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編集長の部屋
2017年10月9日

週刊少年ジャンプ中野博之編集長①「実写化できないほどの強いキャラクターがジャンプの誇り」

第13回目を迎えた今回の「編集長の部屋」は、『週刊少年ジャンプ』の中野博之編集長!今年の6月に就任されたばかりの中野編集長に、『週刊少年ジャンプ』のこれまでとこれからをじっくり伺いました。

 

実写化できないほどの強いキャラクターがジャンプの誇り

 -まず簡単に、中野編集長のご経歴について教えていただけますか。

2000年に集英社に入社しまして、週刊少年ジャンプ編集部に配属されました。約12年間週刊少年ジャンプ編集部にいたのですが、『最強ジャンプ』の定期刊行化に伴って編集部として独立することとなり、そこに副編集長として入りました。『最強ジャンプ』とは、キッズ向けのジャンプで、A5サイズの、いわゆる『コロコロコミック』サイズの雑誌です。

3年経ってまた組織改変があり、『最強ジャンプ』を隔月刊行にして『週刊少年ジャンプ』の下に組み込むことになったので、そのときに『週刊少年ジャンプ』の副編集長として戻りました。副編集長を3年務めた後、いま編集長になったという流れです。

-編集長のバトンを受け取って、中野編集長としてはこうしたい、というのはありますか?

期待を裏切って申し訳ないのですが、公言しているのは、編集長が変わっても内容が変わらないのがジャンプだ、ということです。編集長の好みはあるかもしれませんが、どの連載が終わって、何が始まるのか、というのは基本的には読者が決めるものです。編集長がこれを始めたい、と言っても読者の人気がなければ始まりませんし、逆に編集長がこんな漫画を終わらせたい、と思っても人気があれば終わらせることはできません。だから編集長が代わっても、変わらないのがジャンプだと思っています。

つまり、読者が変えたいと思ったら変わるのもジャンプです。それは作家さんにもスタッフにも言いました。僕が編集長になって変わることはないので、今まで通り作品を作ってください、と。

-それはそれでジャンプらしいですね。ジャンプと言えば、「友情・努力・勝利」のイメージが浸透していますが、その辺りはいかがでしょうか。

実は、ジャンプ編集部がそれを公式に言ったことはないんです。もちろん、要素としては大事だと思うんですけど、ジャンプは20人くらいスタッフがいて、それぞれ好きな漫画も違うし、それぞれの友情・努力・勝利も違うと思うので。それこそ5代前の編集長なんかは「友情・努力・勝利なんて馬鹿が言った」って言ってたくらいで(笑)

-そんなことを(笑)決めつけるなってことなんでしょうね。

ただ、ジャンプのテーマは何か、といえばキャラクターなんだと思います。昔は、『マガジン』や『サンデー』の漫画は実写化できるけど、ジャンプの漫画は実写化できない、と言われていました。ジャンプのキャラクターは、現実の人間には演じられない、表現しきれないくらい強いキャラクターだということです。それはある意味、ジャンプとしては誇りに思っていた部分もあると思います。

今はCGのクオリティも上がってきてしまったので、意外とできるようになってしまいましたけど。『暗殺教室』の殺せんせーもCG化されてしまって、あそこまでされると何も言えなくなってしまいます。だったら『BLEACH(ブリーチ)』とか『斉木楠雄のψ難』とか『銀魂』もできますよね、という話になってしまって。

-現実の人間には演じられないくらいのキャラクター、というのは分かりやすいですね。

キャラクターデザインは本当に大事だと思います。一瞬でそのキャラクターというのが分かる、シルエットでもわかるというのがないと。あと、よく言っているのですが、最近、絵が小さい作品が多いんですよね。絵が小さいと、パラパラっと見たときにキャラクターの顔が分からない。このキャラクターはこの顔なんだ!と見せるのが大事だと思うんです。読み切りは特に顔を大きくして、キャラクターがすぐわかるようにすることが大切です。

『最強ジャンプ』を担当していたことで、なおさらそういう意識が強くなったと思いますね。いかに子どもたちがマネしたいと思うかどうか、このグッズが欲しいと思うか。女の子でもそうですよね。このキャラクターの恰好をしてみたいとか。作家がその部分だけやらしく考えてしまうと、それは話が面白くなくなってしまうので、その意識は編集が持ってあげないとダメだと思っています。

 

週刊というペースだったからこそ、日本の漫画は大きくなった

-ジャンプと言えば、週刊というのも一つの要素かと思いますが、その辺りはどうでしょうか?

