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ノウハウ
2020年10月29日

【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』和月伸宏先生×中田貴大先生


人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。 豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回は和月伸宏先生に対して中田貴大先生が取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。

《1》和月先生、デビューまでの道のり
《2》漫画家は、放っておいても描く!
《3》「閃く」ための執筆術!
《4》見開き四角がコマ割りの肝!
《5》キャラクターは自身の分身!
《6》褒められたくて…!?
《7》理論で構築した『るろうに剣心』
《8》目の前の担当を楽しませる!
《9》他メディア、他ジャンルへの興味
《10》漫画を楽しみ尽くす!


《1》和月先生、デビューまでの道のり


中田貴大先生(以下、中田):子供の頃から和月先生の大ファンです!今日は大変緊張しておりますが、宜しくお願いします!ではまず最初に、和月先生が漫画を描き始めた頃についてお聞かせ下さい。

和月伸宏先生(以下、和月):小学生の頃、3つ上の兄の影響で描くようになったのが最初です。大学ノートにコマを割ったものでしたが、友達が読んでくれることが嬉しくて。周囲にも上手い友達がいて、ライバル心で頑張っていましたね。そして周りは中学生になってやめていったけれど、自分だけずっと描き続けていました。

中田:その頃、特に影響を受けた漫画は何ですか?

和月:小学生時代は『ドラえもん』『パーマン』(ともに藤子・F・不二雄)で、中学では「週刊少年ジャンプ」(以下、「WJ」)を買うようになって『キャプテン翼』(高橋陽一)『キン肉マン』(ゆでたまご)『北斗の拳』(武論尊・原哲夫)『ドラゴンボール』(鳥山明)を、並行して「週刊少年サンデー」の『タッチ』(あだち充)『うる星やつら』(高橋留美子)などを読んでいました。そして中学3年生の時「高校生になったら漫画を描いて投稿しよう!」と決めて。で、高校1年生の夏に描いた投稿作が月例賞の佳作に入り、担当がついて道が開けた感じですね。ちなみに自分より少し前、小畑健師匠が手塚賞で準入選を取っていたんです。16歳で、しかも同じ新潟県!当時は勝手にライバル視していました(笑)。

中田:そこから漫画家への道を進み始めたのですね。

和月:最初、次原隆二先生のアシスタントをさせて頂くことになって。ちょうど連載が決まった小畑師匠とすれ違いで。その後も岡野剛先生や高橋陽一先生の仕事場でお世話になり、やがて小畑師匠が『魔神冒険譚ランプ・ランプ』を始められることを知り、直談判してアシスタントに入れて頂いたんですよ。もっとも、後々編集部から紹介がある予定だったそうですが…(笑)。

中田:小畑先生の仕事場はいかがでしたか?

和月:とにかく天才性を見せつけられっぱなしでした(笑)。あと仕事場には先輩のひのき一志先生もいて、自分の一歩先を行くライバル的存在も大きかったです。その頃、読切『戦国の三日月』(以下、『三日月』)でようやくデビューできました。

中田:アシスタント時代の和月先生は、どのように仕事をされていましたか?

和月:最初の頃は本当に…酷かったです。特に次原先生には迷惑をかけっぱなしで、頭が上がりません。自分は目の前に与えられた原稿を「一番いい形で仕上げよう」ということばかりに気を取られ、時間をかけ過ぎて先生の足を引っ張ることになって…。悩んで手を止めるくらいだったら先生に聞きにいけば良かったんです。仕事を「一定時間内に上げる」ということの重要性を知り、今でも反省しています。


《2》漫画家は、放っておいても描く!


中田:和月先生から見て、今の新人作家の印象はいかがですか?

和月:印象強いのは「今の新人は絵が上手い!」です。インターネットの恩恵で、今は上手い絵を手軽にたくさん見ることができる。若い頃なら尚更、上手い作品から吸収するものが大きい。自分の頃は漫画や雑誌を買ったり、アニメを見たりして吸収していましたが、現在に比べると時間もお金もかかっていたし…。それもあってか画力では、昔の自分では今の新人に太刀打ちできない(笑)。

中田:和月先生の頃は、漫画を上手くなるためにどのような練習をされましたか?

