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編集長の部屋
2017年5月2日

BE・LOVE/ITAN 岩間秀和編集長②「『BE・LOVE』は誰をも取り込める可能性に満ちたメジャー感、『ITAN』は自らの世界観をどう作品に落とし込んでいくかが大事」

トキワ荘プロジェクトのWEBサイトで展開していた人気企画「編集長の部屋」がマンナビへお引越しをしてきました!お引っ越し後の第一弾を飾るのは、『ちはやふる』や『昭和元禄落語心中』などのヒット作で話題の『BE・LOVE』と『ITAN』の岩間編集長です。「何か面白いことをお話しできればいいんですけど」と控えめな岩間編集長でしたが、興味深いお話をたくさん聞かせてくださいました!

『BE・LOVE』を読めば、毎日がもっともっと豊かになって、人生面白いですよ、ということを伝えたい

 

-『BE・LOVE』はどんな雑誌ですか?

主な読者は20代~50代の女性です。はじめは大学生やOL向けで始まった雑誌だったと聞いています。創刊の頃からの読者さんは、今は50代60代となり、その娘さんと親子二代で読んでいるという声も聞きます。『ちはやふる』や『明治緋色綺譚』、『放課後カルテ』といった、下の世代にも読んでもらえる作品が載るようになってからは、読者層がさらに広がりました。アンケートを見ると、読者層は10代~80代までと幅広いです。

-年代や性別以外に、読者の傾向はありますか?

それ以上のことは、あまり決めたくないと思っています。数字としては6割強の読者が既婚というデータもありますが、ターゲットを絞り込まず、“大人になっても(少女)マンガが好きな女性”向けに作りたいです。

-『ITAN』の場合はいかがでしょうか?

『ITAN』の場合は、『BE・LOVE』以上に、年齢層や性別で絞れないです。20代の、マンガに対して貪欲な、つまり女性向けだけでなく少年、青年マンガも好きな、女性をイメージしていますが、単行本になると男性読者の方も多いんですよ。総じて言えば、尖ったマンガ読みの方が多いと思います。マンガを所有したい、という単行本派が多いので、『ITAN』本誌や単行本の装丁にはこだわっているつもりです。創刊以来、カバー裏のおまけマンガなど、色々工夫をしています。

-『BE・LOVE』は、どんな雑誌を目指していますか?

家事の合間に気軽に読めたり、みんなで回し読みをしたりできるような「わかりやすさ」は大事だと思っています。「いつでもあなたのそばにいるよ」という敷居の低さ、ですね。その中で「皆さんの人生、素敵です!」という人間賛歌を、作品にこめていけたらと。あとは、身近に実は知らなかった世界があって、そこにドラマがある、ということを伝えられるマンガも発表してきました。

例えば『BE・LOVE』では、『ハッピー!』そして続編の『ハッピー!ハッピー♪』という盲導犬をテーマにしたシリーズを、もう22年間連載しています。目の不自由な方が日常生活、育児をしていく中での問題など、実は知らないことがたくさんあるな、と感じます。大人になっても知らないことはたくさんありますよ、『BE・LOVE』を読めば、毎日がもっともっと豊かになって、人生面白いですよ、ということを伝えたいです。

-いま話題の『傘寿まり子』もまさにそうですよね。

そうですね。『傘寿まり子』は、四世代住む我が家で居場所を失ったまり子が、80歳で家出をするという話なのですが、80歳のヒロインというのは、『BE・LOVE』ではたぶん初めてだと思います。実際には、女性の平均寿命が87歳ですから、80歳になってもあと7年あるわけですよね。でも、その7年を余生と位置づけずに、さらなるステージ、と考える人は少ないと思います。その意味で、この漫画は誰にも起こりうる、リアリティあふれる問題を提起をしつつ、さらなる高みに向かう作品で、これは大人向けマンガの醍醐味であり、新機軸ですね。

リアリティといえば、以前の『BE・LOVE』には、読者体験手記やドキュメントコミックを頻繁に掲載していた時期もありました。私自身、元々そのジャンルが好きなので、よく作品を担当していました。ただ、今の時代にそれが合うか、マンガでそれを読みたいかというと、やや生々しいというか、現実と突きつけるだけで希望まで届かない気がしていまして。まずは漫画誌なので、フィクションで現実の一歩先の希望を描けるといいのかな、と思っています。

-『ITAN』の方はいかがでしょうか?

