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ノウハウ
2020年9月29日

【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』矢吹健太朗先生×御木本かなみ先生


人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。 豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回は矢吹健太朗先生に対して御木本かなみ先生が取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。

《1》キャラクターの鍵はコンセプトと脚本!
《2》キャラを被らせないデザイン術!
《3》話作りのポイントは「骨格」!
《4》コマ割りは見開き単位でインパクト重視!
《5》表情&プロポーションのコツ!
《6》「柔らかさ」こそ矢吹絵のこだわり!
《7》誌面修正で読者との一体感!
《8》仕上げのホワイトが矢吹絵の要!
《9》気付いたら締切が存在していた…!
《10》矢吹流モチベーションの上げ方!
《11》新人作家へアドバイス!


《1》キャラクターの鍵はコンセプトと脚本!


御木本かなみ先生(以下、御木本):初めまして。今日は宜しくお願いします!まず最初に『To LOVEる-とらぶる-』(以下、『とらぶる』)のキャラクターはどのように作られているのでしょうか?

矢吹健太朗先生(以下、矢吹):キャラを作る場合、最初にコンセプトというか、キーワードを考えます。ネメシスだったら「ドS」というイメージがあって、そこに肉付けしていく感じです。その後、長谷見(沙貴)さんと打ち合わせをして脚本を作ってもらい、アイデアを加えたり調整したりして、少しずつ性格や行動が見えてくる感じです。新キャラの場合は特に、作画中も脚本修正が続きますね。

御木本:ビジュアル以上に台詞を重視されているのですね。

矢吹:絵もそうですが、台詞は印刷所に入れるギリギリまで手を加えます。自分の中では、キャラを象徴する決め台詞が出てきたら完成だと思っています。

御木本:ではビジュアルはどの段階で決められますか?

矢吹:実はコンセプトの段階では、ビジュアルは本当にふわっとしています。ネメシスだとせいぜい「ドSだからツリ目」くらい(笑)。こちらもネーム、下描き、ペン入れ…と、原稿の過程で少しずつ決まっていくんです。

御木本:脚本やネームができたらお終い…というわけではないんですね。

矢吹:ええ。キャラクターは練り続けることが大事だと思っています。自分にとっては台詞が特に重要で、「その人物がどういう発言をするか」がキャラを作っていくんです。

御木本:例えばヤミの「えっちぃのは嫌いです」という台詞とか…。

矢吹:ヤミはあの台詞がカチッとはまって、自分の中にキャラが確立されたんです。本当に原稿の最終段階で浮かんできた台詞で…。キャラの絵が見えてきたからこそ出てくるものも多いんですよ。

御木本:矢吹先生はキャラの設定画やラフイメージは作られますか?

矢吹:よくアニメにあるような設定資料は基本的に作りません…というか、作る時間がない(笑)。『とらぶる』だと「週刊少年ジャンプ」の連載前にリト、ララ、春菜のデザイン案を作ったくらいでしょうか?

御木本:では、他のキャラクターたちは…?

矢吹:その時その時で考えます。ララや春菜が持っていない要素からコンセプトを探したりして。その際、読者が最初に抱くであろう印象も意識していますね。読者が友達と会話する時「今度出てきたキャラはこういうキャラ」と、タイプや属性を一言で説明できるように。

御木本:やはりキャラは分かりやすく見せることが重要なのですね。

矢吹:主役級は自分で動かす存在なので、純粋に描きたいキャラとしての面もあります。周囲に追加されるキャラは、話を運んだり盛り上げたりして、その主役たちを立てる役割で考えていくんです。ルンだったらララのライバルポジションとして出して、ルンと一緒にララの新たな魅力も見えるように…とか。

御木本:キャラを生み出す際、特に気を付けている点はどこですか?

矢吹:色々ありますが、台詞回しやさりげない仕草など、そのキャラらしい存在感が大事だと思っています。読者に「このキャラはこんなことしない!」と言われてはいけない。一人の人物として筋が通っていることが、読者に伝わりやすい良いキャラだと思います。


《2》キャラを被らせないデザイン術!


御木本:『とらぶる』のキャラはあれだけ大勢いるのに、性格も個性的で被りが少ないですよね。被らせないコツはありますか?