和月:やはり描くしかないです。気に入った絵をチラシの裏に模写したりとか、毎日毎日絵を描いていましたね。ただ、練習とかノルマとかいった意識はありませんでした。そもそも漫画家になる人って、放っておいても何か描いてしまうんですよ。『るろうに剣心』(以下、『剣心』)を連載していた頃ですが、仕事場からデビューした人たちは、仕事のちょっとした合間でも何か描いていました。TVを見たり喋っている暇があったら、手を動かしている。結果、そういう人が漫画家になっていくのでしょうね。

中田:和月先生の仕事場からは、尾田栄一郎先生、武井宏之先生、いとうみきお先生、鈴木信也先生、山田和重先生、故・しんがぎん先生といったWJ作家陣がデビューされていますよね。

和月:彼らの共通点は、その「放っておいても絵を描いている」という点。そしてもう一つは「自分の漫画が一番面白い」と譲らないところ!あからさまに主張はしませんが、言動に「俺が一番!」という気持ちが透けて見えて(笑)。だから滅多なことでは『剣心』を褒めてくれなかった。

中田:では和月先生はアシスタントの皆さんに、何か特別なことを教えたりされましたか?

和月:全然ないです。尾田先生たちはきっと、どこにいても成功していたはず。それだけ凄いメンバーだった!一つだけあるとするなら、質問されたことは何でも答えるようにしていたことでしょうか。自分は漫画家になれて毎日が楽しい!寝ることができない時もあるけれど(笑)、何より夢がある!そして「皆にもこの楽しさを味わって欲しい!」と思い、技術にしろ心構えにしろ、とにかく聞かれたら全部答えていた。そして皆も、結構質問をしてくれて。

中田:きっと和月先生の仕事場は、相談しやすい空気があったのでしょうね。

和月:あとは単純に、その時のメンバーだと思うんです。尾田先生も武井先生も皆「自分は漫画家になる!」と主張して、お互いライバル視していて。それが良かったのかも知れない。あるいは『剣心』の仕事が凄くきつかったので「早く連載を決めてここを出たい!」という気持ちがあったのかも(笑)。


《3》「閃く」ための執筆術!


中田:和月先生の毎月の執筆スケジュールを教えて下さい。

和月:まず原稿が上がった後は2~3日を完全オフにして、その後、担当と打ち合わせをして次の話のネームを始めます。1週間後、ネームができるできないに関わらず、スタッフに入ってもらって作画を始めます。大抵はネームは完成していないので、描ける部分から進めて、残りのネームは夜にやる感じです。作画期間は3週間くらいで…結局1ヵ月をほとんど使うことになってしまいますね。

中田:やはり作画終盤は睡眠時間を削られますか?

和月:終盤は少しずつ睡眠時間を削って作画に充てますが、身体が持たないので、徹夜するのは最後の1日だけ。週刊連載の頃は、ほぼ毎週最後の2日は寝ていない状況でしたが、それは若かったから!(笑)

中田:では、和月先生のネームの作り方を教えて下さい。

和月:まずは頭で考えます。それこそネーム期間は四六時中、頭の中でネームが動いています。そして描きたいことが漠然と見え始めたら、ノートに雑感という形で文章で書き出すんです。手を動かす内に各シーンが見え始めて、話を作る材料ができていきます。材料がある程度揃ったら、担当と黒碕先生と打ち合わせをします。

中田:プロットに入る前に打ち合わせをされるんですね。

和月:打ち合わせで「今こういうアイデアがあるけれど、ここに迷っている」とか話をする内に、今度は大体のプロットが見えてくるんです。そこから台詞の流れを脚本のように書き出し、プロットを作るんです。最近だとシーンごとに付箋に分け、順番を入れ替えて検証しながら描くことが多いですね。…で、脚本が固まりそうになると、いよいよコマ割りを始めます。

中田:和月先生は文章で考えられる時間が多いのですね。

和月:自分の場合、文章にした方が問題も見えやすいんですよ。そしてできるだけ手を動かし、人と話すようにしています。特に打ち合わせは相手に考えていることを説明する行為なので、自分の理解が深まって、アイデアが浮かぶことも多いんですよ。だから自分にとって打ち合わせは重要です。もちろん作家によっては、全く逆のタイプもありますが。

中田:一人で思い悩むより、まず動く方が良いのでしょうか。

和月:自分は「悩む」という行為は、面白さに直結しないと思っています。悩む時って大抵は気になったり、引っかかったりする箇所をうまく見せようと詰まる時ですよね。読者を惹きつける「面白さ」とはちょっと違う。だから悩むことに時間を費やすくらいだったら、面白さを「閃く」ことに費やしたい。あくまで自分の感覚ですが、閃きが漫画を面白くすると思っています。

中田:その「閃き」とはどこから生まれるものでしょうか?やはり映画を観たり、本を読んだりとか…?