『ITAN』のキャッチフレーズは昨年、新たに「キミを遠くへ連れていく。」としました。これは読者公募で決まったものです。思い返せば、『ITAN』という誌名もネット投票で決めましたね。『ITAN』は、読者と共に高みに行きたい、という気持ちの強い雑誌だと思います。

ちなみに、初代キャッチフレーズは「世界のはじっこを描き出す想像系コミック誌」でした。その後、沢山の方に読んでいただける作品が生まれてきたことで、「いつまでも端っこではなく、そろそろセンターに行きたいね」という話になって、新しいキャッチフレーズに切り替えたというわけです。

-面白いですね。キャッチフレーズや誌名以外にも、そういった取り組みはありますか?

創刊前に、新人獲得のためのコンテストをpixivさんと一緒にやらせていただきましたが、これも未来のプロ、つまりアマチュアの描き手さん大歓迎というスタンスから生まれたものです。お祭り感覚で参加してもらいつつも、最終的には編集部とともに面白いものを目指そう、と。ですので、『ITAN』は最初の2冊はアマチュアの方のイラストを表紙に起用しましたし、巻末には、協力してくれた読者さんのお名前を、「外部編集者」としてクレジットしました。いい意味で、そのアマチュア感にワクワクする雑誌だったと思います。

-今後もその方向でいくのでしょうか?

創刊前後のあらゆる企画は、中里前編集長のきらめく発想力の賜物だったと言えます。私は創刊2年がたったころに編集長を引き継ぎ、それまで季刊だった『ITAN』を隔月刊に切り替えました。自ずと作品数が必要になるので、それまで以上に新人さんを積極的に育成する方向で動きました。ここは特に注力したところで、活きのいい描き手さんをスカウトしてその才能を開花させるいう育成こそが、『ITAN』の生命線だと思っていました。

その信念のもとで、積極的なトライを数多くしてきましたが、トライが増えるにつれ、厳しい結果となる作品も増えてしまい、ネガティブな意味で雑誌のアマチュア色が濃くなってきていたのも事実でした。そこに危惧を覚え、『ITAN』のチーフを副編集長に任せ、メジャーを意識した誌面作りに舵を切ることにしました。題材や設定は『ITAN』らしくニッチであったとしても、物語は王道に進む、そんな作品がこれからは増えてくるはずです。4月発売の37号より連載が始まった釣巻和さんの『聖血の海獣』は、その象徴的な作品だと思います。

-『BE・LOVE』のライバル誌はありますか?

自社他社の女性コミック誌、どこもすごいとは思いますが、うちは比較的独特な読者層に支えられていますので、ライバルと言うには違うのかなと思っています。そして、『BE・LOVE』は電子書籍の売上が急伸していますので、スマホを含めた他メディアすべて意識すべきでしょうけど、ライバルというよりは共生を目指す、というのが本音ではあります。

ただひとつ『モーニング』について。これは僕個人で思っているだけなのですが、『コウノドリ』や、保育園を舞台にした作品などが始まった時に「ああいう作品は『BE・LOVE』でやらなきゃいかんだろう!」と。青年誌には女性の読者が増えてきているという話も聞きます。以前は『BE・LOVE』の十八番だったテーマが、今はどこの雑誌に載っていてもおかしくない。読者のボーダレスというか、どの雑誌に何が載ってようが、読者の皆さんはそれほど気にしなくなっている時代ですね。だからこそ、雑誌の色、個性をさらに出していかなければならないと思うし、読者の皆さんに定価以上に楽しんでいただける誌面作りに集中していかなければならない、と思っています。

-女性誌は月刊が多いですが、『BE・LOVE』は隔週誌です。その違いはありますか?

