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ノウハウ
2020年6月11日

【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』許斐剛先生×入尾前先生


人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。 豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回は『新テニスの王子様』を連載中の許斐剛先生に対して入尾前先生が取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。

《1》許斐剛先生が語る漫画論
《2》漫画の執筆方法 展開について
《2》漫画の執筆方法 キャラクター作り
《2》漫画の執筆方法 今後の展望
《3》プロの漫画家を目指す人へ向けたアドバイス


《1》許斐剛先生が語る漫画論


入尾前先生(以下、入尾):許斐先生、本日はよろしくお願いします!

許斐剛先生(以下、許斐):こちらこそよろしくお願いします。……もしかして、緊張しています?(笑)

入尾:アシスタントでお手伝いしておりますが、こういう場で改めてお話をうかがうのは…(笑)。

許斐:聞きたいことがあれば、何でも聞いて下さい。日頃の不満や、愚痴も全力で受け止めます(笑)。

入尾:そんなものは全くないです!いつも勉強させて頂いております。では早速ですが、先生はどのような経緯で漫画家になられたのですか?

許斐:本格的に漫画家を目指したのは、大学の就活中の時期でした。当時、色々な会社を回っていたのですが、その時に「何か違う」と思ってしまったんです。

入尾:それで「週刊少年ジャンプ」に投稿を?

許斐:そうですね。投稿を始めてからはトントン拍子でした。『鉄人~世界一硬い男~(以下略、鉄人)』という作品でデビューをして、そこから4年後くらいに『COOL RENTAL BODYGUARD(以下略、COOL)』で初連載。

入尾:そして、そのあとの作品が『テニスの王子様(以下略。『テニス』)』ですよね。1999年に始まって、今もなお読者から絶大な支持が…。

許斐:ファンの皆さんが支えてくれたことが、すごく大きいですね。本当にありがたい限りです。

入尾:そんな先生の執筆人生の中で、絶対に変わらないポリシーはありますか?

許斐:「読者を第一に!」と考えて描くことだけは、昔から変わらないですね。特に『COOL』の連載をこぎつけるまでに「読者を手玉にとってやろう!」と思うようになったんです。それは悪い意味ではなく「読者の方々に驚いたり、楽しんでもらいたい」という想いから始まったものでした。

入尾:その心の変化は、結果的に先生に何をもたらしたのでしょうか?

許斐:あらゆることを、読者の目線で見られるようになりました。主人公のセリフひとつでも、このセリフを言うことで読者はどう感じるのか。例えば主人公の決めゼリフを少し変えるだけで、かっこよくもなるし、ちょっと嫌なやつにもなってしまうんですよ。

入尾:確かに『テニス』のリョーマの決めゼリフ「まだまだだね」が、「まだまだだぜ」だったら、かなり印象が変わりますね。

許斐:たった一文字だけ変えるだけなんですけどね。だから常に自分の中にもう一人の自分がいる感覚がします。プロデューサー・許斐剛がいて、彼が漫画家・許斐剛に「それは独りよがりじゃないか?」とか、「それをやったら、読者は悲しむよ」と、上から指示を出している感じがします。

入尾:漫画を執筆する上で、客観的な視点はとても大切なんですね。

許斐:客観的な視点は漫画に限らず、あらゆる仕事に求められるものだと思いますよ。私の場合はたまたまそれが漫画だった。そして読者のために描き続けていたら、18年くらい経ってしまっていました(笑)。


《2》漫画の執筆方法 展開について


入尾:ただ読者の方々は、その時代ごとに嗜好が変わる流動的な存在だと思うんです。先生はそんな読者の方々に適応していくため、毎日行っていることはありますか?

許斐:習慣で行っていることはないですね。私は映画も漫画も観ない方で、単行本に至っては15年近く読んでいないかも…?アメリカのTVドラマが好きですが、マニアではないですし…。

入尾:ええ!?ではどうやって、今の読者の好みをつかむのですか?