和月:そういう時もありますが…実はある本で読んだのですが、アイデアを閃くには手順があるんです。まずは「こういったものを描きたい」という指針を決めること。次にそれを描くための材料を集めること。『剣心』でいえば幕末・明治の時代設定などの資料と、もう一つは「自分はこんなものが面白い!こんなものが好き!」という、作品に捕われない自分ならではの材料。

中田:作家の意図や趣向も材料なんですね。

和月:そして材料が集まったら、今度は練ってひたすら考える。考え抜いて考え抜いて……そしてここが重要で、充分に考えたら一旦寝かせるんです。その間に他のことをやったりしていると、ある時ふいに閃くんですよ!

中田:なるほど!熟考して一度離れることが大事なのですね。

和月:もちろん、その閃きが本当に面白いものか、改めて検証しないといけないのですが。よくありますよね。「面白い!」と盛り上がっていたものが、後で見ると「何だこれ…」となったり(笑)。

中田:確かに!(笑)

和月:自分としては、完全に新しいアイデアというものはほぼなく、材料の組み合わせで生まれるものと思っています。そして面白い組み合わせは、無意識の閃きで行われるもの。頑張っても自分ではコントロールできない。ただ、手順を踏めば閃きやすくなるので、自分で環境を作るようにしています。あと、追い詰められた時も脳がフル回転しているせいか、結構閃きますね(笑)。


《4》見開き四角がコマ割りの肝!


中田:僕はいつも、和月先生のコマ割りに驚いているんです。和月先生のコマ割りは大小が利いていて、大きな背景の上に枠線が被さってコマになっていたりとか、すごい引き込まれる作り方ですよね。

和月:確かにシンプルな少年漫画とはちょっと違いますが、その理由は、長身のキャラクターが多いから。人物に合わせてコマを縦長にすると、ページの印象が狭苦しくなってしまう。それを解消するために横長のコマを置いて、全体的に広がりを出そうとした結果です。

中田:そして広がりと一緒に、和月先生のコマ割りはすごく読みやすいですよね。

和月:これは冨樫義博先生の影響が強いです。冨樫先生の漫画は横長のコマが多いですが、このコマだと、台詞が多くても視線の動きが楽で読みやすいんです。逆に縦長のコマに台詞を縦長に置くと、視線が上下して忙しい。

中田:なるほど。ずっと和月先生のコマ割りの作り方が気になっていたんです。

和月:どの作家さんもそうだと思いますが、どうすれば自分の漫画をより良い形で読んでもらえるか、だと思います。自分の作風や内容が一番伝わりやすい形を追求して、それでコマ割りやフキダシの位置を決めているんです。フキダシだって、ちゃんと考えないと流れが分かりにくかったり、どのタイミングで誰が言ったものなのか伝わらなかったりしますよね。そうさせないための技術なんですよ。

中田:和月先生はこのコマ割りを、執筆のどのタイミングで固められますか?

和月:ほぼネームの段階です。絵を描く時はできるだけ悩みたくないので、ネーム段階で頭の中で構図を固め、貼るトーンまで決めています。もちろん技術とか実際の作画時間の配分で流動しますが、少なくとも理想の形でネームを切っています。

中田:その際、特に心掛けているものはありますか?

和月:漫画は面白いつまらない以前に、まず読んでもらわないと始まらない。だから「見やすさ」と「読者にどう伝わるか」はネーム段階でかなり意識しています。

中田:その場合、特にお勧めのコマ割り方法はありますか?

和月:若手作家にお勧めしたいのは、1ページに必ず1コマ「この絵を見せたい!」というものを入れることです。キャラの表情にしろ全体像にしろアクションシーンにしろ、まず見せたいコマを描き、他のスペースに残りを配分する感じでしょうか。

中田:それは見開きではなく、ページ単位で考えられるのですか?

和月:例えば左ページの最後のコマに引きを作り、めくったページの右上最初のコマでインパクトを与えることは、「めくり」と知られる技術ですよね。実は右ページ一番最後のコマと左ページの一番最初のコマにも、ページをまたがる視線移動があり、読者の意識が一瞬空くんです。ここもめくりと同じように、重要な引きができるんですよ。

中田:つまり見開きで言うと、右ページの最初の右上と最後の左下、そして左ページの右上と左下…。

和月:ええ、そこが自分の中では重要な四角です。さらに1ページ単位で考えると、常に右上と左下。そこを意識して見せたい絵を考えるといいのではないでしょうか。しかもこの方法だと、ネームが変わってページがずれても修正しやすい(笑)。


《5》キャラクターは自身の分身!


