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ノウハウ
2021年2月26日

【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』浅田弘幸先生×濱岡幸真先生


人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。 豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回は浅田弘幸先生に対して濱岡幸真先生が取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。

《1》浅田先生、「少年漫画」のルーツ
《2》異なる工程を重ねるネーム作業
《3》見栄えのする構図のコツ
《4》キャラクターを作るのは「過去」
《5》町の郵便屋さんからファンタジーへ
《6》アナログ+デジタルのカラー執筆術
《7》画力向上の秘訣は…現場仕事
《8》漫画を描くように生きている


《1》浅田先生、「少年漫画」のルーツ


濱岡幸真先生(以下、濱岡):浅田先生の絵にずっと憧れてきたので、凄い緊張していますが、宜しくお願い致します!では最初に、浅田先生が漫画家を志したきっかけを教えて下さい。

浅田弘幸先生(以下、浅田):幼稚園の頃から漫画家になりたかったんですよ。多分、先生や周りの人から絵を褒められて、そう思うようになったんでしょうね。その頃は本当に子供が描くようなタヌキやウサギといった動物や、絵本の絵を真似していました。

濱岡:では、実際に目標とした漫画はありますか?

浅田:漫画も小さい頃からずっと好きで読んでいて、しかもその頃は今みたいにコミックスがシュリンクされておらず、本屋さんで立ち読みができた時代でした。だから本屋さんに行っては、よく立ち読みをしていて。特に好きだったのは、当時ブームだった『銀河鉄道999』などの松本零士先生の作品です。漫画家という職業をより意識したのもそこからでしょうね。当時の少年漫画が本当に大好きで、今でもその「少年漫画が描きたい!」という気持ちを引きずって続けているのだと思います。

濱岡:少年漫画で、特に影響を受けた作品はありますか?

浅田:『銀河鉄道999』はもちろんですが、『あしたのジョー』(ちばてつや)『デビルマン』(永井豪)…と、挙げ始めたらキリがないです。藤子不二雄A先生の『まんが道』にも凄い影響されて、「自分も漫画家を目指して上京するんだ!」とか言っていました。神奈川県在住なのに(笑)。そして中学に入った頃、今度は江口寿史先生の漫画に出会って衝撃を受けました。小学校の頃から『すすめ!!パイレーツ』は読んでいましたが、中学に入って『ストップ!!ひばりくん!』の新しいセンスに憧れて、実際に絵にも影響を受けました。他にも大友克洋先生(『AKIRA』他)、上條淳士先生(『TO-Y』他)といった、その時代時代の「こういう凄い表現があるんだ!」と驚かされる新しい作品に影響されています。

濱岡:浅田先生が、実際に漫画原稿を描き始めたのはいつ頃ですか?

浅田:小学校の5、6年生くらいからだったと思います。お手本の漫画を横に置いて、自分の感覚でコマを割って描いていました。その後、17、8歳の頃に初めてできた投稿作品(※)を、上條先生が『TO-Y』を連載していた「週刊少年サンデー」に持ち込みました。ただ、その頃の「サンデー」は新人賞が年2回しかなく、次の賞まで半年くらい待たなければならない。せっかく描いたのだからと、そのまま「月刊少年ジャンプ」(以下、「月ジャン」)に投稿しました。 (※:1986年「月刊少年ジャンプ」漫画大賞準入選作品『幽界へ…』)

濱岡:投稿した際、編集部に言われて特に印象に残っているものはありますか?

浅田:投稿作は一応コメディでしたが、ヒロインの顔が潰れて死ぬ場面があって…それを描き直せと(笑)。「ヒロインにこんなヒドいことをするのは少年漫画じゃない!」と言われて。賞も頂いて掲載も決まっていたけれど、そこだけは直すことになりました。

濱岡:浅田先生は最初、コメディ作品を志していたのでしょうか?

