ホーム >  編集長の部屋 >  なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん③「「誌風に合わないけれど才能がある」という人たちに場所を提供しないわけにはいかない。」
ホーム >  編集長の部屋 >  なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん③「「誌風に合わないけれど才能がある」という人たちに場所を提供しないわけにはいかない。」
編集長の部屋
2017年12月18日

なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん③「「誌風に合わないけれど才能がある」という人たちに場所を提供しないわけにはいかない。」

第14回目の編集長の部屋は、『なかよし・ARIA・エッジ編集部』部長の中里郁子さん!講談社とpixivによる共同プロジェクトとして、新アプリを開発中であることが2017年9月に発表になりました。『BE・LOVE』、『なかよし』の編集長を歴任された中里さんに、新アプリにかける思いを伺いました。

新アプリは漫画に出会うことができなくなっている人たちにとってのYouTubeのような場所に

-あらためて、新アプリについて教えてください。

大きなところは2点です。まずはシンプルに漫画家さんが作品を発表できる場所をもっと広く作りたかった、ということ。書き手の人たちがすごく成熟してきていて、沢山のジャンルの漫画を描けるようになっています。紙ってやっぱり誌風があるので、その誌風に外れているんだけど、私はこういう漫画が面白いと思っているっていう人がいっぱいいる。どこが自分に合っているのかわからない人もたくさんいる。縦コミックを描いている人も、カラーで描いている人もたくさんいます。短いページでいいシーンを紡ぐことで、twitterにフォロワーがたくさんいるデビュー前の漫画家さんもいるけれど、その人はどの雑誌が合うというより、やっぱりデジタルと相性がいいよね・・とか。

描き手自身が、どうやって自分たちをプロデュースしていくか熟知して努力している。そうした描き手自身がプロデューサーになってきている時代があって、そのプロデューサーの人たちの受け皿に紙の雑誌だけにはなれないということを物凄く強く感じています。自分が紙の編集者を続けているので、この「誌風に合わないけれど才能がある」という人たちに場所を提供しないわけにはいかない

作品を作った人が、薄く広くでも、きちんと自活していけるだけの給料を自分で稼げれば、漫画家を諦めなくても済む人が多くなるかなって。すごく沢山諦めている人に会って、え、こんなにうまいのに?と。自分で2年以内にデビューできなかったら諦めるって決めていても、相性の悪い雑誌に投稿していたら絶対2年以内にデビューは無理だと思う、というときもたくさんあります。2年後に気づいたら24歳の人は26歳になっているし、28歳の人は30歳になっていると。

2点目は読者自身が編集者としてめちゃくちゃ優秀だとずっと思っていて、でもそれを発表する場がなかった。デジタルが出てきたことで、優秀な読者が、目利きとして活躍できる環境が整ったと思っています。実際、これすごいなという作品にtwitterで出会ったりということがすごく増えてきました。優秀な読者にある種、編集を任せたいというか、読み手自身に作家さんをもっと発見してもらいたいなという感じですね。読み手として物凄く読む力がある人は最初から「この作品が良いと思う」っていう、読み手としてどんどん別の読み手に発信してほしいし、逆にそうして発信している読み手にファンがついて、この人の目利き力なら、じゃぁこの人がおすすめする他の作品を読んでみようといって新しい作品と出会ったり。

読み手自身が同時にアプリを成長させて欲しいし、読み手側から、こういう機能がついていたらなということには臨機応変にして、読み手側にとっても紙であった制約を外していきたいです。いろんなジャンルが載っているし、縦でも読めるし横でも読めるし、とか。

-読者層としてはどのあたりを想定されていますか?

なかなか漫画に出会うことができなくなっている人たちにとっての漫画を気楽に読める場所になったら良いなと思っています。スマホだからどこででも見れる。なので、私たちの方で読者を選んでいく発想はないです。ライトユーザーにとって面白い漫画も載っているし、漫画読みとして成熟した人にとって、面白い漫画もある。ユーザーごとで、自分で読むものを決めることで、それぞれが雑誌を作ればいいかな?と思います。ある人の本棚は、少女漫画誌かもしれないし、ある人の本棚はファンタジー誌かもしれない。多種のなかから、好みを選べることが、デジタルの良さのような気がします。

漫画を好きになる、漫画を好きだということと、紙の雑誌を買わなくちゃいけないということは、決してイコールじゃないんじゃないかな?と。雑誌の価値は長きにわたって、通勤通学時間に一番面白いエンタメだったことだと思いますし、今、通勤通学の友は、スマホなんだから、スマホで漫画が読めるようになることは、とてもいいことで、紙を否定することではないと思っています。紙で読もうとスマホで読もうと、漫画を読んでくれているだけで、どの読者もありがたいです。

