【ジャンプSQ.】若手作家が聞く『マンガの極意!』鏡貴也先生/山本ヤマト先生/降矢大輔先生×アラカワシン先生
人気漫画家に新人漫画家が突撃インタビューするジャンプSQ.人気企画「マンガの極意!」。
豊富な経験を培ってきた人気漫画家に対し新人漫画家ならではの視点や切り口によって、より漫画家目線に立った踏み込んだインタビュー内容となっております。今回は鏡貴也先生/山本ヤマト先生/降矢大輔先生に対してアラカワシンが取材しました。
※本記事はジャンプSQ.編集部のご協力により、公式サイトの『マンガの極意』から転載しております。
INDEX
《1》『終わりのセラフ』の立ち上がり!
《2》連載開始、『セラフ』チーム始動!
《3》エンターテインメントの矜持!
《4》無から成長する漫画の主人公!
《5》ネームの肝は「P」を押さえる!
《6》キャラは作り、ビジュアルは託す…!?
《7》人を動かすための「世界観」!
《8》忙しくてもインプットの時間を!
《9》山本ヤマト先生による、カラーイラストの極意!
《1》『終わりのセラフ』の立ち上がり!
アラカワ先生(以下、アラカワ):『終わりのセラフ』(以下、『セラフ』)は原作の鏡先生、絵コンテの降矢先生、作画の山本先生の3人体制で描かれていますが、どのような流れでこの体制になったのでしょうか?
鏡貴也先生(以下、鏡):漫画版『紅 kure-nai』(原作:片山憲太郎、漫画:山本ヤマト、脚本:子安秀明、コンテ構成:降矢大輔)(以下、『紅』)が終わった山本先生の次の原作を探していた、前担当編集に呼ばれたんです。僕はデビューレーベルの富士見ファンタジアで70冊くらいのライトノベルを出していたのですが、初めての他の出版社で、しかも初の漫画原作ということで、相当張り切っていました。ええ。降矢さんに入って頂くまで、実は何パターンも脚本を書いては直していたんですよ。「ジャンプ」と名がつく雑誌の仕事だったので、他のジャンプ作品を読んでいたのですが、どれも凄い作品ばかり!…でも、その横に並んで戦える強度の作品にしないといけないので、最初から試行錯誤の連続でした。
アラカワ:ライトノベル界で相当のキャリアを積んだ鏡先生が、連載ネームでそこまで苦労されるなんて…。
鏡:僕は世の中に「売れっ子作家」も「新人作家」も存在しないと考えているんですよ。読者にとっては超売れっ子も新人も同じ雑誌に載って、単行本だって同じくらいの値段で売られている。読者は同じお金を出しているのに、新人だから面白くなくても許されるなんてことはないし、売れっ子だから面白くなくていいわけでもない。だから初めての新人でも、どこでどれだけ売れてきたキャリアがあっても、作品を出す時はみんな平等で、今活躍している「ジャンプ」作品に張り合えるだけの作品を作らなければならないと思って頑張りました。もう新人も売れっ子も毎回新作では平等ですから。
アラカワ:確かに「新人」の肩書きに甘えて、読者を意識できないのはまずいですね。
鏡:担当さんに「ちょっと良くなってきたね」と言われたら、ちょっとくらいだったらその脚本をボツにして、新たな面白いものを書こうとしたりして。とにかく、いいものができるまで直し続ける日々でした。
アラカワ:そんなに何度も直していると、書きたいことが分からなくなったりしないのでしょうか?
鏡:いえ、内容や設定が違っても、僕の中には常にブレないものがあります。僕は「人間が、人間に届ける、人間の物語」にしか、人は興味を持たないと思っているんです。どういう出自から出てきた人が、どういう気持ちでその世界と接するか、誰かと触れ合うことで何が起きるか…僕はそういうことばかりに興味があるんです。そういった人の物語が人の心を震わせると思うんです。
アラカワ:『セラフ』の重厚な設定もそこから生まれてきたのでしょうか?
鏡:いわゆる「設定」とは、人間の物語を見せるための舞台装置です。物語を深掘りし、赤裸々に見せるためのものです。もっとも、書いていくにつれて社会構造や時代背景などの設定はどんどん膨らんでいきますが、それを見せないようにすることも大事です。僕の場合、設定はできるだけキャラクターにだけ向くように心がけています。そうして第6稿まで行って、ようやく降矢さんにネームを描いてもらうことになったのですが…今度は100枚描いた降矢さんのネームがボツになって!