矢吹:やはり既存キャラの逆算で作っているからだと思います。「ララや春菜と被らない」という前提で考えて、お堅くて強気な古手川が生まれたりとか。それ以降も、「既存のキャラにいないコンセプト」を基準に考えるようにしています。

御木本:ビジュアルの差別化はいかがでしょうか?

矢吹:実はかなり難しいです!全員が美少女で同年代という設定なので、描き分けにも限度があって(笑)。やはりシルエットでの差別化が重要ですね。まず全身をイメージして「輪郭だけで誰か分かるライン」を考えるんです。それさえ確立できれば大丈夫!…あとは白黒のバランスで印象を変えたりとか。例えば主人公のリトは髪にトーンを使い、どこにいても目立つようにしているんですよ。他には、一緒にいることが多いキャラは、意図的に対照的なビジュアルにしたり…とか。

御木本:例えばララと春菜とか…。

矢吹:そうそう!「この二人は絡みが多いから、髪形も色も正反対にしよう」と。

御木本:『とらぶる』は衣装のバリエーションも豊富ですよね。デザインで参考にされているものはありますか?

矢吹:ファッション誌を買ったり、ネットで検索して調べています。全体的に子供の服を参考にすることが多いですね。子供服って大人のものよりデザインが分かりやすくデフォルメされていて、漫画でアレンジする分には使いやすいので。あとは女性スタッフの意見も聞いています。

御木本:ララのドレスフォームやネメシスの和風ゴスのような、作品オリジナルの衣装はどのように考えられていますか?

矢吹:オリジナル衣装は逆に何も見ません。最初に考えたキャラのシルエットに合わせて、形が成立するようにパーツを考えて当てはめる感じでしょうか。ララだったら頭の上に丸い帽子をつけたり、羽根や尻尾をつけたりして、全体像から徐々に細部にピントを合わせて掘り下げるんです。

御木本:確かにララの衣装や尻尾って、輪郭から独特ですよね。

矢吹:実はララの尻尾って、あのシルエットにしたいがためにつけたものなんですよ。シルエットができてから「尻尾があるのは宇宙人だから」と設定を後付けしたんです(笑)。


《3》話作りのポイントは「骨格」!


御木本:連載での、ストーリー作りのポイントを教えて下さい。

矢吹:『とらぶる』は基本コメディなのであまり偉そうな事は言えませんが(笑)。とはいえ、ややこしくないシンプルなお話を作るのもそれなりの苦労があり、長年やっているうちに身についた、自分なりの作り方のバランス感覚のようなものはあります。 まず、コメディにせよシリアスにせよ「このシーンを描きたい!」というポイントは必須だと思います。『とらぶる』も毎回、「見せたいもの」を最初に決めています。これもキャラデザと同様、コンセプトが伝わりやすいことが大事でしょうね。読者が友達に「今回はこんな話だった」と、一言で説明できるように。

御木本:『とらぶる』はあれだけ登場人物がいるのに、すごい読みやすく話が進みますよね。私は自分の漫画だと、扱いきれなくてキャラを増やせないんですよ。

矢吹:分かります!自分もすごい苦労しています(笑)。キャラが多いと話の焦点がぼやけるけれど、ヒロインそれぞれにファンがいるので、できれば毎回全員出してあげたい。…とはいえさすがに限度があるので、せめて妄想シーンの一コマにねじ込んでみたり、さりげない演出で存在を匂わせたりして。例えば背景にルンのポスターを貼ったり、どこかで「ハレンチ」という単語を使って古手川を連想させたり…そんな残り香のようなものだけでも(笑)。

御木本:登場人物が多いと、みんな好き勝手に動いて話が全然進まないのですが、矢吹先生はどう対処されているのですか?

矢吹:その回が「誰が中心の話か」という意識を常に持つことですね。芯のキャラを決めて、絡むことができるキャラを配置していくと、大人数になっても話をうまく運ぶことができるんです。逆に、そこで関係ないことを喋り出すキャラは泣く泣くカットするとか(笑)。ストーリーは芯となる「骨格」を意識することが重要です。よく長谷見さんとも話すんですよ。「このままだと何の話か分からないから骨格を入れましょう」と。

御木本:骨格の意識は各話に限らず、物語全体でも言えそうですね。

矢吹:『ダークネス』でモモを主役の一人に据えたのは、モモが物語の骨格を作ることができるキャラだから。連載を始める前、色々な方に相談したのですが、多くがヤミを主人公に推していました。でも実際に話を作ろうとすると、ヤミ一人だと他キャラとの接点が少なく、方向性が限定されるんです。逆にモモは色んなキャラに絡み、広がりを出すことができる。だからモモとヤミのダブル主人公にしたんです。


《4》コマ割りは見開き単位でインパクト重視!