-映像は見たいけれどもテレビを見ずにYouTubeで見ているような。

YouTubeで見ている人がテレビを嫌いかというと決してそういうわけではなくて便利だからそれを選んでいるだけですよね。例えば映画が好きだという人が、映画館に絶対足を運ばないといけなかったらきつい。TSUTAYAで借りても、Netflixで見ていても、Amazonプライムで見ていても、映画そのものを好きになってくれたら映画業界は発展するよねって。

まず漫画を好きになってもらうこと、それから最終的にはこれをコレクションとして欲しい、って思えるほど好きになる。コレクションしたくなる、電子書籍の形も模索したいですし、その延長線上には紙の本も所有したくなるという思いがあると思います。ファン度が高くなれば、新書のKCではなくて、1500円でも欲しいとか、グッズが付いているものが欲しいとか。また家に物を置くのがいやだけど、そのかわりスマホの中に、ものすごく満足度の高いリッチな電子体験としての本がほしいとか。一言で本の形で欲しいといっても、もっと多彩な欲しくなり方があるんじゃないかと思います。

そもそもコミケやコミティアでは、描き手の人たちが同人誌を作るとき、トレペ用紙を表紙にしたりとか、箔押ししたりとか、すごくリッチに作るじゃないですか。同人市場の作家さんが愛情込めて作っているのは、そういう風にして読まれたいという気持があるからで、雑誌で活躍される作家さんにも、本当は書店に並ぶときに、普通のコミックスの形ではなくて、もっと本当はこういう風な本の形で並んで欲しかった、という希望があるんじゃないかと。それが仮に5000人にしか売れなくても、こういう本の形で届けられたら、という届け方があると思うし、それは書店さんも望んでいる気がしています。

-たしかに漫画の単行本は形が同じですね。

コミックスは判型が決まっていて、先に判型ありきになってしまっています。だからある漫画は美術書みたいな装丁で読みたいのにって思っている人がいるかもしれませんし、『宝石の国』だったら宝石埋め込んで欲しいとか。たとえその本を100人しか欲しがらなかったとしても、100人欲しがってくれる人がいて、そういうリッチな本の形を私の作品は目指していけるということ自体が、描き手の夢になるんじゃないかなと。


©講談社

デジタルリッチな単行本なら、紙では高くなってしまうオールカラーで出したいとか。

私たちが、というよりも、漫画の歴史の中で、決まったルールが多すぎると最近思っています。本の判型ひとつとってもそうですね。もちろん、95%のメインストリームは新書版やB6のコミックス棚が支えてくれていると思っています。ただ、コミックス棚以外の形の漫画家さんの儲け方みたいなものを、もっと広く提供していってあげたいというのが最終ゴールとしてあります。その意味では、デジタルを使ってアナログに繋がっていく道を作れないかなと。デジタルとリアルの書店さんを結べないかなと思っています。

デジタルから生まれたものがデジタルで終わることもあるだろうし、デジタルから生まれたものが紙のリッチな単行本になったり、スピンアウトされて紙の雑誌で連載されていくという、多彩な作家さんの上がり目があると思います。

-作品を発表する場、というのではなく、そこで食べていく場というのが大きなテーマがあるのかなと思いました。諦めてきた人に会ってきた、という影響が強いのでしょうか。

諦めてきた人を見たのも大きいですが、それ以上にやっぱり日本の漫画のレベルはめちゃくちゃ高いと思っていて、逆に世界中でまだそんなに沢山の人が漫画を描いているわけではない。世界中の人に漫画を読んでもらうためには、もっと漫画作品があって良いと思うし、今漫画を読んでいない人に読んでもらうためには、もっと漫画作品を発表できる場が増える事。発表できる量が増えれば、漫画を諦めないで良い人がもっと増えるのかなっていう。

どれほど売れた作品でも、読んでいない人のほうが多い。映画『君の名は。』はあれだけヒットしましたが、人口からすれば見ていない人の方が多いです。ネットやSNSはチャンスを広げていると思うので、SNSで何が起きているのか、それこそpixivで何が起きているのか、どうやったら自分の作品を知ってもらえるのかを、もっとわがままになって求めても良いんじゃないかなと思います。

