと思います。でもそんな薄情な読者に「この人の作品大好き!」と言わせるんです。そう思ってもらえないと、作家は続けられない仕事だなと思います。読み手があっての描き手なので、読者がどんな方々なのかは意識したほうがいいと思っています。

なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん②へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原




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