御木本:矢吹先生はネームはどのように作られていますか?

矢吹:基本的にはデビュー当時と同じ方法で作っています。まず起承転結が分かる単純な文章のプロットを作り、その後に台詞を脚本で書き出して流れを作るんです。『とらぶる』ではこの脚本段階を長谷見さんに担ってもらっています。 一度自分が考えた話の流れを人に文章化してもらうことで、客観的に問題点を見ることができるんです。元々漫画を描くのは好きだけど、ストーリーに苦手意識があった僕が長谷見さんを巻き込んだ狙いはそこですね。長年この作り方をしたおかげでだいぶ客観的な視点が鍛えられて、「前半のここで後半につながる伏線描写が欲しい」とか、「この描写は『とらぶる』らしくない」とか、感覚的に分かるようになりました。この感覚は『迷い猫オーバーラン!』(原作・松智洋)で、原作を漫画に置き換える時にも役立ちましたね。そして脚本を打ち合わせで何度も揉んで、それを元にネームを始めます。台詞や流れもコマ割りの段階でさらに調整。そしてでき上がったネームを2、3回描き直すんです。

御木本:それは同じネームを何度も描き直すということですか?

矢吹:描き直すことで不要なコマが纏められたり、流れが分かりやすくなったりと洗練されていくんですよ。コマを削った分は、そのスペースを女の子の大ゴマに回せますしね。『とらぶる』のストーリーで大事なのは分かりやすさと読みやすさだと思っています。最近はネームの時間が取れないことも多いですが、作画の段階で同じ修正をしています。

御木本:そう言えば『とらぶる』は全体的にコマ数や台詞量が控えめで、絵に集中できるバランスですよね。ネームの時点から意識されているのですか?

矢吹:いえ、逆にネームは情報量重視で、必要そうな台詞やコマはとにかく全部詰め込んでいますね。そこから本当に必要なものだけを残し、純度を高めていくんです。

御木本:『とらぶる』のコマ割りは女の子の全身が飛び出していたり、かなり大胆な形になっていますよね。あれはどのように考えるのですか?

矢吹:自分の場合、コマ割りは見開き単位で考えています。まず見開きに、必ず1枚はインパクトのある絵を入れるように心掛けています。それこそお色気シーンを入れたり、キメのキャラのぶち抜きを入れたりして。大きい絵が決まったら、残ったスペースに前後のコマを割っていく感じです。『とらぶる』はあくまでキャラ漫画なので、なるべくキャラを大きく描きたいので。

御木本:コマ割りで特に参考にされた作品はありますか?

矢吹:参考という訳ではありませんが、和月伸宏先生の『るろうに剣心』はかなり影響されました。意識して読むと、本当にセンスが飛び抜けているんです。変形ゴマのインパクトとか、絵がはみ出すタイミングとか、それを引き立てる小さいコマ配置とか…。新人の頃はシンプルで読みやすいコマ割りを意識していましたが、インパクトを出そうと試行錯誤する内に今の形になっていきました。

御木本:ちなみにネームの時点では、絵の構図は頭の中にあるのですか?

矢吹:一応あります。ただ先ほども言った通り、ネームは情報を優先させているので、コマのサイズも構図もあくまで仮のもの。結局、原稿の段階でほとんど別物になってしまいます。その上なぜか、脚本まで変わっています(笑)。

御木本:矢吹先生の場合、脚本やネームが終わっても常に練り続けるのですね。

矢吹:ペン入れ段階でも他にいい構図がないか考えるし、台詞も良いものが浮かんだらどんどん変更しますね。特に台詞やコマ数は、もっとシンプルに見せられないか常に意識しています。『とらぶる』の場合、1ページにつき5コマくらいがベストだと思うんですよ。コマが多いと絵が小さくなるし。

御木本:見開きの情報量をある程度決めているのですね。

矢吹:あとはページをめくった時、必ずどこかに目に飛び込んでくる絵があることが重要です。ページをめくった時に何かが起こる、しかもそれが毎ページ…これが漫画を気持ちよく読むリズムを作ると思うんです。

御木本:なるほど!だからこそ見開きでのコマ割りにこだわりがあるんですね。

矢吹:あとは…コマ割りというか内容になりますが、普通の会話シーンでも何とか見せ場にしようという努力。普通の会話シーンでも無理矢理エロい角度にしたりして(笑)。むしろ難しい説明場面ほど、絵で退屈させないように頑張らねば!