中田:和月先生のキャラクターの作り方を教えて下さい。

和月:まずは「こういう人物が描きたい」という核があります。性格、使命、信念といった内面があり、あまり外見は考えていません。それでネームに入れてみて、物語やエンターテインメントに落とし込めるか試します。そぐわないようであればボツにしますが、やはり描きたい気持ちが強いので、9割方は原稿になりますね。

中田:キャラクターの内面は、何を参考に考えられますか?

和月:漫画のキャラクターとは、結局は作者の分身なんですよ。例えば『剣心』の志々雄真実は、自分が考える悪漢の集大成です。ピカレスクの強い信念を持ち、周囲には凄腕が並び、美女をはべらせて…と。同じく武田観柳はお金に汚い人物ですが、言っていることは正しい面もあるし、それは自分の考えでもあります。あるいは自分の抱えているものを逆に捻ったり、「こんなヤツは嫌いだ!」という気持ちから生まれたり。作り出すというよりは、そのキャラクターに自分の分身を当てはめる感じです。そしてうまく当てはまったキャラは、読者の人気が高かったり、あるいは凄い嫌われる傾向がありますね。

中田:和月先生のキャラクターはそれぞれ信念を持っていて、それが台詞に表れていますよね。ああいった台詞はスッと出てくるものでしょうか?

和月:いえいえ、台詞は凄く頭を使います。そして「どのような台詞で伝えるか」と同じくらい「このキャラはどうすればこの台詞を口にしてくれるか」を考えます。無口なキャラがいきなり自分のことを語りだすとおかしいですよね。その場合は台詞以外で伝える方法、あるいはそんな人物でも口を開くような状況を作る…とか。その辺りは、『武装錬金』の頃に特に考えるようになりました。


《6》褒められたくて…!?


中田:読切を上手く描くコツを教えて下さい。

和月:主人公でも他のキャラでもいいから「最初から最後にかけて、誰かが必ず成長する」。やはり何かしらの変化を描かないと、物語の意味がないと感じるんです。『剣心』だと剣心自身はあまり変わらなくても、弥彦や周囲の人間が成長したりとか。あと、できれば女の子を登場させた方がいい(笑)。例え苦手だとしても!

中田:和月先生が漫画を描いて一番楽しいと思う時はどこですか?

和月:一番は考えた通りの、100%の理想型で原稿が描けた時。その次はそれを読者が面白いと言ってくれた時。褒められたくてやっているんです(笑)。自分は漫画に感動して漫画家になったので、自分と同じように読者に楽しんでもらって、できれば本棚の片隅に持っていて欲しい。子供の読者であれば、自分の漫画が少しでも成長の糧になってくれたら…。

中田:では逆に辛いと思う時は…。

和月:それと全く逆です(笑)。思った通りに描けなかったり、読者につまらないと言われたりすることです!


《7》理論で構築した『るろうに剣心』


中田:ところで『剣心』の持つ刀・逆刃刀は、先ほどあった「閃き」で生まれたものですか?

和月:いえ、あれは実はロジックで作ったものです。侍を描こうとして、でも人殺しにはしたくない。だったら竹刀?木刀?竹光?…どれもしっくりこなくて。「だったら最初から峰打ちになる刀にしよう」と出てきたものです。

中田:では『剣心』は、緋村剣心というキャラクターがあって生まれたものでしょうか?

和月:いえ、最初はキャラもいなくて、まずは舞台設定から。『剣心』を描く前の読切『三日月』が掲載された時、少年漫画で難しいとされていた歴史ものにも関わらずアンケートが良かったんですよ。で、担当に「もう1本、歴史ものを描いてみないか」と言われて。戦国時代は連載にするには大変だし、ちょんまげのキャラもカッコ悪い気がしたので、幕末・明治くらい?…と。そして、その時代で描きたい「殺さない剣客」というアイデアを詰め始めました。『三日月』の長身・黒髪の主人公と正反対に、小柄で髪も赤くして、そして女顔っぽいから十字傷をつけて…と、剣心はロジックで生まれたキャラクターなんです。

中田:僕らの世代はみんな『剣心』を読んでいるのですが、和もののキャラクターのカッコよさはそこで教わりました!