降矢大輔先生(以下、降矢):その頃はページ数の指定がなく「取りあえず好きなだけ描いてみて」と言われたのですが、脚本の量から見て普通に100ページは行くだろう、と。それで描いたら…鬼のようなボツですよ(笑)。「キャラが弱い」とか言われて。
鏡:それを1年半ずっとやっていたんですよ!結局15稿まで。とはいえ新しいものを作る時にこれだけカロリーをかけることに、もの凄く楽しんでいる部分もありました。で、かけたコストが裏切らなくてよかったですね(笑)。
降矢:ありがたいことにアニメになってくれましたし(笑)。
《2》連載開始、『セラフ』チーム始動!
アラカワ:連載前、1年半もネームを繰り返すというのは、どんな気分なのでしょうか?
降矢:うーん、僕の中に残っているのは、涼しい顔をして鬼のようなボツを出す前担当編集の印象だけです(笑)。でも不思議と打ちのめされることはなかった。
鏡:「第1話で負けたらお終い!」という感覚が僕らの中にあって、やり直すことについては抵抗はありませんでした。企画の練り直しもどんどんやっていました。先ほども言いましたが、「ちょっと良くなった」は僕の中では全然良くない。全部やめて新しいものを作った方がいい。ものを作る際の心持ちとしては「ちょっとしか良くないなら、全部やめる」です!上辺だけ直しても、元々あった苦しい部分は残ったままなんですよね。
アラカワ:そこまで思いきって修正するのですね。
鏡:そしてようやく連載が始まったと思いきや、第2話の打ち合わせで担当が今の担当編集に変わってしまって…。しかも現担当編集は、いきなり『セラフ』という作品自体に駄目出しをし始めて(笑)。でもその時僕は「凄くやる気のある担当さんが来てくれた!」と思い、『セラフ』がもう一段飛躍できる機会を貰えたと感じました。
アラカワ:その逆境も成長の機会にするのですか。
鏡:元々『セラフ』は第1話と第2話の内容が激変することを予定していました。大事なのは、そこで奮起できること。そもそも担当さんが第一読者で相棒なら、その後ろには何十万人もの読者がいるんです。担当さんに駄目出しされて「あいつは分かっていない」とぼやくようでは、多くの人に受け入れられるわけがない。僕は初動で揉めることこそ価値があると思っています。だって、揉めるのは愛があるから。…とはいえ僕の脚本が慣れないせいで、降矢さんにいっぱい描き直しをさせてしまったわけですが…。
降矢:その苦労のお陰で今の『セラフ』があると思えば!…そう言えば鏡さんの脚本は、バトルシーンの書き方が大分変わってきましたね。最初は場面への指示が「血が舞う」「血が舞う」「血が舞う」…とか(笑)。今はかなり細かく指定を入れてくれますよね。
鏡:あと、降矢さんが僕の脚本に慣れて、僕も降矢さんのネームに慣れたことが良かった。「降矢さんだったらこう描くだろう」と、お任せで書ける部分が出てくる。実は途中で分かったのですが、僕と降矢さんは好きな映画が結構被っていて、それで通じるものがあったのかも。僕はネームは切れないけれど、「ここはあの映画のあのカッコいいシーンっぽく」と思って書いていたら、降矢さんも同じようなイメージで想像以上のネームを切ってくれる。そして山本さんはというと、そのネームをさらにカッコよく…と、お互いの職域が交わらないところで頑張っている。これが『セラフ』の強みなのでしょうね。
降矢:普通の作家が一人で原作・ネーム・作画をやっているところを、3人の分業でやっていますから。でも3人とも、時間を目いっぱい使っていますよね(笑)。僕はネームだけで1ヵ月使っていて、山本さんも作画に丸々1ヵ月使って、凄い贅沢!鏡さんは、原作以外にも小説とかアニメ関連とか、他にも色々な作業を詰め込まれていますが。
《3》エンターテインメントの矜持!