浅田:最初の投稿作はコメディでしたが、必ずしもそれにこだわっていたわけではありません。「描きたい!」と思いつくものは漠然としたシチュエーションやシーンで、1本の漫画としては考えていなかった。「こういうシーンを描く!」はあっても、それをどう繋げてどう盛り上げるかまでは至っていなかったというか…。

濱岡:つまり、その頃から描きたいシーンなどがまずあり、それを見せるために1本の漫画を考えていたということですか?

浅田:そうです。その頃ってそういった、アイデアで一点突破するくらいしかできなかったのだと思います。

濱岡:ちなみに最初のコメディの作風は、のちの連載作品『BADだねヨシオくん!』に繋がっているのでしょうか?

浅田:いえ、あの頃はストーリー漫画をいっぱい描いていましたが、ネームが全然通らなくて…。それでヤケになって描いたものです(笑)。


《2》異なる工程を重ねるネーム作業


濱岡:浅田先生のネームの描き方を教えて下さい。

浅田:時間がないと手順を飛ばすこともありますが…ベストは「プロットを作る」→「キーワードを作る」→「シナリオを文章で書く」です。そして「大体こんな感じ」と固まったら、それを元にコマを割ってネームを描いていきます。すると仕上がったネームは、シナリオと全然違う形になることがほとんど(笑)。僕の場合、異なる工程を何段階か経て、面白さを高めているのだと思います。手順を踏むことで精度が高まるというか、ネームの無駄がなくなる感じですね。そして原稿作業に入るのですが、そこでもネームを直します。

濱岡:各工程でどんどんブラッシュアップするのですね!

浅田:あくまで僕の場合ですが、月刊作品だと特に、手順を重ねる程良くなると思っています。丁寧に導入を描いていき、何度も検証してきちんとしたオチをつけていく、とか。逆に週刊連載の作家さんは、工程を踏む時間がない分、勢いで描く部分が多いのではないでしょうか。その勢いこそが週刊作品の面白さで、そのおかげで作品が、自分が考えもしないところに繋がって行くのかも知れません。

濱岡:シナリオを書かれている段階で、原稿の画面は頭にありますか?

浅田:「これを原稿で描くのは大変そう!」と思いながらシナリオを書くこともありますが、基本はあったりなかったりです。頭にある場合も完成形としては考えていません。僕のシナリオ作業は、自分の中から出てきた要素を文章で残すことが目的なんです。文章って、絵に比べてどんどん出てくるじゃないですか。そういったばら撒かれた思考から、いいところだけを拾って精査していくんです。

濱岡:脚本が上がってネームを始める際、コマ割りはスムーズに進むのでしょうか?

浅田:いえ、シナリオがしっかり固まっていても、実際にコマを割ってみると1ページ目から情報が溢れていたり、読んでいて入り込めなかったりと、上手くいかないことは多いです。何度も描き直して、できるまで根を詰めるのですが…それだけ頑張ったネームも、結局後でまた直したり「やっぱりここ、いらない」とカットすることも(笑)。自分でも無駄な時間が多いとは思ってはいるんですよね…。


《3》見栄えのする構図のコツ


濱岡:そうやって何十回も考えることで、浅田先生のあのカッコいい構図が生まれてくるのでしょうか?

浅田:出てくる…といいですね(笑)。出てこない時もあるし、適当に描いた時の方がいいものになった場合もあるし。その時々のこだわりなので、こればかりは仕方ないですね。コマの構図は作画の段階で考えますが、シーンによってはネームから決まっている場合も多いですね。

濱岡:私はカッコいい構図を考えることが苦手で、気が付くとキャラのアップばかりになってしまいがちなのですが、いい方法はありませんか?

浅田:皆さんもやっていると思いますが、まず見開きを一つの絵として捉え、1枚に1つ見せゴマを入れてテンポを良くします。あとは誰しも、「自分の好きな構図」があるじゃないですか。それをメインに据えるんです。「キメはやっぱりこの角度だよね!」という感じで。もっとも、同じ構図を使い過ぎると飽きちゃうから、また苦労して次のキメの構図を探す…その繰り返しでしょうね。あと、忙しくなっても得意な構図ばかりになるので、そうならないように気を付けています。

濱岡:良い構図を思いつくためのコツはありますか?