許斐:話題作と謳われている作品が「なぜ今、人気なのか」を分析しますね。そして、その疑問に対して自分なりに結論を出す。この繰り返しをすることで、今の流行などを把握しているのかもしれません。

入尾:ちなみにそこから得たものを『テニス』に反映させたことはありますか?

許斐:多分あるはずです。ただ、特定の漫画や映画の「ここ!」みたいなものを、そのまま活用したことはありませんね。私の分析の結果ですと、最近の読者の方々は繊細な心理描写が強い作品を好む人が多い印象があります。「週刊少年ジャンプ」で連載していた時に、たまたま見かけた映画『スパイダーマン3』の告知記事。そこで「スパイダーマンの悪の部分が…!」みたいな煽りを目にして、面白いと思い、『テニス』で海堂を闇落ちさせた記憶があります(笑)。

入尾:そもそもの質問なのですが、映画や漫画などのエンターテインメントを、あまり見ない、読まないのはなぜですか?漫画を描く上でインプットは大切なことだと思うのですが…。

許斐:あくまで私個人の話ですが、「他の作家さんの影響を受けたくない」という気持ちがあるんです。作品に触れると、絶対に何かしらの影響を受けてしまうものなので。言い方を変えると、自分を鎖国状態にしたい!(笑)そうすることで、展開の面白さの純度をさらに向上させるみたいな感じでしょうか。あとは読者の予想を常に裏切りたいという執念で頑張ります(笑)。

入尾:執念という名のこだわりですね!(笑)

許斐:特にアンケート至上主義の「週刊少年ジャンプ」時代は、「常に予想だにしない展開で、読者を驚かせないと!」と思っていました。「だらける回は一切なし!毎週がクライマックス!!」という気持ちですね。あとは読者が予想した通りの漫画を描くことが、すごく嫌なんです。例えばじゃんけんする話を描いていて、読者にグーと予想されて、そのままグーを出す展開だったら、ちっとも面白くないじゃないですか。私はチョキでも、パーでもないものを出したいんですよね。

入尾:そういった展開のアイデアは、普段から考えられているんですか?それとも先生はネタ帳を作っておられるのですか?

許斐:その時々によりけりですね。全く考えていない時もありますよ(笑)。「来週どうしよう!?」みたいな。ただ、アイデアに煮詰まること自体があまりないので、そこまで苦ではないですね。

入尾:煮詰まらないなんて…!煮詰まってしまう新人の私に、何かアドバイスを頂けないでしょうか…!?

許斐:ほんとに煮詰まってしまった時は、自分の持っているアイデアを誰かにたくさん話すことが大切ではないでしょうか。私の場合はアシスタントの皆さんに話をします。入尾さんも知っていますよね?

入尾:そうですね。たまにアイデアに対する感想や意見を聞かれますね。

許斐:そこで相手のリアクションを見れば、自分のアイデアが面白いのかが分かるし、話しているうちに閃くことも多々あるんです。

入尾:私は先生に意見を聞かれて答えている時、参考になっているのかな?と心配になる時もありますけど、どうなのでしょうか?

許斐:入尾さんが聞いてくれることに意味があるんですよ。やっぱり一人で考え込むのとは全然違うと思います。

入尾:一人で溜め込まないことが大切なんですね。

許斐:そうですね。白紙を見ながら一人で考えることほど、辛いことは無いですから。何でもいいから描いて、とにかく喋り始めたらアイデアは出てくるはずなので、新人の方々にはあまり悩みすぎないようにして欲しいと思います。結局は、読む人のことを考えていなければ生まれないアイデアであることが多い。そういった意味でも、やはり常に読者を意識することは、大切なことだと思います。


《2》漫画の執筆方法 キャラクター作り


入尾:次はキャラ作りについてです。先生は展開の作り方だけでなく、キャラの作り方も「読者が第一に!」と考えているのですか?