鏡:改めて新人さんに言いたいのは「やり直すことは、それだけの価値がある」です。僕は担当さんに修正を1箇所言われたら、なぜそこが不満に感じたのか、それを調べて直すのが仕事だと思っています。言われた場所だけを直せばいいというわけではない。だから大直しではない直しは、仕事をしていない感じがするんです。
アラカワ:鏡先生は小説であれだけキャリアがあるのに、すごい真摯に修正に向き合うんですね。新人の場合、直しが多いと心が折れてしまう人も多いのですが…。
鏡:まずは面白いものを書きたいんですよ。エンターテインメントって、衣食住に比べると必須なものではない。僕たちはそれを敢えて選んでいるのだから、手加減するくらいだったら最初からやらない方がいい。もちろん、手加減しても運で売れてしまうことはある。でも僕はこれまでの仕事で実感しているのですが、エンターテインメントは支えてくれる読者がいて成り立っている。1回当たったからといって、そこから先も支えてもらえるわけではないんですよね。それに子供にとっては、数百円の本は凄い価値があると思うんです。その価値に大人が応えないと、ただの搾取じゃないですか。逆に一生懸命読者と向き合って作ったなら、読者と僕らは仲間になれる。だから「この作品が作りたい」という気持ちだけで動いているのだと思います。
アラカワ:なるほど。モチベーションからして作品に向かっているんですね。その時、読者のことはどう意識されていますか?
鏡:作品を作る時、常に読者を頭に置くようにしていますが、それは「皆と繋がりたい」と思っているからなんです。「僕が思う、この感情をもって、皆と繋がりたい」が1セット。「誰とも繋がらなくていい」のであれば、ただの自己満足です。そして「とにかく売れたい」もちょっと違いますね。それだと自分の感情を出す意味はなく、気持ちが続かない。僕が心が折れずに続けられるのは、「作りたい、繋がりたい、仲間とハイタッチしたい」という気持ちがあるからです。
アラカワ:新人の中では、自分のどの気持ちが読者と繋がるのか分からなくて、しまいには自分の漫画が面白いのかどうかすら分からない人も多いようですが…。
鏡:それは多分、「漫画家になりたい」だけじゃないでしょうか。「何かを伝えたい」「何かを描きたい」を持って、あとはワクワクしながら仕事をするべきです。僕は降矢さんからネームが来た時、山本さんの原稿を見た時、いつでもワクワクしてしまいます。
《4》無から成長する漫画の主人公!
アラカワ:ライトノベルと漫画原作で、一番変えた部分はありますか?
鏡:一番大きいのは主人公キャラの置き方です。ライトノベルは字が主体の媒体なので、読者には主人公の思想に入ってもらい、そこを軸に読み進めてもらうことになります。なので主人公の抱えている想いや葛藤など、内面を凄く書くことになります。そして漫画原作を書くとなった時、僕は今までとは違う、漫画に合わせた書き方に挑戦しなくてはならないと思っていました。
アラカワ:その、漫画に合わせた書き方とは…?
鏡:主人公は最初「無」で、物語で誰かと触れ合うことによって、少しずつ色がついていくようにしたかった。『セラフ』の優ちゃんの場合だと、ミカに生きる理由を貰い、グレンにも生きる理由を貰い、シノアたちと出会ってまた…と。そして彼らからもらったものを信じ、誰かを救うことによってキャラクターとして完成していき、そこから世界を救って行けるようにしたいんです。もちろん優ちゃんにも個性はありますが、漫画の主人公の思想が強過ぎると、カッコ悪いという印象があるんです。グレンは小説版(『終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅』講談社刊)の主人公なので、これまでのライトノベルの方法で作りましたが、優ちゃんは漫画の主人公らしく、できるだけ「無」に保つことに労力を割いて書いています。それは僕にとってなかなか難しく、つい脚本が長くなってしまったりすることもありましたが…(笑)。
アラカワ:どんな部分で苦労されたのですか?
鏡:最初の頃は小説を書いている気持ちが残っていて、地の文がやたら長かった。でも連載が進むにつれ「僕の脚本は、降矢さんにだけ伝わればいい!」ということに気づき、そこで大分変わりましたね。その頃からチームとして上手く回り始めたのだと思います。
《5》ネームの肝は「P」を押さえる!