御木本:それは…例えば第1話で楽園計画を説明していた、モモとリトのお風呂シーンとか!?(笑)

矢吹:そうそう(笑)。どうしても長い説明が必要だったので「それならエロで盛り上げよう!…となると風呂場で会話!裸で!!」…と。最近の「ダークネス編」では、ダークネスの衣装そのものをエロくしてみたりして。これならどんなに真面目な場面でも、自然にお尻を描くことができる。それで読者に「絵のせいで台詞が頭に入ってこない!」と言われたら、それはそれで大成功ということで(笑)。


《5》表情&プロポーションのコツ!


御木本:女の子の表情を可愛く描くコツを教えて下さい。

矢吹:まずは、その時その時のキャラの感情を表現することでしょうか。特に『とらぶる』のキャラはコロコロ表情が変わった方が生き生きして、それが可愛さにつながる気がするので。

御木本:確かにモモたちは怒ったり不機嫌でいても、表情の動きが可愛いですよね。

矢吹:怒りの表情にも必ず可愛く見えるポイントがあるので、ひたすら粘って探すのみです。逆に可愛さばかり意識すると、シーンにそぐわない絵になってしまう。時にはギャグの崩し顔に振ってみるのもありかも。崩し顔まで行かなくても、ちょっと顎を丸くするとかコメディに寄せると、怒った表情もぐっと柔らかくなります。

御木本:やっぱり表情は、実際に原稿に描かないと決まらないのでしょうか?

矢吹:自分の場合は下描きで段々と見えてくる感じですね。ただ、下描きそのままには描かず、前後のコマを見返して強弱も意識します。前のコマがシリアスだったら敢えて崩したりして。全体的に、真面目なシーンの前後にギャグ顔を入れて緩急つける傾向がありますね。

御木本:次に身体の描写の質問です。漫画のキャラはアバラや腰骨など細かいパーツが省略されたり、逆に胸が強調されたりしますよね。絵にする際のパーツの取捨選択はどうされていますか?

矢吹:まず下描きの段階では細かいパーツもできるだけ入れて、人体に近いものとして描きます。そこから「エロく見せるために」必要な線、不要な線を決めて原稿にしていくんです。すると作画で線を省略することになっても、パーツの存在感は自分の中に残るので、絵としてリアルな加減が保てるんですよ。

御木本:それは最初に大量に情報を入れ、削ってシェイプしていくネーム作成と同じ考えですね?

矢吹:そうです。ただし時間が限られているので、あくまでお色気シーンとか、見せ場となる重要なシーン限定ですが(笑)。逆に小さいコマだと、ほとんど下描きもないまま描くことが多いです。


《6》「柔らかさ」こそ矢吹絵のこだわり!


御木本:矢吹先生はあの素晴らしい女の子の身体を、どのように修得されたのですか?

矢吹:自分は元々女の子の絵が苦手で、それを克服するために『とらぶる』を始めた側面もあって…。最初は上手い作家さんの絵とか、実写のグラビアとか、出来のいいフィギュアとか、色々なものを見てひたすら練習しました。中でもアニメは特に参考になりましたね。動きがありつつ、2次元で漫画とも親和性が高いので。そして描いていく内に自分の中に理想のラインができてきて、今では自分の中の材料で描き続けている感じです。

御木本:矢吹先生の理想のラインとはどのようなものですか?

矢吹:リアルとか整合性よりも、まず「よりエロく見えるライン」を重視しています。特に柔らかさが伝わる手触り感が重要!単にふわふわ描くのではなく、骨格も意識します。柔らかい中に鎖骨とか肘とか硬い物が感じられると、より肉感が強調されるんですよ。あとはヤミの脚に食い込んでいるベルトとか、身に着けるアイテムも工夫しています。あのベルトがあると、太もものむっちり感がいつでも表現できるので。

御木本:やっぱりあの柔らかさはこだわりの賜物ですね!

