【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』あらゐけいいち先生×白無新木先生/日暮直輝先生/筆洗ゆうた先生
人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。
豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回はあらゐけいいち先生に対して白無新木先生/日暮直輝先生/筆洗ゆうた先生が取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。
《1》持ち込みハシゴで居場所探し
《2》連載〝1話〟の難しさ
《3》続ける秘訣は満足しないこと!
《4》「面白い」は笑いだけではない!?
《5》ギャグは飽きたらお終い!
《1》持ち込みハシゴで居場所探し
あらゐけいいち先生(以下、あらゐ):皆さんは何歳くらいから漫画を描き始めましたか?
白無新木先生(以下、白無):16歳の時です。部活もバイトも何もやっていなくて、何かしないとなと思って漫画を描き始めました。
日暮直輝(以下、日暮):僕は15歳で初めて手塚賞に投稿しました。その後、高校1年生の頃に持ち込みに行ったんですけど、そこでへこんで4年くらい描けませんでしたね…。
あらゐ:それ分かります!僕はコミティアにずっと出ていて、「そろそろ持ち込んでみるか」と思っていたんです。で、ある新創刊の雑誌に持ち込んだところ、会議室にずらーっと編集長から副編から編集者まで7人も並び、端から読んで端から皆駄目出し!(笑)あれは厳しかった。他にも何社も持ち込みに行きましたが「よく分からない」と言われることが多かった。あと、ある雑誌(A誌)に持ち込んだら「絵柄がウチ向きじゃない。B誌に持っていった方がいい」と言われたんです。で、そのままB誌に行ったら「ネタがA誌っぽい」と言われて…。自分はどこに持っていけばいいの!?
――あらゐ先生は、かなり積極的に持ち込み先を探されたのですね。
あらゐ:漫画家を目指すにあたり、2005年中は持ち込みをする年にして、駄目だったら諦めて勤めていた写植会社を続けようと決めていました。何とか掲載してもらえることになりましたがさすがに生活が心配で、しばらくは会社員を続けていましたね。
――持ち込みをされる際、ご自身に合う出版社を探している印象を受けますが、逆に、雑誌のカラーに合わせようと考えたことはありますか?
あらゐ:自分の漫画を何かに合わせるって、結構難しいですよね。特にギャグは。でも1回、意識してかなりユルめに描いたことがあるんですよ。あれは勉強になって「成程、こういう感じか!」と思いました。確かに描かないと気づかないことも多く、そこで得たものが『日常』の東雲研究所の原型になりましたね
《2》連載〝1話〟の難しさ
――あらゐ先生はネタ作りはどうされていますか?
あらゐ:毎回違うんですよ。基本はネームからですが、最初の頃ははめくってオチ、めくってオチ…という形にしようと決めていました。でもそれだけだと飽きるのでオチを決めて作るとか、何も考えずに最初から描くとか…。その内「ギャグ漫画でギャグしかやっていないものは、ギャグじゃないよな」と考えるようになり、他の要素も挟むようにしたり。ギャグは描いているとどうしても飽きてくる上、この先どうなるのか分からないですよね。それが怖い!
――ネタ帳を作って書き溜めたりしますか?
あらゐ:たまに思いついたものをノートに描き留めますが、2、3個書いたところで大抵どこかにやってしまいます(笑)。で、部屋を整理していると昔のノートが出てきて「あ、これ使えそう!」となったりとか。特にネタが何も浮かばない時、昔のノートが見つかると凄い助かるんですよ。
――読切と連載作品だと作り方は変わりますか?
あらゐ:僕は変わらなかったですね。というのも、1本目の読切を出して、それから半年間も読切が続いたのですが、これっていわば連載じゃないですか。でもいざ本当に連載が決まり、担当さんに「1話を描いて」と言われるとなかなか描けなかった。「〝1話〟って何だろう?」って悩んで。それってネタのことじゃないんですよね。爆発ネタしか浮かばない(笑)。できるなら6話あたりから描き始めたかった。
――1話の難しさというのは、ネタ以外にキャラや世界観の説明が必要だから、とか…?