アラカワ:降矢先生のネームは非常にしっかり描かれていますよね。脚本をネームに起こす時のポイントを教えて下さい。
降矢:僕の場合、ページ調整は結構大雑把に割り振っていますね。最初の30ページは勢いでガーっと描いて、残りの15ページくらいで、上手くページ数に収まるように調整する感じです。作業としては、鏡さんが作ったト書きの脚本を読んで、そこに「ここからここまで1ページ」と、区切り線を入れて決めています。
鏡:僕は脚本を書く時、見せ場とか名シーンとか、自分の中で「ドヤッ!」ポイントを決めているんですよ。ある機会に降矢さんが書き込みをしている脚本を見たのですが、僕のポイントと同じところに降矢さんが「P(ポイント)」マークでチェックを入れていて、凄く嬉しかったですね(笑)。
降矢:「P」マークは『紅』の頃からやっているんです。自分で読んだ印象から、その話のポイントとなる部分に入れるみたいな。あれがないと見せ場を外しまくっていたかも(笑)。
鏡:三馬力で書いているから、脚本もネームも作画も、それぞれしつこいくらい決めポイントを作ろうとしているんですよ。「そんな表情だけのコマまでキメにするの?」みたいに(笑)。ただの集合シーンなのに、みんなちょっとずつ手を入れて工夫したりして。
降矢:これは『セラフ』システムの凄いメリットですよね。他の作家さんに悪い気がするくらい。
アラカワ:ネームはポイントや配分を決めたら、頭から切り始めるのですか?
降矢:そうですね。脚本をページ数で区切ったら、あとは順々にネームにしていきます。「P」は基本的に後半の大ゴマになるので、ある程度ページに余裕を持たせていれば間違いはない感じですね。
アラカワ:降矢先生のネームは絵までしっかり描き込まれていますが、構図はネームで決め込まれているのでしょうか。
降矢:そうですね。山本先生が作画に集中しきれるように、ラフに近い段階まで描くようにしています。
アラカワ:『セラフ』のような、見やすいネームを描く極意を教えて下さい。
降矢:うーん…ネームって描き慣れてくると、遊びゴマを適度に入れられるようになってくるのですが、それがあると読者が疲れないんですよ。昔から同じ内容の漫画があっても、読みやすい漫画と読みづらい漫画だとアンケートや売り上げが全然違う。だからまずは読みやすく…と自分に言い聞かせて描いています(笑)。
アラカワ:ずっとシリアスで緊張しっぱなしだと、逆に読みづらいんですね。
降矢:それと読みやすい漫画って、途中のページをパラッと開いても、気づいたら読み始めてしまうところがありますよね。雑誌の場合、多くの人は丁寧に最初から読むのではなく、全体をパラパラっとめくって眺めますよね。そこで興味を持たれるようにする感じでしょうか。見開きに1つは気を引くような大ゴマを配置しておくと、とっつきやすさが大分変わってきます。あと、今気を付けているのは画面にキャラを増やす過ぎないことと、コマ数を減らすこと。これも読みやすい画面作りということで。
鏡:僕が降矢さんのネームで好きなところですが、降矢さんって決めゴマに入る前に、一旦カメラを引きますよね?
降矢:アップばかりだと読者が疲れるし、引くことによってメリハリがつくんですよ。でも引きのコマは画面に入るキャラの数が増えるので、そのたびに「山本さんは大変だ」と、申し訳なく思ったりもします(笑)。
アラカワ:降矢先生は『紅』と『セラフ』ではネームの切り方は意識して変えていますか?
降矢:特に変わらないと思うけれど…『紅』の頃は慣れていない面もあって、試行錯誤することが多かった。ただ『紅』は出てくるキャラが少なかったし、1話ごとに「誰々が主人公の回」みたいなものがあったので、描きやすくはあったのかも。『セラフ』は常に10人とかメインキャラが出てくるので。
《6》キャラは作り、ビジュアルは託す…!?
アラカワ:鏡先生は脚本を書かれる時、山本先生の絵を想定されますか?
鏡:あまり意識していませんが、頭のどこかで山本さんの絵が付くという気持ちがあったのかも知れませんね。ライトノベルの場合、大体イラストレーターさんは後から決まるので、最初から絵が決まっていたのは珍しいケースかも知れません。
アラカワ:山本先生の絵が上がって、鏡先生がイメージしていたものと違いはありましたか?
