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コラム
2017年5月11日

デジタル制作と作品の良し悪しは「関係ない」が9割!-漫画デジタル制作実態調査アンケート(編集者編)-

2021年に新たな設問を加えた、漫画編集者実態調査アンケートを実施いたしました。
最新情報の数値は下記をご覧ください。
漫画編集者の約9割がデジタル制作に好意的 ―漫画編集者実態調査アンケート―


先行して公開した「漫画家デジタル制作実態調査アンケート(漫画家編)」に続き、漫画編集者の皆さんにもアンケートをお願いいたしました。「編集者から見た、漫画家のデジタル制作の状況」や、「編集者はデジタル制作に対してどう考えているのか」など、編集者ならではの見方に焦点を当て、2017年3月にアンケートを実施し、23名の漫画編集者の方々に回答をいただきました。調査に協力してくださった編集者の方々に、この場を借りて感謝申し上げます。【PR】

 

アンケート基本情報

有効回答数:23件
収集方法:トキワ荘プロジェクトが2012年から受託運営している「出張編集部@京まふ」にご出展いただいている編集部の編集者の皆様および、当団体が開催するイベントに参加された方などに、主にメールでご依頼し、収集

*扱っている漫画のジャンル(択一選択)

*メインに制作している媒体はデジタルですか?アナログですか?(択一選択)

 

◆新人漫画家よりプロ漫画家の方が、フルデジタル比率が11.9pt高い

 

担当する漫画家(プロ漫画家から連載経験前の新人漫画家までの全てを含む)における、デジタル制作の比率を聞きました。

*担当の漫画家のデジタル・アナログ率を教えてください。

フルデジタルの漫画家の比率は、42.9%でした。編集者は複数名の漫画家を抱えているため、今回の数値は、アンケート回答者のデジタル制作への関心の度合いにあまり影響を受けない数値であると考えられます。そのため、漫画家編のアンケートよりも実態に近い数値であろうと推察します。

さらに、上記の数値を連載経験のあるプロ漫画家と、連載経験のない新人漫画家に分けて集計してみました。

*プロ漫画家(連載中以外を含む)に絞った、デジタル・アナログ率

*新人漫画家(連載経験前)に絞った、デジタル・アナログ比率

フルデジタルにおいては、新人漫画家に比べてプロ漫画家の方が11.9ポイント高いという結果でした。その分、一部デジタルの割合は新人漫画家の方が高くなっていますが、全てアナログの比率は新人漫画家の方が4ポイント高いことから、漫画家編のアンケート結果と同様に、新人よりもプロの方がデジタル制作を取り入れている率が高いと言えます。

次に、制作媒体が紙なのか、デジタルなのかで分けて集計をしてみます。

*「紙のみ」で出版している媒体に絞り込んだ場合

*「デジタル媒体のみ」で公開・出版している媒体に絞り込んだ場合

こうして分けると、やはり紙媒体ではフルアナログの割合が高く、デジタル媒体では、フルデジタルの割合がかなり高く占めることが判ります。とは言え、紙の媒体であっても全てアナログの割合が34.4%というのは少し意外な気もしました。

 

◆デジタル制作と作品の良し悪しは「関係ない」が9割

 

次に、編集者がデジタル制作に対してどう考えているのか、聞いてみました。

*デジタルで制作することについて、編集者としてどう考えていますか?

漫画家に任せる、という意見が大勢を占めるかと思いましたが、意外にも「絶対に使った方が良い」、「出来れば使った方が良い」と推奨する意見が半数近くに上りました。

制作している媒体によって回答の傾向が異なることも考えられますので、具体的な中身を見てみます。

ここまで細分化すると人数が少なくなるので判断しにくいのですが、「必ずしも使う必要がない」と回答した率は、紙が中心の媒体の方が高い、といった想定通りの傾向は見えます。

次に、編集者がデジタル制作のメリットとデメリットをどう捉えているのか、自由回答形式で聞いたものをご紹介します。

*編集者という立場で、デジタル制作をしている漫画家と仕事をすることに、良いこと(メリット)はありますか?

この設問は、主に以下のような回答に集約されました。

・修正(クオリティアップ)の依頼がしやすい

・納品の手間や時間が少ない

・データや原稿管理、入稿作業が楽

・アシスタント手配が楽。

中でも興味深かったコメントを、以下にご紹介します。

・かつて編集者業務の時間の半分は「原稿取り」の移動時間だったと言っても過言ではありません。デジタル化によって倍の人数が担当できます。原稿取りは純粋なコストで、収益性と無関係です。またアナログ原稿の保全保管コストも少ないものではありません。これらは出版社や編集者の立場からは非常に大きなポイントです。

・お互いに納得いくまで粘れるというのが一番。途中で原稿の相談に乗りやすいことや、締め切りギリギリまで作業できることも含めてです。

編集者の立場で言えば、原稿の受け取りや修正の指示など、これまでは対面で行っていたものがオンラインでのやり取りになった、ということの影響が大きいようです。また、ギリギリまで待てる、追加の修正指示がしやすいなど、制作にかけられる時間が増えたことにも好意的、という印象でした。デジタルを導入したことで作業が早く進み、捻出された時間でさらにクオリティの向上に時間を割く、という傾向は、漫画家側のアンケート結果と同様に見られました。

もう少し、時間の使い方について掘り下げてみたいと思います。

*デジタルで制作する漫画家は、締め切りを守りやすくなると思いますか?

