【イベントレポ】ラノベとマンガ、最強編集者対談(2)いまの若い編集者に必要なのは「集中できる環境」
漫画持ち込み・投稿・新人賞ポータルサイトのマンナビ編集部は、株式会社ストレートエッジ代表取締役・三木一馬さんと、株式会社集英社JBOOKS編集長・浅田貴典さんの対談イベントを開催しました。参加者をサイト立上げのクラウドファンディング出資者と、マンガ編集者に限定したクローズドイベントです。会場いっぱいの来場者、その約3分の1が副編集長クラス以上という濃密な空気のなか行われたトークイベントの模様をお送りします。(登壇者プロフィールは最下部)
(1)媒体の垣根を越えなければ「読者」は増やせない
編集者とIPプロデューサーの違いとは?
三木:僕は、エンタメ業界で今後必要になってくる人材は「IPプロデューサー」だと考えています。IP=知的財産、つまり『作品』という無形固定資産ですね。今から話すことは僕の個人的な、出版業界の作品創出のイメージなんですけど、最初はみな炭鉱夫のように競い合って採掘に励みます。
そうやって「レアメタル」を見つけ出すのが仕事でした。例えば連載が10本あれば1本当たればいい、というビジネスです。出版社の人たちはずっとやってきていて、それが身に染みついているんですね。残りの9本の作品を生み出す作家たちもいずれ次の作品で大当たりするかもしれませんから、売れなかったとしても使い続けたりする。いわば媒体という場所でファミリーを形成できていたわけです。
しかし、これからは媒体に紐付けるのではなく、IPに紐付けなければならないと思っています。つまり僕がやってきたことで言うと、電撃文庫というレーベルに紐付けるのではなく、1つの作品として電撃文庫という枠を超えて拡がって行くにはどうすればいいのか……ということを突き詰めて考えていくということですね。例えば『俺の妹がこんなに可愛いわけがない」は2009年に『キャラなりきり』Twitterをスタートさせているんですが、これって結構早いんですよね。僕Twitterを知ったときに「これすごい、タダで宣伝できる最強のツールじゃん!」って思って、キャラクターでTwitterではじめたんですよ(笑)。本来なら電撃文庫に紐付いた媒体でないとアプローチ出来ない層に、その枠を超えてリーチ出来た良ケースかなと思っています。
そして、次の段階ですが作品が伸びそうだと分かったあとは、そのスタッフチームを「農耕部隊」と「狩猟部隊」に編成することが重要です。地に足をつけて作品を育てていく農耕部隊(ディフェンダー)、いろんな企業にアプローチしていて拡げていく狩猟部隊(アタッカー)ですね。一言で編集者といっても、大まかにわけてその2つのタイプがありますので、うまく布陣を組むべきです。ちなみにこの人たち一緒に酒飲むと仲が悪くなります(笑)。
そしてようやく登場しますが、そんな彼らの間を取り持つのがIPプロデューサーです。僕はこれを勝手に「部族長」って呼んでます(笑)。なかなか1つの作品に複数の担当編集がつくことはないとは思うのですが、そこは外部の人間を活用してください。例えば宣伝部や営業部の人、メディアミックスが動いたらコミカライズの担当編集の人、もしくはアニメ化となればビデオメーカーさんの宣伝担当さんとかですね。こういう布陣を組むことができれば、作品のディベロップメント(発展)を計画的にやることができるようになり、売れるチャンスの見逃し、機会損失も減らすことができると思います。
そしてこれが重要なことなんですが、IPプロデューサーにいま最も近い人材は、現役編集者だと思っています。広い意味では映画の制作プロデューサーや、レコードメーカーのA&Rの人だってIPプロデューサーなんですが、一番向いているのはやはり現役の編集者なんですね。なぜかというと、クローズドな空間でクリエイターと向き合う時間が一番長いから。そこで培った信頼を活用出来るスペシャリストなんです。そして注意してほしいのは「会社」がその鎖をつなぐ存在ではない、ということなんです。
IPプロデューサーが存在し、クリエイター(IP創出者)とIPホルダーに寄り添って、コンテンツを発展させることができるのが、日本式エージェントの有り様ではないかと思っています。そして、そこに一番近い場所に立っているのが編集者なんです。
このような考え方のもとにやっているプロジェクトが『俺を好きなのはお前だけかよ』のコミカライズです。偶然にも集英社さんでした。このプロジェクトは、ストレートエッジがコミカライズのクオリティを保証した上で、コンテンツを納品する形を取っているんです。ジャンプ+で来月から連載開始予定です。
(この他にも三木さんは、「媒体に依存しないIP展開」として、noteで三秋縋先生の未商業化作品『あおぞらとくもりぞら』のコミカライズも展開中です。)
「出版」の枠を超えてやるべきこと
浅田:いまの三木さんの話を聞いて思うのは、作家という才能が、世に出て行く形がマンガだろうと小説、ゲームであろうと僕はなんでも良いということなんです。
三木:仰るとおりですね。出版社は出版契約書を作家と交しますが、あれを「出版」じゃなくて「コンテンツマネジメント」にしてもいいんじゃないかと僕は思ってます。それが理想ですね。