鏡:ありません!というか『セラフ』の世界観は降矢さんの中にも、山本さんの中にもそれぞれあるのだと思います。まだまだ細部まで説明していない部分も多いので、描く段階で山本さんから質問が来るんですよ。答えると「じゃあ、こうしていいですか」みたいに、山本さんからアイデアが来ることも。『セラフ』のビジュアルはそれでどんどん育っていったんです。
降矢:君月は山本さんの意見でメガネキャラになったんですよね。あのデザイン力は凄かった!
アラカワ:つまりキャラクターなどのデザインは、山本先生が主導して作られるのですね?
鏡:絵的なデザインはそうです。キャラクター自身は、最初に僕が作ります。主要キャラは文字情報を作り、それでイメージを固めてもらう場合もありますが、それ以外は脚本の段階で完成していると思っています。そこから先は山本さんにお任せするのが大事だと思っています。例え「僕の思っていたデザインと違うなぁ」と思っても、山本さんがデザインしたらそちらの方が正解なんです。
アラカワ:それぞれの職域に委ねるわけですね。
鏡:僕は絵を描けませんから。山本さんは絵が凄く上手く、その上で「読者と絵でどう繋がっていくか」を一番考えている方だから。今後の展開に問題ない限りは、僕から何か言うことはないですね。
降矢:僕の方も新キャラの絵は、ネームではデザインなしで進めています。こちらで適当に入れておくと、思いっきり変わって原稿になっています(笑)。
鏡:ルカルって吸血鬼が出てきた時、僕たちはびっくりしましたよね。帽子被っているキャラなのですが…。
降矢:しかも脱ぐと特殊な髪形をしているらしいですよ(笑)。残念ながら、見せる前に死んでしまいましたけれど。
《7》人を動かすための「世界観」!
アラカワ:世界観や物語の先は、どこまで考えてから書かれますか?
鏡:「世界はこういう風になる」みたいなものはあるけれど、基本は人を描きたいので、人をどう動かすかが重要だと思っています。特に『セラフ』はグレンの物語の先に優たちの物語が繋がっているし、グレンの物語も終わっていないので、こうした人が連なった物語をどこで区切るのか、と。とはいえ吸血鬼がどのように生まれたのか、「終わりのセラフ」とは何で、世界はどうなっていくのか…とかは、ほぼほぼ決まっています。ただ、それに拘束されたくないし、決定というわけでもありません。
アラカワ:新人が壮大なファンタジーを描こうとしている場合、どこまで設定を詰めて描き始めればいいのか、迷う人も多いと思うのですが…。
鏡:もしそれで詰まったりゴチャゴチャすると思ったら、考え方を変えて欲しい。壮大なファンタジーも身近な街角物語も、人が人に届ける人の物語です。だから、人を描くことに終始すればいいと思います。僕は世界観を見せる作品を作りたいと思ったことは一度もなく、人を一番華やかに、シンプルに見せられる世界とは…と考えます。『セラフ』の世界が終末を迎えているのは、優ちゃんやグレンの葛藤や執着や生きる理由を叫ぶ瞬間を、一番見せやすい世界だから。誰を描きたいのか、何を描きたいのか、このキャラクターが一番輝くのはどんな舞台設定か…。世界観は人間に寄り添うべきなんです。
アラカワ:設定ノートを作るより、人間を描いた方が早いし面白いというわけですね。
鏡:その時代を知るには、歴史年表を調べるより「ナポレオンとはどういう人物だったのか」の方が分かりやすいですよね。人間が時代を作るんです。
アラカワ:『セラフ』は漫画と小説で展開していますが、優とグレンでは、どちらが先に生まれたのですか?
鏡:優ちゃんかなぁ…。でもそこにはグレンも一緒にいました。あと、ミカがお兄ちゃんで、グレンの役割を担っていた案もありましたね。グレンとミカは、一つのキャラから分離したような気もします。そもそも最初の『セラフ』は、山の祠を蹴った少年が妖怪に祟られて、そして13年後…というのを、『妖怪ウォッチ』が流行る前に書いていたんです(笑)。
アラカワ:今と大分違いますよね!?