あらゐ:ええ。内容が説明だけで終わっちゃうのが怖い。読切の場合、最初に1つのネタを決め、それを元にタイトルを提示するじゃないですか。「今回は明智光秀の話だよ!」とか。そしてオチがつく。でも連載第1話となると、皆〝1話〟として読む。そこで基本を崩してネタを作っても、ただ読者が読みにくいだけ。1話とはどうすべきか、未だに答えは出ないですね。
――最近だとギャグでもストーリー作品と同じように、1話で主人公紹介をしていますよね。
あらゐ:読者に受け入れてもらうためには、それが分かりやすいですよね。キャラに人気が出た方がいいと思いますし。でも究極のことを言ってしまうと、描く側としては「何をやりたいか」です。とにかくまず「自分が面白いと思うものを皆に見て欲しい!」というのがあります。それで人気がついてくるのが一番いい(笑)。『日常』の初期、全話キャラを変えて描いていたら、担当さんに「主人公をゆっこにして、ずっと出していきましょう」と言われたんです。自分はキャラを描けないと言っても「描いている内にキャラになっていくからいい。でも同じキャラは出し続けて」と。
――確かに、作品に一定のファンがつくのはキャラの部分と言われますよね。
あらゐ:『日常』もそれでアンケートが割れたんですよ。ゆっこたち3人組だけやってくれという人と、東雲研究所だけやってくれという人と。
《3》続ける秘訣は満足しないこと!
――『日常』はアニメ化されましたが、これは多くの作家が目指す目標でもあります。あらゐ先生にとってはいかがでしたか?
あらゐ:すごく不思議な体験でした。自分の描いたモノがテレビから流れるんですからね。絵が動いて、声が出て、音も付くと説得力が凄い!セコイなぁと思いました(笑)。自分もアニメ作りたいと思いましたもん。ただ、いくら映像が面白くても、自分の漫画が面白くなるわけじゃないんですよね。「次どうするか」とか「今度はもっとこうするか」とか、結局満足できない。
――満足しないからこそ、次の回や作品への意欲につながるのでしょうね。
あらゐ:漫画を描いていても、一時的な満足はあります。面白いネームが描けたとか。でも原稿が手を離れるといいか悪いかの評価となり、雑誌に載った後も単行本の部数とか、毎回階段があるんですよね。そして一番の目的はそこではなく「読者に受けたか受けなかったか」。で、たくさんの人に見られるということは、火が付く時も絶対くるということ。そこで「自分はこうだ!」みたいなものを1個持っていることは大事だと思います。
筆洗ゆうた(以下、筆洗):ところで『日常』のタイトルはどのように考えられましたか?
あらゐ:僕はタイトルもキャラの名前も付けるのが苦手で…。自分で恥ずかしくなってしまう。で、『日常』は最初『普通』というタイトルで、極力作品のハードルを上げ過ぎないようにと出てきたものです。例えば『超爆笑ギャグ劇場』みたいなタイトルだったら、絶対に面白くないと許されなさそうで怖いですもん!
筆洗:『日常』ってタイトルとして完璧だと思うんですよ。僕はタイトルに困ると「○○の日々」「○○の日常」とかつけたいけれど、『日常』があるから使えなくなってしまって(笑)。
《4》「面白い」は笑いだけではない!?
筆洗:ネームを作る際、特に影響されることはありますか?
あらゐ:バラバラですね。仕事場じゃないと描けないのですが…。他の作品からの影響がまず最初にあると思います。小説や漫画や映画を観て「これいいな」と思ったものを持っておき、それを自分の中で組み立てたりとか。
筆洗:僕は他の人がやっているネタがあると同じことをやりたくなくて、なかなか新しいことが思いつかない…。
あらゐ:ありますよね!僕はそれで『日常』の連載中、影響されるのが嫌で他の漫画を読むことができなかった。その代わり小説は読んでいましたね。あとTVも。漫画は例外として自分の『日常』と、まったく要素が被っていない漫画も安心して読めます。『島耕作』シリーズ(弘兼憲史)とか。
――そういった「これいいな」といったインプットは最近の作品が多いのですか?
あらゐ:昔から見てきたものもありますね。例えばTV番組の『8時だョ!全員集合』『オレたちひょうきん族』とか。そして過去の作品は自分の中でイメージが膨らんでいて、イメージの方が面白い場合もあります。実際に好きだった番組を見ていると「面白いけど、自分だったらもっとこうしたい!」とか考えたりして。
――新しいインプットはどのように広げていますか?