浅田:「もっと自由に描きたい」と思った時は、コマの外側までパースを全部引いて、シーンの全体像を大きい紙に描いて検証します。そして実際の原稿で使う部分を拡大して、それを原稿を描く際のアタリにするんです。

濱岡:確かに、全体像を描いてみると、頭の中でカメラを回すより分かりやすいですね。…ちなみに作画に限らず、執筆で詰まったり、前に進めない時はどうされますか?

浅田:風呂に入ったらいいと思います(笑)。血流がよくなって何か浮かぶはず。僕も詰まると風呂に行きますね。


《4》キャラクターを作るのは「過去」


濱岡:浅田先生が人物キャラクターを考える場合、何を起点にされていますか?

浅田:『テガミバチ』のラグの場合、「少年漫画の主人公らしい、とにかく真っ直ぐな男の子が頑張る漫画」を描きたかった。しかもその頃の「月ジャン」では、そういった主人公も少なかった。自分の普段の感覚で考えると、ザジみたいなタイプが主人公になりがちですが、『テガミバチ』はそれを抑えて考えてみたんです。そして「悪意をもって接されても、お礼を言ってしまう純真な少年」という特徴が出てきました。

濱岡:キャラクターの特徴を自然に出すには、どのようにすればいいのでしょうか?

浅田:僕はキャラクターが持っている要素とは、それぞれの過去に要因があると思います。彼ら一人一人が過去にどんな経験をしてきたか…それを考えて掘り下げていけば、キャラクターの特徴は自ずと形になっていくと思うんです。

濱岡:だから最初はやんちゃだったラグも、ゴーシュと出会って何年か経つと口調まで変わってきたんですね。

浅田:ラグにとって、ゴーシュとの出会いは大きなきっかけだったのでしょうね。成長して素直になったラグを見て、そこからゴーシュの存在を感じてくれる読者がいたらいいな、と考えていました。

濱岡:では、キャラクターのビジュアルはどこから考えられるのでしょうか?

浅田:原稿の時点で(笑)。実はキャラクターのデザインは、ネームの段階ではまだ生まれていないことが多いのです。だから『テガミバチ』連載の予告カットも、描いている時点でまだ衣装が固まっていなかったりとか…。

濱岡:ビジュアルが凝っているから、最初からデザインも詰められるのかと思っていました。では、被らないキャラクターデザインのコツはありますか?

浅田:例えばキャラを骨格から考えるとか?絵を描く人って、自分の手癖というか、好きな形が大体決まっていきますよね。そこから外れたデザインを考える時は、骨格から考えます。顔も頭蓋骨の輪郭とか、頬骨の高さとか…そこから考えれば、自然と造形も変わって差別化されていきますね。

濱岡:「ステーキ」「ぽんた」など、浅田先生の動物キャラは皆可愛いのですよね。あれはどのように考えているのですか?

浅田:非常に適当です(笑)。動物らしさがあればいいかな、くらいのノリで描いています。普段から猫を飼っていたり、面白い動物のリアクションはずっと見ているので、もしかしたら自然な動きがついているのかも知れませんね。

濱岡:キャラクターの服や小物は、各キャラの好みが反映されているように見えます。何か参考にしているものはありますか?

浅田:基本的に「これ!」といった資料はなく、自分がこれまで見てきて、好きだと思ったものを落とし込んでいます。『テガミバチ』は皆制服を着ているので、気を抜くと同じになってしまう。だから「コイツは帽子を逆に被りそう」「こいつはカッチリ着ていそう」と、キャラの性格を突き詰めて差を出すようにしています。

濱岡:キャラクターの表情を豊かに上手く見せるコツはありますか?特にラグの泣き顔とか、非常にグッときますよね!

