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編集長の部屋
2014年11月5日

【編集長の部屋5】Kiss 鈴木学編集長①「漫画家と編集者の関係は”友達以上恋人未満”かな(笑)」

「編集長の部屋」コーナー5 人目は、Kiss 編集長、鈴木学さんです。編集長の部屋コーナーでは初の女性誌編集長になります。女性誌ならではの面白いお話を沢山うかがうことが出来ました!最新刊の誌面を開いたら、偶然トキワ荘PJのOGの作品だったり、ご縁のある漫画誌さまです。(※肩書きは取材当時)

 

キャラクター作りをしっかりやらずに作品を描いてしまうと、キャラクターがブレるんですよね。 

 

―鈴木さんご自身のことを聞かせてください

平成2年に講談社に入社し、まず週刊少年マガジンに配属され、5年間在籍しました。当時の少年マガジンは共同担当者制をとっていて、先輩と一緒に複数の編集者で一つの連載を担当するスタイルでした。当時担当していたのは、『疾風伝説 特攻の拓』(原作:佐木飛朗斗、作画:所十三)という大ヒットした暴走族マンガや、しげの秀一さん、『オフサイド』や『Jドリーム』の塀内夏子さんや、『金田一少年の事件簿』の立ち上げにも関わりました。

―おお、それは講談社の社員だったキバヤシさんと一緒ということですか?

そうです。そのチームのチーフがキバヤシさんでした。キバヤシさんが金田一の企画を出して、私が担当していた、さとうふみやさんを作画に推薦したところ、チームを組んで仕事をすることになりました。立ち上げ当時は、作品制作の打合せがとても大変でした。

―どのように大変でしたか?

とにかく、打合せが長かったです(笑)1シリーズ10話分くらいのストーリーのアイデア出しや辻褄を合わせる為に、1日かけて打合せするのですが、同じファミレスで朝ごはんから晩御飯まで食べることもありました。時間の半分以上はキバヤシさんが作品と直接関係ない雑談を話しているような形でしたが、そうやって色んな話をして頭をほぐしていくわけです。時には関係ない話からアイデアが生まれることも。その辺りは、正に“キバヤシ流”だったと思います。

― キバヤシさんは、先日わたしがうかがった講演会でも、そういったお話をされていました。用件だけを打ち合わせる関係性は、結局長く続かないと

その後、今のKiss編集部の母体になるmimi編集部に移りました。当時は、mimi編集部の中で、別冊としてKissを作っていました。途中で、mimiが休刊になって、Kissが存続したため、編集部もKiss編集部となりました。mimi & Kiss時代は、ドラマにもなった『君の手がささやいている』や『お水の花道』、作家さんで言うと、吉田まゆみさん、西村しのぶさん、小椋冬美さん、松苗あけみさんなどを担当しました。原作では内館牧子さんなども担当しました。5年ほど、女性向けマンガを経験しました。

そしてまた週刊少年マガジンに戻り、以前同様塀内さんや、むつ利之さんや、久保ミツロウさんなども担当しました。久保さんは元々mimiの新人だったのですが、一緒にmimiでデビュー作を作りました。自分がマガジンに移った時に、そちらにお誘いして、『3.3.7ビョーシ!!』や『トッキュー!!』や、先日ドラマになった『アゲイン!!』などを担当していました。

マガジンに戻ってから、8年間くらい、漫画誌「マガジンSPECIAL」のデスクをしていました。マガジンの2軍監督的な役割をしていたところがあります。その後、2013年6月からKissの編集長になりました。異動してきたときはKiss本誌の他にKiss PLUSという漫画誌を隔月でKiss編集部から出していましたが、そちらは休刊して「ハツキス」という漫画誌を創刊しました。Kissも、元々は月2回発行の雑誌でしたが、現在は月刊誌になっています。