あらゐ:数珠つなぎですね。例えば音楽なら、それまで聴いていたものに関連あるものとか。でもそれとは別に、急に何とも交わっていない世界に飛び込みたい衝動もあります。東京に出てきて「やったことないから」とスケートボードを始めて、靭帯を切ってできなくなったら、今度は漫画の写植の仕事をやるようになって(笑)。そういった未知のところに行くことって、そこから先は未体験の自分がいるので、新しい自分になった感じがするんです。漫画家もその流れでしょうね。それに漫画というのはまだまだ新しく、自分が面白いと思うことがいっぱいできそうです。
――あらゐ先生にとって、新しいと面白いは重要なのですね。
あらゐ:あと「面白い」ってすごい意味が広いことを最近実感しています。「面白い」の中には例えば「おっかない」「不思議」とか、色々なものが含まれているんですよね。それに気づく最近まで、ギャグは「可笑しい」だけだと思い込んでいて辛かったんです。とにかく読者を笑わせないといけない…と。自分で「ギャグ漫画」と括るのではなく、「面白い漫画を描いている」と考えればもっと楽に描けるんです。
――必ずしも笑いに繋げなくても良い、と。
あらゐ:そう。読者をゲラゲラ笑わせるのは「可笑しい」という、実はかなり細い部分なんですよね。面白ければ可笑しくなくてもいいんです。
――そしてギャグは、読む側によっても面白い・面白くないがあって、正解がないですよね。
あらゐ:だから描いた後も「やっぱりこっちのオチが良かった!」という反省の連続です。でもそのお陰で「今度はもっと面白くするぞ!」と続けていけるのかも知れない。
《5》ギャグは飽きたらお終い!
あらゐ:昔、植田まさし先生の『コボちゃん』の4コマのオチを隠して、自分で描いてみる練習をしたことがあるんです。まぁ…僕の描いたものは全部つまらなかったですね(笑)。
――他にあらゐ先生がやってきた、特殊な練習方法はありますか?
あらゐ:出版社から雑誌の献本が来るので、それをバーっと見て面白いコマを見つけたら、話も読まずにそこをオチにした話を考えたりとか。
白無:僕はよくTVのバラエティを見ますが、芸人同士の返しを予測するんですよ。フリがあったら「自分だったらこう返す!」というのをすぐに考えて、実際の返しと比べてみたりします。相手が発言する前に考えなきゃいけないんですよ。
あらゐ:バラエティはヒントをかなりもらえますよね。ただ、自分にとって面白い人は大体決まっていて、その人からもらってばかりだと偏ってしまいますよね。
日暮:僕はバラエティは当然として、なるべくギャグから遠いものも見るようにもしています。NHKの真面目なドキュメンタリーとか。
あらゐ:わかります!でも、結局ネタを拾えずに終わってしまうんですよね。これをギャグにしようとすると、大抵誰かがやっているんです。他に僕がよくやっていたのは、色んなギャグ作品を骨組みまで分解して、自分のネタで肉を付けていくんです。ギャグの文法というのは人それぞれあって、フリ、オチ、間が独特で、その骨組みを使うとかなり印象が変わってくる。逆に骨組みだけ自分のものを使ったり、自分の絵がつくとどうなるか検証したり。そうすることで、自分が何が好きで、どんな作風に可能性があるのか見えてくるんです。
――持ち込みと同様に、自分の個性を一番発揮できる場を探るんですね。
あらゐ:難しいのは自分にとって面白いものが、必ずしも自分の絵柄と合致するわけではないこと。絵柄と話が合う時って、大抵は自分に予想外のところでしっくりきたりと、描き続けていかないと見つからないんです。そして見つかったところで、続けていると飽きてしまうんですけどね(笑)。
――ギャグは「これでずっとやっていける」というものがありませんよね。
あらゐ:マンネリがOKな作風で、描いていて飽きなければいいのでしょうが、基本は自分が飽きたらそのネタはお終いだと思っています。
――あらゐ先生はネタが枯渇することはありますか?
あらゐ:描き始めた頃からずっとネタはないですね。いつもギリギリまで考えるしかない。ストックがある人がうらやましい!
――それでは最後に、ギャグを作る際に一番大事にしているものは何ですか?
あらゐ:「ギャグを描くぞ!」とたまに思うくらいで、基本はギャグに気負いしないようにしています。あと、つまらなくてもとにかく形にすること。そうして描き上げたものは、大抵やっぱりつまらないのですが(笑)。でも、1個でも面白い部分があればそこから広げられるし、いずれは本当に面白いものができるかも知れない。ギャグは何が正解なのか、本当に分からない。でもたった一つ分かったのは、「ギャグ、意外と描いたなぁ…」ということです!(※決め顔!!)
――ありがとうございました!
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■プロフィール
●取材&マンガ 白無新木先生
第10回クラウン新人漫画賞佳作&第83回赤塚賞佳作受賞。『ザルオンとくるみちゃん』『ハルちゃんのひとたらし』を執筆。
●取材&マンガ 日暮直輝先生
第2回ジャンプルーキー!アナログ部門賞佳作&第81回赤塚賞準入選受賞。『監獄天国』『実際の映像』『Work Life Fantasy』を執筆。
●取材&マンガ 筆洗ゆうた先生
週刊少年ジャンプ第2回Gカップ受賞。週刊少年ジャンプ増刊にて『一応洋画劇場』を執筆。
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