漫画自体がすごく広がっていて、じっくり読ませる漫画、大人も読むような漫画が増えてきました。そういう状況に応じて、じっくり腰を据えて描いている作家さん・作品が多い中で、週刊で描き続けるのは苦しい戦いかもしれません。週刊というのは毎週毎週、どんなクオリティであっても原稿を引っ張ってこられてしまう世界です。それでも、他の雑誌の月刊連載の先生方ともコミックスの売り上げという点ではフラットに戦わないといけないので、そこは大変だと思います。

-なるほど、その視点はありませんでした。

ただ、日本の漫画がここまでヒットしたのは、週刊誌の力だと思っています。もちろん、手塚先生、赤塚先生の功績が大きいと思いますが、どの世界にもない「週刊」の漫画誌が早々にバンバン生まれたのも大きいですね。それは、映画とかには絶対できないことです。映画の方が、お金もかかっていてスケールは大きいかもしれませんが、『ハリー・ポッター』を毎週作れるのか、というと難しいでしょう。今週の漫画も面白かった!しかもその続きを来週読むことができる!というのは大きいと思います。今も新しい読者を開いているのは週刊漫画なのではないかな、と。

-そう考えると、毎週毎週続きが読めるのはすごいことですね。

とは言え週刊連載は大変なので、休載や、原作・作画が分かれた作品が増えているのもその影響だと思います。絵のクオリティはどんどん上がっていますし、読者も絵のクオリティを求めていますね。昔は、ジャンプは新人の粗い画でも話とキャラクターさえ面白ければ爆発的にヒットしていました。今は一話目の絵のクオリティが高くないと勝っていけないところはあると思うので、そこは大変なところです。

-先ほど映像化のお話が出ましたが、ジャンプ作品の映像化は、どうやって決めているんですか?

明確な規定はないですね。タイミングと、それが作品のためになるかどうかです。もちろん、映像化は作家も担当も嬉しいことですし、会社としてもどんどん映像になって広がっていくのは良いことなのですが、うまくできないと作品のためになりません。作品のマイナスイメージになる場合もあるし、原作を好きな読者をがっかりさせることにもなってしまうので、かなり気をつけてやっていかないと、と思っています。以前まではアニメ化だったら、じゃあよろしくお願いします、でお任せでした。今はこちらがどんどん意見して、先生とかも内容に入っていかないと、いいアニメになりません。グッズの監修も担当編集がしています。

-どの編集部さんも、そこまで関わってやっているのでしょうか?

どうでしょう。他社がどこまでやっているか分からないですが、ジャンプは一番厳しいと思いますね。一時期、ある会社さんからジャンプ編集部はGHQだと思っています、と言われたことがあります。戦時中並みに検閲が入る、みたいな(笑)

それくらいやっているので、メディア化作品が増えると、スタッフが本当に忙しくなってしまうのも、悩みどころです。これもジレンマなのですが、こうして自分の担当作品を広げていくのは大事である一方で、20人全員が次の作家さんを育てていかないといけません。

-確かに、映像化にもそこまで関わっているとなると、編集さんは忙しそうです。

ジャンプは代々、新人作家の新連載が時代を作ってきました。それは担当編集と作家さんが二人三脚で、寝食を共にして生まれてくるものなので、編集が今の連載作品だけに時間を取られてしまうと、未来の作家さんを育てていくところに時間が割けなくなります。そこに危機感を持っています。できるだけ若手編集の無駄な仕事を減らしていって、彼らが漫画のことだけを考えられる、新しいものをつくることに意識を向けられる編集部にしていきたいですね。

もちろん、今も次の作家さんを育てる仕事には力を入れてやっています。集英社の1階の持ち込みスペースは、半分はジャンプへの持ち込みなのではないでしょうか。1日30人くらい持ち込みに来てるんじゃないかと思います。その中からすごい才能が出てくるのが楽しみですね。


©集英社

少女漫画は共感、少年漫画は憧れ。リアリティのある嘘が憧れを作る

-編集の方針というのはあるのでしょうか?