浅田:実は表情をつけるのは結構苦手で…。でもラグは「こころ」を見せないといけないキャラクターなので、敢えて描くようにしています。自分では「変な顔だなぁ」とか思いながら(笑)。それに、過去の作品ではキャラクターの感情を爆発させるような描写を、あまりしてこなかった。『テガミバチ』で一度、自分の殻を取っ払ってみたかったんです。主人公のラグを子供にしたのは、それもあります。

濱岡:逆に相棒のニッチは、子供の姿の割には表情をあまり出さないですよね。

浅田:ニッチには野生動物のイメージを持っているので、逆に表情をあまりつけないように意識しています。焦っても汗をかかない、とか(笑)。


《5》町の郵便屋さんからファンタジーへ


濱岡:『テガミバチ』の舞台設定はどのように作られているのでしょうか。

浅田:『テガミバチ』の場合、世界を一から全部作りたかったので、可能な限りたくさんのアイデアを出して、そこから選んでならしてきた感じです。例えばその世界に存在する「場所」「職業」「人物」などの文字設定を、一つ一つ考えていきます。もちろん、実際に漫画になると全然別物になったりもしますが。テガミバチの制服も、最初はネクタイがあってフォーマルだったり(笑)。まずは案を出すだけ出して、そして今現在、物語として描かれている部分から掘り下げていくんです。

濱岡:では世界観は、ある程度考えきってからネームに入られたのですか?

浅田:そうですね。変更しながらではありますが。ちなみに『テガミバチ』の世界観はファンタジーにしようと決めてから考え始めましたが、最初は普通の町の郵便屋さんの話でしたね。

濱岡:『テガミバチ』のような壮大なファンタジーを志す新人は、世界観はどこまで考えるべきなのでしょうか?

浅田:新人さんの場合は1本の漫画の中で、描き切れるだけのものを考えればいいと思います。『テガミバチ』の世界観設定は連載用なので、どう広がってもいいように、キャラクターを放り込んで好きに動かせるだけの規模を目指していました。色んな方向に展開できる余地を作るというか…何でも考えておけば、後で色々と使えるだろうと(笑)。

濱岡:町の郵便屋さんから『テガミバチ』に至るまで、どのくらいネームを描かれたのでしょうか?

浅田:今の『テガミバチ』が見えるまで、何ヵ月もかかったと思います。それまでは郵便屋さんのシナリオを何本も書いていたのですが、まぁ、盛り上がらない盛り上がらない(笑)。ファンタジーにシフトした際、バトル要素として鎧虫を出すようになったのですが、バトル漫画をちゃんと描いたことがないので、凄く苦手で…。

濱岡:苦手意識があっても、今の方向に進んだのですね。

浅田:「少年漫画」が好きでずっと描いてきているのに、自分では、本当に少年が喜ぶ作品を描いていないような気がしていたんです。しかもその頃は30代後半だったので、年齢的・体力的に少年漫画に挑戦できる最後のチャンスかも知れない。できるだけ頑張ってみようと決めたんです。

濱岡:ちなみに世界観設定は、町並みや衣装など、現実世界にも通じそうなリアルなものもありますが、作られる際は色々と調べられるのでしょうか?

浅田:そうですね。特に何かというのではなく、ヒントが欲しくて何でも調べます。『テガミバチ』の頃はケルト神話の文献を調べていましたね。参考という程でもないですが、あの世界の単語が面白かったので。

濱岡:読切が好評で、それが長編の連載作になるケースがありますが、読切から長編を膨らませるコツはありますか?

浅田:それは難しいですね!まず読切を描く時点で、先のことを意識してもいけないと思うんです。その1本を本当に面白く作って、読者に「もっと読みたい」と思ってもらえることが重要なので。僕は連載プロットを読切で試すとか、あまり考えたことがないんですよ。特に月刊誌の場合、先の展開を意識するよりは、その1回の面白さ、そして次の1回の面白さ…と作っていくので。だから大きな世界観を想定していたとしても、「その世界にあった一つの話」と考えるようにしてきました。

濱岡:『テガミバチ』は1話完結もあれば、何話もまたがる長編もあります。それらを作る際の意識やテクニックの違いはありますか?