和月:そう言って頂けると嬉しい(笑)。自分の中でも、漫画・アニメ・ゲームに登場する武器は『ドラゴンクエスト』の影響で西洋剣が中心だったのが、『剣心』以降は日本刀がよく出るようになった気がしていて。もしこの傾向に自分が少しでも関係していたら…と思うと嬉しいんです。もちろんあの頃は「流行らせよう!」なんて考えはなく、ただ自分な好きなものを描いていただけですが。

中田:近年、映画とともに『剣心』が時を経て再開されましたが、その時はどのようなお気持ちでしたか?

和月:時間を置いてキャラクターを描くことは面白かったし、勉強になりました。あと、結論が出せないと思っていたテーマに回答が見えたり、分からなかったキャラクターの行く末とか、年を取ったからこそ見えるものもありました。連載当時は二十代の若造ですから、あの時は描けなかったものも多かった(笑)。もっとも、若造だからこそ描けるものもありましたが。


《8》目の前の担当を楽しませる!


中田:和月先生にとって連載中の打ち合わせは重要とのことですが、読切や新作の場合は打ち合わせをされますか?

和月:自分の中でまとまっていないものを見せることに抵抗があるので、回数自体は少ないです。ただ、見せる時はそれなりの形になっているので、打ち合わせからの大直しはほとんどありません。全ボツはあったけれど(笑)。形になったものを2、3回打ち合わせをして…で、それ以上かかるものはボツにしていました。打ち合わせの時間も短く、30分くらいです。たまに表現が少年誌の規制に引っ掛かり、長引くこともありましたが…(笑)。

中田:そういった、表現規制に引っ掛かる場合はどうされましたか?

和月:規制自体は大してこだわる部分ではありません。その表現は本当に、漫画家人生を賭けてまで描きたいことなのか?…と。作品の主軸でなければ、他に面白い方法を考える方が建設的だし、時間も有効に使えると思うんです。『剣心』で1回だけ、シリーズの主軸に関わるので担当を説得したことがあるくらいです。こだわりはあくまで対象が大事で、「こだわること」にこだわっても意味がない。

中田:では規制とは別に、自分が描きたいと思ったネームが担当にボツにされた場合、どうされますか?

和月:ボツの理由をちゃんと聞いて、意見として受け入れます。それを踏まえた上で通るものを考えるか、別の面白いものを目指しますね。担当がダメを出すレベルのものは、そもそも読者に通用しません。そして担当の言いなりになったものも通用しない(笑)。過去に担当に言われたことがあります。「ネームを直す時、言われた通りに描いて漫画家になれた新人はいなかった。そこにさらに一手加えるか、全く別の面白いものを描いた人だけが漫画家になっていた」と。

中田:なるほど。意見があったら、常にそれを上回るものを考えるべきなんですね。

和月:作家はまず、目の前にいる担当を面白がらせないと!しかもその人は、多分自分のことをしっかり理解してくれている。そんな人にすら通用しないなら、もっと離れた場所の読者を楽しませるなんて無理です。


《9》他メディア、他ジャンルへの興味


中田:和月先生が今、特に興味を持たれているものはありますか?

和月:気になっているという意味ではライトノベルです。今後どのように進化するのか、他人事ながら注目しています。そもそも会話文や文字描写だけで、あそこまでキャラクターを立てられるのは凄い才能だと思うんですよ。ただその反面、萌えに寄り過ぎて恐竜的な進化している印象もあって。本屋で表紙を見るたびに「ここまで女の子にしないといけないのか…」と。あくまで個人的な感想ですが、これだけ可能性があるのに女の子一辺倒はもったいない!

中田:和月先生は、他の作家の作品はチェックされていますか?

和月:ここ2、3年は話題になった作品は観るようにしています。ただ、仕事を忘れて楽しめるのは年に2、3作品あればいい方です。どうしても観ながら「自分だったらこうしたい!」と考え始めてしまって…。面白い上に、自分の波長とも合っていないと引き込まれないんですよ。

中田:では中学・高校の頃から、今まで変わらず好きなものはありますか?

和月:『ブラックジャック』(手塚治虫)『ドラえもん』『パーマン』(藤子・F・不二雄)『まんが道』(藤子不二雄A)は今でも読み返します。あとは『デビルマン』(永井豪)や『ゲッターロボ』(石川賢)も。特に石川先生は狂気がカラっとしていて気持ちいい。自分には描けないから憧れます。

中田:『剣心』はアニメ化や映画化などの展開がありましたが、ご自身の周りで変化はありましたか?