許斐:「このキャラは、読者にこう思われたい」という読者視点で考えます。ちょっと泥臭いイメージを持たれたい、強いけどちょっと冷たい人物と思われたい、みたいに考えて作ります。そのあとで、学校に合ったテーマカラーを考えて、キャラをバランスよく配置します。とにかく読者に好かれないとダメです。嫌われ者のキャラでも、「嫌われ役」として好かれるみたいな。

入尾:無関心が一番まずいというやつですね。

許斐:そうですね。空気になるキャラは作らないようにしています。ただ『テニス』の場合は、ファンの皆さんがキャラを補完して下さっているところもあって。どんなキャラを出しても、必ず良いところを見つけてくれるんですよね。ですので、私は自分がキャラ作りがうまいとは思っていなくて、むしろファンの皆さんの方がすごいんです。

入尾:ちなみにキャラを作る上で、「この要素があると良いキャラになるよ」といったポイントはありますか?

許斐:そのキャラがその漫画じゃなくても、見てみたくなるようなキャラですかね。例えば『テニス』のキャラは、野球をやっても面白いと思うんですよ。乾だったらデータを使って野球をやるだろうし、海堂だったら曲がる打球になるとか、色々な想像ができるじゃないですか。どんな漫画に登場していても、そのキャラの行動が想像できて面白いことが良いキャラの条件だと、私は思います。

入尾:ただなかなか魅力的なキャラを生みだすのは、難しいですよね…。

許斐:昔、ある編集に言われた言葉を借りると、キャラクターを産むのは子供を産むのと同じですね。苦労するのは当たり前のことです。

入尾:その中でも、先生自身に似ているキャラはいますか?

許斐:特定のキャラは思い浮かばないけれど、根本的な性格はみんな私に似ていますね。私もすごく負けず嫌いだし、悪いことをするのは嫌。ゴミをポイ捨てするのとか許せないんですよ(笑)。それは『テニス』の全員に備わっている性格だと思いますね。


《2》漫画の執筆方法 今後の展望


入尾:逆に描きづらいキャラはいますか?

許斐:私自身が極悪非道なことを考えられる人間ではないので、本当に悪い人を描くのは難しいです。例えばですが、人にひどい暴力を振るったり、あるいは主人公の精神が闇に染まりきったりする話は、描けそうにないなぁと…。それに、泣ける類の話もあまり得意ではないです。微妙な情緒とか、感情のちょっとした機微とか、そこは鈍いのかもしれないです。

入尾:それと前に、先生は思い悩んでいる主人公を描くのが嫌いとおっしゃっていましたよね?

許斐:嫌いというか苦手ですね。今の世の中、多くの人が自分の人生にすら悩んでいるのに、漫画を読んでも悩んでいる人を見るなんて…と悲しくなっちゃうんです(笑)。漫画の中でだけは、せめて「面白かった!」と、読者の方々に気分転換をしてもらいたいじゃないですか。

入尾:先生の読者を想う気持ちは、いつも感嘆します…。そこまで考えておられたのですね…。

許斐:でも、悩みを突き詰めた作品が好きな方がいらっしゃることは承知です。また、そういった作品を描くのが上手な漫画家さんがいるのも知っていて、本当に尊敬しています。 ですので、私も漫画家としてもう一段階、高いステージに上るためには、自分が苦手とする話にも挑戦しないといけませんね。作品の幅を広げたり、作品に深みを持たせるためには、悩みは大切なことだと思いますので。『テニス』では難しいかもしれないですけれど、新しい作品などで出せていけたらと思っています。

入尾:他にさらなる高みへ上るためにされていることはありますか?

許斐:時代ごとに流行の絵柄があるので、そういったものはどんどん吸収していきたいと思っていますね。手癖があるので、なかなか難しいとは思いますけれど。

入尾:先生がこれ以上、成長してしまったら大変なことになりそうなのですが…(笑)。

許斐:「若いものにはまだまだ負けないぞ!」という気持ちで(笑)。でも漫画家を目指す人には頑張って欲しいと、心の底から思っています。


《3》プロの漫画家を目指す人へ向けたアドバイス


入尾:頑張ります!というわけで、漫画家を目指す人や新人作家に、「これだけはやっておくと良いぞ!」といったアドバイスはありますか?