そうですね、今は基本、女性向けは月刊誌ばかりなので、漫画家さんが皆、「月刊誌の体」になっているとは強く感じます。そのため、特に他誌で執筆されている漫画家さんにお声掛けする場合に、そこがハードルになることはあります。ただ同時に、隔週であることのメリットも漫画家さんには伝えています。僕自身もそうなのですが、前回より1か月空くと、前の話を覚えていないこと、ありませんか? 特に年齢を重ねると(笑)。そういう意味では、2週に1回というペースは、物語を追いかけるという意味では、良心的なペースだと思っています(笑)。今後どうなるか分かりませんが、少なくとも今は、隔週ペースを守っていきます。

もう一つ、周知の通り、今は単行本で収益をあげるモデルになっています。『BE・LOVE』で毎号、つまり隔週連載してくだされば、3ヵ月に1冊、単行本を出せます。年間4冊です。それは、作業としてはとてもつらいんですけど、読者さんは間違いなく喜んでくださいますし、ある程度の部数を稼げる作品に成長した時には、漫画家さんにとってそれはそれは大きなメリットになります。現実的な話でないと言われる方もいますが、これは事実。他の雑誌から来ていただく漫画家さんには、こうした説明を差し上げています。

 

『BE・LOVE』は誰をも取り込める可能性に満ちたメジャー感、『ITAN』は自らの世界観をどう作品に落とし込んでいくかが大事

 

-『BE・LOVE』と『ITAN』、それぞれで求めている漫画家像があれば、教えてもらえますか?

『BE・LOVE』は、誌名に「LOVE」とありますが、恋愛だけではなく、家族愛や友愛、さらには動物愛など、様々な愛をテーマにした雑誌です。少女漫画誌であれば、舞台が高校などの学園で恋愛を描きたいという方が多いと思いますが、恋愛はもちろん、他にも描きたいテーマがある!という方に来てほしいです。ひとくちに「愛」と言っても、大人向けで考えるとかなり幅広いんです。もちろん、女性向けであることは大前提ですが、自分に描ける愛は何か?ということを考えると、様々な選択肢があると思います。

そしてもう一つ、大人向けで重要なのが、キャラクターの深みです。登場人物それぞれがなぜこの言動をとるのか、と突きつめることを重視します。読者の皆さんは、大人、つまり人生経験が豊富で、様々な修羅場を乗り越えてきた方々。そういう方に楽しんでもらえる人物の深みが、作品の魅力、そして評価につながると思います。

-どこまで画力を求めるか、ということも気になるのですが、その辺りはいかがですか?

漫画家さんの「見た目」の画力も大事ですが、それよりもキャラクターが大事だと思います。たとえ、その絵が少女漫画のようにキラキラしていなくても、厚みのある魅力的な人物が描けていればよし、それ込みの画力だと思います。ですので、絵に自信がないという方もあきらめないでほしいです。

先ほどもお伝えしたように、『BE・LOVE』は幅広い年代の方々に、日常のちょっとした時間に気軽に読んでもらうような雑誌です。キャラクター、画力の話が出ましたが、これに加えて、分かりやすい構成、分かりやすい盛り上がりポイント、誰もが泣いたり笑ったりできるものを提示できる作品を求めています。つまりは、誰をも取り込める可能性に満ちたメジャー感。実際に、いま連載中の漫画家さんには、そういう方が多いですし、これからもそういう方を求めていきたいと思っています。そこから先に見えてくる面白さについては、いわゆる「作家性」の範疇になりますね。

一方、『ITAN』が分かりにくい漫画を載せているかと言われると、前述の通り、そういうことではないのですが、ITANは独自の世界観を武器に勝負したい!という漫画家さんが多いかもしれません。

-こうして伺うと、『BE・LOVE』と『ITAN』は全く違うんですね。

メジャーを狙うという意味では、2誌とも同じはずですが(笑)。『BE・LOVE』は、企画立案から編集者が伴走する作品が多いのですが、『ITAN』では漫画家さんが自らの世界観をどう作品に落とし込んでいくか、ということが肝になります。作品づくりのプロセスは、多少なりとも違うと思いますし、できた雑誌を見ていただければ、テイストもだいぶ違います。ですので、他のマンガ雑誌でよくあるような、漫画家さんが『ITAN』を卒業して『BE・LOVE』へ移籍、といった流れは今のところほとんどありません。当初は、そういった目論見はあったはあったのですが、『ITAN』を『BE・LOVE』の妹誌に位置付けるのは、今や至難ですね。

【編集長の部屋11】BE・LOVE/ITAN 岩間秀和編集長③「世の中に溢れているものに、あえてぶつけていくとはどういうことか、考えてほしい」へ続く

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インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、川原




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