浅田:あるIPがあって、そこからアニメのみならず、ゲームやアプリ・サービス、広告など多くの プロダクトを生みだして、作家さんにロイヤリティをお返しする。それは出版社が待っていてもダメで、こちらから他企業に提案をし続ける機能が、一部では始まっていますが、もっと進めた方が良いと僕も思います。
三木:事業というのは常に変わり続けるものですからね。出版社は、紙が今まで最強の媒体だったゆえに、ちょっとだけ対応がスローリーかもしれません。マネタイズの手段はなんでもOKという風にしておかないと、せっかくのコンテンツも無駄になってしまう。
いまの若い編集者に集中できる環境を
浅田:編集者がその作品が最大限に売れる未来形をイメージして動き回れるか。わからなくてもひたすら自分の業界と違う人たちと会い続けて相談し続けるとか、という作業が必要ですね。大きい出版社でありがちなんですが、拡げる作業は全部、外部企業の提案待ちという時代では絶対にないと思います。
三木:いまの編集者ってめちゃくちゃ忙しいんですよね。そして、編集長に誰もなりたがっていないんじゃないでしょうか。だって、トラブル対応ばかりやる羽目になるから……(汗)。
浅田:20年前と比べると、「作る」以外の業務がすごく多くなったんですよ。いまの若い子はそこがかわいそうです。僕がいち編集者だったころは、ただどんなマンガが面白いんだろう、ということをひたすら考えて打合せをして、それだけを仕事にしていればよかった。そこでのトライアンドエラーの積み重ねで、ゼロから作品を生み出す手伝いをするスキルを身につけることができたと思うんです。もしあのころ、宣伝もやれデジタル施策もやれって言われてたら、絶対パンクしていた。
だから僕は、いま出版社が取り組むべきことは、「若い編集者の仕事を限定させる」ことじゃないかと思います。
三木:ホントそうですよね。
浅田:ただひたすら作家さんとのやりとりだけで、最初は経験値を積ませた方が、結果的には良いと思う。もし、ゼロから作品を育てていく、つまり三木さんがいうところの農耕部隊が向いていない、ということになれば、1から100に育てる狩猟部隊に移してあげればいいわけで。昔に比べてそれぞれの過程で成功できる難易度も上がっているけれど、結局作品を一番よく理解しているのは、作家の次に、担当編集者です。作品のキャラクターの深い部分を、作家と打合せをして共有する機会があるのですから。誰か他の宣伝担当を立てれば良い、というわけでもないと思います。
三木:全く同感ですね。もう1つ加えるとすれば、浅田さんは働き過ぎなんです。それは良くない。なぜか? 「出世したい」って誰も思わなくなるからです。
浅田:(苦笑)
三木:編集長はすごく楽だし、美味しいぞという風に振る舞ってほしい(笑)。ああなりたい、出世したいというモチベーションって悪いものじゃないんだから。ゼロから1を目指すのって結構なカロリーが必要で、全然売れてなくてもやり続けないといけなかったりもする。負けん気だけじゃなくて、モチベーションはもっと俗物的なものであっても良いし、それって大事だと思うんですよね。
浅田:たしかに……休日出勤多めですしね(苦笑)。あんまり美味しい姿を見せられてないかもしれません。
三木:だから嘘でも編集部で上長は「楽だなあ」って振る舞ってください。これは僕ができなかったんで言うんですけど(笑)。
【イベントレポ】ラノベとマンガ、最強編集者対談(3)出版社の強みは「ミツバチ機能」と「パトロン機能」だへ続く
※ 文:まつもとあつし、編:マンナビ編集部
[登壇者プロフィール]
三木一馬(みき かずま)さん
徳島県出身。上智大理工学部を卒業後、旧メディアワークス(現KADOKAWA)に入社。01年に電撃文庫編集部に配属されると『灼眼のシャナ』をはじめ数多くの作品を担当。売ったライトノベルの部数は6000万部を超え、ライトノベル業界のカリスマ編集者として知られている。14年に電撃文庫編集長に就任後、16年4月1日にエージェント会社「ストレートエッジ」を設立。代表作『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』など
浅田貴典(あさだたかのり)さん
集英社ジャンプ j BOOKS編集長。集英社ジャンプ j BOOKS編集長。1995年に集英社に入社し、週刊少年ジャンプ編集部に配属。『ONE PIECE』(尾田栄一郎)、『ZOMBIE POWDER.』『BLEACH』(久保帯人)、『Mr.FULLSWING』(鈴木信也)、『アイシールド21』(稲垣理一郎、村田雄介)、『タカヤー閃武学園激闘伝―』(坂本裕次郎)、『切法師』(中島諭宇樹)、『P2!―Let’s play pingpong!』(江尻立真)の立ち上げに、担当編集として携わる。 他に漫画雑誌「ジャンプSQ.」創刊立ち上げ、電子書店「ジャンプBOOKストア!」開設に尽力。現在は書籍の部署に所属し、小説「NARUTO秘伝小説シリーズ」などの立ち上げ等を指揮している。
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