矢吹:自分の元々の絵柄はシャープな路線でした。『とらぶる』を始める頃に石恵先生の絵を見て「自分もこんな表現ができるようになりたい!」と思い、柔らかさを相当意識するようになりました。ちなみに石恵先生はガイドブック『とらぶまにあ』でコラボさせて頂きましたが、やっぱり上手かった!むしろ自分でも女の子を描くようになってから、ますますその上手さが分かるようになりました(笑)。

御木本:漫画のキメでもあるお色気シーンですが、より魅力的にするコツはありますか?

矢吹:その絵で一番描きたい部分が、どのアングルだとインパクトが強いか考え、そこに向けてパースを強くすることかなぁ…?例えばお尻を見せたいなら、下から見上げるような構図にしたり。さらにはそういった決めゴマを、ページをめくった最初に置くとかですね。

御木本:お色気シーンのアイデアは、常にストックを溜めているのでしょうか?

矢吹:いえいえ!ほとんどが原稿の最中に絞り出す感じです。引き出しがあったとしても、大抵のものはやり尽くしてしまっているので(笑)。もちろん『とらぶる』初期の頃は「今回はこんなお色気を描こう!」と決めていましたが、さすがにもう無理。ただ「お尻を見せる!」「ナース服!」「電車の中!」みたいにポイントだけは決めるようにしています。

御木本:お色気シーンでの股間の隠し方とか、かなり独創的なものがありますよね。あれはどのタイミングで考えられるのでしょうか?

矢吹:これもほとんどが原稿の最中です(笑)。コマに絵が入って前後を見返している内に、「あ、これを配置すれば…」とか、周囲の使えそうなものに気づくんです。つまり絵が入っていないと浮かばないので、結局ギリギリまで粘ることになります。


《7》誌面修正で読者との一体感!


御木本:矢吹先生は「ジャンプフェスタ」のステージにも出られることが多いですが、実際の読者を前にしていかがでしたか?

矢吹:まず「本当に読んでくれる人たちがいるんだ」という気持ちがあります(笑)。ずっと仕事場に籠っていると、漫画の先に読者がいることが実感しづらいんですよ。だから本屋で単行本が売られていると「ああ、ちゃんと世に出ているんだ」と安心します。そして同時に「やばい!あんなものを描いてしまった!!」と焦ったりもします(笑)。

御木本:原稿から離れると冷静になってしまう感じですか?

矢吹:そうです!執筆中は自分の世界に入り込むので、どんどん昂ぶって描写も過激になっていってしまう(笑)。もちろん守りに入らないように、敢えて冷静にならないよう努めているのですが…。だから描き過ぎて編集部にお色気シーンを修正された時も、本当なら次の回から遠慮すべきですが、反省せずアクセルを踏み続ける方向で!(笑)

御木本:『とらぶる』は単行本での修正もされていますよね。最近の12巻だと、番外編のお風呂シーンで、美柑の顔に「ぺちっ」と何かが当たる文字が描き加えられたりして。

矢吹:あれは正確に言うと「SQ.19」掲載時に消されたものを復活させたんです(笑)。ちなみに修正が入る時は何かの圧力があったみたいに、わざと雑に消しています。「ここに消した痕跡があるけど…みんな察して!」と。そして『とらぶる』読者はちゃんと気づいて盛り上がってくれる。この一体感は嬉しいですね。


《8》仕上げのホワイトが矢吹絵の要!


御木本:矢吹先生の執筆全体のスケジュールを教えて下さい。

矢吹:最初に話を考えて、長谷見さんと打ち合わせをして脚本を発注。そして上がった脚本を元に再度打ち合わせをして調整して…大体いつも5稿くらいで決定稿となります。そこからネームに1~3日かけますが、最近は余裕がないので、他人には文字すら判読できないネームになりつつあります(笑)。そこから原稿作業が14日間くらいでしょうか。

御木本:矢吹先生は、執筆のどの作業に一番比重を置かれていますか?