ただ、海外にも広がっていくとか、描く場所を増やすことは漫画家さん一人ではできないことだから、それこそが出版社がやるべきことだと思っています。

-ウェブ上での漫画の発表の場は増えていると思いますが、それでも新しいものを立ち上げようと。

正直言うとめちゃくちゃ増えているなとは思っているんですけれども(笑)いろんなモデルがありますよね。個人的には30~40くらいまでは増えるだろうと思っていて、30~40くらいまで増えたものが、自然消滅で6~10個くらいになるかなと思っています。ま、ネットってそんなもんかなと。その30~40増えて、また減る中で作家さんももしかしたら実力で自然淘汰されるかもしれない。でもアプリが自然淘汰されるまでは増やしてあげるべきかなって。

このアプリは出版社がpixivと対峙して作っているという部分ではこれまでの漫画アプリよりさらに漫画家さんの活躍を意識しないといけないと思っています。出版社の持っている60年以上の漫画の歴史、pixivの持っている技術力とユーザーからの信頼、両社の良いとこどりしたら、どんな化学反応が起きるだろうと

 

デビューのハードルは今が一番低いです

-どんな作家に来てほしいですか?

シンプルに、誰でも来てください、なんですけど(笑)

ひとつは一度どこかでデビューしたけれども、誌風に合わなくて、結果うまくいかなくて自信を失ってしまった人。10本ネーム描いて10本全部落ちてしまったら、自信を持てるはずもないですよね。10人に告白して全員に断られたら、次の告白なかなか出来ないですよ。一回デビューして、自分に対して諦めちゃった人で、でもまだ漫画家になるという夢に少しでも火が灯っているなら来てほしいです。

うまくいかなかった人は雑誌に合わなかっただけだと思います。それか、もしかしたら雑誌に合っていても担当と合わなかったが為にデビューに至らなかった人やヒットに繋がらなかった人もいると思います。実際に私が担当して、私と合わなかったがためにデビューのチャンスを逃してしまった人もいただろうと思います。

逆にどこに投稿したらいいかわからない人も、投稿してみて欲しいです。あとは平たく言うと新しいアプリなので、デビューのハードルは今が一番低いです。手っ取り早くデビューしたいんだ、という人は、このチャンスをずる賢くつかんでください。

ちょうど今、曜日コンテストをやっています。各曜日連載1枠ずつ、最低7本は、新人に連載枠をとってあります。個人的には、各曜日一人ずつといわず、2~3枠でも使っちゃって、20人でも30人でもデビューしてほしい!1月まで募集期間がありますから、ぜひチャレンジしてほしいです。

(各曜日連載マンガ家募集コンテスト:https://www.pixiv.net/contest/kodansha_youbi


マンガ出張編集部@京まふ2017 持ち込みブースの様子

-新人を評価するときのポイントはありますか?

その作家さんに「その作家さんにしか描けないものがあるかどうか? 漫画家という職業を愛しているかどうか?」が気になるでしょうか? 「面白かったー!」という気持になれたら、めちゃくちゃうれしいです。平均値が高いことよりも一点突破しているほうが評価されやすいですね。でもバランスを評価しないことではないです。一点突破のポイントがバランスの良さであれば、全体の完成度を一番にすることを目指せば良い。すごいキャラクターが作れるなら、それだけで会いたくなります。最高にイケメン描けるなら、苦手なところは封印すればいいんじゃないでしょうか。おじいちゃんおばあちゃん描けないなら描かない。イケメン絵だけで勝負する。自分の一番いいところが見えていれば、こちらも良いなと思います。

それからコンスタントに描けそう、というのも大事なポイントです。やっぱり3年に1作しか描けないと言われてしまうと、その先の連載というのはなかなか見えにくいですよね。

新アプリに限らないですが、アプリの良いところはジャンルがないところで、雑誌の枠に収まらないことですね。ここから新しいジャンルが生まれたら漫画界にとって素敵なことだと思います。

 

-ありがとうございました!

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 福間、川原




他にも注目度が高い漫画家向けのノウハウ記事を提供しております。
是非合わせてご覧ください。



漫画家による漫画のコマ割り講座
アナログ漫画家がデジタルに挑戦する連載記事
出張編集部への持ち込み体験レポート
Webtoonとは?作り方・描き方
漫画家実態調査アンケート
漫画編集者実態調査アンケート

 

関連記事
なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん①「作家さんの一番が引き出されれば強みになる」
なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん②「相手に10分で理解させられないことは削る勇気を。」
なかよし・ARIA・エッジ編集部部長 中里郁子さん③「「誌風に合わないけれど才能がある」という人たちに場所を提供しないわけにはいかない。」