鏡:そういうものです(笑)。作品って、第1稿そのままに行く人はあまりいないと思います。でも今思うと、妖怪ものでなくてよかった。海外にも届けたいので、吸血鬼と日本刀は絶対に入れたかった。
降矢:第1話が固まった後も、脚本が長いから3話に分けようという案がありましたね。鏡さんは1話に収めることを主張して、今の形になりましたが。
鏡:優とミカの離別をどうしても第1話に入れたかったんですよ。そして第2話はガラッと内容を変えて、新たな読者も入れるようにしたかった。一つの話で2話分稼ぐなんて横綱相撲はやりたくなかったんです。多分「SQ.」読者は僕のことなんか知らないから、最初の話で面白いところまで見せないと。
アラカワ:そして第2話の雰囲気をガラッと変えて、連載第1話が2回あったような印象になりましたね。
鏡:そう!両面1話みたいなイメージです(笑)。
《8》忙しくてもインプットの時間を!
アラカワ:お2人が作品を作る際、インプットしてエネルギーを得ているものはありますか?
鏡:僕の場合は映画です!仕事がどんなに忙しくても、2日くらい休んで映画を観まくったら復活できるくらい。それこそ昔は、とんでもなく観ていましたね。というか僕の印象だと、この業界は作品にいっぱい触れているのは当たり前で、そうじゃないと生き残れない。
アラカワ:鏡先生の場合、特に映画から得るものはありますか?
鏡:物語の構造は映画で相当学んだと思っています。僕はライトノベルをほとんど読まず、映画と漫画だけで物語の作り方を身に着けてきました。そして現在、ちゃんと漫画原作として作品を作れているのであれば、映画の影響が特に大きいと思いますね。
アラカワ:絵作りというよりは、脚本の構成術、という感じでしょうか?
鏡:僕は漫画家じゃないので、台詞と言い方と脚本とシーン選びが気になります。そのシーンがなぜそこに置かれて、どういう順番で見せたら映えて、どういう台詞が際立たせるのか…と。やはりテキスト屋なので、そればっかり観ていると思います。きっとネームを描かれる降矢さんも作画をされる山本さんも、多分同じ映画を観ても注目するポイントが違うのでしょうね。
降矢:僕の場合はインプットは映画、漫画、小説です。映画だと、人物の仕草でいいものはかなり覚えていると思います。つまらない作品でも、いい仕草があればそこだけは拾っていたり。それらは鏡さんの脚本を読んだ時「あの映画に、同じようないいシーンがあったなぁ」とか出てきます。逆にインプットがないと大変ですね。カッコいい仕草なんて、ゼロからだとそうそう出てこないですよ。だから鏡さんと同様に、時間を作って映画を観るようにしています。
鏡:あとは海外TVドラマが最近凄いです。あれこそ漫画的ですよね。オチで引いて次に繋げる…と、イメージが月刊漫画誌に似ている。今だと定額で映画やドラマが見放題のサービスもあって、昔の自分から見たらパラダイスです(笑)。でも、自分にとって「いい作品」を何十回も繰り返し観ることも重要だと思います。
アラカワ:良い作品を、反復して観た方が良いのですか?
鏡:同じものを何度も観ていると、常に新しい発見があるんですよ。そして反復することで、それが自分の武器になっていく。新人がそういったものを取りこぼすのは、凄くもったいない気がしますね。
アラカワ:ところで『セラフ』は神話系の薀蓄など、色々な設定周りの知識が出てきますが、あれはその都度調べているのでしょうか?それとも元々鏡先生の中にある知識なのでしょうか?
鏡:脚本で必要になって調べる場合もありますが、僕は宗教に凄い興味を持っていた時期があるんです。幼稚園がカソリック系で、小・中・高がプロテスタント系の学校だったので、毎日礼拝があり、お祈りも諳で言えました。そして日本の普通の学生でもあるから、漫画やゲームに夢中になり、そこに出てきた北欧神話やギリシャ神話も調べるんです。あとプロテスタント系の学校に行っていたから気づいたのですが、僕の好きなハリウッド映画は、キリスト教を知らないと分からない表現が結構あるんですよ。それもあって、宗教系は作家になる前から自分の中にあり、そのまま使いたくないから、アレンジしたりずらしたりして作品に盛り込んでいます。
アラカワ:それでは最後に、連載を目指している作家志望者にメッセージをお願いします。
降矢:作家を目指す際、多くの人にとって一番キツいのはボツですが、それで心が折れてしまうと普通の人になってしまう。そこで折れない、普通でない人が成功を手にできるのだと思います。ぜひ折れないだけのモチベーションを持って頑張って下さい!