―色々なお仕事をされて、刊行形態で言うとほとんど経験されていますね

えぇ。週刊、月刊と色々ありますが、中でも一番大変なのは月2回&隔週誌です。週刊連載の場合は、編集者が沢山配属されていて、週刊で運営できる体制になっています。また肝は「合併号があること」です。お盆や正月では休めるんですね。でも、月2回の場合は、合併号にしないので休む暇がないんです。Kissが月2回だったころが一番大変で、お正月に作家さんと打合せしたりしていました。月2回刊だと、人員も月刊誌の編集部くらいなので、大変でしたね。

ただ、今は複数の漫画誌を出している編集部が多く、週マガなんて、週刊誌に、月刊誌を2つ、そしてデジタル誌のマンガボックスまで、そうなるとわやくちゃで休んでるヒマないですよね(笑)。

― 印象に残った作家さんというとどなたですか?

編集者の原点みたいな形で、勉強をさせてもらったのは塀内夏子さんです。マンガのキャラクターを立てる意識や取り組み方を教えていただきました。塀内さんは新しいキャラクターを作る時に、とてもしっかり作りこみます。たとえば、ある男子キャラを作るとします。そのキャラの好きな食べ物とか苦手なものから、街で美人とすれ違った時にどんな行動をとるかまで、200も300もそのキャラの色んな特徴を書きだします。するとそのキャラが一人の人間として歩き出すんですよね。そして、ご飯を食べるシーンは、キャラが出るんだとおっしゃって大事にされてましたね。
キャラクター作りをしっかりやらずに作品を描いてしまうと、キャラクターがブレるんですよね。このキャラ、こんな奴だったっけ?みたいな。キャラがストーリーを作るのではなく、ストーリーの都合でキャラが動かされてしまうようだと、そのマンガは弱いですよね。

―塀内さんは、どのような作家さんでしたか

仕事に厳しい方でした。魂込めて作ったネームに対して、しっかり半端でない意見を言えるのか。ネームに意見を言う時には、それこそ“真剣”の勝負を挑んでいる気持になりました。〆切も厳格に守る方でした。
その頃印象に残ったという意味では、しげの秀一さんもその一人ですね。皆さんが思う、漫画家さん像だと思います。天才型なのですが、〆切はきつかったですね(笑)。〆切には泣かされましたが、とても人懐っこい方で、いつもニコニコしていて、仕方ないかなと思えてしまうのです。あの笑顔がずるい(笑)。

―原稿が遅れそうな人が出た時は、まずどうするのですか?

まずは状況の把握です。付き合いの長い漫画家さんだと、そこまでヤバくないかなとか、これはかなりヤバいぞとか、口ぶりや様子から察しがつくようになります(笑)。私の場合、幸いにも今まで〆切間際での全オチ(完全に作品が入らない)ということはありませんでした。減ページなど、間に合わなかった分を調整することは多々ありましたが。

― 編集者さんは、担当作家の原稿が遅れそうなときは、どんな仕事をするのですか?

まずは、進行担当者と相談ですね。Kiss本誌で言えば、私が進行管理を担当しています。
原稿が〆切ギリギリという表現にも、段階があります。
まず、誰にも迷惑のかからない、編集者と作家の間で当初から決めていた〆切にギリギリになること。次に、編集者には迷惑がかかるけども、後工程の製版所には迷惑のかからないギリギリ。これは編集者が短時間で入稿作業をすれば、なんとかなります。その次は、製版所に迷惑をかけるラインです。ここで初めて外部に迷惑をかける形です。製版所の方々が深夜残業をするなどしないといけなくなります。そことリンクしてきますが、印刷所に無理を言う形、最後は流通で、取次や書店に迷惑をかけて遅れるという形です。
一概に〆切「ギリギリ」と言っても、どこの段階まで迷惑をかけるかで、対処方法が変わってきますね。

―なるほど、ありがとうございます。さきほど、久保さんの名前があがりましたが、どういうきっかけでデビューしたんですか?