和月:自分は漫画畑の人間だから漫画が一番好きで、そのため過大評価しがちなのですが、アニメや映画で世界の広さを感じました。例えば漫画家になった時は近所の人たちが騒いでくれましたが、アニメになるとそれが町中の反響になり、映画になったら市から公演依頼が来て…。映像メディアの影響力にびっくりしました。

中田:ちなみに和月先生が、メディアの中で漫画が一番好きな理由は何ですか?

和月:単純に、子供の頃から慣れ親しんできたからです。自分の頃はまだゲームも少なく、アニメもビデオデッキが高かった。漫画が一番手に届きやすかったんです。何度も何度も楽しめるし、自分も真似して描いたりもできる。もし時代や環境が違ったら、ゲームやアニメが一番だったのかも知れませんね。


《10》漫画を楽しみ尽くす!


中田:体調管理については気にされていますか?

和月:人に自慢できるような身体はありませんが(笑)、体調が悪いと、一緒に気持ちも死んでしまうのがまずいですよね。面白い漫画は心が健康でないと描けない。だから特に、メンタルの管理を気にしています。気持ちが沈みそうだったら好きな漫画を読み返したり、お笑いの映像や好きな映画を観たりと、いつでも自分の気持ちを上げるようにしています。あとは…徹夜しても仕方ない(笑)。頭も正常に働かないし、体にも悪い。それと漫画家は必ず腰やお尻を痛めるので、椅子や座布団にも気を配りましょう(笑)。

中田:和月先生はインターネットでファンの声をご覧になりますか?

和月:ネットは広いので、敢えて自分の評判を調べたりはしません。基本は執筆のための調べものや、話題作を知るために使うくらいです。そこでたまに自分の作品について書かれていると、ついつい見てしまいますが…(笑)。

中田:新人作家はネットの評判を見た方がいいと思われますか?

和月:「自分は心を鍛えるんだ!これも修行だ!!」という強い意思があるなら(笑)。そこまでの決意があるなら、どんな意見も糧にできるはず。誰かに褒められたいだけなら、やめた方がいいと思います。

中田:僕は読者の書き込みを見てしまったりすると、結構心に来るものがあって…(笑)。

和月:そこは気にし過ぎても仕方ないです。特に一言二言のレビューとかは。…ただ、長文でたくさん書かれている場合は別です。その読者は、それだけの労力をかけて作品を語ってくれるわけですから。例え悪く書かれていても、その意見から得るものはあると思います。

中田:いよいよお時間もなくなってきましたが…新人作家へアドバイスをお願いします。

和月:まずは自分が楽しんで描いて下さい。そして読者が楽しめるように描いて下さい。どちらかだけだと漫画は面白くならない。いずれにせよ、漫画は楽しむことに尽きるかと思います。あとはくれぐれも体を大事に。

中田:新人作家は不安定な立場ですが、頑張り通す秘訣はありますか?

和月:新人の場合は、まず金銭面で不安があるかも知れません。そういう場合はアシスタントをお勧めします!人付き合いが大変かも知れませんが、お金以外にも技術や心構えや同志など、得るものはたくさんあります。次に将来の展望の不安もありますが……それは正直なところ、考えたって仕方ない。自分もどこまで漫画家でいられるのか、不安は常に付きまとっています。でも、「漫画家」という肩書でなくても、漫画を描いて楽しむことはできます。特に今はデジタルで一人で描くこともできるし、同人誌やネットという発表の場もある。昔に比べ、環境はずっと整っているんです。自分も商業漫画家として通用しなくなる時が来たとしても、何らかの形で描き続けていると思っています。

中田:それでは最後に、和月先生にとって「漫画」とは何でしょうか?

和月:「今生で楽しみ尽くすもの」。この一生は漫画の酸いも甘いも味わって、とにかく満喫したい。そして来世では絶対、漫画を描こうだなんて思いません!!(笑)

中田:憧れの先生のお話を伺えて、今日は夢のようです!本当にありがとうございました!!


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■プロフィール


●ゲスト 和月伸宏先生
週刊少年ジャンプにて『るろうに剣心』『GUN BLAZE WEST』『武装錬金』を連載。ジャンプSQ.では『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』『るろうに剣心-キネマ版-』『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚・北海道編-』を連載。
●取材&マンガ 中田貴大先生
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