鏡:僕は「SQ.」は凄く良い雑誌だと思っています。掲載作品のバリエーションが豊かだし、「少年誌」としての流れも入っている。エンターテインメントを志す人にとっては、とてもやりがいのある場です。僕自身もここで少年向けの作品に挑戦できて、はしゃいでいる面もあると思います(笑)。ぜひ一緒にここで頑張りましょう!
アラカワ:ありがとうございました!
《9》山本ヤマト先生による、カラーイラストの極意!
アラカワ:鏡先生・降矢先生とは別日のお願いとなってしまいましたが、お忙しい中ありがとうございます!それでは早速、山本先生のカラーを描く時の制作過程を教えて下さい。
山本ヤマト先生(以下、山本):ラフ→下描き→ペン入れ→レイヤー分け→色決め→色塗り…の順で描いています。色決めまで到達すれば、自分の中では9割完成です。ラフから最後まで、全部デジタル作業になります。
アラカワ:『セラフ』のカラーは迫力があり、尚且つ面白い構図で描かれていますが、どのように考えられているのでしょうか?
山本:構図を考える時は、「その絵で何を一番見せたいのか」を決めます。その後、色々な角度からラフを描いて、より良いカメラを探しますね。良い構図が思い浮かばない時は、今まで描いてきた未使用のラフを見てアイディアを出します。難しいポーズを描く場合は、ポーズ集の資料を見て参考にすることもありますね。
アラカワ:カラーを塗る際はどこから塗り始めますか?
山本:その絵の全体の色あいを決めてから塗り始めます。雑目に色を置いていって、全部の色が決まったらそれを整えていきます。整えと塗り込んでいく作業は、大体画面の手前からやりますね。
アラカワ:作画は全てデジタルということですが、使っているソフトやブラシを教えて下さい。
山本:よく使うソフトは「Photshop」と「SAI」、たまに「Painter」を使うこともありますね。まだ機能を使いこなせてはいませんが、最近は「CLIP STUDIO PAINT」も少し使っています。ブラシ設定は描く部分によって少し調整し、自作ブラシも使います。主に使うブラシはペン入れで1種類、色塗りで4種類くらいです。
アラカワ:よく使うフィルターなどのエフェクトがあれば教えて下さい。
山本:よく使うフィルターは「ぼかし」です。背景や光らせたい部分などによく使います。
アラカワ:僕は『セラフ』7巻の口絵が好きなのですが、これだけのキャラクターを一枚に収める際、気を付けていることはありますか?
山本:大人数のキャラを入れる時はまず、キャラの優先順位を決めて、そこに関連するキャラは近いポジションに配置します。また、目線を使って関係性の伏線にもなればいいな、と思いながら描いていますね。あとキャラが多いと色が多くなってしまうので、濁って汚くならないように気を付けるようにしています。
アラカワ:これだけのキャラ数だと、レイヤーも相当増えてしまいますよね?
山本:レイヤーは本当はあまり増やしたくはないのですが、記事や広告など、キャラ単体で他の媒体に使われることもあるので、取り回しがしやすいように分けて描いています。7巻のピンナップはデータが重くなるので、できる限りレイヤー数を抑えて描いたのですが…1キャラにつきレイヤー4~5枚くらい使っています。
アラカワ:貴重なお話、ありがとうございました!
ジャンプSQ.公式サイトではアラカワシン先生によるインタビューマンガが掲載中!
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■プロフィール
●ゲスト 鏡貴也先生
ライトノベル作家。『終わりのセラフ』の原作を担当
●ゲスト 山本ヤマト先生
『紅 kure-nai』『終わりのセラフ』などの作画を担当
●ゲスト 降矢大輔先生
『紅 kure-nai』『終わりのセラフ』などのコンテ構成を担当
●取材&マンガ アラカワシン先生
『ボクと魔女の時間』全6巻発売中
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