浅田:意識というか、問題となるのはページ数でしょうか。まとまったページがあれば「1つの配達を完了!そして次に…」とできますが、ページが足りないと話を真ん中で分けなければならない。そしてただ分けるだけだと面白くならないので、別の要素を付け足して次回に繋げる…そうするとまたどこかに歪が出るので、そこを調整して…と。

濱岡:続きものでも、基本は毎回の1話で読者を満足させるんですね。

浅田:1本の映画のように、それ単体で読者を満足させたいんですよ。でもページ数が足りないと分けるしかなく、その分、話の最後に引きを作って「さて、どうしよう!?」みたいな(笑)。さらに次の回になると、話の最初に導入要素が加わるので、ますますページが足りなくなって…。なので、描いていく内に膨らんでいくというのは、よくあることだと思います。


《6》アナログ+デジタルのカラー執筆術


濱岡:浅田先生は一色原稿はアナログで作画されていますか?

浅田:全部アナログで描いています。トーンもかなり使っていますね。ただ、カラーだけはPCでフィニッシュしています。

濱岡:では、カラーはどのような手順で描かれるのでしょうか?

浅田:まずアナログでラフを描き、鉛筆でクリンナップして1本の線にします。鉛筆なので、汚しも入れたりします。それをコピーした紙に、『テガミバチ』だったらコピックで肌色などをちょっと下塗りします。それをPCに取り込んで、キャラや背景が分かれているものは合体させて、カラートーンみたいにレイヤーで色を加えます。そこで光の効果も入れたりします。

濱岡:浅田先生のカラーは光がキラキラしていて、凄い憧れているんです。何度も真似しているのにできなくて…。あのステンドグラスのような質感は、どうやって出すのでしょうか?

浅田:Photoshopがあれば(笑)。アナログだと光の表現があんなにキラキラにできないので、そこがPCのカラーの面白いところですね。

濱岡:カラーの執筆にどれくらいの時間をかけられますか?

浅田:線画が半日から1日くらいで、色塗りは大体1日かかります。でも、完成後の色見本(※)を出す時が一番時間がかかりますね。プリンターで出すとイメージと全然違う色になることがあるので、その調整に時間を取られたりして。 (※:印刷の際、カラーの再現の手本となる高解像度の出力紙)

濱岡:PCに取り込む前にコピックで肌色を下塗りするのは、イメージをつけやすいからですか?

浅田:そうですね。他にも水彩でテクスチャーを作ったり、色鉛筆で薄く色を入れたりとか、気分で色々変えることもあります。

濱岡:塗りにPhotoshopを使う理由はありますか?

浅田:アナログで塗ると、いつも大体決まった自分の好きな色になってしまうんですよ。絵としてはもっと濃くしたいけれど、それだと好きな色じゃないから、自然にブレーキがかかってしまったり。あと、カラーインクだと印刷で綺麗に出ないことも多く、アナログの問題点のストレスがずっとあったんです。たまたまPhotoshopのデモ版を使ったら結構良くて、そこでアナログで塗ったものを取り込んで彩度を調整し…やがて今の使い方になりました。

濱岡:浅田先生のカラーは、鉛筆と、コピックと、デジタル…と、色々な力を組み合わせて作っているのですね。

浅田:アナログの水彩でカラー原稿を作って、デジタルで取り込んで表現したいレベルまで持っていく…というのが理想ですが、現実にはそこまで時間が取れない。『I'll』の頃は水彩で描いていたけれど、今よりずっと時間をかけていましたね。あと、『テガミバチ』も最初は凄く速く描けていたのですが、5~6年経つと、どんどん時間がかかるようになってしまい…。

濱岡:それはどのような理由でしょうか?