具体的にコレというものはないですね。ただ、雑誌名に「少年」とついているからにはやっぱり「少年」向けなんですよ。これが少年漫画だ!と思うようなものじゃなくて、こういうのを少年に見せてみたい、でいいんですよね。ここは少年に見せたら違う反応が来るかもしれないとか、どんなポイントでもいいんです。いわゆる「友情・努力・勝利」、「ザ・少年漫画」じゃなくていいんですけど、「少年」というところだけはぶれてはいけないと思っています。

もちろん、ジャンプには高年齢のファンや女性のファンも多いのですが、そういう読者も少年漫画が好きで読んでくれています。女性の読者が多いからといって少女漫画みたいな要素を入れたり、サラリーマンが多いからといって、『課長 島耕作』みたいなのを始めたり、というわけにはいきません。あくまでも少年漫画をやっていくのがジャンプだと思っています。

-少年漫画とはどんなものか、もう少し具体的に教えていただけますか?

難しい質問ですが、少年漫画は基本的にはバトルだ、と思っています。バトルというと、「敵をかめはめ波で倒す」というのが分かりやすいですが、スポーツで対戦するのもバトルですし、囲碁とかであってもバトルです。恋愛でも、基本は女の子との駆け引き的なバトルだったり、あとは自分の何かを超えられるか、という点でバトルだったりするので、そこは一つのポイントかもしれないですね。

少女漫画と少年漫画の違いでいうと、少女漫画は共感で、少年漫画は憧れです。少女漫画は、あるある!こんな気持ちになるよね、と共感を呼ぶことが大事なので、起きていることもリアルです。逆に少年漫画は、嘘の方がいいですね。色々な技だったり、能力だったりがあって、強さがあって、こんな人になりたい、という憧れが生まれる。だから、少年漫画はリアルである必要はありません。ただし、嘘くさくなっちゃうとつまらなくなってしまうので、リアリティは必要です。

-少年というキーワードが出てきましたが、漫画雑誌を読む年齢層が上がってきている、という話をよく聞きます。ジャンプの読者層としては、いかがでしょうか。

確かに、卒業する人は減っているんですよ。それは『ONE PIECE』などの長期連載がしっかり今でも力を持っているのが大きいですね。一方で、低年齢層の読者を新しく入れていくのは課題です。なかなか強いギャグ漫画や、ホビーと連動するような漫画、地上波のアニメで視聴率10%以上とって2年も3年も続く、という漫画がなくなってきているので、それは確かです。

そのため、アンケートをとると平均の年齢が少し上がっているのも事実です。ただ、アンケートの見方も色々あって、年齢の分布図を見ると、その山は変わっていないんです。大体15歳~18歳くらいのところに山がある。一番読んでいるのはちゃんと15歳くらいの少年たちです。なので編集スタッフには、アンケートを読み間違えるなよ、ということは口酸っぱく言っていますね。

-これまでのお話を踏まえると、中野編集長の『最強ジャンプ』での経験を、低年齢の読者の取り込みに活かすために抜擢されたのかな、と思ったのですが、いかがでしょうか。

それは一つ、僕の中のテーマとしてありますね。もっともっと、ちゃんと子どもに読んでもらいたい、という想いはあります。それこそ自分自身は、毎週次のジャンプが楽しみでしょうがない、という時代に育ってきました。中学校とかだと学校が終わってもすぐ部活があるので、部活が終わるまでジャンプは読めないわけですが、部活が始まるまでの5分くらいの間に誰かがジャンプを買ってくると『ドラゴンボール』だけ読ませてくれ、とみんなが集まってきたりしていました。当時はジャンプを一分一秒でも早く読みたい、子どもたちはそういう想いで読んでいたのかなと。あの熱狂をどうやったらもう一度出せるのか、そういう想いは密かにありますね。

-意識しているライバル誌はありますか?

本来は同じ週刊少年漫画誌ということで『マガジン』、『サンデー』、『チャンピオン』がライバルなのですが、この雑誌不況です。どこか一つが売れていれば、ライバルだ!と言えますが、今や同志になっちゃってますよね。みんなで少年漫画を盛り上げよう、という。そういう意味では、最強ジャンプをやっていたこともあって、最も尊敬すべきライバルは『コロコロコミック』かもしれないですね

-どういう点で、そう思われるのでしょうか?

コロコロだけが、ちゃんと低年齢層のヒットを作り続けているかもしれません。今もベイブレードがしっかりヒットしています。見極めもすごいですね。このブームはこれくらいの熱度だ、ということをしっかり把握して仕掛けているな、と思います。

さらにすごいのが、やらしさがないというか。あそこまで行っていると、もうちょっと上の年齢層も取ったらもっと売れるのでは、とか、女の子も取ったら売れるのではないか、と思っても良さそうなのですが、そこは絶対にしません。ぶれないのがすごいです。

【編集長の部屋13】週刊少年ジャンプ中野博之編集長②へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、川原




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