許斐:新人の時に学んだことですが、担当さんへの持込はすごく良いですよ。自分一人で作っていると、悩みすぎてあらぬ方向へ進んでしまいますので。私が新人の時は担当さんに見せられるものがなくても、編集部に行ってご馳走してもらっていました(笑)。一見、無駄かもしれないんですけど、そんなことはなくて。食事の席で、担当さんに出したアイデアが好感触だったりすると、「あ、この路線で間違ってないんだ」って確認にもなるんですよ。やる気もわくし、担当さんの迷惑にならない程度だったらオススメです。

入尾:他に今の時点で、練習しておいた方が良いことはありますか?

許斐:あとはやはり「読者の目を意識すること」と「キャラクター性にこだわること」ですね。特に「読者の目」は新人さんが見落としがちですので。

入尾:キャラクター性に関して言うなら?

許斐:これは連載を目指す人に向けてのアドバイスですけど、キャラクターさえしっかりできていれば、どんな漫画も面白くなるというのが私の長年の持論です。デビューの頃から言っています。

入尾:なぜ物語の展開よりも、キャラが大切なのでしょうか?

許斐:例えばですが、読切で感動的な物語が描けたとするじゃないですか。ただそれはあくまでも、その読切がうまくいっただけのお話なんですよね。次の読切でも同じように感動的な物語が描けるとも限らないし、ましてや連載なんて言ったら、なおさら難しくなりますよね。だからこそ、連載を目指すなら、連載にも耐えうるような魅力的なキャラを作った方が何倍も良いと、私は思うんです。良いキャラは作家から誕生したあと、一人歩きしてどんどん魅力的になってくれます。そしてそんなキャラさえいれば、何話でも続けられるので連載に向いている気がします。ただ、これはあくまで私のやり方なので、参考程度に聞いて頂ければありがたいです。

入尾:自分にとって最適な漫画の作り方を模索したいと思います。それに新人は連載作家さんとは違って、キャラにしろ展開にしろ、ネタを練るための時間が膨大なので、担当さんの目に留まるような作品を作りたいです。

許斐:連載作家はどうしても締め切りがあるので、妥協したくなくてもせざるを得ない時がありますからね。新人は特に時間をかけて描けますから、連載陣よりも面白い作品を描いて欲しいと思います。

入尾:連載作家さんを引きずり落とすくらいの意気込みが大事なんですね。

許斐:厳しい言い方になってしまいますが、漫画家は結局のところ、描いた原稿でしか評価されないですからね…。自分の能力を信じるのは自分だけです。自信がないというのなら、自信が生まれるまで頑張って欲しいです。そして「絶対に連載を獲得してやる!」という想いを、原稿に最大限に凝縮して下さい。そんな熱い想いで描かれた作品は、絶対に審査員をする私たち連載陣や、編集部に伝わります。連載を力ずくでもぎ取ることが、大切なんです。

入尾:ただ、もぎ取ったあと、それはそれで大変そうですね…。

許斐:もちろん大変です(笑)。ただ連載になってしまえば、いやがおうでも成長できますよ。毎日のように描いて、たくさん考えてたくさん仕事をしないといけなくなりますから。

入尾:先生の話を聞いて、やる気が湧いてきました!私も頑張ります!最後に漫画を目指す人、新人作家にメッセージをお願いします!

許斐:ここまでの話で完全に言い尽くしてしまいました…(笑)。漫画家になることはすごく大変なことだと思います。ただ絶対になれないという仕事ではありません。さっき言ったような血のにじむような努力が、必ずや、実を結ぶと思いますので、新人の方、漫画家を今から目指す方は強い心をもって、夢に向かって欲しいと思います。頑張って下さい!

入尾:本日は貴重なお話をありがとうございました!!


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●ゲスト 許斐剛先生 Twitter
2009年4月号から『新テニスの王子様』を連載中。
●取材&マンガ 入尾前先生
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■リンク先


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●ジャンプSQ.編集部公式Twitter

(C)集英社


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