浅田:過去に描いた絵と似てしまうのが嫌で、新しいものになるように、どうしても試行錯誤の時間が必要なので。特に『テガミバチ』は衣装や世界観が決まっているからますます難しく、ラフの段階で3日くらい考えてしまうこともあります。

濱岡:ところで浅田先生は、他の作家さんの執筆方法などはご覧になりますか?

浅田:見ませんね。その割にはPhotoshopを使いこなせているわけでもなく、実は知らない機能だらけです。「マスクって何?」とか(笑)。でも、使っていて自分がびっくりすることが面白いんですよ。例えば、レイヤーの順番を変えただけで印象が変わることに気づいたりとか。手探りで試したいので、他の方のメイキングは見ないようにしています。


《7》画力向上の秘訣は…現場仕事


濱岡:浅田先生は執筆で、特に苦手な作業はありますか?

浅田:うーん…ルーチンワークが苦手ですね。同じ作業だったり、同じ絵だったり、もっと言うと枠線引きとか消しゴムかけとか。制服の襟についているベルトなんて、同じものばかりでもう描きたくないし(笑)。だから同じ衣装も、描くたびに少しずつ変わったりします。

濱岡:では逆に、描いていて一番楽しいものは何ですか?

浅田:やっぱりキャラクターの顔ですね。ぴったり納得できる表情が描けると嬉しくなります。あとは「何か新しいもの」。それは絵だったりお話だったり演出だったり色々ですが、描いている自分自身がびっくりできないと、漫画は続けられませんね。『テガミバチ』は設定もかなり詰めましたが、自分では結構行き当たりばったりだと思っています。例えば最近出した新キャラのクーちゃんとか、最初はあまり考えていなかった(笑)。

濱岡:「描きたいと思ったから描く」みたいな感覚でしょうか?

浅田:ええ。そして自分で必要性を意識できていないだけで、そこに必ず意味があるとも思っています。よくよく突き詰めて考えると「これは、ここにはまるべき存在だったのか!」とか、想定していなかった形に繋がったりするんです。だから行き当たりばったりにしつつも、「はまる形」を見つける作業は常にすべきだと思っています。

濱岡:浅田先生お勧めの、画力を向上させる秘訣を教えて下さい!

浅田:アシスタントに入るといいと思います。現場でたくさん描くことが、一番の上達方法だと思います。今はアナログ作家が減っているので難しいと思いますが、できれば自分の好きな作家さんの仕事場に入るといいです。それにアシスタントって、自分が描きたくないものや、1人だったら絶対描かなかったであろうものを、たくさん描かされるんですよ(笑)。それがまた勉強になります。

濱岡:浅田先生はどのようなアシスタント経験をされましたか?

浅田:2年半くらい小谷憲一先生(『テニスボーイ』『ホールドアップ☆キッズ』他)のところでお世話になりました。凄い忙しい頃に入ったので休みがなく、描くものも爆発するジャンボ旅客機とか、爆発する船とか…毎回何かの爆発を描いていました(笑)。まだネットがなくて資料が手に入りにくい時代なので、「この車描いて」と写真を渡されても、写っていない部分が分からなかったりして(笑)。

濱岡:ではアシスタント仕事以外で、浅田先生が心掛けられていた練習方法はありますか?

浅田:練習と言うか、日頃の観察だと思います。例えばバスに乗ったら、前の席の人の耳の形や顎のラインを良く見るとか。日頃から、何でもついつい観察してしまいますね。そして漫画って、「知っていて描く」のと「知らないで描く」のでは全然違うんです。知らないと写実的に描くだけですが、知っていると、そこから一歩進んで漫画的な表現も浮かぶようになります。あとは技術面としてパースをしっかり学ぶと、それを使って色んな面白い絵が描けるようになります。自分だと3点パースが気に入っているので、それを中心に練習しましたね。