23名中22名が「関係ない」と答える、潔い結果になりました(笑)。漫画家編で「制作時間は変わらない」と答えた人が多かったように、デジタル制作で作業スピードが上がったとしても、それがそのまま締め切りを守ることに影響するかどうかは関係ない、ということが編集者側の意識からわかります。

一方のデメリットについては、どう考えられているのでしょうか。

*編集者という立場で、デジタル制作をしている漫画家と仕事をすることに、悪いこと(デメリット)はありますか?

主に以下のような意見が聞かれました。

・アナログからデジタルへ移行した場合に、絵柄のインパクトや、作品のノリや勢いが削がれるケースがある。

・もちろん人によりますが、画面全体の意識(特に見開き)が弱い人が多い印象です。コマ単位では仕上がっているけど、見開きで見ると読みづらいとか。

・何度でもやり直しがきく分、作品のノリ、勢いが失われる傾向があるのでは。

・際限なく直す癖が付きやすいので、1作にかけるカロリーはどうしても高くなります。それでクオリティが上がるならば必要なカロリーだとは思っていますが。

・データの仕様違いやバックアップなど、PCやネットなりの苦労がある。

・作家とのディスプレイ環境の違いによるカラー含めた原稿再現度の相違

漫画家側の回答では、「修正が容易である」ということがメリットとして捉えられていましたが、一方で編集者から見たときには、そのことで絵柄のインパクトが薄れたり、際限なく直して手離れできなくなったり、ということが気になるようです。

ほか、個別の意見として、以下のようなものがありました。

・原稿を受け取るときにフェイストウフェイスで会う必要がなくなり、打ち合わせ機会が減る。

・紙原稿と違い、原稿のありがたさが薄れた気がします。緊張感がなくなった。

・人や技術レベルにも因るし、仕方のない部分もあるが、アナログならではの「情念」「暖かみ」みたいな部分は、機械を通すことで消えてしまうと思う。特に以前アナログ現デジタルの作家さんはその差が激しい。そのこととも関連するが、原画展をやったとき、本と変わらないので「原画」の意味がなく感じた。

原稿の受け取りを通じたコミュニケーションや、原画展といった漫画制作ならではの文化的な側面にも影響を及ぼしていることが分かります。

さて、デジタル制作が持ち込みや投稿の際に不利になるかどうか、というのは新人漫画家にとっては気になるところです。その点についても聞いてみました。

*持ち込みや投稿で初めて見る漫画家について、同じくらいのレベルの作品が2つあって一方がデジタル、もう一方がアナログであった時、作品の評価に影響しますか。

漫画家側のアンケートには「アナログ信仰が存在する」という回答が散見されましたが、少なくとも今回集まった編集部側の回答では、そのような回答はありませんでした。ちなみに、デジタルのほうが高評価、アナログのほうが高評価と回答した3名の方は、どちらもデジタル媒体の方でした。

最後に、デジタル制作について感じている課題を、自由に記述していただきました。

*デジタル制作について感じている課題があれば自由に記述ください。

・これまでは「紙とペン」さえあればスタートできた漫画制作に、ITツールそのものへの適性が加味される流れは、避けられないにしろ、ハードルを上げる部分があるとは思っています。いわゆる「機械オンチ」は、本来はマンガ家の適性とは無関係な概念です。これについては作家だけでなく編集者も同様ですが。そうも言っていられない状況に、年々なってきています。一方で、多くの専門学校さんはデジタル作画講習についてあまり積極的ではない(おそらく設備投資の問題)ために、意外と教えてもらえる場が少ない現実もあります。学費に使ってしまってPCを買うお金がないという生徒さんの声も聞くところです。このあたりのミスマッチがうまくかみ合うことを願っています。

・楽をしたいから、という理由でデジタルにするのでは意味がない。デジタルでしかできない表現があるからデジタルにする、というモチベーションが欲しい。

・初期費用の高さや、ディスプレイと印刷物とのイメージ誤差(掲載経験を重ねないと差を埋められないので新人であればあるほど不利)。トーンとベタが面倒だからという理由でのデジタル選択(作業効率は上がるだろうが、向上心はあまりない人が多い)など。

・写真で言えば、銀塩フィルムだからよくて、デジカメだとダメってわけではないのと同じ。いい写真を撮るのは、道具ではなくセンスなわけで。とはいえ、カメラと同様に、機械が様々にアシストしてくれる分、ある程度のレベルでも、それなりに描けてしまうので、「本質的な意味」での「(絵の)上手い」人は減っているように感じる。上達するための努力や追い込み度合いが薄くなっている、とでも言うか。

・もはやデジタルであるとかないとかは、気にする必要はないと思います。

今回、編集者アンケートについては漫画家アンケートよりもずっと回答数が限られてしまいましたが、想定していたよりデジタル制作に好意的な意見が多い印象を受けました。また、デジタル制作によるメリットとして、漫画家側は仕事スタイルと同時に生活スタイルなどにも影響する多様な回答がありましたが、編集者側は「クオリティ」と「手間」の2点に集約されました。特に「修正や納品のやり取りの時間削減」が、そのまま「クオリティアップ」の時間に回されているという回答が目立ったように思います。

ただ、デジタル制作かどうかは作品への評価に影響しない、との意見に見られるように、デジタルツールは漫画制作の一つの手段に過ぎません。漫画家側のアンケート同様、デジタル制作の是非がどうかという視点ではなく、この時代の流れの中でデジタルツールを自分の創作にどう活用するのか、という視点で向き合っていかなければならないのだと思います。

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※ 取材/文:マンナビ編集部 協力:株式会社セルシス




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