久保さんは、実は新人賞などの受賞の経験がないまま、いきなり連載したのです。昔mimiで私がグルメ漫画の企画を進めていたときに、後輩が久保さんの担当をしていて紹介されたのです。元々は「なかよし」にイラストカットを投稿されただけで、新人賞の受賞歴はなし。それでも即決で連載を決めました。

―全く受賞経験がないのですね。それは、なかなか聞かないケースですね

圧倒的にイラストが上手かったのです。日ハムの大谷選手のような力があれば、高校卒業ですぐに先発登板しても誰も不思議がらないじゃないですか。それ位の力があったと思います。
その頃の作品は、久保ミツロウ、初期作品集 ということで、主要電子書店で販売しています。

 

漫画家と編集者の関係は「友達以上恋人未満」ですかね(笑)。 

 

― 鈴木さんにとって、漫画編集者の仕事とは?

ある意味では、色んなことを疑似体験できるという仕事ですね。例えば久保さんの『トッキュー!!』という作品は、レスキューの話なのですが、取材や打合せを通して、自分がレスキューマンのように疑似体験が出来ることが楽しかったりします。
漫画家さんと打ち合わせをして生まれた作品が、映像化されたりして世間を巻き込んで大きくなっていくのは嬉しいですね。そして単純に、目の前の漫画家さんがいいネーム、いい原稿をあげてくれた瞬間がいちばん嬉しかったりします。

―漫画家さんと編集者はどんな関係なんでしょう?

“恋愛漫画誌”・Kissの編集長的に言うと、「友達以上恋人未満」ですかね(笑)。友達以上に濃密な関係だけど、恋人までいくと好き過ぎて客観的な判断ができなくなってしまう。それに売れてる漫画家さんにでも、時には耳障りなことを言わないといけない局面がありますからね。それができなくなってしまう。たとえばネームが面白くない時に、言わないのは楽ですよ。でも、その時はムッとされるかもしれないけど、言うべきことはしっかり言うことが、漫画家さんと信頼関係を築く上で大事なことだと思います。

私は現在、二ノ宮知子さんの担当編集をしていますが、最初に二ノ宮さんに言われたのは、「編集長、ネームがつまんない時はつまんないと言ってくださいね。」ということでした。裸の王様になりたくないと考えているそうです。さすがだなと思いました。

― 鈴木さんの考える、編集者にとって一番良い仕事とはなんですか?

当然、ヒット作を作ることは凄い事ですが、それだけが答えだと面白くないですよね?

それと違う角度でいうと、「あぁ、その漫画家さん、そういう方向性があったんだ。そっちのほうが向いてたんだ!」と、編集者が見つけてあげることです。

ちょっと古い話ですが、週刊少年マガジンに『名門!第三野球部』というむつ利之さんのヒット作品がありました。この作品は感動系の作品だったのですが、元々ギャグ漫画家だったむつさんに、当時の担当編集者が「あなたは、泣ける感動もののほうがむいてると思いますよ。」と提案したそうなんです。それをきっかけに講談社漫画賞を受賞する名作が生まれました。

漫画家さんの中に眠っている本人も気づいていない才能・資質に気付き、それが開花する手伝いができたなら編集者冥利に尽きると思います。二ノ宮さんにも似た話があって、昔シリアスな漫画で新人賞に投稿された際に、その60Pもの作品の中に一コマだけギャグのコマがあって、初代担当となる編集者がそのコマから「あなたはコメディ描いたほうがいいよ」とアドバイスされたそうです。それが後の『のだめカンタービレ』につながるわけです。新人賞などで新人さんの原稿を見る際には、ただその作品が面白いかどうかだけでなく、この方には他に眠っている才能はないのかなという視点で見るようにしています。編集者もまた、試されているのです。

 

【編集長の部屋5】Kiss 鈴木学編集長②「初代Kiss編集長にさんざん言われたんです。”ヌカ味噌くさい漫画を作るなよ”って(笑)」へ続く

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野




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