矢吹:気持ち的な部分も大きいですが、特に仕上げのホワイト作業が重要で、やっていて楽しいです。自分にとってホワイトは修正ではなく絵を作る作業で、髪の毛に艶を出したり目の光を飛ばしたり、やればやるほど完成度が高まるので好きですね。

御木本:逆に一番苦手な作業はありますか?

矢吹:工程というよりは特定の絵ですね。立ち位置を説明する集合シーンが、テンションが上がりにくくて苦手かも。例えば大勢で食卓を囲む絵とか、どこかに勢揃いしている大ゴマとか…。読者にキャラの立ち位置を説明する重要な絵なんですけどね。


《9》気付いたら締切が存在していた…!


御木本:矢吹先生が漫画家になられるまでのいきさつを教えて下さい。

矢吹:子供の頃から絵をずっと描いていて、高校で進路を考える頃「自分が描いてきたものがどれほどのものか確かめたい」と、初めて道具を揃えて投稿作品を描いてみたんです。すると秋本治先生に審査員特別賞を頂けて…。それがなかったら別の進路に進んでいたと思います。

御木本:「漫画家になる!」と決意されたタイミングはありますか?

矢吹:最初がそんな感じなので、結構なし崩し的に今に至っているのかも(笑)。投稿したら編集部から電話がかかってきて、「次はネームを描いて」と言われて描いたら、いつの間にか原稿の締切が迫ってテンパっていて…。結局、腰を据えて作品を描けるようになったのは『BLACK CAT』が終わってからでした。

御木本:本当に、あっという間に漫画家になっていたんですね!

矢吹:なっていたというか、気付いたら締切が存在していたという(笑)。高校の年末のテストの時にすら読切の締切があったくらいで…。

御木本:まさに『バクマン。』(大場つぐみ・小畑健)みたいですね!

矢吹:以前、小畑先生は対談で、自分のことを「新妻エイジみたいに見えていた」と光栄なことを仰って下さいましたが…実際はただテンパっていただけで(笑)。エイジみたいな天才で、あれだけ描きまくれたら良かったのに…!

御木本:ところで矢吹先生は新人の頃、どのような修行をされましたか?

矢吹:デビューの1年後くらいには連載を獲得できたので、実はアシスタント経験がほとんどないんです。少しだけ小畑先生の仕事場でお世話になったくらいで。それは非常に運が良かったのですが、逆に漫画作業全般の経験が乏しく、後々苦労することになってしまって…。

御木本:では連載を始められて直面した、一番の苦労は何ですか?

矢吹:やはり「毎週、締切が来る」という恐ろしさです(笑)。そして原稿を上げることに精いっぱいで、読者を意識する余裕が全然なくて…。自分には漫画しかないと思い込んで、一人で追い詰められていましたね。今でこそ言えますが、適度に遊んで息抜きをした方がはかどったのかも。キツい時ほどリラックスするべきですね。

御木本:その境地に達したのはいつ頃ですか?

矢吹:それこそ『とらぶる』を始めた頃です。自分が楽しいものを漫画に入れようと意識し始めたのもそこから。『BLACK CAT』の頃、女の子を描くことが楽しかったので、それがずっと残っていたんです。


《10》矢吹流モチベーションの上げ方!


御木本:矢吹先生のモチベーションの上げ方を教えて下さい。

矢吹:絵が上手い人の作品を見ることです。自分は負けず嫌いな性格で、上手い絵を見るとライバル心を刺激されて燃えるんですよ。あとは小さいことでいいから、修羅場のたびに自分にご褒美をあげること。それこそ「美味しい物を食べる」「1日だけ遊びに行く」くらいでいいので。そうすると「ちゃんと遊んだから、次の原稿もしっかりやらないと!」というテンションになれます。

御木本:他の作品を観たりとか、いわゆるインプット作業はされていますか?

矢吹:昔から日常的にしていて『とらぶる』からは特に意識しています。映画を観たら「台詞回しに無駄がないなぁ」と脚本をチェックしたり、アニメですごい動きがあったらスローで分析したり、作り手の目線で考えるようにしています。だから面白い作品も仕事意識が働いてしまって、純粋に楽しめない(笑)。

御木本:新しい連載漫画やアニメは逐一チェックされていますか?