濱岡:ところで浅田先生のベタは独特で、掠れて動きがありますよね。あれはどのように描いているのでしょうか?何度も真似しましたが、全然あの味が出なくて…。

浅田:そんなところまで注目してくれるなんて…ありがとうございます(笑)。でもあれは筆ペンでガーっと塗っているだけです。新品だとあまり掠れないので、使っている内に薄くなってきた筆ペンをベタ用にストックしているんです。ただ、塗っている内にはみ出すので、マスキングをしないと大変なことになりますが。時間がない時はアシスタントさんにお願いすることもありますが、凄く綺麗に真っ黒にしてきて…(笑)。もっと掠れさせて…とか言いにくくて。


《8》漫画を描くように生きている


濱岡:執筆のヒントとして、普段からインプットしているものはありますか?

浅田:特定の媒体やジャンルというよりは、自分の心に引っ掛かるものを大事に取っておくように意識しています。例えばTV番組を眺めていて、ぱっと一瞬でも面白いものがあったらそれをメモしたり。頭の中に、自分にとって面白いものをため込んでいる「自分の冷蔵庫」あって、そこに入っている食材を組み合わせて作っていく感じでしょうか?

濱岡:その冷蔵庫は、今だけではなく昔からの蓄積も含まれているのですね?

浅田:そうですね。時間がなくて新しい食材は何も仕入れていないけれど、冷蔵庫にある残りものでも面白くできそう、とか(笑)。美味しく作れるのであれば、食材は別に古くてもいいんです。

濱岡:では浅田先生の冷蔵庫にはどんなものが入っているのですか?

浅田:漠然としていますが、「自分の感情に訴えかけるもの」です。人でも物でもシチュエーションでも何でも、とにかく自分の心が動かされたものはストックしておきます。感動を分析するのではなく、「感動したこと自体」を覚える感じです。どういった行動やシチュエーションで自分が感動したか…それらを書き留めて残すんです。そのまま漫画に使えるわけではありませんが、やがて形を変え、冷蔵庫の食材の1つになるんです。

濱岡:漫画以外にも、浅田先生は小説の表紙やCDジャケットのイラストも描かれていますね。執筆で漫画と異なる部分はありますか?

浅田:気持ち的には漫画と一緒で、30ページの原稿で描いているものを、1枚の絵に込めているつもりです。たった1枚の絵でも、漫画のように想いやストーリーを込めたい。だから軽めの絵に見えても、僕自身の労力は漫画とほぼ一緒です。イラストのラフを考える時点から、漫画のストーリーみたいに色々なことを考えてしまうので。

濱岡:いよいよお時間も少なくなってきました。浅田先生にとって「漫画」とは何でしょう?

浅田:生活の一部でしょうか。多分漫画を描いていなくても、漫画家みたいに日々生きていると思うんですよ。常に自分の「こころ」に来るものを探したり、周囲の面白いものを観察したりとか。実は『I'll』から『テガミバチ』の間、2年間くらい連載をしていなかったのですが、休んだ記憶もほとんどないんですよね。原稿は描いていなくても、頭の中が連載中と同じように動いていたんです。何といったらいいのか分かりませんが、漫画を描くように生きているのだと思います(笑)。

濱岡:それでは最後に、漫画家を目指している新人にメッセージをお願いします。

浅田:「自分の中にあるものを、自分の言葉で描く」ことを大事にして欲しいです。逆に絵の方は、描いていれば勝手に上手くなります。自分は何を描きたいか、何を表現できた時に気持ちよく満足できるか…その感覚を大事にして欲しいです。そうすればきっと、読者にとっても「自分の手に残したい漫画」になってくれると思います。

濱岡:貴重なお話を頂き、ありがとうございました!


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■プロフィール


●ゲスト 浅田弘幸先生
月刊少年ジャンプにて『テガミバチ』を連載。ジャンプSQ.に連載を移し2015年12月号に連載終了。
テレビアニメやスマートフォンゲームのキャラクター原案も務める。
●取材&マンガ 濱岡幸真先生
手塚賞準入選『超人 馬場ババ子伝説』でSQ.19で掲載デビュー!


■リンク先


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