矢吹:時間がないので全てを追いきれませんが、何が流行っているのかは常に気を付けています。内容もそうですが絵柄とかも。特に女の子の絵って、流行り廃りが激しいですし。『とらぶる』も鼻を小さくしたり目を大きくしたり、流行りを意識して少しずつ絵柄を変えているんです。

御木本:矢吹先生にとって、漫画家を目指すきっかけになった作品はありますか?

矢吹:強いて挙げるなら、アニメですが『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)かなぁ…。自分にとって、作り手を強く意識した最初の作品でした。全編から作家性が出ていて、深読みや妄想ですごい熱中させられて…。それまで漫画やアニメは受け取って楽しむものでした。でも『エヴァ』から、作品とは作り手が人を楽しませるために生み出したものだと実感し、自分も作る側になりたいと思うようになったんです。

御木本:ところで矢吹先生は、漫画を描くことに飽きたり、行き詰まることはありますか?

矢吹:実はないんですよ。休みの日でもつい絵を描いたり、新キャラを考えたりしてしまうんです。基本的に描くことが趣味でもあるんですよね。

御木本:では漫画を描くことに対して「仕事」という意識はどれくらいありますか?

矢吹:やはり趣味だと思っています(笑)。もちろん仕事として苦労する面はいっぱいありますが、漫画の中でキャラを動かしてストレス発散もしているので。ありがたいことに天職なのかも知れません。


《11》新人作家へアドバイス!


御木本:それでは新人作家に向けて、漫画家としての心得を教えて下さい。

矢吹:最近実感しているのは、外に出て何でも経験した方がいいということです。僕は学生時代から漫画ばかり描いてきたので、知らないことが結構あって…。『BLACK CAT』の連載時は、外国が舞台なのに雰囲気を知らないからすごい手間取っていましたね。

御木本:実際に人生経験を積むことが大事なんですね。

矢吹:昔はその重要性に気づきませんでしたが、今から考えると、実体験は一つの武器です。もちろん体験ばかりを重視して、何でもリアルにしなければいけないということでもありませんが。あまりルールを知らない方が、スポーツ漫画を大胆に面白く描ける場合もありますし(笑)。滅多に旅行に行かない僕が最近、初めて草津温泉に行ったのですが、直後に完成したイラストが、古手川と美柑の「足湯」をテーマにした巻頭カラー。やはり経験することは大事だな〜と。

御木本:確かに漫画家の多くは、放っておくと部屋に籠りがちになりますね。

矢吹:あとはよく言われることですが、常に読者を意識すること。担当であれ友達であれ家族であれ、人に読んでもらうことが大事です。読者を念頭におけば、いつでも「もっと面白い漫画にしよう」という意識が働いて、ギリギリまで頑張れる。自分がただ描きたいものを描くだけでは駄目です。

御木本:矢吹先生がいつでも絵や話を練られるのも、常に妥協しない姿勢からなのですね。…そういえば『とらぶる』のお色気シーンは、ペン入れが終わっても描き直すことがあるとか!?

矢吹:あります!散々検証してペン入れまでしたのに、下描きの線を消すと「何か違うなぁ…」となって。そういう時はボツのコマを切り取って、原稿用紙を継ぎ足して描き直します。だから自分の原稿って、所々ツギハギなんです(笑)。でも、妥協しないことは漫画にとって大事だと思います。

御木本:ペン入れまでいって描き直すなんて…お色気シーンはこだわりの塊ですね!

矢吹:あと個人的にですが、新人の方には苦手なものにチャレンジして欲しい。描きたいものや得意なものを突き詰める方法もあるので、一概には言えませんが。ただ自分としては、幅広く描けた方が面白いし、色々なことに挑戦できるのも新人の内だけだと思うんです。ぜひ向上心を持って頑張って下さい。

御木本:今日はすごくためになるお話をありがとうございました。私も連載獲得に向けて頑張ります!


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■プロフィール


●ゲスト 矢吹健太朗先生
『BLACK CAT ブラック・キャット』『To LOVEる -とらぶる-』『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』などを連載。現在、週刊少年ジャンプにて『あやかしトライアングル』連載中
●取材&マンガ 御木本かなみ先生
『姉ちゃんは魔法少女(自称)』『ニジエノトビラ』でSQ.19に掲載の俊英…!


■リンク先


●ジャンプSQ.公式サイト
●ジャンプSQ.編集部公式Twitter

(C)集英社


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